耕うん機への新たなニーズの高まり

Hondaは1959年からガソリンエンジン式の小型耕うん機を手掛けています。従来の耕うん機には「作業機」として生産性の向上を目的とした、仕事で必要な機能が求められてきました。
一方近年は「生活を楽しむため」に土と触れ合う、家庭菜園やガーデニング人口が増加傾向にあります。そうした方々が使いたい耕うん機ニーズには、これまでの目的に加え「燃料の取扱いやすさ」「耕うん機本体の保管、運搬のしやすさ」「周囲環境への配慮」などがあります。
そうした新たなニーズに応える「身近な汎用製品」を検討していくなかで、使用燃料として一般家庭に普及しているカセットコンロ用のブタンガスに着目。購入・使用・保管が容易な家庭用カセットガスを燃料とした耕うん機「ピアンタ」を開発しました。
商品化に向けてはより使いやすく、親しみやすい耕うん機となることを目指し、新たなガス供給システムを構築しました。

    ピアンタ
    ピアンタ
    ピアンタ

「3つのカンタン」に込めた技術

カセットガスを燃料に採用することで実現できたメリットのほか、車載や保管の利便性など様々なユーザーメリットを、ピアンタでは「3つのカンタン」と表現しています。

カンタン燃料

燃料がガソリンの場合、購入には専用の携行缶が必要です。補給時には、携行缶からガソリンタンクに移し替える作業があります。ピアンタは市販のカセットガスを採用することで、燃料の取扱い(購入・使用・保管)が簡単になりました。またガスを燃料とすることで、長期保管後もスムーズに始動できるのが特徴です。
またガスが気化した後に残る不純物についてはレギュレーター内部にこれらを分離する構造を取り入れ、エンジントラブルを防ぐ対策をしています。

カンタン燃料

カンタン移動、収納

ピアンタに限らず、耕うん機の移動は近距離でも大変な作業です。これまではエンジンの動力を利用して耕うん爪で自走するか、別途車輪を購入し移動時に付け替える必要がありました。ピアンタでは移動車輪一体型のキャリースタンドを開発し、標準装備としました。これにより耕うん機本体の運搬が楽に、移動がスムーズにできるようになりました。
また、本体を持ち上げることなく装着できるキャリーボックスを使えば、移動時に周囲を汚すことなく本体を持ち運ぶことが出来ます。保管や車載を考慮したサイズも特長です。

カンタン移動、収納
    本体を持ち上げることなくキャリーボックスの着脱が可能

    本体を持ち上げることなく
    キャリーボックスの着脱が可能

    周囲を汚さず移動できます

    周囲を汚さず移動できます

    保管や車載時を考慮したコンパクトサイズ

    保管や車載時を考慮したコンパクトサイズ

カンタン操作

ガスエンジン化により、ガソリンエンジンのようなチョーク操作が不要になり、エンジン始動後にはスロットルレバーを握るとローターが回転し、放すと止まる簡単操作。ハンドルの折りたたみ操作と、耕うん深さを調節する抵抗棒の高さ変更は、工具なしで行えます。
またピアンタでは、耕うん機の燃料としてカセットガスを安心して使えるように、屋外環境に適した新しいボンベ装填システムを開発しました。これにより耕うん作業時の振動や直射日光、雨などからボンベを保護し、正しい向きと角度にセットできるようになっています。ガスボンベを廃棄するのに適した状態まで中のガスを使い切るためには、装填時におけるカセットガスの「向き」と「角度」が重要です。
このシステムでは、簡単ながら確実に装填できるように設計されています。


ガスは液体で取り出す

カセットボンベ内の主成分はノルマルブタンで、ボンベ内では気体と液体に分かれています。
ノルマルブタンは、約0℃以上では気体、約0℃以下では液体という性質があります。ガスはボンベの切り欠き部分の向きを上向きにすれば気体で、下向きにすれば液体で取り出せます。
カセットコンロではガスを気体で取り出しています。気体で取り出すとボンベ内部はガスの気化に伴い気化熱を奪われブタンの温度が低下し、そしてついには気化、つまりガス化が出来なくなります。これを防ぐ為に、カセットコンロではヒートパネルと呼ばれる部品でボンベを温め、温度低下を防いでいます。

一方、常に一定の燃焼が行われるカセットコンロとは異なり、作業負荷により発生する熱量が変化してしまうエンジンでは温度のコントロールが難しいといった課題がありました。
そこでピアンタはガスを液体で取り出し、その後排気熱を利用して気化させる方法を採用しました。これにはボンベ内での気化量が少ないため、ボンベの温度低下がほとんど起こらず、燃料供給が不安定になりにくいというメリットがあり、作業機である耕うん機でも安定的に燃料を供給しエンジンを動かすために適した方法です。

ボンベから気体取出し
ボンベから液体取出し

独自の安全機構を備えた新設計ガスエンジン

ピアンタのエンジンは、カセットガス内のブタンガスを液体の状態で取り出し、排気熱を利用して気化させ燃料として使用します。
〈エンジン始動の主なステップ〉
① ボンベを装着すると、ボンベ内の燃料(液体ガス)が燃料コックまで到達。
② 燃料コックを開くと、燃料(液体ガス)がレギュレーター内にあるシャットオフバルブ手前まで到達。
③ リコイルを引き、クランクを回転させると、負圧によりシャットオフバルブが開き、燃料(液体ガス)がレギュレーターのバルブを通過する際に圧力差により気化する。
気化した燃料はミキサーに到達し、吸入空気と混合され、燃焼室へ供給される。
④ エンジン暖気後は、排気熱で加熱されたベーパライザを利用して、燃料(液体ガス)を気化させる。
また、このエンジンでは気化したブタンガスと不純物を分離・溜めることで不純物をエンジン側に流さず、燃料系のトラブルを防止する機構(「ラビリンス機構」「不純物カップ」)を採用しています。

さらに安全機能として、口金部分に圧力検知弁を内蔵。配管内の圧力が異常に上がった際には、エンジンを停止させます。またレギュレーター内の シャットオフバルブは、エンジン停止時には燃料供給を自動で遮断します。

エンジン及び各部品の配置

エンジン内におけるガスの流れと安全機構

外気温5℃での作業を可能にした「ベーパライザ」とは?

家庭菜園などで耕うん機の使われ方を調べるなかで、耕うん機を使い始める時期が種まきを行う3月〜4月に集中していること、さらにこの時期の各地の平均気温(外気温)は5℃以上であることが分かりました。そこで、ピアンタのエンジンでは「5℃を最低始動温度」に設定しました。

そこで採用したのが「ベーパライザ」です。排気口とマフラーではさむように配管し、排気ガスの熱を利用して、配管内のガス燃料の気化を効率よく促進させる仕組みです。

ガスの気化は、エンジンをかけた直後はレギュレーター部分で行われますが、レギュレーターの温度が気化熱で次第に下がり、その温度が0℃近くまで下がるとガスが気化できなくなり、エンジンが停まってしまいます。

そのため、ピアンタでは燃料の気化をレギュレーター温度がこの温度より下がりきる前に、排気熱で暖まったベーパライザでの気化へと切り替えることで、5℃という低温環境でも安定的にエンジンを始動、運転させることを可能にしています。

ベーパライザ

搭載機種例

テクノロジー耕うん機 カセットガス式 ピアンタ