愛車を、窃盗団からどう守る?

ライダーにとって最も憎むべき事のひとつが“盗難”だ。現在、世界中から“バイク窃盗団暗躍”というニュースが聞こえてくる。本当に許せない。

バイクをどう守る? U字ロックやワイヤーロック、さらに色々な種類のアラームなどが販売されている。これらのアイテムで、確かに抑止効果は高まるかもしれない。しかし、それで十分なのか?

Hondaも、もちろん対策を講じている。そのひとつが“H.I.S.S.=Honda Ignition security system”である。電子制御でエンジン始動をコントロールする盗難抑止装置=イモビライザーだ。

バイクを降り、イグニッションキーを抜く──この瞬間から効果抜群の盗賊除けであるH.I.S.S.は作動するのだ。

効果は抜群なのに、なにも普段と変わらない盗賊除け

H.I.S.S.

バイク窃盗団暗躍──そんな物騒なニュースが世界中のあちこちから聞こえてくる。バイク盗難が多発する状況をユーザーとしては苦々しく思う。
不吉であり、心配ごとがつきず、ニュースを見聞きするたびに憤ることになる。愛するバイクが窃盗により奪われるということは受け入れ難いことだ。

だから、防衛策に乗り出すのも当たり前なこと。
バイク用品を扱うショップではU字ロックや、ワイヤーロック、ディスクブレーキに装着する回転留め、モーション感知型のアラーム等々が多く並ぶ。
頑丈なものを選ぶほど抑止効果は高まるだろうが、毎回それらを出先に持ち運ぶのはついつい億劫になることも。しかもセキュリティーアイテムの価格は安くない。

では、バイクを盗む盗賊たちは、これらの盗難抑止アイテムをどう見ているのか?

新たに盗難抑止アイテムが登場すれば、それを破壊する道具を用意して盗難を繰り返す。要するにイタチごっこになっているのだ。しかし、盗賊も面倒な盗難抑止アイテムが装着されている車両よりも、盗難抑止アイテムの無い車両や、容易に破壊可能な盗難抑止アイテムが装着されている車両を好む。
つまり盗むのに「このバイクは面倒だ」と思わせること、それが有効な盗難抑止の手段でもあるのだ。

盗難に対しては、メーカーも積極的に対策を講じている。
Hondaの場合、

  • キーシリンダーのピッキングを抑止する効果を狙った、メインキーにシャッターを着けた“シャッターキーシリンダー”がある。同時にメインキーとシート開閉のための鍵穴を一つに集約したり、キーシリンダーとハンドルロック機構そのものを強化するなどしている。
  • 直接配線結合によるエンジン始動を抑止する効果を狙った、イグニッションキーシリンダーを回さずに配線を繋ぐなどをしてもエンジンが始動しないような回路を搭載するなどした盗難抑止システム。
  • メインスタンドをロックすることで、押して車両を盗難することを抑止する機構。
  • そして電子制御でエンジン始動をコントロールする盗難抑止装置、イモビライザー

がある。
このイモビライザー、Hondaの場合はH.I.S.S.と呼んでいる。これはHonda Ignition security systemの頭文字をとったものだ。

H.I.S.S.の特徴はこうだ。
「純正キーには、コード化された暗証番号を記憶したチップが埋め込まれていて、キーをイグニッションに差し込むと、アンテナがコードを読み取りECUに伝達。
ECUはプログラムされているコード番号を照合し、合致した場合のみエンジンを始動させます。
たとえば純正キーと全く同じ形状の合い鍵を造ったとしても、チップのコードが一致しなければエンジンは始動しません」

つまり「純正キーでなければエンジンが始動できない仕組みとなっています」ということなのだ。エンジンが始動しない、ということは盗賊にしてみれば運ぶ手段を考えたりしなければならないのはもちろん、エンジンが始動しないモーターサイクルの商品価値は低いことを意味するわけだ。

そして大きな特徴とも言えるのが、キーと車体側でコード化された暗証番号の通信をH.I.S.S.は接触通信で行う、ということ。
一般的にイモビライザーというと、圧倒的に非接触の電波型が採用されている。電波型は文字通り車体側とキーに内蔵されたICチップが通信をするもの。極めて近距離での通信ながら、市街地などで様々な電波が飛び交う環境では、何らかの影響で通信不良が発生する恐れや、盗賊が通信に使われる電波を悪用してエンジンを始動する、という可能性も否定できない。

H.I.S.S.

これに対しH.I.S.S.では接触型を採用。純正キーを差し込むとキーシリンダー内でチップとの通信が開始される、というもの。電波障害や、電波を傍受して悪用する事は出来ないのだ。つまり、使い勝手としても影響が出にくいシステムだといえる。

それでいて、H.I.S.S.は「キーを抜いた瞬間から作動する」こともある。すなわち、守る側としてはなんらかのアクションを起こす必要がない(つまりスイッチを入れ忘れるということがない)。
そして最初の24時間、作動を印象づける赤いLEDランプがメーター内で点滅を繰り返す。2秒に一回点滅し「盗難抑止装置作動中」をアピールする。

多くのイモビライザーが採用する電波通信式、時に使い勝手の面でもユーザーをドキリとさせることがある。キーと車体側の通信事情により、出先でシステムの不具合が生じ、始動不良に陥る場合がある。
もちろん、通信用の内蔵電池が消耗しても同様のことが起こる。
この電波通信式イモビライザーでは、システムが発する電波を傍受し、あたかも正しい鍵であるかのような誤電波を発する機械まで盗賊は使うというではないか。
その点でもHondaのものはアドバンテージがある、といえる。

これは僕自身の体験だが、雑誌の撮影に出た先でその車両のイモビライザーがエラーを起こし、エンジンが始動できないとう事態に陥った。だからといって置いて帰るわけにもいかず、困った記憶がある。
なんらかの影響でシステム的にエラーがでたのか原因は出先では全く解らない。メーカーのプレス担当も連絡しても、原因が分からずじまい。結果的に出直す事になった。

仮にこうした事がバイクで出かける週末にでも起これば、家から出かけられない、出先で立ち往生する、ツーリング先で修復が出来ないのでレッカー車などを頼みディーラーに持ち込む……、休日のプランは変更を余儀なくされる等々、影響がでる。
 それでも盗難抑止だから、と受け入れるわけだが、こんな経験をすると「今度は大丈夫か?」と不安になるし、走り出す度に祈るような気分になるのは、嬉しくない。

僕自身、実はCBR954RRに乗っていたとき、H.I.S.S.を使っていた。いや、装備されていた、というほうが正しい。
なにしろH.I.S.S.の使い勝手は30年以上乗ってきたバイクと同じ使い方、付き合い方ができるのだ。それでいて電子制御の高い盗難抑止効果を発揮してくれる。

お復習いすると、H.I.S.S.は標準装備のキーを使わないとエンジン始動が困難である。
仮に盗賊がバイクをトラックなどで運んだとしても、転売するにはECUとキーシリンダーをセットで交換する必要があり、その費用は高価で、割に合わない。また、オーナーになりすまして販売店で「落としてしまったこのバイクの鍵が欲しいんだ」と偽りを述べたとしても、身元の証明がされない限り、ECUとキーシリンダーセットを手に入れることは出来ないから、盗む側にとっては非常に面倒くさい。
つまりH.I.S.S.装着車は、盗賊にとって非常に効率の悪いターゲットなのである。
そして、H.I.S.S.は、キーを抜いてから24時間点滅を続ける赤いLEDランプが「これを盗んでも面倒なだけだぞ。諦めろ」と、2秒ごとにささやいている。
幸い、僕はCBR954RRに乗っている間、盗難や悪戯をされるコトはなかった。こちらが意識しなくても、ドロボウ達は「H.I.S.S.は面倒だ」と認識しているのだろう。いや、自分のバイクが、H.I.S.S.装着車だと認識させることが、最大の盗難抑止効果かもしれない。そして、H.I.S.S.装着車に手を着けるなら手っ取り早く他のものを選ぼう、と判断することになるのだろう。これぞ優秀なH.I.S.S.の盗難抑止効果だ。

いつも通りに使えば自動的に盗難抑止をしてくれる。なにもしていないのに効果がある。これほど嬉しい技術と装備もない。ユーザー自らがその性能を試すチャンスは無いが、見えない優秀なセキュリティーガードを雇ったのも同然。心強い技術なのである。
しかし、盗賊も虎視眈々と新たな方法を模索しているかもしれない。
H.I.S.S.とともに第2、第3の盗難抑止アイテムで自身の愛車を守る努力は、怠ってはならない。

[H.I.S.S. 適用モデル]

<400cc>

CB400, FJS400D/A, VT400S, VT400C

<500cc>

CB500F

<600cc>

CBR600RR, CBR650F

<700cc>

NSA700,CTX700NA CTX700ND, CTX700A, CTX700D

<750cc>

NC750D, NC750S, NC750X, NC750, VT750S, VT750C, VT750C2

<800cc>

VFR800X

<1000cc>

CBR1000RR

<1100cc>

CB1100

<1200cc>

VFR1200F, VFR1200X

<1300cc>

CB1300, VT1300C, CTX1300

<1800cc>

GL1800, GL1800B, GL1800C


  1. 2014年3月4日時点での量産機種

Q&A

Q1.H.I.S.S.とはなんですか?

A.Hondaの盗難抑止を目的としたイモビライザーの呼称です。
Honda Ignition Security Systemの頭文字からH.I.S.S.という名称となっています。Hondaが独自に開発した盗難抑止に効果的なシステムです。

Q2.どんな方法で盗難を抑止するのでしょうか?

A.車両ごとに設定されている純正のイグニッションキーに内蔵のICチップにコード化した暗証番号を記憶させ、車体側のECU内でコード化した暗証番号を照合。暗証番号が合致した場合にエンジンの始動を可能化させるシステム。

Q3.すべてのモデルに装着されているのでしょうか?

A.すべての機種には装着されていません。H.I.S.S.装備車については、お近くのHonda販売店でご確認下さい。

Q4.H.I.S.S.の作動手順は?

A.イグニッションキーをキーシリンダーから抜いた時点でH.I.S.S.はから作動します。

Q5.合鍵を製作された場合は盗難抑止効果がなくなるのでは?

A.形状が同じ合鍵を製作したとしても、イグニッションキーに暗証番号が記憶されたICチップが内蔵されていないので、エンジンの始動はできません。

Q6.アラーム機能も搭載しているのでしょうか?

A.アラーム機能は付帯しておりません。オプションでH.I.S.S.用のアラームキットが設定されている機種もありますので、詳しくはお近くのHondaディーラーでご確認ください。

Q7.H.I.S.S.の電池寿命は?

A.車体接触式通信方法を採るため、電池の寿命は関係ありません。但し、車両本体のバッテリー電池が切れている場合は、エンジンの始動させることができません。

User Reviews

  • CB500F

    40歳 男

    通勤に使っています。路上の公共パーキングスペースに駐めています。仕事を終えて朝と同じ場所に自分のバイクがあることに、いつもホっとしています。盗難の心配は尽きません。H.I.S.S.を搭載していることでリスクが下げられているので、心配ごとが少し減ります。
  • CTX700

    57歳 男

    CTX700買いました。盗難抑止装置を購入しなければと思っていたのですが、強化ハンドルロックと強化シリンダー、そしてH.I.S.S.というイモビライザー装置が標準でついてきました。絶対に盗難されたくないのでアラームもつけてもらいました。今は絶対に切られないという最強のチェーンロックを買ってアパートの柱につなげています。これで盗難被害にあったら…泣きます。
  • CB400F

    54歳 男

    購入時にH.I.S.S.について説明されたような気がしたのですが、新車を買った嬉しさで、説明は正直忘れていました。でも、家に帰ってキーを抜くと赤いランプの点滅が始まって、確かに説明してくれた盗難抑止装置が作動しだしました。特別なことをするわけでもなく、普通にキーを抜くだけでH.I.S.S.は作動し、キーを入れるだけで解除される。とっても楽です。
  • CB1100

    49歳 男

    HondaはもっとH.I.S.S.のことをアピールしたほうがいいんじゃないでしょうか。あの赤いLEDランプがメーターの中でチカチカしていたら「これはH.I.S.S.が付いているから盗んでも走れません」みたいなことを周知徹底させたら盗難自体が減るかも。

    45歳 男

    カフェスタイルにカスタムしようと思っています。これからですが、長く楽しめそうなバイクです。H.I.S.S.を装備しているということは、大型で高価なモーターサイクルにとっては今やスタンダードだと思いますし、無いことは想像できません。
  • SILVER WING GT

    30歳 男

    収納スペースの大きさや、通勤も遠出もこなせるスクーターとして気にいっています。快適さ、という性能の中にH.I.S.S.も含まれると思います。だって、自分のスクーターを停めた場所に戻ったら姿が無い、なんて、御免ですから。
  • CBR1000RR

    39歳 男

    これまで盗難未遂に有ったことがあります。鍵穴を壊されていました。かなり前のことですが、それ以来盗難防止策を怠っていません。イモビライザーのH.I.S.S.は優秀だ、と聞いています。賊はそれでも盗もうとするのかもしれません。だから少しでも安心なものを──これはスーパーバイクの性能比較と同じですね。
  • SILVER WING GT <400>

    48歳 男

    以前、250ccのスクーターに乗っていたときに盗難に遭いました。細い路地の奥に駐車しているのでチェーンロックしておけば、と油断してしまいました。チェーンを切られてしまったようです。代わりにシルバーウイングを購入したのですが、駐車中は赤いランプが点灯することで、H.I.S.S.を装備していることが一目瞭然。これなら面倒くさがって狙われることも少ないかと。さらにオプションのアラームキットもつけてもらったので万全なのではないでしょうか。
  • CB1300SB

    38歳 男

    もうね、メーターの中で赤いLEDランプがチカチカ光ってくれているだけで安心感絶大! スペアキー無くして、仕方ないからドリーム店で作ってもらったら8000円もしてビックリしたけど、BIG-1が盗まれたら取り返しがつかないだけに、冷静になって考えたら8000円なんて安いものです。
  • CB400SF

    56歳 男

    H.I.S.S.これ必需品です。要は盗難対策用のイモビライザーなのですが、これが付いていればバイク泥棒もお手上げです。自分のバイクのメインキー以外ではエンジンがかからない、つまり盗んでも乗れないってことでしょう? メーターの中で赤いランプがチカチカ光っているだけで盗難抑止効果絶大ってこと。

    56歳 男

    昔もバイクの盗難は結構ありましたが、今も変わらないですね。リターンしてCB400SUPER FOURに乗っています。いや最近はどうもプロ集団の仕業らしくて狙われたら最後、とか。怖いですね。ただ、そうはいってもやはり基本は、盗難被害に遭わないように気を遣ってますよ、という強い姿勢じゃないでしょうか。久々の愛車に“威嚇”効果抜群のH.I.S.S.が標準で付いてきたのは嬉しかったです。
  • Gold Wing

    55歳 男

    長いツーリングの途中、ホテルでふと自分のGold Wingのことが気になる事があります。「ちゃんとあるだろうな」と。アラームなど自分なりに策を施しています。でも、イモビライザーとしての機能がしっかりとしている、とディーラーで説明されていますし、H.I.S.S.の構造を正確には把握していませんが、ポケットの中にある鍵を使わない限り、エンジンが始動しない、ということは大きな安心材料の一つだと思っています。

    61歳 男

    H.I.S.S.はいいことばかり。ですが、もしスペアキーまで無くした場合、一から全部交換になるのが辛い。メインキー、キーボックス、ECU…なんだかんだで軽く10万円以上の出費はさすがにキツイ。まぁ、盗られたらウン10万、ウン100万円だけに納得しないといけないけど、もう少し安くなると嬉しいですね。
  • Shadow

    35歳 女

    クールな外観が好きですが、H.I.S.S.が標準で着いていることも、購入時の選択肢の一つでした。盗難にあった友達の話を聴きました。残念ながら身近にも起こりうることなので、アラームも着けています。
  • Shadow ファントム

    44歳 男

    以前、やられました。工面してようやく手に入れたバイクだったのですが、会社から帰ろうかなぁ、と表に出たら、無い! 警察呼んでも「こりゃ、プロの仕業だから見つからないね」の一言にキレました。あ~、H.I.S.S.が付いてたらなぁ、と後悔しました。SHADOW ファントムには装備されていますから、抑止効果は大きいと思います。
松井“ベン”勉

松井 勉モータージャーナリスト

1963年東京生まれ。日本のモーターサイクル・ジャーナリスト。
1986年から、インタビュー、試乗インプレッション記事、レース参加リポート、などを雑誌、バイク専門誌に寄稿。ラリー経験も豊富でDAKARラリー、SCORE BAJA1000にも参加している。Africa Twin DCTで、アメリカ西海岸、バハ・カリフォルニア半島もAdventure Touring している。

テクノロジーTech Views Vol.4 H.I.S.S.