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空力

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風を操るプロフェッショナル 魅力的なデザインと高い性能を両立させるために、日々奮闘する空力エンジニア。彼らが目標を達成するための方法、そして、そのやりがいに迫ります。

カッコよくて、そのうえ高性能のクルマをつくりたい

——エクステリアデザインをつくりあげる過程で、デザイナーと空力エンジニアはどんなやりとりをするんですか?

「量産車の開発では、最初にデザインスケッチができあがりますが、私たちエンジニアとしてはできるだけ空力が良くなる要素を取り込んでほしいという思いから、デザイナーと一緒に開発を進めています」。

——デザイナーがつくったモデルをシミュレーションや風洞テストで確認し、デザイナーに戻す、というふうに?

「いいえ、それでは仕事が回りません(笑) たとえば、風洞テストを行う場合、クレイモデルとともに、デザイナー、モデラーに来てもらうんです」。

——風洞でクレイモデルを削っちゃうとか?

「そのとおり! 風洞の上で空力エンジニアがアイディアを出し、その場でモデラーに削ってもらいます。それを風洞テストにかけて、もし結果が良ければデザイナーに見てもらい、今度はデザイナーの意向を反映してまた削り計測する……というようにして、デザインと空力を詰めていくんです。皆で一緒にやる、というのが大切なわけですが、Hondaはそこに多くの時間を割いています。これが私たちの強みでしょうね」。

——デザイナーと空力エンジニアの意見が対立することはないのですか?

「お客さまが最初に目にするのがエクステリアデザインですから、私たち空力エンジニアも見え方が大切なことはわかっています。しかし、燃費など、求められる性能があるわけですから、意見が食い違えば正面から議論しますね。昔は、空力のいうことを聞くとカッコ悪くなるという人もいましたが、いまは空力に対する理解も深まり、性能の良くなりそうなラインをデザイナーが考えてくれるようになりました」。

——空力エンジニアの仕事が認められてきたということですね。

「一方、私たちエンジニアもデザイナーとのやりとりで学ぶことがあります。私がF1から量産車の仕事に移り、最初に担当したクルマで、デザイナーが私の意見を聞き入れてくれないことがありました。私はトランクのラインをもうすこし小さな曲線にしたかった。そうすれば1%くらいは空力が改善するんです。でも、デザイナーは『斜めから見たときの、この柔らかいラインがいいんだ』と譲りませんでした」。

——最終的には、どう歩み寄ったんですか?

「トランクの部分はデザイナーの意見を尊重し、そのかわり別なところで私の意見を反映しました。そんなやりとりをして2年ほど経ったある日、たまたまそのクルマを駐車場で見かけたんです。夕方の柔らかな陽射しが斜めに差し込んでいて、その姿がとても美しかった。デザイナーが最後まで屈しなかった理由が、そのときはっきりとわかったんです。そしてそのとき私は、デザイナーの主張を尊重してよかったと思いました。いま考えると、私が青かった。空力、空力といいすぎて、カッコ良さを台無しにするところでした」。

——F1と量産車はちがうんですね。

「F1の場合、設計者という意味のデザイナーはいますが、アートを担当する人はいないんです。だから、空力担当者が自ら線を引く。一方、量産車の場合は、アーティストとしてのデザイナーが存在します。クルマはカッコ良くないとお客さまに運転席に乗ってもらえませんし、運転席に乗って動き出さなかったら、空力は意味を持ちません」。

——確かにそうですね。走ってこその空力ですから!

「もちろん、デザイナーはカッコいいクルマをつくりたいんですが、カッコよくて性能がよければそれに越したことはないと思っています。シミュレーションや風洞テストで、ここをこうすればカッコ良さを損なわずに性能を上げることができるんですよと丁寧に説明すれば、空力エンジニアの提案を聞き入れてくれるんです。そうすることで、デザイナーと空力エンジニアは本当に良い意味での協力ができ、お互いを高めあえるんです。その一方で、空力の目標値はいまとても高いので、そういう関係のなかで最適なものを生み出さないかぎりは目標が達成できなくなっています」。

——ますます、デザイナーと空力エンジニアの協力が重要になっているということですね。

空力エンジニアのやりがいは?

——Hondaではどういった車種に空力エンジニアが関わるのですか?

「セダンやハッチバックはもちろん、ミニバンや軽トラックまで、すべての車種に空力エンジニアが関わっています。それもHondaの強みだと思うんですよ。年間何百万台もクルマを売っているHondaが、その一台一台に私たちの知見を入れることで、燃料消費の抑制に大きな効果をもたらすわけですからね」。

——すべての車種を皆さんが手分けして担当するんですか?

「量産車の空力は、1台のクルマをひとりのエンジニアが責任を持って担当します。だから、できあがったクルマを最終的に風洞テストするときはとても緊張します。エンジニアとしては最大のヤマ場ですからね。でも、責任とともにひとりひとりに大きな裁量が与えられますから、そのぶんやりがいがありますね」。

——空力エンジニアの醍醐味は?

「空力は形が性能ですから、クルマの形を決めるプロセスに携われるのが大きな魅力ですね。もちろん、そのぶん難しいところはたくさんありますが、自分の意思が込められた部分が目に見えるのはうれしいものですよ」。

——F1を担当したときはまた別の歓びがありましたよね?

「私の場合、2008年に自分が設計したディフューザーが形になるまえに仕事を離れてしまいましたから、2009年の日本グランプリで、私のディフューザーの付いたマシーンを目の当たりにしたときは涙が止まりませんでした。前年の夏、単身イギリスに渡ってがんばってつくった形がモノになり、そのうえF1の歴史に足跡を残すことができたのは、大きな歓びでしたね」。

——では、また機会があればF1を担当したい?

「はい。でもいまは、量産開発に集中しています。F1は人の心の奥底を奮わせるものですが、日常におけるクルマとのつながりというところでは、当然量産車のほうが強い。そこに自分の意思を注ぐことで世の中に影響を与えることができるんだ、ということに誇りを持っています。夢は世界一! 世の中に、自分のなかから生まれた形を広めることができたらいいな、と思っています」。

——これから登場するクルマが楽しみですね!

「私の担当しているクルマがこれから出てきますが、空力はクラストップレベルと自負しています。新車が発表になったら、ぜひ床下も見てください(笑)」。