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21世紀の空冷とは何か?そのノウハウを追い求めた。

ゼロからのエンジン設計

初代CB1100 エンジン設計 杉浦広之 関谷:最初に空冷4気筒をやると言われた時は、どのような状況だったのですか? 排ガス規制など、いろいろと課題があったと思いますが…。

杉浦:空冷4気筒を作ると言っても、最初は漠然としたテーマがあっただけで、性能や機能が成り立つのかさえ分かりませんでした。なにしろHondaにとっては約20年ぶりの開発であり、 大排気量の空冷となると、とくに発熱と排ガスの問題は(燃焼ガス温度の安定化などの理由で)厳しいものがあります。文字通りゼロから手探りで作る必要があったわけです。
最初の試作エンジンは、現在量産していて信頼性のある小排気量の単気筒空冷エンジンをベースに机上検討し4気筒にしたものだったのですが、単気筒では新興国の過酷な環境にも耐えるタフネスがあるエンジンでも、いざ、それを4つ集めて4気筒にした場合、単気筒と同じレベルにできるのかという話ですね。

関谷:最も問題になるのは発熱とその分布ですね。排気量が増え、エンジンが大きくなればなるほど、その条件は厳しく複雑になってくる。

杉浦:何しろシリンダー周りの温度は水冷より確実に熱くなるので、とにかく安定して高い冷却効果を得られる仕様を確立する必要がありました。ピストンやシリンダーは熱によって歪んでいくのですが、それをうまく均一にしてやるという点では、水冷よりはるかに条件が厳しい。 それができないと、エンジンはきれいに回りませんし、当然ながら耐久性も確保できないのです。色々なアイデア出しがあって、その中から点火プラグ周りのオイル冷却が採用されたのです。とにかくオイルを、そして風も、きれいにエンジンが回るように流していく必要がありました。

関谷:なるほど。味付け以前に、ハードの基本が難しかったわけですね?

杉浦:味の部分で言えば、やはりアイデア出しの中から、位相バルブタイミングが採用されました──このあたりは他のメンバーが詳しくお話しすると思いますが…ご存知のようにエンジンの基本的なベースはCB1300 SUPER FOUR(以下SF) のエンジンです。初期の試作の段階でこのエンジンを単純に空冷化した物を作った事があるんです。 これを色々な人に乗ってもらったところ、“全然、空冷の感じがしない。1300SFとまったく同じだ”という意見が大半を占めたのです。そこから例の“ドロドロ”とか、“ゴロゴロ”とか言うようなフィーリングの演出がなされていったのですが、とくにベテランの人たちは過去の体験が根強く、昔の思い出や固定観念を乗り越えるのは大変なんだなと感じた事が印象に残っています。

初代CB1100 エンジン設計 杉浦広之

シリンダーフィンの緻密で贅沢な造形

関谷:その空冷らしさ、という点では、エンジンの外観を決める冷却フィンの形状も、その実現にご苦労があったと思います。デザインや形が繊細になればなるほど、金型や鋳造方法が複雑になると思います。

杉浦:複雑な造形そのものを試作品で再現する事自体は、さほど難しくはないのですが、問題は安定して生産できる形状にする事でしたね。この点では苦労したと思います。何しろ、仕様を煮詰めていくことと同様に4気筒の空冷の金型を新規に起こすのも久々のことだったので、最初は鋳造メーカーを訪ね歩いて相談する事からスタートしました。最終的にはHonda熊本製作所で作ることになり、製造する為の技術的ノウハウを短期間で蓄積していきました。

関谷:鋳造方法はダイキャストですか?

杉浦:シリンダーは高圧ダイキャストですが、シリンダーヘッドの形状は複雑ですから低圧鋳造です。しかもプラグ座周りは別体で鋳造しています。シリンダーヘッドの狭いスペースに薄いフィンがぎっしり並ぶという、複雑なデザインの金型は放電加工で比較的容易に作ることができます。
しかし、そこに溶湯(溶けた金属)を注ぎ、それを型の隅々までキレイに流すにはどうすればいいか、それをキレイに抜くにはどうすればいいか、この点が難しいのです。例えば、設計側としてはフィンの厚みは2mmにしたいと言ったのですが、生産現場としては3mmは欲しいと言うわけです。

関谷:薄くて幅と奥行きのある部品だから難しい。仕上がりや作業効率が不安になりますね。

杉浦:そういう事です。したがって、エンジンフィンは奥に行くにしたがって厚くなっていくように何段階かのテーパーを設け、成型がしやすいように工夫しました。さらに、量産化に対応するために、部分的にシリンダーヘッドの金型は(エンジンを輪切りにするような形で)フィン1枚に対して1つずつ作り、それを垂直方向に積層した構造になっています。

関谷:それは驚きました。ものすごい手間とコストがかかっているわけですね。それに生産現場では金型の管理も大変です。

杉浦:生産現場は大変だったと思います。結局、成型加工は、形を求めると、作りやすさが犠牲になるという二律背反にあるものですから。その他にも金型の分割線を上手く隠すような工夫も加えていますし、それを利用して(昔はゴムブッシュが入った)フィンの共鳴防止のための形状なども目立たないように工夫しています。

関谷:“美は細部に宿る”と言いますが、CB1100のエンジン造形の美しさは、まさに細部の工夫の積み重ねで成り立っている事が理解できました。エンジンをじっくり観察してみると、そういった工夫の跡が確かに分かります。

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極限のテスト。最高の材料。とまどいから確信を探る。

人の感じるズレをどう表現するか

初代CB1100 エンジン研究 南浩二

初代CB1100 エンジン研究 南浩二 関谷:エンジンのハード面では、3,000回転付近の独特のフィーリングを創出するために、位相バルブタイミングが採用されています。味付けはどのようにされたのですか?

:基本的に直4は、4つのピストンが同じように動いていればスムーズであるのが当然なのです。走って“ドロドロ”を感じるようにするという事は、それを何となく少しずつ変化をつける方向性にする事なのかなと考えました。
結果的に、1番2番と、3番4番のシリンダーでバルブタイミングをずらし、そのタイミングを少しずつ変えながら、人の感じる燃焼の“ズレ感”といった感覚的なフィーリングを見つけていったのです。

関谷:バルブタイミングの変更や可変と言うと、普通は高出力化のためのフィーチャーです。しかし、今回はまったく違う、むしろ正反対の目的があったと言ってもいい。

:そうですね。一般的な考え方とは逆の方向から入ったものですから、最初は“これでうまくいくのだろうか?”という戸惑いもありました。

出力と耐久性を両立するための、厳しいテスト

関谷:大排気量の空冷をゼロから作るという点で、耐久性などの確立にはこれまでにないようなご苦労があったのではないですか?

:基本的な目標は出力と耐久性の両立でしたが、空冷1100としての魅力を表現できる出力を確保すれば良いという点では問題はありませんでした。しかし、空冷でありながら水冷と同等かそれ以上の耐久性を確立するという点では、非常に難しかったと思います。
杉浦が話したように手探りの状況でしたが、だからと言って古い技術のまま出す事はできませんし、そもそも昔とは(現代にあえて空冷を作るという)観点が違うわけです。このため、トライ&エラーを繰り返しながら、テスト条件を確立していく作業となりました。

関谷:テストはどんな内容だったのでしょう?長時間の連続運転などは真っ先に思い浮かびますが。

:従来行ってきた条件に加え、お客様の使い勝手を考慮し熱的に水冷以上に厳しい限界性のテスト内容でした。例えばそれで、シリンダー回りからのオイル漏れがないか、きちんとシール性が確立されているか等を、確かめるのです。
当初は最も高温になる点火プラグ回りにトラブルが起きたり、シリンダーヘッドにクラックが入ったりしました。そういう部分も含めて、繰り返し繰り返しのテストで問題を解決していったのです。言ってみれば非常に地道な作業の積み重ねだったと思います。

関谷:エンジン内部の部品、例えば高温にさらされる燃焼室回りなどでは何かポイントになった部分はありましたか?

:その部分で大きなポイントとなったのは、バルブシートの変形、ピストンやシリンダーボアの変形、エンジンオイルの消費量などです。
とくにバルブシート回りは、アルミ合金でできたシリンダーヘッドと、(鉄系やニッケル系の)耐熱合金でできたバルブシートでは、熱による膨張率が異なりますので、両方がバランス良く膨張してくれないと、耐久性だけではなく気密性の部分でも困るわけです。
ここでもテストを繰り返し、バルブシートなどは材料を何回も変えて、最適な物を見つけていきました。最終的には耐熱性、耐摩耗性の面で、量産車では最高レベルの材料を採用しています。

関谷:それは知りませんでした。スーパースポーツなどの高性能モデルやレーサー並みの装備ですね。空冷エンジンというシンプルな構造ですが、大排気量マルチエンジン故に条件的に厳しい部分がある。だから材料や構造は吟味された物を使う必要があったわけですね。

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