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Honda Mobile Power Pack エンジニアトーク

岩本 淳(Honda Mobile Power Pack開発責任者)

1991年入社。基礎研究部門、エンジン部門、バッテリー部門を経て、2012年に超小型電気自動車「MC-β(エム・シー・ベータ)」を開発し、同車を用いた社会実証実験プロジェクトを、さいたま市、熊本県、宮古島で推進。2015年からは、Honda Mobile Power Packの開発、および、それを活用するモビリティー機器やエネルギー機器の開発を主導。

滝沢 大二郎(Honda Mobile Power Pack開発責任者代行)

2001年入社。モーター、および、バッテリーの設計に従事し、2012年フィットEV、2018年クラリティPHEVの開発を担当。その後、電動車パワープラント分野の戦略立案と基礎技術研究を経て、Honda Mobile Power Packの開発に加わり、現在に至る。

大久保 克紀(Honda Mobile Power Pack テスト領域リーダー)

1992年入社。材料ブロックに所属し、アセアン向け小型コミューターや、オフロードレーサーCRFシリーズの材料開発を担当。二輪車用排出ガス浄化触媒など排気系材料を手がけたのち、Honda Mobile Power Packの開発を担当。

菅原 雅幸(Honda Mobile Power Pack 開発部門リーダー)

1998年入社。ガスタービンエンジン研究チームに所属し材料研究に従事。その後、固体酸化物型燃料電池、太陽電池の薄膜化技術の研究を経て、Honda Mobile Power Packの開発を担当。

小林 啓人(Honda Mobile Power Pack テスト担当)

1991年入社。樹脂材料系の基礎研究部門に所属し、2002年燃料電池車Honda FCX用ウルトラキャパシタの開発を担当。その後、FCXクラリティ、フィットEV、クラリティシリーズなど電動車用リチウムイオンバッテリーの開発を担い、2017年よりHonda Mobile Power Packのテスト担当として開発に従事。

交換式バッテリーをシェアするという発想が、
低炭素化を加速する

—そもそも、Honda Mobile Power Packとはなんですか?

岩本:

交換式のバッテリーです。もともとはバイクやコミューターなど電動モビリティーのエネルギー源として開発したものです。Hondaはすでに、このバッテリーを適用した電動スクーターを販売していて、そのレンタルサービス※1や、バッテリーのシェアリングサービスの実証実験※2を国内外で行っています。
※1 2019年より宮古島で電動二輪車をレンタルするサービス「宮古カレン」を提供。
※2 2018年よりインドネシアでバッテリーシェアリングシステムの実証実験を行っている。

—エンジンのイメージが強いHondaが、バッテリーにチカラを入れる理由を教えてください。

滝沢:

Hondaのエンジンにはいろいろな顔があると思うんです。高回転・高出力のレーシングエンジンのイメージもあれば、CVCCエンジンのような環境エンジンのイメージも持っている。今後、環境対応をしていくうえで電動化は必要不可欠ですので、その心臓ともいえるバッテリーの技術開発は、Hondaにとってまったく必然的な取り組みなんです。

菅原:

世界はいま、電動化で環境問題に取り組もうという流れにありますけれど、電動モビリティーなど電動機器の普及にはまだ課題があります。ならばHondaが、使い勝手のいい交換式のバッテリーをつくって、普及にはずみをつけようと考えています。

小林:

Hondaには、リッター100馬力の量産エンジンとか20,000rpmのレーシングエンジンとか、世界でもトップレベルの性能を目指そうという気風があるんですね。バッテリーも、海外を含めていろんな会社が開発していますけれど、性能、特に信頼性は同じではないです。Hondaがつくるんだったら、誰も真似できないほど高性能のバッテリーをつくりたいから、全力で開発に取り組みました。

—バッテリーを交換式にしたのはなぜですか。

岩本:

モビリティーの電動化がなかなか進まない理由には、「長い充電時間」、「短い航続距離」、「高い車両コスト」の3つがあると考えるからです。交換式にすれば充電時間から解放されますし、交換場所をたくさんつくれば航続距離の不安もなくなります。バッテリーの規格を統一すれば大量生産でコストを下げることもできます。交換式にしてユーザーがシェアする仕組みをつくれば、さきほど菅原が言ったように電動化の普及にはずみをつけることができると考えています。

大久保:

二輪の開発部門では交換式バッテリーをずっとやっていたんです。Hondaは昔、電動アシスト自転車を販売※3していたんですけれど、それをもう一回チャレンジしたいと思ってアシスト自転車用のバッテリーを研究していました。そこから自転車だけではなく、小さな電動車をつくろうというプロジェクトに発展していった。あのときは商品化に至らなかったけれど、交換式バッテリーを使った二輪車をなんとか世の中に出したいという思いを、あれからずっと持ち続けていました。

岩本:

バッテリーを交換式にするというアイデアそのものは新しいものではないですが、本気で開発することになったとき、Hondaが世界のトップである二輪車からはじめるべきだと思いました。それで、大久保と一緒に二輪R&Dセンター(当時)のセンター長のところに何度も行きました。説得するのに半年ぐらいかかりましたが、そうして開発したのが、Honda Mobile Power Packを搭載した初の電動二輪車PCX ELECTRIC(2018年)なんです。

滝沢:

Honda Mobile Power Packのプロジェクトが拡大したのは、技術開発と事業展開を最初からセットで考えていたことが大きかったと思います。単にバッテリーを交換式にするだけではなくて、バッテリーシェアリングの仕組みであったり、モビリティーでは使えなくなったバッテリーを家庭用にして使い倒すとか、はじめから将来展開のアイデアがあったんです。いまでこそ「Honda eMaaS」※4という名前がついていますけれど、電動モビリティーとエネルギーのサービスをつなごうという考え方は最初からあった。

岩本:

乾電池のように規格が統一できればいろいろなものに使える。だから我々は「マルチユースバッテリー」と言っています。Honda Mobile Power Packは、モビリティー機器はもちろんのこと、家庭のさまざまな機器でも使えます。風力や太陽光といった自然由来の再生可能エネルギーで充電すれば、カーボンフリーの社会が実現できる。さらに、地域の特色に合わせて小規模な風力発電所や水力発電所、太陽光発電所をつくれば電気の地産地消も可能になります。Honda Mobile Power Packは内部にメモリを持っていて、エネルギーだけではなくデータも貯められるんですが、充電のときにクラウドサーバーにデータを吸い上げて分析すれば、エネルギーの効率的な使い方を提案することもできます。電動化の時代は必ずきます。そのとき我々は、カーボンフリー社会とか、地球にやさしい移動や暮らし方とか、そういったものの先駆者になりたいんです。
※3 ホンダ ラクーン(1995年)、ラクーン コンポ(1998年)、ステップ コンポ(2001年)など。
※4 電動モビリティーとエネルギーサービスを繋ぎ「自由な移動の提供」と「再生可能エネルギーの利用拡大」に貢献するHonda独自の考え方。

もっとも大切なのは、
みんなが安心して使えること

—開発でもっとも大切にしたことを教えてください。

岩本:

みんなが安心して使えることです。安全性と信頼性はHondaとして譲れません。具体的には、熱、水、振動、衝撃からバッテリーを高いレベルで守る設計をしています。

大久保:

これだけ大きな交換式バッテリーって世の中になかったんです。私がいた二輪の開発部門には小さくつくるノウハウはあるんですが、大きなバッテリーでどのように安全性を担保すればいいのかは知見がない。そこで四輪車用バッテリーの開発経験があるメンバーと一緒になって堅牢性などを決めていきました。

岩本:

Honda Mobile Power Packは約10kgあるんですが、重ければ重いほど落としたときの衝撃は大きくなります。壊れたり漏電したりしないようにするのは、大きいほど難しいです。

小林:

いままで車体のなかに大事におさめられていたバッテリーを、はじめて人の手で扱えるようにするわけです。テスト担当者としては、どんなテストをしてどんな評価をすればいいのか、それを確立することが一番苦労したところです。そして、その基準をクリアしたという事実が、Honda Mobile Power Packに込められている価値だと思うんです。たとえば、交換のときにうっかり落としても壊れないように、いろいろな落とし方でテストしました。人が持ち運ぶくらいの高さであれば落としても大丈夫なようにできています。
水に濡れたときの安全性もそうです。バッテリー交換は屋外でもしますから、雨に濡れることもある。だから多少濡れた状態で扱っても感電しないようにできています。熱にしても、振動にしても、電磁波にしても、少しやり過ぎくらいの高い基準を設けて信頼性を高めてきたというのが実情です。

—サイズと重量はどのように決めたのですか。

岩本:

二輪車への搭載性から体積を決めて、航続距離から容量を決めた結果、約10kgに落ちついたというのが正直なところです。

大久保:

お米ですよ、岩本さん。最初の頃に言ってたじゃない(笑)

岩本:

うん、スーパーの棚で手に取ってカートまで移せる重さということでしたね。

大久保:

最初は5kg入りの米袋をイメージしたんですけれど、航続距離の関係から10kgの米袋になっちゃった。

岩本:

Honda Mobile Power Packを交換可能で持ち運びできるバッテリーと言っていますが、実際に長い距離を持ち歩くことはほとんどないと思います。バッテリーを充電器から抜いて二輪車に入れるだけですから。スーパーの棚からカートまで移せる重さなら、チカラ持ちじゃなくても大丈夫と考えたんです。

—四輪車用バッテリー開発の経験は活かされましたか。

小林:

燃料電池車やEVを開発してきた私自身の経験も役立っていると思いますが、四輪のメンバーに知恵を借りやすかったというのが大きいです。実際に、開発当初の技術評価は四輪開発部門で実施していました。「これだけ信頼性を高めたんだけれど、どう?」と持っていって、「それじゃ甘いだろ」とか「こういう見方はしたのか」とか言われて改善する。そういった事業部の垣根を越えた協力体制はHondaならではだと思います。

大久保:

熱のマネジメントもそうだよね。バッテリーは使うと発熱するので冷やしてあげなければならないんです。このバッテリーを二輪車に搭載しようとすると、二輪開発でやってきた従来の熱マネジメントでは冷やしきれない。それで、四輪のバッテリーモジュールを参考にして熱引き性を高めました。

岩本:

Honda Mobile Power Packは、ある意味でHondaの全開発部門のチカラを結集させるアイテムなんですよ。それで電動化の開発タスクフォースが強くなる。

滝沢:

このバッテリーは、発電機と同じようにHondaのパワープロダクツ製品として世に出していくんですけれど、当面、搭載されるのは二輪車です。そして開発には四輪の技術ノウハウが活かされている。

大久保:

二輪、四輪、パワープロダクツの知恵と汗が入っている。

滝沢:

モビリティーの電動化を進めるためには、バッテリーの値段が重要なんです。マルチユースバッテリーやシェアリングサービスというアイデアは、規格を統一して二輪も四輪もパワープロダクツもみんなで使えるようにすれば安くできるんじゃないかというところからスタートしています。量産によるコストメリットだけではありません。お客様は、複数の電動製品を同じ規格のバッテリーで使えますから、お客様のお財布にもやさしくなります。Honda Mobile Power Packというのは、技術も事業も、Hondaだから発想できたのかもしれません。

—次世代に向けてどのようにお考えですか。

岩本:

スマートグリッド EXPO(2021年)でお披露目したプロトタイプ(Honda Mobile Power Pack e: Prototype)のことですね。

小林:

高い安全性と信頼性を維持しながら性能を高めて、しかも安くつくれるようにする必要があります。我々が第1世代と呼ぶ現行のHonda Mobile Power Packは、オーバースペックでもいいからしっかりしたバッテリーをつくろうという考え方でした。当然コストはかかります。それがPCX ELECTRICに採用されて世に出ていき、国内外でさまざまな実証実験に用いられています。その成果をフィードバックして、本当に必要な要件とそうでないものを見極めてコストをスリム化しようと考えています。

菅原:

電動化を促進するためにはバッテリーを安くすることが不可欠なんです。私は第2世代の開発部隊を率いていますが、第1世代で築いた信頼性は当たり前、クリアするのが前提です。当然のように第1世代より高い性能が求められる。一方で、「よかろう、高かろう」ではだめ、「よかろう、安かろう」を具現化するというミッションに取り組んでいるわけです。安くするためには部品点数を減らしたいけれど、安易に減らして信頼性を損なうのは許されません。パフォーマンスとコストのバランスを見ながら目標値をクリアしていくというところが、開発者として一番の醍醐味です。

岩本:

詳しいことはまだ言えませんが、バッテリーに求められる4つの要素、つまり、出力、容量、耐久性、軽さのすべてを進化させています。今後を楽しみにしていてください。

トップランナーとして、
市場を、事業を、人を育てる

—将来の構想や夢を聞かせてください。

岩本:

バッテリーの性能を向上させていくというのは、開発として当たり前のことです。それよりも我々は、このバッテリーを使いやすくして、世の中のさまざまな機器に適用させたいんです。スクーターの次は小さな四輪コミューターかもしれないし、芝刈り機かもしれない。Honda Mobile Power Packを開発したことで、Hondaのなかでも、いろいろなモビリティー機器やエネルギー機器の開発が進むようになりました。そして実は、「Honda Mobile Power Packを使った商品を作りませんか」と、いろいろな会社さんに呼びかけているんです。そういう意味では、これからが本番です。電動化の時代に、我々がほかの会社さんに負けない魅力的な商品をつくれるか、将来に向けて役立つものをつくり続けられるか、Hondaの実力が試されるところです。

もう一つ、世の中に、Hondaというのはこんなおもしろいことができる会社なんだ、ということを伝えたいんです。また、Hondaの若い所員には、なかなか開けない扉もがんばれば開けるんだ、ということを見せたい。Honda Mobile Power Packの開発だって、はじめは門前払いされましたけれど、根気強く必要性を説明していった結果、みんなが協力してくれた。大きなチカラになりました。そういうHondaの“らしさ”みたいなものを身をもって伝えることで、人を育て、事業を守り、世の中をより良くしていきたいと思っています。

「Powered by Honda」の誇りを、
電動化の時代にも届け続けたい

—同じ質問です、将来構想や夢を聞かせてください。

菅原:

冒頭でも言いましたが、電動モビリティーや電動機器の普及にはまだ課題があると思っています。このバッテリーが本格的な電動化時代のきっかけになると信じて開発してきましたから、いろいろな分野で使っていただいて、次の開発、次の次の開発につながるような息の長い製品にしていきたいと思っています。

大久保:

みなさんにもっと使っていただきたい。展示会でHonda Mobile Power Packのブースにいると、これから電動化したいと考えている会社の方々から、バッテリーの入手に困っているという話をたくさん聞くんです。こうした交換式バッテリーが予想以上に求められているんだということを実感しています。Honda Mobile Power Packは、私たちが自信を持って世の中に送り出したバッテリーです。いいものですので、どんどん使ってほしい。

小林:

大久保と重なりますが、やはり多くのお客様に使っていただきたいです。開発に参加して最初に思ったのは充電時間からの開放なんです。電動化の時代は確実にやってくる。そのときに、充電時間を待たなくていいという便利さと価値を存分に味わっていただきたいです。

滝沢:

私は二つあります。一つは岩本が言ったように、Honda Mobile Power Packを使ういろいろな機器やサービスを開発したい。構想はたくさんあるんですけれど、実際に商品化できているのはスクーターだけですから、一つでも二つでも構想を実現していきたいです。もう一つは、Honda Mobile Power Packが乾電池みたいに標準化されて、いろんなメーカーさんが同じ規格でつくりはじめたときに、「やっぱりHonda製はいいね、力強いし長持ちするね」と言われるよう、常に他社より優れた製品であり続けたいですね。

大久保:

「Powered by Honda」って知っていますか? HondaがF1(第2期)に参戦したときマシンに貼っていたロゴなんですけれど、そのステッカーを売り出したところ、すごく多くの方が愛車に貼ってくれたんです。Hondaにとっては高性能の証であって、お客様にとってはHondaエンジンを積んでいることの誇りだったんですよね。Honda Mobile Power Packはエンジンではないけれど、「Powered by Honda」の誇りを届け続けられるような、そんなバッテリーとして育てていきたいです。

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