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すべての人に安全を。

歩行者にとって本当に安全なクルマとはなんだろう? そんな思いを胸に、Hondaのエンジニアは、現実の世界で効果を発揮する歩行者保護技術の研究開発に力を注いでいます。 文 / 生方 聡 (モータージャーナリスト)

エンジニア・トーク マンガ版

歩行者傷害軽減ボディ

歩行者傷害軽減ボディとは?

——歩行者ダミーや人体モデルによるシミュレーションなどによって、どんなクルマをつくれば歩行者保護につながるかがわかってきました。

「最初の課題は、歩行者の頭部の傷害を減らすことでした。研究によりボンネットとの衝突でたくさんの人が亡くなっていることがわかったんです。衝突の際、歩行者はまずボンネットで衝撃を受けて、さらにボンネットの下のエンジンで衝撃を受けるんです」。

——ボンネットがあるのに、頭がエンジンにぶつかってしまうんですか?

「そのとおりです。これを防ぐためには、ボンネットをうまく潰して衝撃を吸収するとともに、ボンネットとエンジンの隙間を確保して歩行者の頭がエンジンに衝突しないことが大切です」。

——ということは、いまのボンネットは昔よりも柔らかい?

「そういうわけではありません(笑)。洗車のときにベコベコ凹んだら嫌でしょう? そうならないように、ふだんはしっかりしていて、衝突のときだけ柔らかくなるような構造を考えるんです」。

——マジックのようですね。秘密はどこに?

「ボンネットには表の"スキン"と裏の"フレーム"があります。フレームの形をクルマとボンネットの形状にあわせて最適に設計します」。

——なかなか大変そうですね。他にはどの部分を工夫するんですか?

「たとえば、ボンネットのヒンジにも工夫があります。ヒンジを高くし、穴をあけてつぶれやすくすることでストロークを稼いでいます。その一方で、必要な強度を確保するために穴の大きさやヒンジの曲がりぐあいを設定するのが私たちの腕の見せどころでもあります。それから、フェンダーの締め付け部分を工夫するとか。ワイパーの取り付け部分も硬く、頭が当たると傷害につながりやすいため、そこにも十分配慮しています」。

——へぇ、クルマの前面にはいろいろな配慮がされているんですね。最初に歩行者傷害軽減ボディの考えが盛り込まれたのはどのクルマですか?

「1995年に歩行者安全研究車のHonda ASV-1で衝撃吸収ボンネットを披露しました。量産車に反映したのは1998年のHR-Vからです。法による規制が始まったのが2005年ですから…」。

——Hondaの取り組みはずいぶん早かったんですね!

「2000年のシビックでは、脚部を保護するデザインを取り入れました。バンパーの形を工夫したり、バンパーの中に衝撃を吸収するものを入れたり…」。

——クルマを守るバンパーが歩行者を守る??

「昔はバンパーがつぶれてクルマを守りました。いまは、歩行者を守ったうえでクルマを守ります。そのために歩行者を守るためのスペースをクルマの前に設けるんです」。

——時代とともにバンパーの役割も変わってきているんですね。そういえば見た目も違ってきましたね。

「人の脚を守るため、クルマにぶつかったときに関節が曲がらないような、突起のないデザインに変わってきました。バンパーがボディの一部、デザインの一部になるような、なだらかな形のフロントデザインとしています。ヘッドライトの位置も重要です。フロントグリルやバンパーに比べるとヘッドライトは硬いので、歩行者保護のためにいろいろ考える必要があるんですよ」。

——それだけ制約があると、デザイナーは大変でしょうね?

「デザイナーには、歩行者保護の要求だけでクルマが描けるといわれますよ(笑)。そうなるとクルマがみんな同じデザインになってしまうし、カッコいいクルマがつくれなくなる。それではお客さまに喜んでもらえません」。

——当然、デザインとの葛藤が生まれる!?

「デザイナーと意見を交わしながら理想のデザインをつくり上げていく。これが大事なプロセスになっています。お互い守らなければならないところを主張したあとで、最後はうまい着地点を見つけるわけです。デザインの良さを上手く引き出しながら形にするのが私たちエンジニアの役目。妥協させるのではなく、良い結果を引き出すのが私たちの役割だと思っています」。

ポップアップフードシステムという秘策

——最近は万一のときにボンネットフードが持ち上がる装備を見かけますが…

「デザイン上、エンジンとボンネットのスペースがどうしても取れない場合でも歩行者保護を疎かにするわけにはいきません。そこで、バンパーにつけたセンサーが歩行者の衝突を感知すると、ボンネットのヒンジの下にボンネットを持ち上げる火薬式の仕組みをつけて、エンジンとボンネットの間に必要な空間を確保するのがHondaのポップアップフードシステムです。Hondaは2006年のレジェンドに初めてポップアップフードシステムを搭載しました。このシステムの技術発表は2004年で、実はHondaが一番早かったんです」。

——ここにも世界初が! このジャンルでもHondaがリードしていたわけですね。

「他にない技術なので、文字どおり一からつくりました。火薬式の装置やセンサーも自前でつくりました。エアバッグの技術を参考にしているんですけど、クルマの外に設置するので、エアバッグとは環境が違います。雨風をしのぐことができるのか、とか、問題をひとつひとつクリアしていくのが大変でしたね」。

——まわりの理解は得られましたか?

「研究段階では、ホントにモノになるのかなと半信半疑でしたね。説明してもなかなかピンとこない(笑)。でも、実際に上がるところを見ると、これは凄いってね。困ったのは第三者機関で評価するときです。ボンネットフードを上げずにテストするといわれたんです。なにせ初めてのものなので、テストする側もその効果をよく理解していなかった。相手を納得させるのに1カ月くらいかかりましたね(笑)」

——パイオニアならではのご苦労ですね。ポップアップフードシステムを含めて、いまでは歩行者傷害軽減ボディの考え方がHonda社内に浸透していますよね?

「そういう意味では以前よりはやりやすくなりました。しかし、私たちへの要求もどんどん高度化しています。たとえば、いままでは10cmスペースがないと実現できなかったところを、8cmでなんとかしてほしい、とかね。そんな難題に知恵を絞って立ち向かうときに、新しい技術が生まれますし、そのときの達成感はまた格別です」。

——まだまだ技術は進化するということですか?

「歩行者保護は、発展途上の技術です。まだまだ探求する余地がたくさんあります。エンジニアにとってはそれが魅力であり、やりがいです」。

——頼もしいですね! デザイナーと力をあわせて、歩行者に優しく、カッコいいクルマを、これからも生み出してください。