耕す女子たち vol.21

地域で農業をすることがよりよい社会につながっていく。
畑から、台所から「おいしい」を届けるために、子育てしながらがんばっている耕す女子を紹介します。

季刊うかたま
http://www.ukatama.net/  
写真=高木あつ子 文=おおいまちこ

佳代子さんはガスパワー耕うん機「サ・ラ・ダ CG」で、夫の祐也さんは「ピアンタ」で、春野菜を作付けする畑で仲良く耕うん作業

今回の耕す女子

千葉県印西市柴海佳代子さん(しばかいかよこさん)
1986年生まれ、東京都国立市出身。東京農業大学卒。畑歴は9年。大学時代、農業サークル「緑の家」で知り合った祐也さんと2006年に結婚。2009年9 月に祐也さんの地元、千葉県印西市で就農。2011年1月に長男の光祐くんを出産。現在、第二子を妊娠中。

夫婦で念願の農業を

最寄り駅の周辺は、マンションや戸建て住宅が整然と立ち並ぶニュータウン。けれど、車をほんの2、3分走らせると、そこには心落ち着く農村風景が広がっていた。のどかな集落にたたずむ家々を、やわらかな日差しがやさしく包んでいる。

柴海佳代子さんは4年ほど前、念願だった農業を夫婦で始めるため、住み慣れた東京を離れ、夫の祐也さんの故郷、千葉県印西市の自然が色濃く残るこの地にやって来た。

トマトを栽培している義父母とは経営を別に有機農業を志し、手探り状態での出発。遊休農地を借りて、開墾しては畑をつくり、段階的に耕作面積を増やしていった。5年目の今は、1町5反*の畑で野菜を、5反の田んぼでイネを無農薬・無化学肥料で栽培。市内の個人宅や各地のレストラン、自然食品店などに直接配達したり、宅配便で届けている。

6ヵ所に点在する畑では、年間60品目もの野菜を栽培しているという。自宅から車で10分ほどの雑木林に隣接する畑には、葉もの野菜が多く植えられていた。

「この菜っ葉は、“博多かつお菜”です。向こうの巨大なものは小松菜ですけど、春になったら菜花としてとるために残してあるんです」

そんな話をしながら、佳代子さんは、水菜が植えられたその脇を、祐也さんと一緒に春野菜の準備をするため、ガスパワー耕うん機「サ・ラ・ダ CG」で耕していく。

「『サ・ラ・ダ CG』は、レバーを握れば動くし、放せば止まるのでわかりやすくて安心。機械が苦手な私にも扱いやすくて、真っ直ぐ耕せるのがいいですね」

パートさんがやって来ると、今度はホウレンソウの収穫が始まった。

*1町=約10000平方メートル、3000坪。 1反=約1000平方メートル、300坪。 1町=10反

野菜の宅配セットのお客さんは130〜140軒。約6割のお宅へは祐也さんが直接配達
寒い季節にまいた種の芽が出ると「よくがんばったね!」って、声をかけたくなる

海外での仕事より“日本で農業”を

佳代子さんは、東京・国立市の出身だ。ごく普通のサラリーマン家庭に育ち、「野菜の旬もわからなかった」そうだが、将来は青年海外協力隊として人の役に立つ仕事がしたいと、東京農業大学に進学した。

生きる基本である食、その食をつくり出す農業の分野で活動したいと思い、選んだ大学。在学中に農業の知識と技術をできるだけ身につけようと、「がっつり農業をするサークル」に入り、週末は東京郊外の畑で農作業に勤しんだという。

「スコップで耕して種をまいて…。初めて芽が出た時は、本当に感動しました」

長い休みには、有機農業をしているOBや興味を持った農家の元で研修生として働いた。技術の習得はもちろんだが、多様な生き物がいる環境の中で農業をしているのだという、先輩方の話が心に響き、「食べること」への感謝の気持ちが深まった。

そんな大学時代、サークルで出会ったのが祐也さんだ。知り合って間もなく交際を始めた2人は、祐也さんが一足先に卒業、就職すると同時に20歳で結婚。祐也さんは野菜の流通会社で働き、佳代子さんは大学に通うという新婚生活が始まった。

その年、2人でインドネシアへ有機農業の視察に行った。そこで知ったのは、日本人が無意識のうちに現地の人々の暮らしや環境に悪影響を与えているという現実。大規模プランテーションで栽培されていたのは、日本向けの作物や、食品や洗剤に使うパーム油をとるアブラヤシ。小規模農家との貧富の格差は深刻だった。

「海外で支援活動をしたいと思っていたけど、むしろ日本の農業をしっかりしないといけない、という気持ちになりました。大きなことはできないけど、自分や周りにいる人たちに自分がつくったものを食べてもらったら、本来やりたかったことにも繋がっていくんじゃないかって」

この旅を機に、海外に向いていた目が日本に向けられるようになり、祐也さんと「卒業したら農業をしよう!」と誓いあったのだという。

パートさんと3人でホウレンソウを収穫。「あやめ雪かぶ」「ルタバカ」など、耳慣れない品種や外国の野菜も多く栽培している
昨年12月に行なった感謝祭では「畑で宝探しゲーム」を開催。大人も子どもも大いに盛り上がったとか
「サ・ラ・ダ CG」は便利な家庭用カセットボンべ(**)が燃料。充填・交換時も手が汚れずラクラク

**メーカー指定カセットボンベは東邦金属工業株式会社製

ハンドルが工具なしで簡単に折り畳める。乗用車でも持ち運べ、保管時も場所とらず
住まいは築200年になる祐也さんの実家の離れ。3歳になる光祐くんは、平日は保育園に通っている

作業用に着ているのは、東京農業大学オリジナルの「農大つなぎ」。農業実習やサークルの活動で愛用していたもので、背中に大学名が入っているのがポイント。頭に被るのは、帽子よりも手ぬぐい。「好きな柄の手ぬぐいを被るとキュッと気合が入ります。畑でも手ぬぐいは袋になったり、くるんだり、とっさの時になんにでも使えるから便利です」

農産加工に力を入れたい

こうして、2009年9月に就農した。サークルやOBの元で農作業はしてきたが、2人とも経営を考えながら年間通して研修した経験はない。病害虫や雑草、獣害などにより1年目は失敗続きで「生計をたてていくのは大変だってことが、始めてみてよくわかりました」。

そんな中でも野菜の宅配を始め、イベントなどにも出店。2年目には、お客さんや自分たちの友人に「農」に触れてもらおうと、田植えや稲刈り体験のイベントも開催した。

佳代子さんはサークル時代、畑の地主の奥さんが、ひと冬にたくあんを2000本も漬けるなど、本格的に農産加工に取り組む姿を見てきたという。自分もやってみようと思い立ち、漬物やお米のジャムをつくって販売すると、これがけっこう評判に。就農2年目に長男の光祐(こうすけ)くんを出産してからは、家で加工に費やす時間が長くなり、商品のラインアップも増えていった。

そして昨年春には、とうとう加工担当の女性スタッフを迎え、夏には空き店舗を借りて加工施設に改造。本腰で農産加工に力を入れることになった。

「きっかけは、子どもが生まれて、食について改めて考えるようになったことです。スーパーに行っても、添加物の入っていないものはほとんどない! 子どもにも安心してあげられるものを、お客さんに届けたいと思うようになりました」

畑を耕す時間は減ってしまったけれど、「今は畑の野菜やお米をどう変身させられるかが楽しみ」と、佳代子さん。就農以来、親しんできた「夢農楽(むのうらく)」という農園の名を今年2月に「柴海農園」と改め、心機一転。

「農業の楽しさ、野菜のおいしさをたくさんの人に知ってもらえるようがんばりたい」と、目を輝かせた。

玄米や野菜のジャムをはじめ、漬物やピクルス、パテなど、加工品は種類が豊富
自慢の一品「甘糀ジャム玄米」を電気乾燥庫で糖化中。原料は無農薬玄米と米糀だけなのにとっても甘い
加工所のすぐ隣のベーグル屋さん「コムミズイブ」は店にジャム類を置いてくれている仲。焼きたてをお昼にすることも
赤カブ漬けの仕込み中。「農産加工は自分次第で何でもできるところがおもしろい」 
ハクサイを天日干ししていたおばあちゃんのお手伝いをする光祐くん。もうすぐお兄ちゃんに 
畑のレシピ
  1. 1.小かぶ4〜6玉はお尻に1㎝の十字の切れ目を入れ、水(かぶが1/3浸る程度)、いわし粉(または煮干し粉)少々、塩ひとつまみで蒸し煮にし、箸が通るくらいやわらかくする。
  2. 2.別鍋にキノコ2〜3種、水2カップ、醤油大さじ2、みりん、砂糖各大さじ1を入れ、中火で火を通し、水溶きかたくり粉でとろみをつける。
  3. 3.1を盛り、2のあんをかける。
    ◎あんに、好みで生姜を加えてもおいしい。
  1. 1.大根やにんじんなどは生のままスティック状に切る。ブロッコリーやかぼちゃなどはひと口大に切って蒸す。
  2. 2.甘糀ジャム玄米*2:味噌1:マヨネーズ1の割合で混ぜて、ディップをつくる。
  3. 3.1を2につけていただく。

*無農薬玄米でつくった甘酒を煮詰めて糖度を上げた「柴海農園」オリジナル商品。甘酒の素(濃縮タイプ)や、煮詰めた甘酒でもOK。