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CIVIC TYPE R

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S660—僕たちがつくった理想のマイクロスポーツカー

Part1 聖地ニュルブルクリンクへ

シビック TYPE Rを世に送り出すにあたり、開発の舞台として選ばれたのはドイツのニュルブルクリンク。そこはスポーツカー開発の聖地であるとともに、Hondaにとって特別な意味を持つ場所でもあります。

レーシングスピリットの象徴

TYPE Rは、量産車をベースにその基本性能を極限まで鍛え上げ、サーキットから一般公道に至るまで圧倒的な走りを実現するHondaのピュアスポーツカー。1992年登場のNSX TYPE Rに端を発するこのシリーズに、新たな歴史を刻むことになったのが新型シビック TYPE Rです。
TYPE Rは、Hondaにとって、また、ファンにとって強い想い入れのある名前です。それは、このクルマを手がけるHondaエンジニアにとっても同じことです。

「レーシングスピリットを掻きたてるようなクルマを創りたくてHondaに入った私にとって、TYPE Rはまさに私がやりたかった仕事のひとつです」。

そう語るのは、シビック TYPE Rの開発責任者を務める八木久征です。Honda英国工場(HUM)で造られているシビック5ドアをTYPE Rに仕立て上げるにあたって、目標として掲げたのは“FF車世界最速”。スポーツカー開発の聖地として知られるドイツのニュルブルクリンク北コースで最速のラップタイムを達成するとともに、最高速と0-100km/h加速でもFF車世界最速をマークするという、極めて高い目標でした。


開発責任者 八木久征

「ニュルブルクリンクは1964年にHondaが初めてF1に挑んだサーキットだけに、Hondaの一員なら誰でも特別の想いがあります。ここで徹底的に性能を鍛えるのは今回のシビック TYPE Rが初めてですが、レーシングスピリットを感じるには最高の舞台といえるでしょう。開発メンバーには『我々は公道を走るレーシングカーを創るんだ』と常に言い聞かせてきました」。

そう話す八木がコンセプトとして打ち出したのは“ブッチギリ(Buttigiri)”です。

「ブッチギリは、単に勝負に勝つのではなく、ダブルスコア、トリプルスコアくらいの差をつけてライバルを置き去りにすること、その集団の中でずば抜けた性能を持つことです。これを企画の段階から全員で共有しました。しかも、ブッチギリなんだから、これまでHondaが創ったTYPE Rをすべて凌駕しないといけない」。

これを実現するために、エンジンをはじめ、マニュアルトランスミッション、サスペンションなど多くのパーツを専用に開発。栃木、鷹栖(北海道)といったテストコースや鈴鹿サーキットでその性能を磨き、ニュルブルクリンクにテスト車両を持ち込むというプロセスで開発が進められたのです。

「誤解しないでほしいのは、我々にとってニュル(ニュルブルクリンクの略)のラップタイムはひとつの目標であって、それが全てではないことです。エンジン回転の伸び感やハンドリング、トラクション性能の確認。また、電子制御ダンパー “アダプティブダンパーシステム” のセッティングに始まり、BASE/+Rモードのテストが本来の目的でした。性能だけでなく感性で感じる部分も含め全てにおいて妥協のないクルマ創りを目指していましたから」。

“VTEC TURBO”という選択


エンジン開発責任者 河野龍治

技術的なハイライトとして真っ先に挙げられるのが、新開発の2.0L直噴VTEC TURBOエンジン。これまで超高回転型の自然吸気(NA)エンジンを搭載してきたことを考えると、TYPE Rにとっての大きな転機といえます。

「最初からターボでいこうと考えていました。NAエンジンで出力を追いかけていくには限界があります。NAエンジンで出力を上げる手法としては、排気量アップや高回転化、多気筒化などがありますが、排気量アップや多気筒化はエンジンの重量が増え、車体への搭載性に影響が大きい。高回転化は、低中回転領域での燃焼性能が悪化し、排出ガスなどの環境性能が両立しない。そこで、出力性能と環境性能を両立するためにターボの搭載を提案したのです。もちろん、TYPE Rとして、過給エンジンでの高回転化にもこだわりました」(エンジン開発責任者 河野龍治)

こうして搭載が決定したのが、2.0L VTEC TURBO。さまざまな技術を詰め込んだ最新のエンジンです。

「FF車世界最速を達成できる高出力と、低速のレスポンスをいかに両立させるかにこだわりました。その実現のため、今回初めて排気VTECを採用し、吸排気VTCとのバルブタイミングの最適化により、低速のレスポンスを向上させています。 ターボチャージャーについては、VTECとの組み合わせを前提にタービンサイズを選定し、タービンイナーシャを大幅に低減し、レスポンスの向上を図っています。また、エキゾーストポートを上下に包み込み接触面積を増やす事で、冷却性能を大幅に向上させた2ピースウォータージャケットやクーリングチャンネル付アルミピストン、軸部にナトリウムを封入するエキゾーストバルブの採用により、燃焼室内の冷却性を向上させ、ノッキング性能を大幅に改善し出力アップを図っています。さらに、直噴システムや吸排気VTC、DBWを最適にコントロールすることで、目標の性能を達成しました」(河野)

さらに研究所は、開発の途中で大きな決断を下しました。エンジンの設計を見直したのです。

「最初の目標では300psを超えていませんでしたが、それでもFF車世界最速を達成する実力は十分にありました。でも、パフォーマンスを含めてライバルを凌駕する、圧倒的な性能を持つエンジンにしたいと思ったのです」(河野)

これぞブッチギリの精神! 300ps未満だった最高出力は310psに引き上げられました。

最終的には全く別のエンジンを開発することになりました。プロジェクトの途中で、まったく違うエンジンを創るなど前代未聞。これをやると自分の首を絞めるばかりか、他の開発メンバーにも負担を強いることになる。それでも、出力性能として圧倒的なポテンシャルを持たせ、TYPE Rとして、もっと速いところを目指したかったので、皆を説得しました」

さらに、TYPE Rのエンジンとして、徹底的な軽量化にも努めたといいます。

「超軽量セミカウンター8ウェイクランクシャフトや部分強化コンロッドによるレシプロ部品の大幅軽量化、部品ごとにmg単位で軽量化を図ることで、出力比で2.0Lターボクラス最軽量のエンジンになっています。1.6Lクラス同等以下のウェイトです。

310ps、400Nmという高性能に対応するため、組み合わされるマニュアルトランスミッションも専用に開発しています。


マニュアルトランスミッション担当 塩野弘和

「このクラスでは世界最軽量の高トルク対応6速マニュアルを開発しました。ハイパワーに対応できる耐久性、高速走行時の油温対策など、課題はたくさんありました。また、シフトフィーリングもかなりこだわって創り込みました」(マニュアルトランスミッション担当 塩野弘和)

もちろん、このマニュアルトランスミッションを開発するうえでも、FF車世界最速というのがテーマであることに変わりはありません。

「トランスミッションでもニュル最速ラップに貢献しようと思いました。実際、ニュルではシフトだけで数秒タイムが縮められます。そのためにミッション内部のシンクロの容量を稼ぐなどして、スムーズにシフトができるようにしました。ヘリカルLSDも1周数秒くらい短縮する効果がありました。さらにニュルに最適なギアレシオを設定しています」(塩野)

ところで、ニュルブルクリンクはエンジンやトランスミッションにとってとても過酷なサーキットです。これまでの開発とは異なる配慮が必要になってきます。

「たとえばエンジンにかかるG。他のサーキットでも横Gは入りますが、ニュルでは縦横Gが一緒に入ります。その状況で油圧を維持するのが問題になってきますので、ニュルでの走行状況をエンジンテストベンチで再現し、実際の走行状況と同じようにエンジンにGをかけるテストを行い、油圧が確保できるような仕様にしました。ふだんの開発ではそこまではやりませんよ」(河野)

マニュアルトランスミッションにも特別な対策をしていたといいます。

「油温対策として、ケースに冷却用のフィンを追加し、また、オイルクーラーも付けました。FF車でマニュアルトランスミッションにクーラーがついているなんて滅多にありませんね。また、縦横Gでミッションオイルの油面が変わるので、ブリーザーの性能向上が大変でした」(塩野)

それでも、ニュルブルクリンクのテストではトラブルに見舞われたといいます。

「クラッチが滑るという報告がありました。最初は熱のためにクラッチフェーシングがダメになったのかと思いました。しかし、トランスミッションを開けてみたら、ブリーザーからオイルが噴き出し、それがクラッチに回っていたんです。正直、そこまでの油温やGは想定していなかったんです」(塩野)

そんなトラブルを乗り越え、FF車最強のエンジンとクラス最軽量のマニュアルトランスミッションが完成しました。

「途中でエンジンを変えたにもかかわらず、目標を達成できたのは、やはり皆のTYPE Rへの“想い”のおかげ。NAとはまったく違う加速性能に仕上がっていますので、ぜひ高回転まで回して、パワーの伸びを感じてほしいと思います」(河野)

非日常を演出


ステアリング担当 高井章一



インテリア設計担当 鶴田晃弘

インテリアには、フロントシート、メーターパネル、ステアリングホイールなど、TYPE R専用デザインのパーツが数多くあります。ここでもTYPE Rらしさを追い求めました。

「TYPE Rだから、非日常を演出したいと思いました。このステアリングホイールも専用のデザインです。ベース車両用とはグリップ部の形状も違っています。3時と9時の握り部分は職人がこだわって削り、この形に辿りつきました。そして、レザーも最上級です。一番触れている時間が長いところですから、お客さまが乗り込んで触ったときに、スポーツカーの昂ぶりを感じられるようなものを目指したかった。せっかくの新作なので、これからのベンチマークになるようなものを創ろうと頑張りました」(ステアリング担当 高井章一)

また、フロントシートはホールド性だけでなく、ヒップポイントの高さをギリギリのところまで攻めたといいます。

「ヒップポイントをいかに下げるか。ここは本当に苦労しました。先代でも専用の“Honda R specシート”を開発しましたが、ヒップポイントは数mm下げるに留まりました。今回は車両性能の進化も踏まえ、先代のシートを大幅に進化させた “Honda TYPE Rシート”を開発することにしました。そして、乗り込んだ瞬間からクルマとの一体感が得られるよう、ヒップポイントをベース車両に対して20mm下げることにしました。ただ、センタータンクレイアウトを採用するシビックはフロントシートの下に燃料タンクがあるので、シート全体を下げるわけにはいきません。クッションパンの採用と、シートパッドの薄型化や配合最適化などで、まずは15mm低いヒップポイントのシートを造りテストしてみたのですが、それには誰ひとり満足しませんでした。そこから5mm下げるのは至難の業でしたが、パンを吊るワイヤーの位置を見直すなど、コンマ1mmの世界でやり繰りして、なんとか目標の20mmを達成しました。実際出来上がってみるとこれが絶妙で、TYPE Rにふさわしいドライビングポジションが得られたと思います」(インテリア設計担当 鶴田晃弘)

インテリアを設計するにあたっては軽量化にもこだわったといいます。

「インテリアでTYPE Rの走りをどう後押しするかというのは難しいんですが、『インテリアといえども軽量化で貢献できるんだ』ということを皆と共有しました。目に見えない部分ですけど、皆で一生懸命頑張りました。また、私はエアコンも担当しましたが、従来の固定容量コンプレッサーではなく、可変容量コンプレッサーを採用しています。固定容量コンプレッサーでは走行中にON/OFFを繰り返すため、そのたびにエンジンのパワーが奪われ、走りに影響が出ます。そこで、コンプレッサーのON/OFFではなく、容量を連続的にコントロールするコンプレッサーによってその影響を小さくすることができました。おかげで、“ラウンドアバウト(環状交差路)”を抜けるような場面では気持ちよく加速できると思いますよ。しかも、クラッチ付きの可変容量コンプレッサーを搭載しましたので、完全にOFFにすることも可能です」(鶴田)