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M・M思想はひとつじゃない! エンジニアひとりひとりに それぞれのM・M思想。 しかし、目指す場所は皆同じです。

M・M思想編
すべてのHonda車に"標準装備"されるM・M思想。 今回はFIT SHUTTLEのインテリアを担当したデザイナーと 設計エンジニアにインタビュー。 M・M思想は、Hondaを突き動かすエネルギー源でもありました。 文 / 生方 聡 (モータージャーナリスト)


インタビュー写真

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ティッシュボックスと格闘

実際に私もリバーシブルフロアボードを操作してみましたが、自在に折れ曲がるボードが蓋の役割を果たしたり、仕切り板になったり、あるいはカーペット面と汚れに強いワイパブル面が使い分けられたりと、実に便利でした。しかも、いざというときには27インチ(シティサイクルなら26インチ)の自転車が立てた状態で積み込めるというのは大きな魅力です。この機構はわりと簡単に実現できたんでしょう?

「ストレスなく自然に動くので、そう思われるかもしれませんが、実はとても苦労しました。アイディアがまとまったときには『すごい、すごい』と喜んでいたのですが、いざこれを実現しようとすると、大きな壁が立ちはだかったんです。リバーシブルフロアボードを実現するには、ボードの真ん中がどちら側にも折れ曲がる機構が必要だったのです。アイディア出しの段階では、スチレンボードを粘着テープで貼りあわせていたのでわからなかったのですが、厚みがある板を両方に曲げるヒンジなんて無茶だ、ということに気づいてしまったんです」

そういわれると、両側に折れ曲がるヒンジなど、これまで見た記憶がありません。リバーシブルフロアボードの便利さには感心しましたが、実現がそれほど難しいとは思ってもみませんでしたし、ヒンジの構造も見逃していました。では、どのようにして新しいヒンジを生み出したのですか?

「両側に折るにはヒンジをふたつ付けるしかない……というわけで、たまたま机の上にあったティッシュボックスをカッターでふたつに切り、紙でヒンジを付けてみました。すると、確かに両側に折れ曲がるんです。でも、ヒンジの部分がビヨーンと伸びてしまいました」。

つまりは失敗?

「だったらヒンジをたすきがけにしてみようと思い試したら、これが上手くいった。実際のリバーシブルフロアボードも、よく見るとこれと同じ構造なんですよ」。

ティッシュボックスと挌闘する姿は、きっとまわりの同僚の目にはさぞかし滑稽に映ったのでしょうね。

諦めたら終わり

リバーシブルフロアボードの開発は、その後は順調に?

「ティッシュボックスの模型の次は、木の板にヒンジを付けた模型をつくりました。そこで新たな問題が発生! ヒンジに厚みがあるので、ちょうつがいみたいなものでは折れ曲がる部分が表に出てきます。そこに荷物が引っかかって傷がついたりしたら大変です。いかに表に出ないようにするか、という新たな課題に直面しました。結局、PP(ポリプロピレン)のヒンジをボードと一体成形することで、問題を解決しました。それをデザイナーに見せたら『分厚くてダメですね』と文句をいわれましたが」。

なかなか手厳しいですね。途中で、諦めようとは思いませんでしたか?

「アイディアはいいけど商品にはならないことってよくあるんですよ。このリバーシブルフロアボードもその危機に直面していました。途中で諦めてもおかしくない状況でしたからね。しかし、リバーシブルフロアボードが実現できたら、お客さまにとって大きなメリットになるから絶対に実現するんだ、とデザイナーとエンジニアが価値を共有したおかげで、現実のモノとなって世に送り出せたと思っています。」

ただ、それほどの努力が注がれても、リバーシブルフロアボードそのものには、お客さまも、われわれジャーナリストも注目していませんでした……。

「私たちエンジニアが苦労して、素晴らしい機構が出来上がっても、ストレスなく使えて当たり前ですから。まさか、こんなところで喧嘩したり、苦労したりしてるとは、誰も思わないでしょう(笑) しかし、これが私たちの理想なんですよ。技術がいろいろなところで主張する必要はない。技術が出しゃばっちゃダメ。技術のために場所を取ってもいけない。お客さまが技術に気がつかなくても、荷室なら楽に物が積めて、結果的にお客さまが使いやすいと思ってくださればそれでいい。私は『メカが出しゃばらない』ことこそがM・M思想だと考えています」。

広いだけがM・M思想じゃない

M・M思想は人によって違う?

「ええ、皆が同じ考えではありませんし、開発チームによっても違ってきます。それでも、同じ方向は向いていますね。基本的にずれてはいけないのが、どういうお客さまにどう使ってもらうか、という部分で、それからずれた瞬間にHondaらしくないクルマになってしまうんです」。

クルマによっても違ってくるわけですか?

「マン・マキシマムというと、どうしても広い空間を想像してしまいますが、広さ一辺倒ではクルマが全部同じ方向になってしまう。キャビンや荷室ばかり大きなクルマにね。でも実際はクルマごとにバランスが違います。スポーツカーとミニバンでは違いますから。たとえばCR-Zのようなクルマで空間をマキシマムにしたら、あの雰囲気は出てこない。圧迫感が心地よいわけですから。人が一番気持ちよく感じるポイントを追求するのがM・M思想なんでしょうね。でも、中に入っているメカニズムは極限まで小さくするというのは同じです」。

お客さまのことを最優先に考えるという点ではブレがない?

「そう思いますね。楽に仕事を進めたいなら、チャレンジする必要はありませんが、私はいつもお客さま目線で行きたいと考えていますから、苦労は厭わない。これもM・M思想なんですよ。僕のなかでは、M・M思想の"マン"はお客さまです」。

できるだけ広い空間を確保する、という狭い解釈ではなく、お客さまの立場に立ってベストな技術を提供するM・M思想。エンジニアひとりひとりの思いは違っていても、目指すところは同じでした。そんなHondaエンジニアたちの気持ちが、ユーザー目線のクルマづくりを後押ししているんですね!