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S660

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Part2 「見て楽しい」をかたちに

開発陣の妥協なき取り組みが、ひと目見ただけでワクワクするスポーツカーを生み出しました。

スポーツカーの魅力をかたちに

軽規格のスポーツカーでありながら、それを感じさせない勢いと塊(かたまり)感が特徴のS660のエクステリア。その前身は、2011年の東京モーターショーで披露されたEVスポーツの「EV-STER」です。Hondaらしい、斬新かつ力強いフォルムが印象的でした。

「開発計画が凍結された“ゆるすぽ”が、急遽“ガチスポ”として復活することになったのですが、それを知らされたのは2011年の夏休み明けです。その年の東京モーターショーに間に合わせることを考えると、純粋にスケッチなどにかけられる時間は4日しかありませんでした(苦笑)。こんなことは前代未聞。しかし、やると決めたことですから、集中して描きあげました。おかげでデザインに勢いが生まれたんです。最初の気持ちのままスパッと描いたからでしょうね」(エクステリアデザイン担当・杉浦 良さん)。
そのイメージを忠実に受け継いだのがS660です。ここで課題になったのがボディサイズ。EV-STERは軽規格を超えていました。これを軽のサイズに収めるのは大変だったのでしょうね?

「基本的にはエクステリアデザインをすべてやり直しました。とくに気を遣ったのがサイドパネルの彫りの深さとリアフェンダーの張り出しです。S660を上から見ると、とてもメリハリがあるんですよ。また、ミッドシップなのでエアインテークを設けたい。でも、軽なのでサイズに余裕がありませんでした。でも、そこをなんとか工夫して、室内空間を侵食せずに、サイドパネルに抑揚が出るよう攻めたんです」(エクステリアモデリング担当・渡邉慎吾さん)。

ミッドシップらしいといえば、リアフードの大きな“バルジ”も見逃せません。

「EV-STERから同様のデザインを採用していましたが、量産車であの形状を鉄板でできるかどうかは未知数でした。プレスで打ち抜くので、絞り形状が深いと鉄板では難しいんです。でも今回は生産技術のエンジニアが頑張ってくれたおかげで、やりきることができた。実は2013年の東京モーターショーにS660コンセプトを出展したとき、他社のエンジニアがこのリアフードを見て『量産は無理だろう』といって去って行ったと聞き、してやったりという気持ちです(笑)」(エクステリア設計担当・谷口正将さん)。

脱着可能なロールトップもS660を特徴づけるアイテムのひとつ。Hondaではこれまでに例のないパーツだけに、開発は試行錯誤の繰り返しだったはずです。

「まずは、どうやったら収納ボックスに収まるのか、いろいろアイディアを出しました。そして、大変だったのが水漏れをどう防ぐか。普通は水を止める部分は硬くないといけないんですが、収納するためには柔らかくする必要がある。本当に実現できるのか不安でしたが、なんとか出来上がりました。慣れたら1分もかからず脱着できますし、女性でも操作は簡単ですよ」(エクステリア設計担当・犬伏啓之さん)。

S660の楽しさ、カッコ良さを際立たせるボディカラーも見どころです。

「Hondaのクルマとして、Sとして、また、軽の中でどう訴求していきたいか、若い人にどうアプローチしたらいいのか、Hondaのファンがどういう気持ちをもっているか……を考えて色を選びました。なかでもスターホワイトは力を注いだ色で、立体感があって、ソリッド感もあって、塊としてきれいなS660を表現できる色に仕上がったと思います」(カラー・マテリアルデザイン担当・落合愛弓さん)。

おかげで、ひと目見てそれとわかる個性を持ったS660のエクステリア。レトロとは無縁の新しいデザインを実現したのも、未来志向のHondaらしいところでしょう。

目指したのはF1のコックピット

ドライバーを包み込むようにデザインされたS660のインテリアは、走る楽しさを最優先したコックピットを採用しました。そのヒントはF1にあったといいます。

「コックピットはF1をイメージしました。実際にF1マシーンに座ってみましたが、余分なスペースがないし、要らないものがすべて削ぎ落とされていました。いいかえればすべてに意味があってできている空間です。それでいて、運転できないほど窮屈ではなく、ほどよいタイトさが心地よかった」(インテリアデザイン担当・稲森裕起さん)。

実際にS660を見ると、ドライバー側が独立しているような、囲まれたデザインが特徴的です。しかし、軽のサイズでこれを実現するのはとても困難な作業でした。

「シフトレバー横に柱を設けるのが大変でした。シフトレバーを操作するときにドライバーの手が当たらないようにすることに加えて、同乗者の安全確保も大きな課題。実は、最初のデザインでは、衝突実験の際に同乗者の右手がこの柱に当たり、それが原因で胸に衝撃を受けてしまった。『このままでは発売できないので柱を切り取ってくれ』といわれましたが、外してしまうとインテリアデザインのコンセプトが根底から崩れ、なんのクルマかわからなくなった。『ああ、もう終わった』と思いましたよ。でも、柱の位置を微調整するなど、チームのみんなと地味な作業を重ねることで、なんとか柱を残すことができたんです」(インテリア設計担当・森下勇毅さん)。

また、軽の枠で機能的なシートを配置するのも難しい課題でした。

「俯瞰で見たときに“くびれた”ボディになっているのは、シートとシートの間隔を狭くしたからです。でも、人を中心に考えているのでシート自体は小さくしなかった。そうなると厳しいのはシートとシートの間。コンソールの中身などを2階建てにし、幅を狭めることでこのコックピットを実現しています。1mm以下で勝負する世界でしたね」(インテリア設計担当・森下勇毅さん)。

S660のインテリアは基本的にEV-STERのイメージを受け継いでいますが、ステアリングのデザインは大きく変わったそうです。

「EV-STERは、2レバーシステムでした。縦2本のレバーを握って操縦する方式で、丸いステアリングを想定してなかった。そこから丸いステアリングにするまでが大変でしたね。丸いステアリングを置こうとすると、それなりにスペースが必要ですし、エアコンの装着を考えると、インストルメントパネルを手前にもってこなければなりません。それでもEV-STERのイメージは崩さないでいこうと奮闘しました」(インテリアモデリング担当・野口勝利さん)。

こうして生まれたのが、先進性を感じるインテリアデザインです。レトロな雰囲気のスポーツカーが多いなかで、エクステリア同様、インテリアでもあえてHondaがそれを選ばなかったのには理由があります。

「教科書に載っているようなオープンスポーツをイメージする人は多いんですが、それは過去のものですし、いまS660がそれを選んでしまうと20年後に埋もれてしまう。Hondaは過去を振り返る会社ではなく、新しい価値を提供する会社ですから」(インテリアモデリング担当・野口勝利さん)。

着るパッケージ

スポーツカーにおいて、ドライバーから見える風景やメーターからの情報はとても重要なもの。S660ではこの部分にもこだわり、スポーツカーの楽しさを加速させてくれます。

「スポーツカーをデザインするにあたっては、ドライバーを取り巻く雰囲気がとても大切です。そこで、私たちは『着るパッケージ』をコンセプトにコックピットを仕上げました。乗った瞬間に体にピタッとフィットして、ガレージから出てひとつめのコーナーを曲がった瞬間にスポーツカーらしさが感じられたらいいなと。そんな思いから、ヒップポイントや視界をレイアウトしました。とくにこだわったのがドライビングポジションです。ステアリングホイールがドライバーのまっすぐ前にあり、手を下ろしたところにシフトレバーがある。ペダルも適正な位置に配置する。S660はエンジンが前にないおかげで、タイヤの位置がわりと自由になり、適正なポジションがとれるようになりました。おかげで、ヒール&トゥがしやすいペダル配置になっています。シフトも手首の動きくらいで操作できます」(パッケージ担当・樋口彰男さん)。

運転に集中できるようデザインされた“瞬間認知メーター”も、ドライバーをその気にさせてくれます。

「メーターは中心にデジタルのスピードメーターがあり、それを囲むようにアナログのタコメーターを配置しました。速度はデジタルのほうがわかりやすいし、回転数はアナログのほうが把握しやすい。それを合体させたのが瞬間認知メーターです。スポーツモードに切り替えると、スピードメーターのまわりと周辺部に赤の照明が灯るようなる演出も、ぜひ見てほしい部分です」(電装担当・仲村賢志さん)。

一方、S660には、カーオーディオの規格サイズとして知られる“2DIN”のオーディオを採用しませんでした。この潔い割り切りはどこから生まれたのでしょうか?

「もちろん、2DINを採用するかどうかはずいぶん議論しました。営業サイドからは2DINがほしいという意見もありましたが、2DINにするとなにせカッコ悪くなるわけですよ。S660の包む、まとうインテリアではやりたくなかった。私は、CDをやめて、画面を別の方法で提供すれば、2DINにする必要はないは考えました。そもそも20年後にカーオーディオがどうなっているかなんて誰にも予想できないわけですから、ラジオとAUX(補助入力)、そして、USBがあればいいと説得したんです」(電装担当・箕輪 聡さん)。

そして、面白い取り組みとしては、S660専用アプリとその開発環境を整えたことです。

「車速や舵角など約20種類のデータが利用できる仕組みを用意しました。これを使えば、データロガーアプリをつくって、走行データを記録するなんてことができるわけです。私はこのS660を少なくとも定年までの20年間は遊び尽くしたい。そのためにも、時代にあった楽しい使い方ができるアプリを提供していけたらいいなと思っています。S660では、見た目では新しさを表現しましたが、機能では表現しなかった。いま流行の技術は20年後は古いんです。新しすぎることが逆に仇になるかもしれませんからね」(電装担当・箕輪 聡さん)。