MENU
HONDA
検索

エンジニアトーク SPORT HYBRID SH-AWD

  • Enginieer talk top
  • SH-AWD Comics
  • SH-AWDPHOTO/TEXT

PHOTO/TEXT

  • next
  • previous
  • next
  • previous

SPORT HYBRID SH-AWD
ハイブリッドの新しい価値を求めて

Hondaエンジニアが挑んだのは、燃費だけでなく、
走りの楽しさをもたらす画期的なハイブリッドシステムでした。

夢のハイブリッドシステム

V6 3.5Lエンジンと高出力モーターを内蔵した7速DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)で前輪を、左右ふたつのモーターで後輪を駆動するAWD(4輪駆動)が「SPORT HYBRID SH-AWD」です。この画期的なハイブリッドシステムにより、Hondaエンジニアが目指したのは、V6エンジンでありながらV8を超える走り、意のままのハンドリング、そして、4気筒エンジン並みの低燃費だといいます。

「とにかく、圧倒的なパフォーマンスを持つ革新的なハイブリッドシステムをつくりたかった。ハイブリッドというと燃費ばかりが注目されますが、値段が高いぶんをどのくらい走れば元が取れるんだ……みたいな話ばかりなのがつまらなくて。だから、もちろん燃費はクラストップとしながら、電気の力で圧倒的な加速を実現する。しかもただ速いだけではなく、ふたつのモーターで左右の駆動力をコントロールできたら意のままのハンドリングが実現できて楽しいんじゃないか、というのが発想の原点です」。

いままでにないハイブリッドをつくる……。そこからスタートしたAWDのハイブリッドシステムですが、AWDとハイブリッドは共通の悩みを抱えています。重量が重く、価格が高いという課題です。まずはこの問題をクリアしなければなりませんでした。

「一般的なAWDでは、エンジンの駆動力を後輪に伝えるためにプロペラシャフトとリアディファレンシャルが必要ですが、これを取り去り、代わりにツインモーターユニットを載せるとほとんど重量が増えません。そして、従来の6速オートマチックに対し、高出力モーターを内蔵した7速DCTはほぼ同じ重量です。つまり、やり方次第で重量を増やすことなく3個のモーターを搭載することができる。これにバッテリーやパワードライブユニットを加えても、最小限の重量増でAWDのハイブリッドが実現できるわけです。しかも、軽ければ、価格も安い」。

ここで「ツインモーターユニット」という名前が出てきましたが、これは2個のモーターで後輪左右の駆動力を自在に操る部分で、SPORT HYBRID SH-AWDを特徴づける重要な役割を担っています。ここで思い浮かぶのが、SH-AWDというHonda独自のAWDシステム。ツインモーターユニットを用いたSPORT HYBRID SH-AWDとはどこが違うのでしょうか?

「これまでのSH-AWDは機械式で、アクセルペダルを踏んで加速しているときに高い旋回性能を発揮しました。一方、SPORT HYBRID SH-AWDは、アクセルペダルを踏んでいなくても、左右それぞれの駆動力を制御できるので、ワインディングロードだけでなく、低速から高速まで、あらゆるシーンで思いどおりによく曲がり、一般のドライバーでもその効果を実感しやすいという特徴があります」。

ガラクタと呼ばれて

そんな他に類を見ないハイブリッドシステムだけに、その開発は苦労の連続でした。まずは本当にモノになることをクルマをつくって証明しなければなりませんでした。

「私たちはパワープラントのチームですので、クルマ1台をつくるという機会はなかなかありません。そこで他の部署に『クルマをつくりたいので力を貸してください』とお願いに回りました。しかし、海のものとも山のものともつかない企画ですから、それに人を出す余力はどこにもない。だから、最低限の協力を取り付けるのが精一杯。仕方なく、自分たちで試作車をつくったのです」。

そしてできあがった試作第1号車は、7人乗りのSUVがベースでした。セカンドシートの代わりにバッテリーを載せたため、試乗の際には説明員役のエンジニアがサードシートに膝を抱える格好、いわゆる“体育座り”で同乗します。

「それを見た役員が『これじゃあ、とても量産できるとは思えない。こんなガラクタじゃなくて、ちゃんとしたクルマをつくれよ』というんです。だったらもうちょっと人を出して……という気持ちをグッとこらえました(笑)。試作第2号車はセダンでつくりました。バッテリーはトランクに収まったのですが、このときからDCTにしたので、そのクラッチを動かすための油圧装置が必要でした。しかし、V6エンジンのトルクに対応できるような大きな油圧装置が当時はまだなくて、小さいものを6個組み合わせて助手席の足元に置かざるをえなかった。すると『今回は助手席が体育座りか』といわれ、ガラクタの汚名を返上することはできませんでした」。

それでも、ハイブリッドシステムそのものは着々と進化を遂げ、その効果が体感できるようになったといいます。

「それまで“海山”だったのが、コンセプトの片鱗が見えるようになりました。ただ、“片鱗の時代”が長く続きましたが……」。

そんな時期に、開発陣が勇気づけられる出来事がありました。かつて試作車をガラクタ呼ばわりした役員が雪道で試作車を試乗したときのことです。

「SPORT HYBRID SH-AWDは、雪道ではその威力をさらに発揮するんです。すると例の役員が『すごい、すごい』と喜んでくれた。そして別の役員が『コンセプトが正しいモノは絶対うまくいく! だから妥協しないでガンバレ』と励ましてくれたんですよ。それまで褒められたことがなかっただけに、本当にうれしかった。そのあと、苦しいことがたくさんありましたが、この言葉が私たちを支えてくれました」。

“世界初”へのチャレンジ

量産化が決まると、それまでとは別の課題に直面することになります。SPORT HYBRID SH-AWDは、ドライバーの意思や道路環境といった状況を見ながら、FWDとRWDとAWDを適切に切り替えていく必要があり、その制御がとてつもなく複雑でした。

「その切り替えに違和感があるとドライバーは戸惑ってしまいますので、いかに違和感をなくすかが重要な課題であり、難しい部分でした。たとえば、モーターによる駆動からエンジンに切り替わるとき、スムーズな走りにしようとすると、モーターのトルクをどれくらい減らしていって、エンジンのトルクをどれくらい増やしていくか、その掛け替えが問題になります。モーターは素直なんですが、エンジンのトルクを増やすにはクラッチの微妙な操作が必要。クラッチをガツンとつなぐことはできるんですが、やさしく掴むというのが難しかった。それがうまくいかず、最初は前と後ろがバラバラに動いているといわれましたよ。クルマが伸びたり、縮んだりしているみたいだと」。

また、SPORT HYBRID SH-AWDでは、モーターだけで走るEV走行に切り替わった場合、耳を澄まさないと聞こえないくらいの音でも、静粛性が高い高級車に搭載することから見逃すわけにはいきません。その原因を見つけて対策をするという作業が根気よく続けられたといいます。

「どこから音が出ているのかがわかっても、どうして音がするのかわからないことがありました。わからないので、すこしでも可能性があるものはしらみつぶしに調べるんですが、全然わからなくて、答えに辿りつくまで半年くらいかかったこともありました」。

他にも数々の困難な事態に直面した開発陣。しかし、そんな苦難ははじめから予想できたことでした。

「パワープラント担当の先輩エンジニアがこんなことをいったんです。『パワープラントをゼロからつくってモノにするのは時間がかかるんです。短くても5年、長ければ10年以上かかることだってある』と。パワープラントは難しい。だから、まわりからなんといわれようと誇りを持って堂々とチャレンジしようと思いました。そういう意味ではSPORT HYBRID SH-AWDはものすごいチャレンジなわけですよ。ゼロから設計して、狙いどおりのダイレクト感とか、小気味よい変速とか、それを実現するテクノロジーをつくりあげるわけですから」。

にもかかわらず、商品化まで漕ぎ着けたHondaのエンジニアたち。何が彼らを支えたのでしょうか?

「Hondaに入社するまでは“世界一”や“世界初”をあまり意識したことはありませんでしたが、会社に入った瞬間に世界一、世界初とみんながいいますからね。このSPORT HYBRID SH-AWDは燃費だけでなく、走りやハンドリングに貢献する世界初のハイブリッドシステムですから、難しくてもやりがいがありました。これまでAWDのハイブリッドは技術開発の途中までは辿りついても、商品にはならなかった。Hondaでは新しい技術を世に送り出すにはすべてが一番じゃなければならない。今回はいろいろなアイディアを盛り込むことで、念願だったAWDのハイブリッドシステムが完成できたのです」。

世界初のハイブリッドシステムを生み出したのはエンジンアの夢と執念だったのです。