季刊うかたま
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写真=高木あつ子 文=おおいまちこ

今回の耕す女子
- 千葉県茂原市鈴木ひろみさん(すずきひろみさん)
- 1982年生まれ。静岡県藤枝市出身。実家は兼業農家。京都精華大学卒業後、“緑のふるさと協力隊”12期生として福島県鮫川村で1年暮らす。出版社に2年勤務した後、08年、同僚だった智己さんと結婚。同年、約半年間の農業研修を経て就農。
畑も出荷も、子どもと一緒に
ひんやりとした風の吹く春の日、鈴木ひろみさんは、自宅から車で5分ほどの露地畑にやって来た。畑の脇に車を停めると、1歳3カ月になる娘の成実ちゃんをひょいっと降ろし、鎌を握りしめて、夫の智己さんとキャベツ畑に向かって行く。
そのあとを、成実ちゃんがおぼつかない足取りでついていく。二人が雑草を取り始めると、真似をして草をむしり、コンテナにぽいっ。そして、とーっても自慢気な顔をして、パチパチと手を叩いた。
「農作業する時も、出荷に行くのも、いつも子どもと一緒です。最近は、よく動くようになってきたから大変で……」
そう言いながら、我が子に優しいまなざしを向ける。
ひろみさんが智己さんとともに、「農家になる」という夢に向かって歩み始めて5年になる。今はここ、千葉県茂原市で4反(*)3畝の畑と350坪の鉄骨ハウスを借り、トマトをメインに少量多品目で野菜を栽培。近隣の農産物直売所や地元スーパーなど3カ所に出荷している
年間を通して出荷できるよう、夫婦二人三脚で日々、農作業をこなす。この日、キャベツ畑でひと仕事終えたひろみさんは、ナスの苗を植え付けるため、ガスパワー耕うん機「サ・ラ・ダCG」で畑を耕した。
「普通は畑が固いと前にダッシングしてしまうけど、サラダは内側と外側の耕うん爪が、それぞれ別方向に回転しているから安定していて、負荷がかからず、しっかり耕せる」と、ひろみさん。ハンドルを握る腕もたくましく、農家への道を着実に歩んでいる様子だ。
*1反=約1000平方メートル、300坪。1畝=約100平方メートル、30坪。1反=10畝。



“農業のある暮らし”に惹かれ
ひろみさんは兼業農家の出身だ。母方の実家もレタスや茶を栽培する専業農家で、小さな頃はよく田畑で遊んでいたという。
「農家になろう!」と心に決めたのは、中学2年の時。「長野のレタス農家の嫁になる」と思い込み、文集の『10年後の私』に夢を記した。
いっぽう、国が進める諫早湾干拓事業に伴うニュースをきっかけに、環境問題に関心を持つようになったのもこの頃のこと。農業への熱い思いはそのままに、大学へ進学。環境社会学を学びながら、「自分がなぜ農業をしたいのか」を模索した。
地(*)元学のフィールドワークでは、棚田で知られる地区で地域にある資源を調査。田んぼや生活で使う水が、どこから来てどこに流れていくのか調べていくと、水が山からのいただきものだということ、人の暮らしと自然との関わりが見えてきた。「自分が、農業だけがしたいのではなく、“農業のある暮らし”そのものに惹かれていることに気づきました」と話す。
*地元学:地域の住民が地元の自然や生活・生産文化を見つめ直す「あるもの探し」を通して、地元の豊かさに気づくための手法。熊本県水俣市・吉本哲郎氏や民俗研究家・結城登美雄氏らが提唱。

**メーカー指定カセットボンベは東邦金属工業株式会社製。


パンツと腕カバーは、おしゃれ野良着などの衣類を手がける「ア・リュ」の藤井優子さんがデザインしてくれたもの。「市販の腕カバーは短いので、“長めのものをつくって〜”とリクエストしたら、こんなおしゃれなのをつくってくれて…。パンツは股上がゆったりしているのではき心地がよく、作業中、お尻を蚊に刺されなくなりました(笑)」