耕す女子たち vol.2

古民家暮らしに憧れて単身、山村へ移住。畑仕事を教わりながら、都会と農山村をつないでいこうと奮闘中の耕す女子。
目指すは農家民宿の肝っ玉かあちゃん!

季刊うかたま
http://www.ukatama.net/  
写真=高木あつ子 文=おおいまちこ

ガスパワーミニ耕うん機「ピアンタ」でキビ畑を耕す容子さん。西原に移住するきっかけになった夏目暁子さん(左)とは、今では何でもいいあえる間柄

今回の耕す女子

山梨県上野原市菊池容子さん(きくちようこさん)
1983年北海道生まれ。畑歴は2年。西原地区を拠点に、都会と里山のいいところをつなげようと東京在住の友人と「のっけ」というユニットを組み、イベントなども企画。

古民家暮らしに憧れて

ゆるやかな斜面に広がる眺めのいい畑の一角で、5人の女性が畑仕事にいそしんでいた。手つき、足腰はおぼつかないけれど、元気いっぱい、おしゃべりしながら楽しそう!

中でもひときわ威勢よく、野良着もしっくり馴染んだ姿の女性がひとり。それが今回の〝耕す女子〟菊地容子さん。遠目に見ると、地元のおかあさんのようにも見えるが、じつは2007年11月、24歳の時に千葉県市川市から、ここ山梨県上野原市の中山間地域にある西原地区に単身移住、憧れの古民家暮らしを始めたばかり。

縁あって、この春からは地元の観光施設「びりゅう館」で働くことになり、定休日のこの日は、そこで一緒に働く仲間たちと、「地域に伝わる雑穀文化を受け継ごう」と、キビつくりをするための畑に集まった。

「傾斜地は、鍬の角度を考えながら土を寄せなきゃ」と、畑の師匠・中川智さん(右)と弟の仁さん(左)
「びりゅう館」で働く仲間とキビ畑の準備。地域の活動に関わって、地元の人たちとのつながりが深まった

まずは前作の残渣(ざんさ)を整理し、ガスパワー耕うん機「ピアンタ」を使って耕していく。耕うん機は初心者の容子さんだが、「燃料が家庭用のカセットボンベなら身近で抵抗感がない。農業機械を使うのが初めての人でも扱いやすいですよね」と、満足気な様子だ。

そこへ容子さんが〝あにぃ(兄)〟と慕う、畑の師匠・中川智さんが現れた。キビ畑組と二手に別れ、昨年、援農隊とともに開墾した、傾斜のきつい場所にある小麦畑へと向かう。そして智さんの指導のもと、小麦の土寄せ作業。傾斜地だから鍬の使い方にも技がいる。体力も使う。でも、顔をあげれば山々が見渡せる絶景のロケーション。この爽快感、里山の美しさ、もっとたくさんの人に知ってもらいたい。容子さんは、今、やりたいことがいっぱいでわくわくしているという。

ご近所さんからいただいた「のらぼう菜」。菜の花に似ておひたしにするとおいしい
燃料が家庭用カセットボンベ(*)なので、燃料の充填などがとても簡単。1本で約1時間(約32坪)耕せる

*指定カセットボンベは東邦金属工業株式会社の製品です。

ポイントは、「いかにおばあちゃんっぽく、地元の人っぽく見せるかです」と、容子さん。エプロンは「上野原の商店街で、680円で買いました」。頭に巻いた手ぬぐいは、草木染めの手ぬぐい職人を目指す友人女性が栗のイガで染めたもの。やさしい色合いが自然にマッチしていておしゃれ

農山村のよさを発信したい

「〝自分の居場所〟が欲しかったんです」

この地で古民家暮らしを始めた理由について、容子さんはこう話す。自分が自分らしくいられる場所。自分を認めてもらえる場所。思いを発信できる場所。

文化の発信人になりたいと、高校卒業後は夜間大学に通いながら、広告制作会社や編集プロダクションで働いた。そのいっぽう、自然豊かな田舎の古民家で暮らしながら、都会と農山村のいいところをつなごうと、東京と行ったり来たりする自分の未来像を思い描いていた。

インターネットを通じ、今、「びりゅう館」で一緒に働いている夏目暁子さんの存在を知ったのは3年前のこと。上野原市にある帝京科学大学在学中、森林環境教育などを行なう任意団体「森のココペリ」を立ち上げ、西原をベースに活動していた夏目さんは、大学卒業後、西原に移住することを決意。森林組合で働きながら、古民家でひとり暮らしをしていた。

自分と同い年の女の子が憧れの暮らしをしている。夢が一気に膨らんだ容子さんは、西原に足繁く通い、「森のココペリ」のイベントや地元のお祭りに参加した。そんな中、智さんとの出会いがあり、畑を借りられることになったのだ。

「あにぃたちは、先祖が残してくれた種を途絶えさせてはいけないと、私みたいな畑の経験のない女の子にも全力で教えてくれるんです。70歳を過ぎているのに、部活で鍛えた10代の男の子よりも、ずっと体力があ。驚きますよぉ。百姓って百のことができるというけど、ホント何でもやるし、ムダにしない。こんな暮らしや技があることを、畑に興味のある人や普通の都会の女の子たちにも知ってもらう場をつくり、発信していくことも意味のある仕事じゃないか。そんなふうに思うんです」

この春から「畑仕事を習得したい」という飯田玲子さん(左)と同居中。「幸せのきっかけにこの場所を使ってほしい」と、容子さん
ようやく見つけた自分の居場所は、いつも賑やか。皆で食べるごはんはうまい
この家を気に入った理由のひとつはこの五右衛門風呂
ここで結婚式をしたい人のために、とドレスを調達。前の職場にあったものをゆずってもらった

夢は農家民宿をひらくこと

地元の人とのつながりから、念願の古民家を借りることもできた。築139年、養蚕をしていた3層の家だ。人が大勢集まるにはまさにぴったりの家。さっそくソバ刈りなどの農業体験や、雑貨やごはん、お菓子など、手づくりの品を販売する「はたけっとまーけっと」等々、人のいっぱい集まるイベントを企画した。

この日も、畑仕事を終えた一行は、昼ごはんを食べるために容子さんの家へ。丸い大きな円卓に、郷土料理の「せいだのたまじ」や、のらぼう菜のおひたしなど、皆で持ち寄った手料理をずらりと並べ、おいしくいただきながら、地域を元気にするためにこれからどうしていこうか。「びりゅう館」の新メニュー「もちきび豆乳プリン」の味はどうだろうかと話がはずんだ。

父親が転勤族だったため、幼い頃から全国を転々として育ったという容子さん。

「そのせいか、場所に対して根っこを張る感覚がないんですね。そういう意味で、西原は初めてなんです。夢は、この土地で農家民宿をひらくこと。自分がおばあちゃんになった時、悩める若い子が来て、話をして、元気になって帰っていく、人と人がつながっていく、そんな宿。いつか家族を持って、子どもを育てながらやっていけたらいいな」

容子さんは、今、夢に向かい、人生を着々と耕している。

小麦畑での作業を終え、山を下る。正面にはヒカゲツツジで知られる坪山が見渡せる
畑のレシピ
  1. 1.鍋にキビとかぶるくらいの水を入れ、弱火にかける。
  2. 2.キビがやわらかくなったら、豆乳と砂糖を加え、煮立ったら火を止めて、適量のゼラチンや寒天などを入れて溶けるまでかき回す。
  3. 3.型に流し入れて冷蔵庫で冷やす。
  4. 4.そのままでもおいしいが、お好みでジャムなどをのせてもいい。
  1. 1.小粒のじゃがいもをきれいに洗い、皮つきのまま油で炒める(普通サイズのじゃがいもを3~4等分にカットしてもいい)。
  2. 2.1 にだし汁をひたひたに入れ、味噌(多めに)、砂糖、みりんを加えてじっくり煮詰める。
  3. *「せいだ」はじゃがいものこと。江戸時代の大飢饉の際、この地方に種イモを取り寄せ、広めた甲斐の代官、中井清太夫の名にちなんでいる。