畑の土を極める

栽培の達人は耕し上手

冬耕起と春耕起で
土づくり

  • 野菜だより 2019年01月号
  • 監修:木嶋利男
  • 構成・原稿:たねまき舎
  • 写真:鈴木忍
  • イラスト:小堀文彦

野菜の健全な生長には、畑の土をどうつくるかが重要なポイントになります。有機栽培では、野菜を育てる前に堆肥を施して畑の準備をします。今回は、冬に堆肥を施して粗く土を起こし、春になったらもう一度耕すという、2段階の耕うん方法を紹介します。野菜がすくすくと育つ土が手に入ります。

木嶋利男さん
監修=木嶋利男さん
きじまとしお● 1948 年、栃木県生まれ。東京大学農学博士。伝統農法文化研究所代表。長年にわたり有機農法と伝承農法の実証研究に取り組む。雑誌、書籍、講演会活動を通じ、農薬と化学肥料に頼らない野菜づくりを提案し、自然の力を活かした農法の普及に努めている。『木嶋利男野菜の性格アイデア栽培』『農薬に頼らない病虫害対策』(ともに小社刊)が絶賛発売中。

TOPICS

1畑はいつ耕す?

冬と春に耕せば土づくりが進む

有機栽培では、野菜を植える2~4週間前までに土を耕して堆肥をすき込み、畝の準備を済ませておくという方法が一般的です。

ですが、冬の低温期に土を粗く耕して堆肥をすき込み、その後、春にもう一度耕すという“2段階の耕うん法”もあり、おすすめです。こうすると、野菜づくりを始めたばかりの地力が低い畑でも、野菜がよく育つ肥沃な畑に変えることが可能です。

2冬耕起で地力を高め、
春耕起で肥効を上げる

地温の高低で異なる繁殖する微生物

冬耕起は本格的な冬が来る前に、春耕起は3月中旬以降に行います。

冬の低温期には、堆肥や雑草などの有機物をエサに「発酵型微生物」が活動します。その結果、有機物が部分的に分解されたもの(アミノ酸や糖類など)が粘土鉱物と結合して「腐ふ植しょく」が増えます。腐植が多いほど地力が高い畑となります。

そして春からは、地温の上昇とともに「分解型微生物」が繁殖するようになります。そのため、有機物や腐植の分解が進み、野菜が根から吸収できる養分がつくり出されます。

春耕起をすると土中に空気が補給され、分解型微生物の活性がより高まり、野菜の育ちをよくします。春耕起は肥効を上げる耕うんです。

春耕起と同時に畝をつくり、3週間程度土を落ち着かせたら、夏野菜のタネまき、苗植えを行います。

なお、冬耕起の際に利用する堆肥の量は左の表を目安に。牛ふん堆肥、腐葉土、バーク堆肥など、手に入るものを利用してください。

冬耕起と春耕起スケジュール(中間地)
暖地での冬耕起は中間地に準じますが、寒冷地ではなるべく早めに済ませておきましょう。とくに積雪地域では雪が降る前に行ってください。
冬耕起で堆肥を施す量の目安(㎏/㎡)
畑が養分過多にならないよう、堆肥は適量を守ります。空気を多く含み温まりやすい砂質土壌では、堆肥の消耗が激しいため多めに施し、逆に、保肥力が高い粘土質の畑では、堆肥の量は控えめにします。暖かい地域ほど分解が進むのが早いので、堆肥を多めに施すのもポイントです。2~3年して土づくりが進んで土が肥えてきたら、堆肥の量は上記の分量の半分くらいに減らします。

冬耕起地力を高めるための耕うん

粗く土を耕して堆肥を混ぜる
土を粗く耕し、堆肥や雑草をザックリと土に混ぜておくと、低温期に活動する発酵型微生物の働きで腐植が増えて地力が増進します。
耕うん機を利用すると、ひと手間かかる2段階耕うんもラクに行えます

冬耕起地力を高めるための耕うん

表層をやや細かく耕す
表層の土を軽く耕してコロコロにして空気を含ませておくと、分解型微生物が繁殖して、有機物や腐植の分解が進み、肥料効果が速やかに表れます。

3鍬を使って行う冬耕起と春耕起

冬はゴロゴロに耕し 春はコロコロに耕す

晩秋から冬にかけて、新規に畑をつくる場所や、夏野菜や秋野菜を片付けて空いた場所を耕しましょう。

まず堆肥をまき、3本鍬で深さ15~18㎝の土を起こしてください。大きな土の塊をひっくり返していくイメージです。土がかたい場合にはショベルを使うと作業がラクです。

なお、細かく耕して堆肥をていねいに混ぜ込むことはしないこと。堆肥はある程度まとまって土の中に入っている方が、微生物がよく繁殖します。雑草もそのまま土の中に入れて、微生物のエサにします。

このまま春まで放置し、夏野菜を植える前に春耕起を行います。

春耕起では、土の中に空気を送り込む感覚で表層10㎝部分をやや細かく耕します。平鍬が便利です。

コロコロの土は通気性と水持ちがよく、微生物がよく繁殖します。

重要適度な湿り具合のときに土を耕すこと
土を耕しすぎてはいけません。土が細かくなると土中の隙間が少なくなり、また、「雨降って地固まる」という通り、時間がたつと土は次第に密に締まってかたくなってしまいます。左のイラストの様な、大小の塊がゴロゴロしている土壌構造をイメージして土を耕しましょう。

冬耕起3本鍬で土を粗く起こす

土をゴロゴロの状態にする
  1. 堆肥は適量を守ってください
  2. 3本鍬を土に打ち込んで起こすと、深さ15~18㎝の土がゴロゴロの塊になります。前方に進みながら、約15㎝間隔で鍬を打ち込んでいくといいでしょう。
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春耕起平鍬で表層の土を耕す

表層の土をコロコロの状態にする
  1. 平鍬を振って土の表層部分を軽くサクサクと耕します。ていねいに耕して土を細かくしすぎないこと。その際、耕した場所を足で踏み固めないよう、後退しながら耕していくのがコツです。

耕うん機で行う冬耕起と春耕起

作業時間が短縮できるから人にも微生物にもやさしい

冬耕起も春耕起も耕うん機を利用すると、短時間で作業をこなせ、労力も大幅に軽減できます。

たとえば手作業で半日かかるような広さの畑でも、耕うん機を利用すれば小1時間の作業で済ませることが可能になります。

冬耕起では、手作業の場合と同様に、堆肥をまいたら深めに1回だけ耕うん機をかけて土をゴロゴロの状態にします。

冬耕起深めに1回耕うんする

  1. 今回利用した「サ・ラ・ダ FF300」は、前輪の位置を変えることで、耕うんの深さを調整できるタイプです。冬耕起ではもっとも深く耕せる5段目に合わせました。
  2. 耕起する場所に堆肥をまき、1回耕うんします。正逆転ロータリー式なのでかたい土でも安定して耕うんでき、また、フロントロータータイプなので足元を気にすることなく、初心者も安心して使える耕うん機です。
  3. 堆肥がザックリと混ざった、いい状態に耕うんできました。
  4. 土がゴロゴロとした塊になっています。このまま春まで置いておきます。
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耕うん機を使うメリット

  • 冬のかたい土でもラクに短期間で耕うんできる
  • 速やかなすき込みで微生物のダメージを軽減

春耕起浅めに1~2回耕うんする

  1. 春耕起では表層を耕すので、前輪の位置を2段目にセットしました。
  2. 表層の土を深さ約10㎝まで耕します。耕した土の状態を見て、1~2回耕うん機をかけ、土をコロコロの状態にします。
  3. 耕す際には、土を足で踏み固めないよう、耕うん機の斜め後ろに立って操作するといいでしょう。安定して直進するタイプなので、あまり力を使わずに操作ができます。
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