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S660

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Part3 「乗って楽しい」に全力投球

スポーツカーファンの期待に応えるため、HondaのエンジニアはS660の性能をとことん磨き上げました。

シンプルな線は美しく力強い

スポーツカーにふさわしい走りには、軽量かつ高剛性・高強度のボディは必要不可欠です。この相反する要素をどのようにして両立していったのか、とても興味があります。

「必要とする剛性と強度を得ながら、目標とする重量のボディを開発するわけですが、もちろん、最初から目標をクリアできたわけではありません。私の担当していた部分は、高張力鋼板など軽い素材を効果的に使用しても、当初18kgくらいオーバーしていたんですよ。これに対応するために私たちが行ったのは、線をきれいにして、不要なものを削ぎ落とすという作業の積み重ねでした。その結果、最終的には20kgの減量に成功しました。ちなみに、開発当初、私はいまより約18kg太っていましたが、S660のボディと同じ18kg減を目標に掲げて、一緒にダイエットに励みました(笑)」(ボディ担当・糸川咲太郎さん)。

公私ともに頑張ったというわけですね。ここでポイントになるのが“きれいな線”です。エンジニアたちは“一線入魂”というスローガンのもと、従来の技術でどこまで軽量・高剛性ボディをつくることができるかに挑戦しました。

「一線入魂は、家で晩酌をしているときに思いついた言葉です(笑)。私は、若手エンジニアの描いてくる図面が納得いかなかった。それで、『もっときれいにしろ!』と口を酸っぱくして言い続けてきました。それをわかりやすくした言葉が一線入魂なんです」(衝突安全担当・坂元 玲さん)。

しかし、“きれいな線”と言われても、当の若手は困るのでは?

「そのとおりです。『きれいって言われても、わかりませんよ』ってね。そこで若手には、『週末に美術館にでも行ってこい』と助言したんです。美しいものには力があります。きれいなものは長い年月を経ていまなお輝き続けています。図面も、きれいにしていけばシンプルになり、シンプルになれば軽くなる。つまり、きれいなものは力強いうえに軽いんですよ。そんな話を若いエンジニアにしました」(衝突安全担当・坂元 玲さん)。

その効果はじわじわと現れていきます。

「一線入魂を言い始めて数カ月後、若手の目の色が変わったんですよ。コンピューターシミュレーションの結果を見て、きれいな線を描けば重量が落ちることを理解しはじめた。それからは、シミュレーションの担当とエンジニアとが互いにアイディアを出し合いながら、一線入魂を実践していきました」(衝突安全担当・坂元 玲さん)。

そして出来上がったのが、S660が誇る軽量・高剛性・高強度のボディです。

「その部品に求められているものが何かをきっちり理解していないと、きれいなものはできません。そのなかで最善と思われるきれいな形状を見つけ出し、さらに、きれいな部品がほかのきれいな部品を呼んで、トータルできれいなボディに仕上がっていくんです」(衝突安全担当・坂元 玲さん)。

担当エンジニアの哲学が、スポーツカーにふさわしいボディをつくりあげたというわけです。

“痛快ハンドリングマシーン”をつくろう

「乗って楽しい」を支えるのがサスペンションやステアリング、ブレーキといったシャシーです。「走る」「曲がる」「止まる」というクルマの基本性能はシャシーで決まります。担当エンジニアはスポーツカーのS660にどんな性能を与えたかったのでしょうか?

「私たちはこのS660をスポーツカーのエントリーモデルと位置づけています。そこで気をつけたのは、癖を極力減らして、とにかく乗りにくさを排除することです。間口を広くしたかった。MTに加えてCVTを用意したのもそのためでした」(完成車性能担当・岡 義友さん)。

その一方で、S660はスポーツカー好きの期待にも応えられるような性能を兼ね備えているといいます。

「間口が広いだけでは、エキスパートのおじさま方には物足りないクルマになってしまう。だから、入口が広いだけでなく、懐の深さを出して、ガンガン攻めてもまだまだ行けるよという性能にしたつもりです」(完成車性能担当・岡 義友さん)。

そこで掲げたのが“痛快ハンドリングマシーン”というコンセプト。ミッドシップらしい軽快な旋回性能を目指したものです。

「とにかく面白いクルマをつくりたい。軽でつくるんだから、曲がって楽しいクルマを目指しました。曲がるときの気持ちよさをどうつくるかを考えながら、パッケージングを決め、タイヤの性能が発揮できるサスペンションを決めました」(シャシー担当・桑原宣弘さん)。

具体的にはどんな走りを理想に掲げたのでしょうか?

「目標は、日本で運転して一番楽しいクルマです。コーナーでスッとノーズが入り、ピタッと路面に吸い付くようにロールし、グッと踏ん張り、ガツンとコーナーの出口から立ち上がる、“スッ、ピタッ、グッ、ガツン”。でも、これがサーキットをかっ飛ばしたときにしか発揮できないのでは意味がない。通勤途中の一般道で毎日感じられるようなクルマにしたかった。もちろん、サーキットでもこんな感じは出ます。それが、懐深さというところです。『S2000に勝つ』という高い志で挑みました」(完成車性能担当・岡 義友さん)。

そして、痛快ハンドリングをアシストするのがAHA(アジャイル・ハンドリング・アシスト)です。

「AHAは曲がる楽しさを助ける制御です。横滑りを防ぐVSAの応用で、『ここでアシストするともっと気持ちよく曲がれるよ』というタイミングでクルマの内輪に少しだけブレーキを当ててくれるんです。すると、本当ならカーブで膨らんでしまうところを、スムーズにシュシュッと曲がることができて、あたかも自分の運転が上手くなったかのようになります」(完成車性能担当・岡 義友さん)。

シティブレーキアクティブシステムなど、痛快さを邪魔しない安全装備を用意したのも見逃せないポイントです。

「サーキットで走る人もいますが、基本的には街中で楽しむクルマなので、『ついうっかり』を安全装備でカバーしたかった。マイクロスポーツカーだからこそ安全装備の価値が出せると思います」(電装担当・阪口泰史さん)。

プラス700回転にこだわる

S660のエンジンは、Nシリーズの660ccターボを改良したものです。S660に採用するにあたっては、エンジンのレスポンスを向上させるためにターボチャージャーを改良するなど、あの手この手で、スポーツカーにふさわしい性能を与えたといいます。なかでもこだわったのが最高許容回転数。6MTモデルではプラス700rpmの7700rpmまで高められています。

「軽のエンジンには最高出力の制限があり、回転を上げてもトルクが落ちてしまうのでは意味がないというエンジニアもいました。でも、たとえば、ワインディングロードを走っているときに、『あと少し上まで回すことができれば、このままシフトダウンしなくてもいいのになぁ』という場面でそのまま頑張ることができます。エンジニア目線ではなくお客さま目線では、この700rpmは絶対に恩恵があるんです」(エンジン担当・澤田陽介さん)。

そして、エンジンを身近に感じるミッドシップスポーツだけに、音にもこだわりました。アクセルをオフにしたときターボの圧が抜けるときの音をあえて聞かせることで、非日常を演出したのです。

「ウエイストゲートバルブを開放すると“パシュ”というすごい音がするんですよ。他のクルマでは逃げた圧力を吸気系に戻して、そこで音を減衰させています。でも、音を消す技術なので、出せと言われて、正直困りました(笑)」(エンジン担当・木下将一さん)。

トランミッションは6MTとCVTのふたつを用意。6MTはこのS660のために新たに開発されたものです。

「Nシリーズのエンジンに合うトランスミッションはCVTしかなく、新しくMTを開発させてほしいと頼み込んだのです。当時、開発コストの管理が厳しい状況でありましたが、熱意をもって必要性を伝えたら、開発の体制を整えてくれました」(トランスミッション担当・笹本晃司さん)。

そして出来上がったのが、シフトフィールにこだわったMTです。

「シフトフィールってMTならではの部分じゃないですか。そこがMTの醍醐味でもありますので、それをお客さまに感じてもらいたくて。メリハリがあって、スッと入って、カチッと剛性を感じるようなフィーリングです」(トランスミッション担当・笹本晃司さん)。

一方、多くのファンが楽しめるよう、CVTも用意しました。

「CVTはシフト操作が必要ないぶん、ステアリング操作に集中できますし、Gやヨーを感じながら楽しむことができるんです。専用のセッティングでMTのようなダイレクト感のある乗り味を実現。また、応答性を上げて、パドルシフトの反応も早くしました。MTが苦手な人以外にもぜひ選んでほしいですね」(CVT担当・櫛山裕之さん)。

それぞれのエンジニアが高い目標を掲げ、妥協することなく開発を進めた結果生まれたS660。開発チームには若いメンバーが多く、経験不足が心配されましたが、「みんな若くて、みんなもがいて、ぶつかるときはぶつかりました。でも、メンバー同士が良い関係を築くことができ、そこから信頼関係が生まれて、お互いに成長できたのです。それがクルマとして実を結んだのかなと思っています」。
チームみんなの熱い思いが、S660の細部にまで宿っているのです。