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Technology Close-up

※ 2004年の記事です

油圧と機械両方の動力伝達による無段変速Honda独自の電子制御HMT

Hondamatic-Hydraulic Mechanical Transmission

人に優しい究極のイージードライブをめざして。
長年の研究開発から生まれた、Honda独自の電子制御HMT「Hondamatic」

Hondaは、より多くの人がモーターサイクルを楽しさを味わえることをめざして、さまざまな方式のオートマチックトランスミッションの開発を続けている。とくに大型二輪車用のオートマチックトランスミッションは、耐久性、効率、スペースとともに、エンジンブレーキやパーシャルスロットルなど、より高い性能が求められる。Hondaは、長年に渡る研究開発を通じて、オートマチック変速機の新たな可能性を開くテクノロジーとして、油圧(Hydraulic)と機械(Mechnical)両方の駆動伝達力を高効率に利用する油圧-機械式トランスミッション(HMT)を開発。 HondaはこのHMTの開発に1950年代から取り組み、その後モトクロッサーに搭載し実戦によって磨き上げ、2000年には、電子制御化するなどタフで使いやすく高性能なオートマチック無段変速機「Hondamatic」としてATV(全地形走行車)に搭載した。ここに、世界でも例の少ないHMT開発の歴史とそのメカニズムを紹介する。

HMT:(Hydraulic Mechanical Transmission=油圧-機械式変速機)

ドライバビリティに優れた高効率な油圧-機械式無段変速機「Hondamatic」

モーターサイクルが求める高性能オートマチックトランスミッションの研究開発から生まれた、HMT(油圧-機械式トランスミッション)。Hondaは、大型二輪車が要求する耐久性、レスポンス、コンパクト性など、オートマチックとして高い性能を満たすこのHMT無段変速システムの研究開発を続け、電子制御を組み合わせたオートマチック無段変速機「Hondamatic」を開発。最初の実用化として、もっとも過酷な環境で使用される北米市場向けATVに搭載した。HMTは、モーターサイクルにふさわしいオートマチックとして、その研究開発は現在も続けられている。

開発のポイント

「Hondamatic」は、エンジンで発生した動力(トルクと回転)によって回転駆動するピストン油圧ポンプと、同軸上に対向に配置したピストン油圧モーターによって構成されている。同軸とすることで、「発生する油圧をモーター側でトルク増幅する油圧伝達」と「ポンプ側で直接回転駆動とする機械的伝達」の両方を出力軸で回収する油圧-機械式無段変速機(HMT)である。Hondaは、長年研究開発を続けてきたHMTを電子制御化し、コンパクトなオートマチック無段変速機として完成させた。この「Hondamatic」は、HMTが本来持っている伝達効率のよさに加え、走行状況に合わせたきめこまやかな変速制御を行なうことで、さまざまな使用状況で高い性能を発揮する。

Hondamaticカットモデル

過酷な環境を走る米国向けATVに搭載

ATVは北米を中心に農場、牧場でのユーティリティユースから、ハンティング、フィッシング、トレールライド等のレクリェーションユースまで幅広く使用され、現在では年間70万台以上も販売されており、その需要は伸び続けている。Hondaは、耐久性、信頼性はもちろんエンジンへの搭載性や性能を検討し、長年研究を続けてきた電子制御HMTシステムの採用を決定。エンジン本体と同等の耐久性と、ギアトランスミッションと同等のエンジンブレーキ性能をもつ新たな変速システムを開発し、「Hondamatic」としてHondaの500ccクラスATV"ルビコン"に搭載した。

FourTrax Foreman Rubicon

開発の歴史-HMTの研究開発は1950年代から始まった

HondaのHMT(油圧-機械式変速機)開発の歴史は、1950年代にさかのぼる。当時Hondaは、より運転操作が楽な乗り物をめざしてスク-ターの技術開発を重ねており、その技術手段の一つとして無段変速機の研究が行なわれた。そして、Hondaは油圧-機械式無段変速機に着目。イタリアの工作機械メーカーより特許を取得して独自の研究開発を進め、1962年にスクーターに搭載した。1970年代になると、ベルト式無段変速機(ベルトコンバーター)がスクーターに採用され始めた。HondaではHMTの優位性にも着目し続け、さらなる効率の向上と小型・低価格化と最新の電子制御技術を応用した変速操作の自動制御化にも挑戦を続けていた。そしてその性能を実証するため、変速機に対してもっとも要求が厳しいレース用モトクロッサーに搭載するHMTの研究開発を1985年に開始した。

1950年代イタリアバダリーニより特許取得

誰もが「らくに」「気持ちよく走れて」「生活を楽しめる」スクーターに搭載する夢の変速機をめざして、Hondaは、さまざまな種類の無段変速機を検討していた。その中で、イタリアのバダリーニ(Cambi Idraulici Badalini)社が工作機械用に開発した油圧-機械式無段変速機の性能に着目、開発時に基本パテントがすでに成立していたためバダリーニ社から構造の基本特許を購入し、車両用の無段変速機としての研究開発を始め、1962年スク-タ・ジュノオ号に搭載し発売した。このシステムはHonda内では通称バタリーニミッションと呼ばれ、正式にはHonda技術研究所「Honda R&D」の頭文字をとって"HRD変速機"と呼んでいた。

油圧-機械式変速機(HMT)とは

油圧を利用した無段変速機には、油圧ポンプと油圧モーターをオイルラインのみでつなぐ油圧式無段変速機(HST:Hydraulic StaticTransmission)と、油圧ポンプの駆動力を出力軸で回収する油圧-機械式変速機 (HMT:Hydraulic Mechanical Transmission)がある。一般にHSTは油圧だけで動力を伝えるため伝達効率があまりよくないが、出力軸を自由に配置し、全体を小型にまとめられることができ、建設機械、航空機、汎用機などに広く使われている。一方、HMT(油圧-機械式変速機)は一般に油圧ポンプと油圧モーターが一体で構成されており、ポンプを駆動するトルクが油圧モーターの駆動するトルクに加算される。このため、HMTはHSTより高い伝達効率が期待できる。

1962年スクーター・ジュノオに搭載されたHRD変速機

高効率の油圧-機械式の無段変速機として開発された"HRD変速機"。当時は電子制御など当然不可能で手動変速式の無段変速機であった。それは左手のグリップで変速を、右手のグリップでアクセル操作をすると言うものであった。"HRD変速機"は固定容量型の油圧ポンプと可変容量型の油圧モーターを組み合わせたもので、クラッチは高低圧をバイパスする油圧クラッチとし、マニュアルで操作する事も、オートマチックで発進する事も可能だった。作動圧は6.86MPaとかなり低いものであった。

スクーター「ジュノオM85」
Badalini式HRD変速機

モトクロッサーRC250MAが全日本チャンピオン取得

モトクロッサーに搭載するHMTは、レース用オートマチック変速機としてより高い伝達効率と軽量化が必要であり、考え方は"HRD変速機"を踏襲するものの、システムの構造は、ポンプ・モーターの同軸上対向配置の油圧-機械変速システムへとまったく違う形となっていった。作動圧を高く(常時作動圧:44MPa、最大作動圧:80MPa)することにより軽量小型化し、さらに各所に高圧油のリークを抑える構造を採用し超高圧下でも高い伝達効率を維持できるシステムとなった。構造的な特徴の一つは、スプールタイプのディストリビュータバルブの採用で、さらに制御系のコンパクト化とセッティングの簡便さを考慮し電子制御を採用した。 このモトクロッサー用のHMTはライダーの意のままに応答する理想の無段変速機をめざし"HFT"(Human Fitting Transmission)と名づけられた。

RC250MA

"HFT"を搭載したモトクロッサーRC250MAは、1991年にモトクロス全日本選手権レース参戦2年目にしてシリーズチャンピオンを獲得。超高圧化し、しかも高効率を維持する"HFT"は電子制御化により知能を得て、レースという実戦でポテンシャルが証明されたのである。このレースでの成功を受け、"HFT"をベースに量産に向けての研究が始まり、HMT(油圧-機械式変速機)の開発は2000年の「Hondamatic」へとつながっていく。

無段変速機HFT

過酷な条件に耐える高性能ATを。ATVへの挑戦

ATV(全地形走行車)は-30℃を下回る極寒の地から高温の砂漠、そして沼地のような水の中などその使用される条件は非常に過酷であり、そのトランスミッションには、非常に高い耐久信頼性が要求される。さらに、さまざまな人々が使うようになることでオートマチック化などの使いやすさが求められてきた。Hondaは、過酷な環境に耐える信頼性と、多彩な地形を走破するためのエンジンブレーキ性能を持つコンパクトなHMTの開発に挑戦した。

あらゆる環境で使用されるATV

ATVが走行する状況は、想像以上に過酷である。たとえば、極寒のアラスカでは耐久信頼性が時には人の生死にもかかわる重要なポイントとなる。時には重量物の牽引作業に耐えるタフネスが求められる。さらに、灼熱の砂漠や沼地など湿地帯の水の中の走行さえ、当たり前のようにクリアしなければならない。また、急な斜面の登降では、エンジンブレーキの性能が重要なポイントとなってくる。さらにHondaは、ユーティリティーつまり仕事だけではなく、ハンティング、ツーリングなどのスポーツにも使えるATVをめざしていた。そして、耐久性、信頼性はもちろんエンジンへの搭載性、ATミッションとしての高い性能を満たす電子制御HMTシステムが開発された。

全地形走行車両 ATV(All Terrain Vehicle)

AVTはオフロード専用の車であり、アメリカの国家規格ANSIによって規格化されている。[車幅:1,270mm以下、一人乗り、ハンドルバー式ステアリング、4輪低圧タイヤ、跨がり式シート、OFFハイウェイ]

Honda FourTrax Foreman Rubicon
[水冷4サイクル、排気量:499cc、馬力:19.9KW/6,500rpm、トルク:37.8Nm/5,000rpm、Hondamatic作動圧力:35.6MPa(最大60MPa)]

ATVに求めたHMT(油圧 - 機械式変速機)とは

Hondaは、ATVに搭載するHMT開発の狙いとして、耐久信頼性とベルト式ATにはない性能を得ることを目標とした。まず第一に、エンジン本体と同等の耐久信頼性を有すること。第二に、ギヤトランスミッションと同等のエンジンブレーキ性能を有すること。さらに、スムースでダイレクト感がある走りをすることと、快適性を損なう騒音や振動が少ないこと。これらは、ミッションとしての伝達効率や油圧にまつわる音振動が影響する。そして最後に、ATVに搭載可能な重量/サイズであること。これは、どこまで高圧なシステムにできるかが、鍵となった。

4輪ATV “Rubicon”に搭載された「Hondamatic」

タフでドライバビリティに優れた油圧-機械式オートマチック無段変速機。Rubiconに搭載されたHMT「Hondamatic」は、シリンダーが一体に結合され、同軸上に対向配置されたピストンタイプの油圧ポンプと油圧モーターによって、動力伝達と変速を行っている。馬力重視の変速制御やトルク重視の変速制御などの自動変速のほか、マニュアルによる変速も可能であり、そのすべてはベルトやギアを介さずに、継ぎ目なくスムーズに行なわれていく。

「Hondamatic」の動力伝達経路

Rubiconに搭載された「Hondamatic」の動力伝達の経路を説明すると、まずエンジンで発生した動力(トルクと回転)はクラッチなどを経由してHMTのポンプ斜板を駆動する。そのトルクと回転は、油圧ポンプ/油圧モーターによって変速、増幅されて出力軸からサブトランスミッションへと伝達される。以降は、前進2段(L、Dレンジ)/ニュートラル/後進(リバース)のサブトランスミッションから前後輪へと伝達される。

Hondamatic カットモデル
エンジンカットモデル

「Hondamatic」その作動の概略

Hondamaticでは、入力を油圧に変換し、油圧ピストンポンプと油圧ピストンモーターの動きによって、出力軸と一体となったポンプ/モーターシリンダーから出力するシステムである。入力は、油圧ポンプ部分で油圧伝達と機械伝達に分割されることになる。油圧となってモーター側で増幅されてモーターピストンがモーター側シリンダーを回転するトルクとなる「油圧伝達」と、ポンプピストンで油圧反力によって直接ポンプ側シリンダーを回転するトルクとなる「機械伝達」である。ポンプシリンダーとモーターシリンダーとは結合され、さらに出力軸と一体になっているので、これによってそれぞれのシリンダーに加わる二つの伝達動力が一つに出力される。油圧伝達の効率の低い部分を機械伝達で補うことで、高効率を確保している。

油圧伝達と機械伝達の作動原理

入力
エンジン出力(トルクと回転)→入力ギア→ポンプ側の固定斜板が駆動される→
油圧伝達
(1)斜板の傾きによつて同円周にある7本のポンプピストンが順に押されてシリンダー内で油圧を発生→
(2)高圧となったオイルは、対向するモーターピストンに流れ、それぞれの容量まで、ピストンを押し出すように動く→
(3)斜板との反力よってモーターピストンがモーター側シリンダーに回転とトルクTMを与える→
機械伝達
(1)油圧ポンプ内でピストンにオイルの反トルクが加わる→
(2)ポンプピストンがポンプシリンダーを押し回転とトルクTinを与える→
出力
シリンダー一体の出力軸が駆動→サブミッションへ

・ポンプ斜板に入る回転力Fが油圧を発生する
・油圧を発生する際にピストンがF’でシリンダー壁面を押す

Hondamaticのメカニズム詳細

一般の産業機械用の油圧トランスミッションは、車用としては動力の伝達効率という面で不充分である。そこでHondamaticでは、油圧-機械という入力分割方式を採用し効率向上を図っている。特に伝達効率に直接影響する高圧オイルのリークを防ぐために、独自の分配弁を採用。さらに、走行モードには、オートマティックで無段に変速するモードと、ライダーの意思で変速させる5段のESPモードを設定。チェンジショックのまったく無い変速を実現している。

可変斜板による無段変速

Hondamaticの変速比は、ポンプとモーターの容量の比によって決定される。エンジン出力によって駆動されるポンプ斜板の角度はつねに一定であり、7本の油圧ポンプピストンは、エンジン出力に応じた油圧を発生する。電子制御されたDCモーターがギヤとボールネジによってモータ側斜板の傾きを変えることで無段階に容量を変化させ、連続的な変速を行なっている。したがって、モーター側斜板角度が最大の時に変速比が最大、角度が最小(直立)となってモーター側ピストンの往復がゼロの時に変速比は理論上1:1の直結となる。

油圧ポンプ/モーター用ピストンとディンプルプレート

油圧ポンプ側、油圧モータ側のピストンと斜板の間には、ピストンと1対1で対応する球の窪み(ディンプル)を持つディンプルプレートが配置されている。これは、接触部の応力を緩和し耐久性を向上させている。

ディストリビュータバルブ

ポンプ、モーターそれぞれのピストン室とシリンダ内の高圧油路、低圧油路の切り替えは、ピストンと対に放射状に配置したスプール型のディストリビュータバルブ(分配弁)によって行なっている。ディストリビュータバルブは斜板に同期した偏心リングで駆動されており、各ピストンの動きに同期している。シリンダ回転中心に対して偏芯した偏芯リングが回転しディストリビュータバルブがシリンダに対して放射状に出入りを繰り返し、ピストンの出入りの各工程に合わせ高圧油路と低圧油路を切り替える。

Hondamaticの変速制御と走行モード

変速制御は、スロットル開度、車速、エンジン回転数、モータ斜板角度、ギヤポジション、変速モード位置などの各種信号をコンピューターで処理。マップから求められた目標エンジン回転数と実エンジン回転数を比較し、その差分からコントロールモータの回転方向(モータ斜板の傾斜の方向)と回転スピード(モータ斜板の作動の速さ)を決定する。また、変速制御には以下に示すモードがあり、ユーザが用途に合わせ選択できるようになっている。

オートマチック無段変速

D1モード(馬力重視変速制御)
通常の走行条件すべてに対応できるパフォーマンス重視のモード。スロットル全開時に最大馬力が出るエンジン回転を使いながら変速する。
D2モード(トルク重視変速制御)
雪道のような低μ路での走行や牽引等に適しており、エンジン回転数を低く抑えて走れる、乗り易い、トルク重視のモード。スロットル全開時には、最大トルクが出るエンジン回転を使いながら変速する。

マニュアル有段変速

ESP(Electric Shift Program)モード

予め決められている5段のレシオをライダーが選択するマニュアル変速。左ハンドルレバーに設置してあるシフトボタンを押すことによってレシオの選択ができ、自分でレシオを選んで走行することができる。ライダーの意志によるシフトUP/シフトDOWNのもとで斜板の傾斜角度を決定する。クラッチの断続を伴いながら変速する従来の有段マニュアル変速とは違いチェンジショックは全くない。

エンジンブレーキ

エンジンブレーキ時、つまり車で坂道を下る様な場合は、車輪から逆にエンジンを駆動する方向で力が入ってくる。このような状況では、HMTのなかでは、入力がモータシャフトになり出力がポンプ斜板という逆転が起きるが、この場合でも加速時と同様な動力伝達が行なわれダイレクト感のあるエンジンブレーキが発生する。