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あえて困難な道を選んだからこそ納得のいく結果が生まれました。

アイドリングストップ中でもハンドルを軽く動かせたらいいなぁ……。 たとえカタログには載らなくても「運転をもっと快適にしたい」と願うエンジニアたち。彼らが辿ったのは、異例ずくめのルートでした。 文 / 生方 聡 (モータージャーナリスト)


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そのひと言に救われた

タイムリミットが刻一刻と迫るなか、あえて“茨の道”を選択したエンジニアたち。EPSの回路設計を担当するエンジニアは、「寝ても覚めても回路のことで頭がいっぱいでした。出張の帰りに電車を乗り過ごすこともありましたよ」と、当時のことを振り返ります。

「私たちが設計をどう変更しようかと考えていたとき、LPLから突然メールがきまして、そこには『こうしたらどうかな?』と制御の対応案が、何とおりか書いてありました。LPLは、昔F1をやっていたのでエンジニア魂が騒ぐんですね。ゴールに向かってチーム一丸となって進んでいるという感覚が、みんなのモチベーションアップにつながりました」。

素晴らしいチームですね。それでなんとか解決の糸口がつかめたのですか?

「今回の部品の場合、開発の現場では、Hondaのエンジニアと部品メーカーのエンジニアと一緒に詳細を詰めていきます。この時期の設計変更など本来あり得ないことなんですが、部品メーカーの皆さんも私たちの熱意に共感してくれて、ハードウェア、ソフトウェアの両面から全力で協力してくれました。彼らの支援があったからこそ、回路設計の見通しが立ちました。本当に感謝しています」。

何が何でもやり遂げるんだ、という強い意思が、まわりの気持ちを動かしたのでしょう。設計の見通しが立つと、次にすべきことは?

「試作品をつくって実車で確認し、そこでLPLが変更にゴーサインを出すというのが本来の手順ですが、もはやそんな時間の余裕はありません。今日にも判断しないと開発は間にあわない。でも、もし設計変更に着手してしまえば、もう後戻りできない。そんな状況をLPLに説明すると『わかった、回路変更で決まりだ』と即断即決してくれました」。

エンジニアの皆さんに全幅の信頼を寄せていたからでしょうね。うれしい反面、責任は重大ですよ!

LPLのゴーサインを受け、さっそく試作品づくりにとりかかりました。

「部品メーカーのエンジニアが頑張ってくれて、なんとか1個、超特急で仕上げてくれました。ただし、“アイドリングストップテストのための低速走行限定”という制約がありましたけど」。

それでも、短期間で出来上がってよかったですね。この試作品でどんなテストを?

「新しい回路が思いどおりの動きをするのか、あらゆる場合を想定して確認しました。また、細かいセッティングも詰める必要がありました。テストしたのはちょうど夏の真っ盛り。エアコンを停め、窓は全開。運転席と助手席のふたりは当然汗だくです。アイドリングストップ中、静かなクルマのなかにセミの鳴き声が聞こえてきます。“ミーンミーン”という声がいまでも耳に残ってますよ(笑)」。

「私は助手席でPCを見ながらデータを計測したために、ひどい車酔いに。途中で何度かテストを中断してもらいましたが、のんびり休んでいる暇はないので、ギリギリまで我慢して少し休んだらまたテスト。これほど辛い目に遭ったことはありません(笑)。予定のテストが終了し、ホッとした矢先に、先輩から『追加でこのデータも取って』という連絡が入ったときは、さすがに気が遠くなりました。おかげで少しは車酔いに強くなりましたよ」。

青ざめた顔で必死にテストを繰り返すエンジニアの姿が目に浮かびます。集中テストのあと、いよいよLPLから実車評価を受ける日がくるわけですが、自信のほどは?

「それまでの集中テストから『これはいける!』という手応えはありました。実車評価は朝9時からでしたが、実はその日も早朝から最終の確認作業を続けていました。ここでの失敗は許されませんから、皆必死でした」。

LPLのコメントは?

「笑顔でクルマから降りてきたLPLが、親指を立てて『Good Job!』ってね。気になるところはあったはずですが、そこをぐっとこらえて『よくやった』という言葉を聞いたときは本当にうれしかった。それまでの苦労もいっぺんで吹き飛びました。

努力が報われた瞬間ですね!

お客さま視点の大切さ

ひと息つく間もなく、エンジニアたちは関連部署の調整にあたります。ギリギリのタイミングでの設計変更を説明して、承認を得ないことには、せっかくの苦労も水の泡です。そう簡単には「うん」といってくれませんよね?
「『いまごろ、どうして?』といわれるのは覚悟していました。しかし、実車に新しいEPSを取り付けてその良さを体感してもらうと、皆口々に『これはいいですね』『よし、なんとかしましょう』といってくれたんです。「立場は違っても、良い商品をつくり、お客さまを喜ばせたいという気持ちは共通なんです」。

そこがプロジェクト成功の鍵でしたか! その後もN BOXの発売まで苦労の連続だったそうですが、「春先に一度は遠のいてしまった“あがり”でしたが、予定の発売日に間にあいました」。

「今回の設計変更は、カタログに載るような機能ではありませんが、N BOXを購入したお客さまが気持ちよく運転できるというのが、私たちエンジニアにとってとても大切だということを改めて感じました。そんな工夫が、このEPSだけでなくN BOXのいたるところに散りばめられているんです。お客さまの喜ぶ顔を思い浮かべて重ねる苦労はいいものです」。

エンジニアの汗の結晶といえるアイドリングストップシステムを私も試してみました。ブレーキを踏んでクルマが停車するとすっとエンジンが止まります。そこでステアリングを操作すると、軽い操舵力でステアリングを切ることができます。同時にエンジンが再始動しますが、その前後で操舵力が変わることはなく、実に自然な感覚で再スタートを切ることができました。

「自分たちが最初に決めた考えに固執しすぎてお客さまの立場を忘れてしまっては、良い商品はできない。つねにお客さま視点に立ち、お客さまのためには苦労ともなう変更も厭わない。私たちは、そんなエンジニアであり続けたいと思います」。