畑の土を極める

栽培の達人は耕し上手

夏野菜がよろこぶ畝づくり

  • 野菜だより 2019年3月号
  • 監修:木嶋利男
  • 構成・原稿:たねまき舎
  • 写真:鈴木忍
  • イラスト:小堀文彦

野菜の健全な生長には、畑の土をどうつくるかが重要なポイントになります。今回は、野菜が根をすくすくと伸ばしていける“畝”のつくり方を紹介します。水はけがよくて適度な湿気を保つ、野菜が本当によろこぶ畝をつくって、今年の夏野菜づくりを成功に導きましょう。

木嶋利男さん
監修=木嶋利男さん
きじまとしお● 1948 年、栃木県生まれ。東京大学農学博士。伝統農法文化研究所代表。長年にわたり有機農法と伝承農法の実証研究に取り組む。雑誌、書籍、講演会活動を通じ、農薬と化学肥料に頼らない野菜づくりを提案し、自然の力を活かした農法の普及に努めている。『木嶋利男野菜の性格アイデア栽培』『農薬に頼らない病虫害対策』(ともに小社刊)が絶賛発売中。

TOPICS

1畝をつくるのはなぜ?

根張りがよくなり野菜の生育を促進

畝は、土を盛って周囲よりも一段高くした、野菜を育てるためのベッドです。畝をつくると、土の水はけと通気性が向上して野菜の根の張りがよくなり、生育が大いに促されるメリットがあります。家庭菜園では、幅60㎝、高さ10㎝程度の畝が一般的ですが、土質や育てる野菜にマッチした畝を用意すると、さらに野菜の育ちをよくすることができます。

畝をつくると得られるメリット

落ち葉床の肥料効果は長く続きます。畝の通気性と水はけも向上して根腐れの心配もなく、野菜は深く広く根を張って育ちます。

メリット1 メリット2 メリット3
  1. メリット1水はけと通気性が向上
    土を高く盛ることで水はけがよくなります。空気の出入りもよくなり、根が健全に生長するようになります。
  2. メリット2根が張るスペースを確保
    土を盛った分、作土層が厚くなります。作土層が浅い畑でも、畝をつくることで、野菜が十分に根を張り、育ちがよくなります。
  3. メリット3地温が上がる
    畝をつくると日光がよく当たり土が温まります。土壌微生物の活性が上がり、夏野菜の初期生育が促されます。

2畝づくりの基本

鍬で土を寄せて形を整える

畝をつくる場所を鍬で耕し、周囲の土を寄せて盛ります。必要に応じて堆肥や有機質肥料を畝の表面にまいたら鍬ですき込み、最後に表面をならして仕上げます。

3〜4週間して土が落ち着いたら、夏野菜の苗を植えつけます。

なお、畝は南北方向に沿ってつくるのが基本で、そうすると野菜にまんべんなく日が当たるようになります。緩斜面にある畑では等高線に沿って畝をつくります。この場合は、南北は関係ありません。

  1. 鍬使いに慣れないうちは、畝幅に合わせてロープを張っておくと、畝をまっすぐにつくれます。
  2. 鍬で畝部分の土を粗く耕し、周囲の土をすくって盛り上げます。
  3. 堆肥や有機質肥料をまいたらザックリと混ぜます。土を細かく耕さないのがポイントです。
  4. 表面をならすには鍬やレーキのほかに、板切れがあると便利です。
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ポイント土質と野菜で畝の高さを決める

畑によって土の性質はさまざまです。粘土をどれだけ含むかで、水はけのよし悪しが変わります。

粘土が少ない砂質の畑では、水はけがよすぎて乾燥害が心配です。これを防ぐために、高さ10㎝以下の平畝を用意するか、土を盛らずに野菜を育てるといいでしょう。

一方、粘土を多く含む粘土質の畑では、畝を高めにつくって湿害を防ぎます。水はけと通気性が向上し、過湿を嫌う野菜や乾燥を好む野菜を育てることが可能になります。

また、育てる野菜によっても畝の高さを調節します。たとえば、サトイモなどの水を好む野菜には低めの畝が向きます。ナスや根菜類など、根を深く伸ばす野菜には高めの畝をつくり、作土層を増やすと育ちがよくなります。土質と野菜の性格によって畝の高さを変えると、おいしい野菜をたくさん収穫できるようになります。

  • 砂質の畑
    砂が多くて粘土が少ないザラついた土。水はけがよく乾きやすいため、低めの畝を用意して乾燥害を防ぐ。
  • 壌土の畑
    砂と粘土がほどほどに混ざる中間的な土。水はけがよく保水性もあり、野菜を育てやすい。高さ10㎝程度の畝を用意する。
  • 粘土質の畑
    砂が少なく粘土が多い、隙間の少ない土。水はけと通気性が悪いため、高めの畝を用意して湿害を防ぐ。

耕うん機を使って畝をつくる

1元肥をすき込む

堆肥や有機質肥料をザックリと混ぜる

夏野菜を植える3〜4週間前までに畝を用意します。

畝をつくる場所に元肥として堆肥や有機質肥料をまき、耕うん機で深さ10㎝程度にすき込みます。ポイントは、土を細かく耕さないことです。土がコロコロした状態の方が土壌微生物の活性がよく、水と空気の通りがいい畑になって野菜の根が発達します。

土が締まっている場合は、深さ約16㎝までを粗く耕してから元肥をまき、深さ約10㎝にすき込みます。

元肥は育てる野菜に応じて必要な量をまきます。前号で紹介した「冬耕起」で堆肥を施してある場合は、ここでは元肥は不要。耕すだけで十分です。

2培土器で土を寄せる

畝立て用アタッチメントを耕うん機にセット

畝づくりや中耕・土寄せに利用するオプションの「培土器」を耕うん機にセットします。

つくる畝の形や大きさによってさまざまある培土器の中から、家庭菜園で使いやすい「ニューイエロー培土器」を選びました。高さ15~22㎝の畝をつくることができるタイプです。

耕うん機をかけると、培土器が土に食い込んで進み、羽根によって土が左右に振り分けられてきれいに寄せられていきます。

  1. 培土器をセットして、調節ダイヤルで培土器のスキ先の角度を調節します。地面と平行して指1本分上向きにすると、培土器が土に食い込みすぎず、作業しやすくなります。
  2. 手を添えているだけの、ラクラク作業です。
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3畝を仕上げる

往復して畝をつくり鍬で表面をならす

培土器をセットして耕うん機をかけて、土を左右に寄せていきます。往復すると畝ができあがります。

写真のように、前輪の位置を往路、復路で60㎝離して耕うんすると、幅約60㎝の畝の原型ができ、あとは鍬などで畝の表面をならして畝の形を整えます。

鍬を使っての手作業では、長い畝をまっすぐに、しかも同じ高さにそろえてつくるのは、慣れないうちは難しく、時間と労力がかかります。

FF300を利用すると、まっすぐで一定の高さの畝をビギナーでも容易につくることができます。

移動や作業の走行スピードをレバー1本の操作で変えられるので、自分の調子に合わせて最適な速度で耕せます。

FF300は自走式でフロントロータリー式のため直進走行性がよく、長い畝でも苦労せずにまっすぐ立てられます。往路(①)に続き、つくりたい畝の幅に合わせて(ここでは60㎝)復路(②)で土を寄せると畝の原型ができあがります。

  1. 幅60㎝の原型ができました。
  2. 鍬で畝の表面をならせば完成です。高さ約15㎝の畝ができました。
  3. 3〜4週間後に夏野菜の苗を定植できます。
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耕うん機を使うメリット

  • まっすぐで高さが一定の畝を容易につくれる!
  • 長い畝も苦労なく短時間でつくれる!

3夏野菜の畝づくりのコツ

トマト

根域を制限して甘い実を収穫する

畝の部分だけを深さ約16㎝まで耕し、壌土の畑では高さ15㎝程度の畝をつくります。砂質の畑では10㎝程度の低めの畝、粘土質の畑では20㎝程度の高畝を用意するといいでしょう。

トマトは根を遠くまで伸ばす性質があり、通路まで耕すと広く根を張って、それだけ水を多く吸い、水っぽい実になってしまうからです。

トマトは肥料をそれほど必要としません。新規の畑では牛ふん堆肥とかき殻石灰を施しておきますが、野菜を育てている畑なら元肥を施す必要はありません。土に残っている肥料分だけでよく育ちます。

元肥
牛ふん堆肥:1.5㎏/㎡
かき殻石灰:200g/㎡

ナス

高畝をつくって元肥をたっぷり施す

ナスは根を深く張る性質があります。そこで、深さ20㎝程度まで土を耕し、砂質や壌土の畑では高さ約20㎝の畝を用意します。これでナスは根をのびのびと張ることができます。粘土質の畑では高さ20㎝以上の畝にして、水はけをよくしておきます。

また、ナスは養分と水分をたくさん吸収する野菜です。牛ふん堆肥と油かすを多めに施しておきます。収穫が始まり、雨が降らない日が続いたら、朝か夕方に水をたっぷりまきます。こうするとおいしい実を次々と収穫することができます。

トマトは肥料をそれほど必要としません。新規の畑では牛ふん堆肥とかき殻石灰を施しておきますが、野菜を育てている畑なら元肥を施す必要はありません。土に残っている肥料分だけでよく育ちます。

元肥
牛ふん堆肥:2~3㎏/㎡
油かす:300g/㎡

キュウリ

通路部分も耕して根を広く張らせる

キュウリは根を広く浅く伸ばす野菜です。そこで、畝だけでなく通路部分も深さ約16㎝まで耕しておき、根の発達を助けましょう。

畝の高さは壌土の畑では10㎝程度、粘土質の畑では15㎝程度にします。畝の表面にワラや刈り草を薄く敷いて、土の乾燥を防いで浅く張る根を守るのもポイントです。

キュウリやスイカなどのウリ科の野菜はアンモニアを嫌います。そのため、堆肥は牛ふん堆肥よりも窒素分の少ない腐葉土や完熟バーク堆肥などが向きます。有機質肥料も発酵済みの油かすを利用します。また、カリウムとケイ酸が豊富な草木灰を与えると丈夫に育ちます。アンモニアの害を避けるため、畝は4週間前までにつくっておきます。

元肥
腐葉土:1㎏/㎡
発酵油かす:160g/㎡
草木灰:40g/㎡

サツマイモ

元肥は施さずに高めの畝を用意する

サツマイモは、原産地が現在のメキシコの砂漠周辺だけあって、乾燥した低栄養の土地でよく育ちます。

したがって、堆肥や肥料は不要で、土を耕しておくだけで十分です。また、高めの畝をつくって水はけをよくしておくことも大事です。砂質の畑や壌土の畑では15~20㎝程度の高さ、水はけが悪い粘土質の畑では高さ20㎝以上の畝をつくっておくといいでしょう。

 なお、肥料分が多い畑ではツルばかりが繁茂してイモが太らなくなります。収穫の1か月前(お盆の頃)にツルを持ち上げてひっくり返す「ツル返し」をしておきます。

元肥
不要
※追肥も原則不要ですが、葉色が淡すぎる場合は、発酵油かすを通路部分に薄くまきます。

ツル返しをすると、ツルの各節から伸び出した根(不定根)が断ち切られ、葉やツルの養分が株元に行くようになり、イモが太り始めます。