耕す女子たち vol.16

農家の次女として家業を継ぐべく農業の道へ。
仕事は好きだけどド派手なおしゃれもやめられない。ギャルメイクにつなぎ姿でいざ、今日も畑へ。

季刊うかたま
http://www.ukatama.net/  
写真=高木あつ子 文=おおいまちこ

ガスパワー耕うん機「ピアンタ」で畑を耕す真莉さん(右)。“農産娘”の仲間、浅利智絵子さんはミニ耕うん機「プチな」で耕うん、ネギ畑で2人を見守るのは西宮奈々子さん

今回の耕す女子

秋田県仙北市佐藤真莉さん(さとうまりさん)
1991年生まれ、秋田県仙北市出身。畑歴は、物心ついてから20年近く。家族は祖父母、父母、姉家族(姉・義兄、甥)。秋田県立角館南高校卒業後、秋田県が行なう「未来農業のフロンティア育成研修」の野菜コースを受講し、修了と同時に実家に就農。

ギャルメイクで野良仕事

ド派手ないでたちに、しばし圧倒されてしまった。目の前に立つのは、今どきのギャルメイクでばっちり決めた女の子。鮮やかな赤いつなぎと白い長靴に身を固め、手にはしっかり、ネギを握っている。

 ここは、“米どころ秋田”の東部中央に位置する仙北市西木地区。今回の耕す女子・佐藤真莉さんは、イネ19町(*)、ネギとソバを各1・5町栽培する専業農家の娘だ。2人姉妹の次女として、「将来は自分が家業を継ごう」と、高校卒業後、秋田県が実施する「未来農業のフロンティア育成研修」を2年にわたって受講。2011年春に就農した。

のどかな田園地帯にどっしりと構える大きな家に、祖父母、両親、姉夫婦と2歳の甥っ子、そしてまもなく結婚する予定の真莉さんの彼、畠山和喜さんの、4世代9人で暮らす。

主に農作業に携わっているのは、父・一也さん、母・真弓さんと真莉さん、和喜さんの4人で、真莉さんはネギを担当。栽培から出荷までの維持管理を行ないながら、母娘で自家用野菜なども栽培。春〜秋は、勉強も兼ねて、農協の出荷所で野菜の検品のアルバイトにも精を出す。

*1町=約1ha(3000坪)、1万平方メートル。

お揃いの野良着で小学生の農業体験畑の作業。子どもたちに植えたばかりのネギをうっかり踏みつぶされ、植えなおして歩いたことも
ネギの収穫期には、毎日午後7〜8時は箱詰め作業になる 
近々、結婚予定の2人。「ムコに入り、一緒に農業をやっていくつもりです」と、和喜さん
「とうさんには負けたくない」と、真莉さん。一也さんは、農業の大先輩であり、ライバルでもある

就農してまもなく、「農業をやっている若手の女性で地域を盛り上げよう!」と、地元の先輩で、同じく農家の娘の西宮奈々子さん、浅利智絵子さんとともに、チーム“農産娘(のうさんむすめ)”を立ち上げた。地元の小学生の農業体験学習に協力したり、今年度からは、“農産娘”専用の畑を設け、パプリカやミニカリフラワーなどを栽培。地元の道の駅やスーパーの直売所などで、自分たちのブランド野菜として販売を始めた。

それぞれ多忙な毎日だが、時間をやりくりして、できるだけ3人一緒に作業を行なっている。この日は、“農産娘”の畑を準備するため、耕うん作業。ガスパワー耕うん機「ピアンタ」で耕しながら、「大型の農業機械は使えないけど、“ピアンタ”は軽くて小回りがきくので私にも扱いやすい。狭い畝間(うねま)にも使えて便利です」と、真莉さん。「農業をする若い仲間がもっと増えたらいいな」「西木を売り込んでいきたい」と、お揃いの野良着まで用意して、張り切っている3人だ。

「ピアンタ」は折りたたみハンドルで収納もコンパクト。車への積み下ろしも便利
車輪付きキャリースタンドとキャリーボックスが標準装備。移動も楽々、収納時の土汚れも防止
体験畑の看板。真莉さんたちの取り組みの話を聞き、知り合いの看板屋さんが手弁当で製作してくれたとか

「かっこいいので、農作業はいつもつなぎです」。手持ちのつなぎは10着ほど。「かあさんとねえちゃんに“日焼けは怖いよ”と脅かされたので」、紫外線の気になる季節は、帽子を目深に被り、口元もカバーで覆って目しか出さない。長靴は丈夫で長持ちする(株)弘進ゴム製の白い業務用を愛用

農業はおもしろい

「小さい頃からずーっと、かあさんと一緒に畑に行っては、野菜や花を遊び程度につくっていました」と、真莉さん。同級生や近所の人たちに育てた野菜を配りまくり、「うめがった〜」と、言ってもらえるのが何よりうれしかったとか。

農業を継ごうと心に決めたのは、高校卒業後の進路を考え始めた頃のこと。美容師を目指していた姉の真貴さんに比べ、これといって夢がなかったという。

「本当にこれでいいのかなって、何度も悩んだし、小さなことで投げ出そうとしたこともあったけど、手間をかければ、そのぶん成果があがる農業はおもしろい。体を動かす仕事が自分にはあっているし、やっぱり農業しかないって思いました」

卒業後は、研修生として秋田市内にある県の農業試験場まで、車で片道1時間かけて通う生活が始まった。「いつも畑の手伝いをしていたので、作業の流れはわかっていたけど、やはり家庭菜園と売り物の野菜は違う。専門用語もわからず、研究員の方を質問攻めにして、一からたくさんのことを教えてもらいました」

 研修が終わる半年ほど前、試験場で臨時職員として働いていた和喜さんと出会った。農家の出身ではないが、地域に密着した農業を仕事にしたくて、働きながら技術を学んでいた和喜さん。2人は、交際を経て結婚を約束。和喜さんは、契約期間が終わるとほぼ同時に、真莉さん宅に同居し、仕事を手伝っているそうだ。

家族総出で自家用畑の芋掘り。甥の大雅くんも一生懸命お手伝い
/姉・真貴さん家族と自宅裏の自家用畑へ。「農繁期は姉夫妻も戦力です」 
自家用畑では、細長い形のかぼちゃ「ながちゃん」など、珍しい野菜の栽培にも挑戦中

目標は“とうさんを超えること”

ところで、“農産娘”を立ち上げたそもそものきっかけは、“西木の高田純次(!?)”と家族から呼ばれているひょうきん者の父・一也さんから「おめぇたち、ノギャルやればいいべ〜」と、持ちかけられたことだとか

「子どもたちにも農業のことを知ってもらえる機会になれば」と、3人でチームをつくり、まずは農協を通じて依頼のあった、近所の市立西明寺小学校5年生の農業体験に協力することになった。苗をつくり、畑に堆肥を入れるなどして下準備。子どもたち20人余りと一緒に、5月にネギ苗の植え付け、10月に収穫体験を行なった。

「追肥したり草取りしたりと、手間もかかるけど、子どもたちと触れ合うのは楽しい。この中の1人でもいいから、将来、農業に携わってくれたらな〜って思っているんです」

農業体験は今年度も実施。収穫したネギは、市の産業祭で子どもたちと一緒に販売し、売り上げは市長を通して、東日本大震災の被災地へ義援金として送られる。昨年度は、福島県の大玉村立玉井小学校に届けられたとのことだ。

仕事に、ボランティアに駆け回り、農繁期ともなれば、休みなく働く毎日。そんな中でもおしゃれに余念がなく、「若いうちは、好きな格好をしたい」と、笑顔で話す真莉さん。だが、農家としての目標を尋ねると、顔をきりりとさせ、開口一番、こう言った。

「“とうさんを超えること”です。経営の規模とかじゃなく、いい作物をつくれる技術や知識、いろんな面でとうさんを超えたい。ネギは、研修で専門に勉強したので自信があります。でも、イネはまだまだ未熟。これから時間をかけて学びたい」

家族や仲間に囲まれ、がんばる21歳。農業に真摯に取り組もうとする姿勢がひしひしと伝わってきた。

ネギのハウスを補修する一也さん。ガスパワー発電機「エネポ」に切断機をつなぎ、ハウス支柱を切断
「エネポ」の燃料は充填・交換が簡単なカセットガス(*)。2本で最大2.2時間発電可能

*メーカー指定カセットボンベは東邦金属工業株式会社製。注)エネポは、使用の際、排気ガス中に一酸化炭素が発生するため、屋内では絶対に使用禁止です。

一也さんは、釣りやきのこ採りが趣味。海と山の幸が並んだ食卓を家族で囲む
畑のレシピ
  1. 1. 酢大さじ2、酒・みりん・醤油各大さじ1、蜂蜜大さじ1/2を合わせて火にかけ、煮立ったら火を止めて冷ます。
  2. 2. ネギ4本を3〜4㎝の長さに切り、包丁で浅く切り目を入れ、グリルで軽く焦げ目がつく程度に焼く。
  3. 3. 2をお皿に移して、1をかける。
  4. 4. 好みでちりめんじゃこや白ごまをかける。
  1. 1. クリームチーズ200gをなめらかになるまでよく練り、砂糖60gを加え、泡立て器で混ぜる。
  2. 2. 溶いた卵2個を数回に分けて混ぜ、ふるった薄力粉大さじ3、生クリーム200㎖を混ぜる。
  3. 3. バター20gを湯せんし、溶けたら混ぜる。
  4. 4. 紫芋をふかして皮をむいてつぶし、3に混ぜ、パイシート(市販品でも可)を敷いた型に流し、180℃のオーブンで45分焼き、冷蔵庫で冷やす。