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CIVIC TYPE R

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Part2 Hondaエンブレムとともに

赤のHondaエンブレムが誇らしげに輝くシビック TYPE Rは、目標に向かって突き進むHondaエンジニアの情熱の結晶でした。

別モノのクルマに

2.0L VTEC TURBOが誇る圧倒的なパワーを受け止めるために、シャシーには大胆なほど手が加えられました。


シャシー設計担当 岡本公雄

「FF車世界最速を達成するには、エンジンだけでなくシャシーも相当頑張らないといけない。実際、シャシーの主要部分のほとんどが専用設計です。サスペンションは構造が違いますし、サブフレームも専用設計でベース車両とは異なります。さらに、ステアリングシステム、ブレーキ、タイヤなど、挙げればキリがありません。量産車をスポーツ仕様にしたというレベルではないですね。まったく別モノのクルマに生まれ変わっています」(シャシー設計担当 岡本公雄)

なかでも注目したいのが新開発のフロントサスペンションです。

「310psのパワーと400N・mのトルクに対応するためには、通常のストラットサスペンションでは難しいという判断から、それに変わるものとして一番有力だった“デュアル アクシス ストラットサスペンション”を採用することにしました。トルクステアを抑えるという目的もありましたが、転舵軸を別体にすることによりタイヤを切ったときもきっちり接地させることができるんです。ただ、デュアル アクシス ストラットサスペンション自体が完全に開発が終わっていたわけではありませんでしたから、車両と同時開発になりました。通常のストラットサスペンションに比べると複雑で部品点数も多い。これをあえて採用するために皆を説得しなければなりませんでしたが、TYPE Rの走りにはどうしても必要なものだったので、苦労は承知でやろうと決意したのです」(岡本)

一方、リアはトーションビームサスペンションを踏襲しています。

「あえてリアをマルチリンクにしなかったのは、ベース車のパッケージングをそのまま活かしたかったから。また、FF車世界最速を達成するための剛性や特性、性能を検討したとき、トーションビームでも十分狙うことができるという見通しもありました。要は形式ではない、目標が達成できればトーションビームでもいいわけです。もちろん、ベース車両に比べて要求される性能が段違いに高いですから、トーションビームといってもまったく別モノに仕上がっています。剛性はHonda車最強です」(岡本)

実際にテストを担当したエンジニアも、新設計のリアのトーションビームサスペンションには太鼓判を押しています。


シャシー研究担当 木島龍一

「一般にトーションビームサスペンションは横力に弱いといわれますが、ブッシュのバランスを上手く取れば横力の影響を最小限に抑えることができます。それを実証して、これなら行けるという確認をするのが私の仕事でした」(シャシー研究担当 木島龍一)

これにより、ニュルブルクリンクでの最速ラップタイムを狙いましたが、限界性能ばかりを突き詰めたわけではありません。

「ただ単に速いクルマが、スポーツフィールが良くて、ファンな走りをするわけではないんです。常用域で走っていてもスポーツフィールが感じられるように仕立てるのが大事。たとえば、超高速域でスタビリティを上げていくと、常用域で少し切ったくらいでは反応が鈍くてつまらないクルマになってしまいがち。限界域では性能が出るけれど、常用域では余裕がありすぎて何も起きない、面白くないということになりかねません。」(岡本)

「限界性能は絶対条件ですが、いきなり限界がくるわけではないので、そこにリニアにつながっていくことが大切です。そのためには、常にクルマの動きが感じられるようなセッティングが求められるのです」(木島)

電子制御ダンパーの4輪アダプティブダンパーシステムもTYPE Rとしては新しいところです。

「アダプティブダンパーシステムを採用したのは、速さと乗り心地の両立が一番の目的です。昔のスポーツカーように一般道を走る状況で足がガチガチというのでは時代遅れですから」(岡本)

もちろん、このアダプティブダンパーシステムもFF車世界最速に達成に大きく貢献しています。

「適切なタイミングで最適な減衰力を発揮できるので、タイヤの能力を最大限に活かすうえでメリットが大きい。たとえば、ブレーキを踏んでいったときや、ハンドルを切っていったときなど、過渡領域の挙動をきちんと制御できるというのは大きいですね。低中速は軽快に、高速はより安定させてというような動きにできるので、TYPE Rとのマッチングはいいですね」(木島)

TYPE Rじゃない。シビック TYPE Rなんだ!

FF車世界最速を目指すには、ボディの強化も必須です。ところが、シビック TYPE Rでは、荷室を犠牲にするようなボディ補強が見られません。

「ボディ補強のために、普通ならフロントやリアダンパーハウスの上にクロスでバーが入っていたり、1本のバーでダンパーのトップを繋げたりするのですが、このクルマにはありません。やれば簡単ですし、開発中にやりたいという人がたくさんいたのも事実です。でも、それじゃあ普通なんですよ。Hondaには、『人のためのスペースは最大に、メカニズムは最小に』という“マン・マキシマム/メカ・ミニマム”=M・M思想があります。TYPE Rという名前のクルマならまだしも、シビックを名乗るからにはM・M思想は絶対なんです。荷室を潰して速いのはM・M思想ではありませんから。だから、シビック TYPE Rの荷室はベースと同じで、ゴルフバッグは3個積めます。やりたかったのはタイヤを4本積んで、ジャッキを積んで、レーシングスーツと工具箱、そして、ランチボックスを積んで、近所のサーキットに行くこと。CIVICを名乗る以上はお客さまの使い勝手を考えて、楽しくサーキットに行けるクルマであることもアピールしたかったんです」(八木)

それでは、どんな方法でボディ剛性を高めるか? エンジニアの真価が問われる場面です。

「クロスバーを入れる代わりに、接着剤でボディ剛性を高めようという案が出されました。剛性アップのために接着剤を使うというのは量産車では経験がありませんでしたが、上手くいけば本来なら数kg重量が増えるところを、逆にウェイトをダウンしながらボディ強度と剛性を上げることができます。ただ、工場側は最初は難色を示しました。すでに動いているシビックのラインで接着剤を塗る工程を追加するわけですよ。塗りたいポイントはボディの内側にありますから、そうすると機械じゃ塗れないので人手に頼ることになる。大きなサイドパネルが動いていくところに人が入っていくのは心理的にも嫌ですよね」(八木)

しかし、担当エンジニアは、粘り強く工場側を説得しました。

「こういうクルマを創りたいんだ、そのためにはどうしても構造接着剤によるボディ剛性向上が必要なんだ、それができないと我々が目指すTYPE Rができないんだと話をしたら、『よし、やろう』ということになりました。正直なところ、最初は上手くいく確証はありませんでしたが、必要な性能のために確認しながら工場のエンジニアやチームメンバーと一点一点、できる、できない、ではできないならどうすればできるかを詰めていく作業を根気よく続け、最終的には満足のいく性能を達成することができました」(鶴田)

八木からは、いまだから明かせるこんな話も。

「実はベースのシビックの開発ではインテリアのPL(プロジェクトリーダー)をしていました。そのとき、ボディ担当のPLと話をして、いまは決まっていないけれど、おそらくTYPE Rを創ることになるから、ベースのボディ強度や剛性を上げておこうといって、いろいろとフロアを細工しておいた。おかげで、ベースの段階で、ボディ剛性は先代のシビック TYPE Rの3ドアと同じレベルになったんですよ。そのぶん増えた重量などはインテリアで頑張るからといってね。そういう企みが実はいろいろなところにあるんです」(八木)

誇り高き赤のHondaエンブレム

その後、さまざまな課題をクリアし、2014年5月に臨んだ3度目のニュルブルクリンクで、シビック TYPE Rは7分50秒63のラップタイムと270km/hの最高速を達成しました。

「レーシングカーやサーキットを走るクルマというのは、いいタイヤを履いて、いいサスペンションをつけて、いいエンジンを載せても、それだけでは速くならない。そのクルマのことを知り尽くし、どれだけ手間暇かけてセッティングするかにかかっています。エンジニアたちの情熱がこのクルマをここまでの性能に仕上げたのです」(八木)

念願のFF車世界最速の称号を手に入れたシビック TYPE Rには、赤のHondaエンブレムが施されています。

「私の中では、赤のHondaエンブレムは大きな存在であり、重要な意味を持つものです。かつてHondaは、葉巻型のマシン RA271でヨーロッパに戦いを挑むにあたり、アイボリーホワイトのボディに赤い日の丸を描きました。そのF1には『技術で勝つんだ!』というHondaの想いが込められていました。そんな、世界に向けたHondaの宣誓が、いまでも赤のHondaエンブレムの中に生き続けています。HondaのDNAやレーシングスピリットを表現するものなのです。その赤のHondaエンブレムを付けることを許されたTYPE Rは、技術で世界と勝負するHondaを表現する大切な手段。Hondaの一部でもあるし、Hondaそのものでもあるのです」(八木)

赤のHondaエンブレムを施すにふさわしいクルマに仕上がったと八木が自信を持つシビック TYPE R。もちろん、それは八木ひとりの力でつくり上げたものではなく、開発に携わったエンジニア全員の情熱の賜物です。

「高い目標を掲げて、諦めずにやること。できませんという言い訳を探すのではなく、どうやったらできるかというところを皆で考え続けました。その結果、不可能と思えたことが達成できた」(鶴田)

「我々の存在意義は、不可能と思われることをやり遂げることなので、“NO”と言った瞬間に存在意義が失われてしまう。だからHondaエンジニアは、皆“YES”で走り続けている。“NO”と言う前に、できる方法を考える。未来に向けた仕事をしているから、前進あるのみ。より良いものを創りたいという想いは、どんなクルマ創りでも変わりません。それがHondaのDNAであり、レーシングスピリットを纏った赤のHondaエンブレムが意味するところなんですよ」(八木)