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エンジニアトーク:シビック TYPE R 2017

「TYPE R」が持つ圧倒的な走りの悦びを
もっと多くの方々に届けたい、知っていただきたい

柿沼 秀樹

シビック TYPE R 開発責任者 柿沼 秀樹

入社以来、歴代TYPE Rの開発を目の当たりにしながら、私自身も複数モデルのTYPE R開発に携わってきました。なかでもシビック TYPE RはHondaを愛する多くの方々に手が届くスポーツモデルとして登場し、注目され続けてきました。しかし、これまでのTYPE Rは高い運動性能を手に入れるのと引き換えに日常的な性能を犠牲にしていたともいえます。

先代のシビック TYPE Rでは最高出力300PSオーバーの強力な2.0L VTEC TURBOエンジンを搭載。ドイツ・ニュルブルクリンクで7分50秒というFFモデル最速* 記録をマークしましたが、公道を走るクルマの基本性能という観点で開発の余地が残されていたのも事実です。

6代目シビック TYPE R ではベースモデルも含め、シャーシ性能を大幅に進化させました。その結果TYPE Rはドイツ・ニュルブルクリンクで7分43秒の新記録を達成しました。

新型シビック TYPE Rは、ただ速いだけでなく、あらゆる環境が待ち構える公道を走るクルマとして意のままに操れ、満ち溢れた気持ちでどこまでも駆け抜けることができるスポーツモデルです。その意味では、Hondaが本当に作りたいと思うクルマの象徴ともいえるでしょう。

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「私がHondaに入社したのが1991年。その翌年に"R"の文字が与えられた初のモデルであるNSX タイプRが誕生しました。そして1995年にはインテグラ TYPE Rがデビューし、間もなくシビック TYPE Rも登場します。Hondaが好き、スポーツモデルが好きという若い人たちにも手が届くTYPE Rが、この頃初めて誕生したのです」

  • 初代NSX タイプR [1992]

    初代NSX タイプR [1992]

  • 初代インテグラ TYPE R [1996]

    初代インテグラ TYPE R [1995]

  • 初代シビック TYPE R [1997]

    初代シビック TYPE R [1997]

6代目シビック TYPE Rの開発をとりまとめた柿沼秀樹は、自分がHondaの技術者として生きてきた足跡と重ねるようにして、TYPE Rの歴史を語ってくれました。

柿沼 秀樹
「ただし、TYPE Rの系譜には、常にある種の制約がつきまといました」

と柿沼。

「NSX タイプRは業界の自主規制により、エンジン出力がベースモデルと同じ280PSでしたが、これは世界のトップクラスに位置するスポーツカーの水準から比べれば物足りないものでした」

「NSX タイプRに続いて登場したインテグラ TYPE RやシビックのTYPE Rも、誰もが手軽に買える大衆車をベースとしていたため、高性能を得るために不必要なものは削り取る、すなわち日常的な快適性は捨てなければならず、結果としてできあがったのは『ナンバーをつけたレーシングカー』のようなものでした」

「ただ、走る楽しさや操る悦びといったクルマの根源的な価値をしっかり備えたクルマだったと思います」

当時のTYPE Rを柿沼はこう振り返ります。

「ですから、Hondaが好きで、スポーツカーが好きな若者たちは、そんなTYPE Rを大歓迎してくれました。しかしそれ以外の方々にとってTYPE Rが選択肢となることはほとんどありませんでした」

そうした一種のくびきから解放される上で起点となったのが、先代にあたる5代目シビック TYPE Rでした。

「目標として『ドイツ・ニュルブルクリンクでのFFモデル最速* 記録の更新』が掲げられました。このモデルで初めて、世界水準の速さを持つシビック TYPE Rを開発することになったのです」

5代目シビック TYPE R [2015]

5代目シビック TYPE R [2015]

こうして最高出力310PSの2.0L VTEC TURBOエンジンが誕生。ホイールサイズも19インチと"世界水準"で、長い加速区間やアップ&ダウンの連続するドイツ・ニュルブルクリンクにおいて、同カテゴリーで最速となる初めてのTYPE Rが完成しました。

「7分50秒という、当時のFFモデル最速* 記録はマークできましたが、自分たちとしてはクルマとしてのパッケージングやプラットフォームのポテンシャルに限界を感じていました。言い換えれば、エンジンパワーやタイヤのグリップ力を世界水準としたことで、かえって足りない部分が浮き彫りになったともいえるでしょう」

今回誕生した6代目シビック TYPE Rは、ベースモデルも含め、世界水準のダイナミック性能を目標に掲げて開発され、その結果、パッケージングやプラットフォームなどが大幅に刷新されました。

6代目シビック TYPE R [2017]

6代目シビック TYPE R [2017]

柿沼 秀樹
「これで、自分たちが本当に作りたい新しい時代のTYPE Rが完成できると直感しました」

と柿沼。こうして開発された6代目シビック TYPE Rは、ドイツ・ニュルブルクリンクで7分43秒の新記録を達成するとともに、かつてないグランドツアラー性能や日常性をも備えるスポーツモデルとして完成したのです。

「6代目シビック TYPE Rは、ただ速いだけでなく、あらゆる環境が待ち構える公道を走るクルマとして、意のままに操れ、満ち溢れた気持ちでどこまでも駆け抜けることができるスポーツモデルです。その意味では、単にシビックのフラッグシップモデルというだけでなく、Hondaが本当に作りたいクルマの象徴だと私は考えています」

ただのいいクルマではダメ
気持ちが昂ぶらなければTYPE Rの称号は与えられません

TYPE Rはただのいいクルマではダメなんです。たとえば、ステアリングを握っていると気持ちの昂ぶりが感じられて、クルマから『もっと速く走れるよ』と誘いかけてくるようでなければ、TYPE Rとは呼べません。

新型シビック TYPE Rでは、大径化した4本のハイグリップタイヤの性能をすべて使い切ることを目指しました。そのために、ホイールベースやトレッド、前後重量配分など車両諸元の見直しから始まり、リアサスペンション形式の変更、前後コンプライアンスステアの適正化などを行いました。

その結果、ドライバーに絶対的な安心感をもたらし、ただ速いだけでなく、長距離ドライブでさえも楽しめる新時代スポーツカーとしてのTYPE Rが完成しました。

後藤 有也

サスペンション・可変ダンパー
後藤 有也

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「サスペンション、ステアリング、エンジン、トランスミッションなどの性能を高めるとともに、それらを1台のクルマとして仕立て上げるのが自分の役割です」

新型シビック TYPE Rで操縦性や安定性のとりまとめを担当した後藤有也はそう語ります。

「ひとつひとつの部品が第一級の性能を有していることはもちろんですが、それらを組み合わせて1台のTYPE Rというクルマを作り上げることを、開発中はもっとも重視してきました」

サーキットを走る6代目シビック TYPE R [2017]

サーキットを走る6代目シビック TYPE R [2017]

では、TYPE Rとはどんな性格のクルマなのでしょうか?

「ドライバーは常にクルマと対話しながら運転をします。このとき、クルマはドライバーの意思に対して正確に、そして俊敏な応答ができなければ、気持ちのいい運転はできません」

そうした思想を原点としながら、運転する悦びを極限まで追求したクルマがTYPE Rであると後藤は訴えます。

「ただのいいクルマではダメなんです。TYPE Rは、独自の世界観を持っていなければいけません。たとえば、ステアリングを握っていると気持ちの昂ぶりが感じられて、クルマから『もっと速く走れるよ』と誘いかけてくるようでなければ、TYPE Rとは呼べません。新型TYPE Rはドライバーの意思に対して素直に反応してくれるだけでなく、クルマ側の意思もダイレクトにドライバーへ伝えてくれます」

新時代に相応しいTYPE Rを作り上げるため、開発チームはまず基本となるパッケージングの見直しに取り組みました。

「先代よりもホイールベースを伸ばし、前後のトレッドを広げ、タイヤを235/35R19から245/30R20にサイズアップしました。さらに前後重量配分をリア寄りにしたうえで、リアサスペンションをトーションビーム式からマルチリンク式に改めました」

こうした変更のすべてには、ひとつの思想が貫かれていたようです。

「新型TYPE Rでは、4本のハイグリップタイヤが持つ性能をすべて使い切ることを目指しました。そのためには、加減速や操舵入力時、さらには路面入力に対する姿勢変化を適正化し、4輪に適切な荷重をかけることが最も重要なのです」

パッケージングの見直しによって、クルマの基本性能を向上させたうえで、開発チームはTYPE Rとして新たな高みを目指す方針を固めます。

「これまでのTYPE Rは、ステアリングを少し切っただけでも『こんなに曲がるんだ!』、アクセルを少し踏んだだけでも『こんなに加速してくれるんだ!』という驚きをもたらしてくれました。新型ではこれらに加えてクルマの基本性能のひとつである安定性を高めることと、ロードホールディング性能を向上させることで、ドライバーに絶対的な安心感を与えるクルマ作りを目指しました。ドイツ・ニュルブルクリンクでのテストや、アウトバーンを始めとするリアルワールドでの走り込みを繰り返し行ってきたのは、クルマの無駄な動きを徹底的に排除することが目的でした。そうすることで、いかなる状況でもドライバーに絶大な安心感をもたらし、長距離ドライブでさえも楽しめるTYPE Rに仕上げることができました」

車内からの走行シーン

こうして、いままでにない"懐の深いTYPE R"の姿が見えてきたわけですが、最後に新時代TYPE Rの決め手となったのが、減衰力可変ダンパーや電動パワーステアリング、アジャイルハンドリングアシストなどの電子制御デバイスでした。

「先代TYPE Rにも可変ダンパーシステムは採用されていましたが、新型では先代よりも減衰力可変幅の広い可変ダンパーを採用しました。さらに、新たに専用開発したHondaオリジナル制御ロジックとの組み合わせにより、高いボディモーションコントロール性能と抜群のロードホールディング性能を両立しました」

こうして、新型TYPE Rはシャーシの基本性能向上に加え、最新の電子制御デバイスとの組み合わせにより、新時代スポーツカーとして新たな世界を手に入れたのです。

あらゆる環境下で、歴代TYPE Rを越える
究極のハンドリングを目指しました

タイヤが適切に路面へ接地していなければ、クルマは曲がらず、加減速もできません。サスペンションはタイヤの持つ力を最大限発揮させるために重要な役割を担います。新型TYPE Rは、リアサスペンション形式をマルチリンク式に変更するとともに、フロントサスペンションのロアアームをL字形へ変更することで、操縦安定性と乗心地性能を高い次元で両立しました。

あらゆる環境下で、どこまでもハンドルを切ることができ、アクセルをどんどん踏んでいける。そうした深い安心感を味わえるのが新型TYPE Rの特徴です。

かつてのTYPE Rは、スポーツカー好きな若者たちのクルマでしたが、新型TYPE Rはあらゆる方々にドライビングの楽しさを知っていただけるクルマに仕上がっています。

池谷 和浩

サスペンション・タイヤ
池谷 和浩

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「あらゆる環境下でダイレクトで良く曲がり、コントロールしやすい。従来のTYPE Rが持っていた価値を更に高め、新型TYPE Rでは安心感と日常的な快適性の向上に注力しました」

そう語るのは、新型TYPE Rの操縦安定性と乗心地性能をとりまとめた池谷和浩です。

「先代は歴代TYPE Rの延長線上にあって、サーキットで走れば『よく曲がる』『ダイレクトだ』『コントロールしやすい』といったことが明確に感じ取れました。では、安心感と日常的な快適性はどうだったかと問われると、率直にいえば不十分なところがあったと思います。そこで、新型TYPE Rでは安心感と日常的な快適性の向上を前面に打ち出して開発することにしました」

池谷はまずサスペンション形式の見直しを行いました。

「タイヤが適切に路面へ接地していなければ、クルマは曲がらず加減速もできません。そこで、タイヤをいかに接地させるかという観点からサスペンションを開発することにしました。まず、フロントには先代と同様にジオメトリーの最適化が容易なデュアルアクシス式のストラット・サスペンションを採用しました。ロアアームはA型からL型に変更することで、ひとつひとつのブッシュの役割を明確にし、操縦安定性と乗心地性能の両立を図りました」

「次にリアサスペンションの形式は新たにマルチリンク式としました。先代のトーションビーム式では、ひとつのコンプライアンスブッシュで操縦安定性と乗心地性能を受け持つ必要があります。TYPE Rとして求められる高い操縦安定性を確保するためには、ブッシュを硬くする必要がありますが、その反面、特に段差乗り越し時の乗心地性能が犠牲となってしまいました。 そこで新型TYPE Rでは、4本のアームでタイヤを支えるマルチリンク式を採用しました。このサスペンションは操縦安定性能に必要な横剛性は2本のロアアームとアッパーアームが担当し、乗心地性能に寄与の高い前後方向はトレーリングアームが受け持ちます。これにより、各ブッシュの役割を個別に設定できるので、操縦安定性と乗心地性能を両立できるとともに、ジオメトリー設定の自由度も格段に高まります」

  • デュアルアクシスストラットサスペンション(フロント)

    デュアルアクシスストラットサスペンション(フロント)

  • マルチリンク式サスペンション(リア)

    マルチリンク式サスペンション(リア)

サスペンション以外の足廻り部品で改良点はあるのでしょうか?

「サスペンション以外では、まずタイヤは先代の235/35R19から245/30R20へサイズアップし、構造/パターンなども変更することで、コーナーリングパワーを上げました。次にホイールは新たに高剛性材を採用することにより、軽量高剛性化を図っています。また、足廻り部品の性能向上に合わせて、Bodyは重量増となる部品追加での補強ではなく、効率的に高剛性化が出来る接着剤を開口部とサスペンション取り付け点へ重点的に追加しました。その結果、先代のTYPE Rと比較し、特に捩り剛性が大幅に向上しました」

  • タイヤの性能向上

    タイヤの性能向上

  • ボディの剛性向上

    ボディの剛性向上

こうした数々の改良を重ねることで、新型TYPE Rはどのようなクルマに仕上がったのでしょうか?

「あらゆる環境下で、どこまでもハンドルを切ることができ、アクセルをどんどん踏んでいける。そうした安心感をドライバーに積極的に伝えようとするのが、新型TYPE Rの特徴です」

なぜ、新型TYPE Rの開発チームは安心感と日常的な快適性を重視したクルマ作りに取り組んだのでしょうか?

池谷 和浩
「新型TYPE Rは日本だけでなく世界中に輸出されるグローバルモデルです。このため、これまでのスポーツカー好きな若者だけでなく、あらゆる方々がお買い求めになることも想定しなければいけません。そこで今回は安心感と日常的な快適性を重要なテーマと位置づけて開発を進めてきました」

デュアルアクシスストラットサスペンション | テクノロジー図鑑デュアルアクシスストラットサスペンション | テクノロジー図鑑

あらゆるシーンに対応できる多面性が
新型TYPE Rの奥深さを象徴しています

新型TYPE Rは、サーキット走行では従来のTYPE Rと同様に楽しめるハンドリングを有する一方で、一般道では快適で扱い易いハンドリングを目指しました。

まず、運転する悦びを追及するためには究極のダイレクト感が必要でした。そのために、ステアリング系部品の剛性を適切にバランスさせることを目指しました。

そのうえで、ステアリングのグリップ形状にこだわり、小指まで回り込むことの出来るデザインとし、制御性の向上を目指しました。このグリップ形状は、デザイン部門の協力を得て自らモデルを削って作り上げました。

新井 範正

ステアリング
新井 範正

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「スポーツカーといえばダイレクトであることが大前提です。新型TYPE Rも"究極のダイレクト"を目指して開発しました」

そう説明するのは新型TYPE Rの開発でステアリング領域を担当した新井範正です。

ステアリング・タイヤ全体部品図

ステアリング・タイヤ全体部品図

「私が開発に関わったのは、ステアリングホイールに始まって、ステアリングコラム、ステアリングギアボックス、そしてタイロッドとタイヤにつながるまでの一連の部品です」

と新井。

「ドライバーがダイレクトだと感じるためには、各部品の剛性が適切にバランスされていることが重要になります。構成部品のどこか一部でも剛性が不足していると操舵力の変曲点ができ、ダイレクトに感じられなくなります。今回は、こうした基本的な部分の見直しから着手しました」

ただし、ダイレクトであることだけが求められたわけではないと新井は考えます。

「新型TYPE Rは、サーキットでのスポーツ走行を従来のTYPE R以上に楽しめるハンドリングにする一方で、一般道では快適で扱い易いハンドリングを目指しました。そういった、あらゆるシーンに対応できる二面性ないし三面性を持っているところが、新型TYPE Rの奥深さでもあります」

こうした多面性を手に入れるうえで、見逃せない役割を果たしているのが[COMFORT]、[SPORT]、[+R]の3段階が用意されたドライビングモード切り替えです。

「先代のTYPE Rにもベースと[+R]という2段階のモード切り替えがありましたが、新型TYPE-Rでは、新たに[COMFORT]を追加し、GT性能を更に高めました。快適で扱いやすい[COMFORT]モードを追加したことにより、体感的に倍くらいの変化代があるように感じられるでしょう」

そのうえで、サーキット走行を楽しむドライバーたちのための工夫も施されました。

ステアリングホイール

ステアリングホイール

「サーキット走行では通常、レーシンググローブを装着します。ただし、グローブをはめるとステアリングをしっかり握るのがより容易になるため、同じ操舵力、保舵力でもインフォメーションが薄くなったように感じられる場合があります。こうした問題を解消するため、新型TYPE Rでは電動パワーステアリングのアシスト量を緻密にコントロールすることで、ダイレクトなインフォメーションと軽快なハンドリングの両立を図れるように仕上げました」

「もうひとつ、注力したのがステアリングホイールのグリップ形状です。ゴルフやテニス等の世界では、小指から薬指でしっかりとグリップできるとクラブやラケットが制御しやすくなるといわれます。この考え方に基づき、新型TYPE Rではステアリングホイールの3時方向と9時方向を握ったとき、しっかり小指まで回り込むことのできるデザインとし専用設定しました。この形状は、デザイン部門の協力を得て、自らモデルを削って作り上げました」

誰にでも扱いやすいマニュアルトランスミッションを
目指して開発しました

運転の自由度が圧倒的に大きいマニュアル・トランスミッション(MT)を新型TYPE Rにも採用しました。

ただし、MTモデルはシフトレバー、クラッチペダル、アクセルペダルを的確に操作しなければいけないので、MT車の初心者にはハードルが高いともいえます。そこで考え出されたのが、ギアチェンジ時に自動的にエンジン回転数をあわせるレブマッチシステムで、これがあればいつでもスムーズで素早いギアチェンジができます。

また、シフトやクラッチは剛性感のあるフィールに仕上げたほか、シフトレバーは左手を自然と下ろした場所に配置されているように綿密に検討を行いました。

中村 明

ミッション性能
中村 明

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「これまでの歴代TYPE RはすべてMTを搭載してきました。新型でもこの伝統を継承し、MTを採用しました」

トランスミッション開発を担当した中村 明はそう語りますが、MTモデルの魅力とは、いったいどのようなものなのでしょうか?

中村 明
「オートマチック・トランスミッション(AT)モデルに比べると、MTモデルは運転の自由度が圧倒的に大きい。つまり、自分の思い通りに運転できる。これがMTモデルの最大の魅力だと思います」

一方でMTには弱点もあると中村は認めます。

「運転の自由度が大きいだけに、操作する対象が多いため、一般的に運転は難しいといえます。クラッチを踏んでシフトレバーを操作するだけでなく、その間にエンジン回転数のコントロールもしなければいけません。もちろん、運転のスキルが高いドライバーにとって、これらは操る悦びに通じるものですが、MT車の初心者や『これからドライビングを勉強する』と考える人たちにとって、MTモデルはむしろ自分の思いどおりにならないクルマだったといえます」

そこで考え出されたのが、Honda車として初採用となるレブマッチシステムでした。

「クラッチペダルを踏んでシフトレバーを操作した際、レブマッチはエンジン回転数を自動的に制御します。つまり、ドライバーはエンジンの回転数あわせから完全に解放され、いつでもスムーズで素早いギアチェンジができるようになるのです」

レブマッチシステム

ただし、その開発には多くの苦労が待ち受けていたようです。

中村 明
「ドライビングは十人十色、一人ひとりが様々なクセを持っています。そうしたクセにすべて対応するのが容易ではありませんでした。また、なかには5速から2速にシフトダウンしてエンジンをオーバーレブさせてしまう人もいれば、逆に低い回転数でクラッチをつないでエンジンをストールさせてしまう人もいます。そういった方々に正しいドライビングのヒントを与えるため、たとえばオーバーレブさせてしまいそうな状況ではレブマッチの動作を一時的に停止し、シフトしにくい状況を生み出すアイデアを盛り込みました」

改良の手はギアボックス自体にも及びました。

「クルマを操る悦びがMTモデルの最大のポイントなので、シフトフィールやクラッチフィールには当然のように改良を施しました。特にこだわったのが剛性感のあるフィールやタッチです。また、シフトレバーの位置はドライビングポジションを決めるうえで重要な役割を持っているので、左手を自然と下ろした場所にシフトレバーが配置されているように綿密に検討を行いました」

レブマッチシステム | テクノロジー図鑑レブマッチシステム | テクノロジー図鑑

TYPE Rらしいドライバビリティの継承にこだわりました

TYPE Rは、絶対的な速さだけではなく、走る楽しさを教えてくれるクルマです。

我々開発者は、走る楽しさとは何かを常に考え探し求めた結果、TYPE Rの歴史が創られてきました。

新型シビック TYPE Rは先代のシビック TYPE Rと同様、2.0L VTEC TURBOエンジンを搭載し、エンジン出力は310PSから320PSへと向上させました。また、トランスミッションのローレシオ化により、常用域から最高速において、これまでにない加速性能を手に入れることができました。さらに、走る楽しさを追求すべく、フライホイールの軽量化と合わせ、エンジンの応答制御の見直しを行うためドイツにおいて徹底的な走り込みを行っています。

新型シビック TYPE Rはドライバビリティを高次元で実現する新たなTYPE Rへと進化しています。

松谷 駿

加速性能
松谷 駿

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「歴代TYPE Rはただ速いだけでなく、ドライバーとクルマが素直に対話できる楽しさを教えてくれました。新型シビック TYPE Rは、その楽しさを更に追及すべく、エンジン性能を全面的に見直しました」

そう語るのは、動力性能領域を担当する室課に所属する松谷 駿です。新型シビック TYPE Rの加速性能やドライバビリティの開発に携わりました。

エンジン性能曲線

エンジン性能曲線

「歴代TYPE Rは、アクセルペダルの踏み込みや戻し操作に対し機敏に反応し、駆動力で回答をします。この走りこそが楽しさであり、私たち開発者が追い求める性能です」

「2.0L VTEC TURBOエンジンは先代のシビック TYPE Rから採用しており、自然吸気エンジンを大きく上回るトルク特性が魅力です。しかし、大きなトルクを取り出す際に発生する過給の遅れがターボエンジンの難しさでもあります。この過給遅れは、素早いアクセルペダル操作を必要とするシーンにおいて、駆動力の発進が遅れ、ドライバーの意思とは異なる挙動へとつながります」

では、その過給遅れを改善するために、どのような対策を行ったのでしょうか。

「フライホイールの慣性マスを25%低減し、駆動力応答性の向上を図りました」

しかし、それだけでは十分に追求したとは言えないと松谷。

2.0L VTEC TURBOエンジン

2.0L VTEC TURBOエンジン

「理由は、加速と減速の駆動力応答性の違いです。特にターボエンジンはエンジン回転領域によって、加速・減速の応答性に差が出やすく、エンジン特性を適切に制御する必要がありました。そこで、幅広い走行にマッチできるよう、ドイツの一般道やアウトバーンにおいて徹底的な走り込みを行い、開発メンバーとも議論を重ね、アクセルペダルの踏み戻しにクルマが答えてくれる感覚を徹底的に追求していきました」

一方で、加速性能の向上にも力を入れたようです。

「新型シビック TYPE Rは、最高出力を先代から10PS向上の320PS/6500rpmとしました。これは、エンジンの排気流量アップと点火セッティングの見直しによるものです。 10PSアップと言うと加速性能の向上は少ないように思われがちですが、実際は中・高回転のエンジントルクを向上させているので、最高速だけでなく、そこへ至るまでの到達時間は圧倒的に短縮されています」

「しかし、一番力を入れたのは、数値では表しにくい常用域の加速性能の向上です。例えば、合流シーンなどでは、その鋭い加速に皆さま驚かれると思います。これは、トランスミッションのローレシオ化により中間加速性能を向上したためです。新型シビック TYPE Rの進化はすべてのお客様に、あらゆるシーンにおいて体感して頂けます」

性能向上の最終確認の場は、ドイツ・ニュルブルクリンクへ移されることに。

「新型シビック TYPE Rの最終的な性能確認を行うためドイツ・ニュルブルクリンク・ノルドシュライフェにて走行テストを行いました。1周のうち加速区間が50%程度あり、コース後半には超高速ストレートが続きます。新型シビック TYPE Rは、この超高速ストレート区間において先代のシビック TYPE Rに対し1秒ほどタイムを短縮し、他の短い加速区間でも先代以上の速度域に到達しています。この結果は、加速性能が幅広い領域で進化した事を示しています」

VTEC-TURBO | テクノロジー図鑑VTEC-TURBO | テクノロジー図鑑

TYPE Rとして制動力の高さはもちろんのこと
トラクション性能も改善できるブレーキに仕上げました

ブレーキ領域ではホイールベースやトレッド、前後重量配分などの車両諸元の見直しと同時にブレーキ配分も見直し、リア寄りとすることで、先代に比べて前のめりの姿勢が緩和され、安心感の高い、減速姿勢を狙っています。

また、減速から旋回に移行する際は減速状態をやや残して前荷重にすることが重要です。そこで、ドライバーがすっとブレーキペダルから足を離しても、ブレーキ系統に微妙に油圧が残る設定とし、安定したコーナリングを実現しました。

さらに前輪の左右で制動力に差をつけることで、コーナリング中のトラクションを改善するシステムも搭載し、旋回性能の追及を行いました。

大村 一剛

ブレーキ・VSA
大村 一剛

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大村一剛はブレーキ領域の開発を担当しましたが、新型TYPE Rのブレーキは単に減速に用いられるだけでなく、操縦安定性の制御にも深く関わっているようです。

「私は主にふたつの面から新型TYPE Rのブレーキ開発に携わりました」

と大村。

「ひとつめは、クルマを減速させるデバイスとしてのブレーキ開発。この面では、前後重量配分などの車両諸元の見直しと同時にブレーキの配分も見直し、リア配分を増やすことで、結果的に先代に比べて前のめりの姿勢が緩和され、一般道からサーキットまで、安心感の高い、減速姿勢を実現しています」

Spec 5代目シビック TYPE R 6代目シビック TYPE R
前後重量配分(Fr/Rr) 65.2% / 34.8% 62.5% / 37.5%
ブレーキ配分 79.3% / 20.7% 72.8% / 27.2%

新旧前後重量配分・ブレーキ配分

「新型TYPE Rのブレーキは、回頭性やライントレース性を高めるアジャイルハンドリングアシストでも重要な役割を果たします。たとえば、何らかの理由でアンダーステアに陥ってしまった場合には、コーナーの内側に位置するホイールに軽いブレーキをかけることで、コーナーの内側に向けてより強くクルマが曲がり込んでいくモーメント(回転力)を発生させ、アンダーステアを相殺します。また、旋回限界付近でのコーナリング中などに左右の前輪にトラクション性能(エンジンの力を路面に伝える作用)の差が出てしまった場合、やはりコーナーの内側に位置するホイールに、軽くブレーキをかけることで反対側の車輪により多くのエンジンパワーを振り分け、結果的に力強いトラクション性能を引き出します。このようにトラクション性能を改善することを『ブレーキによるLSD効果』と呼ぶことがあります。新型TYPE Rでは、ヘリカルLSDの採用に加え、このブレーキ制御を行う事で更なる旋回性能向上を実現しました」

アジャイルハンドリングアシスト作動イメージ

アジャイルハンドリングアシスト作動イメージ

言い換えれば、ブレーキはコーナリング中の様々な局面で大きな役割を果たしているといえるでしょう。大村が続けて説明します。

「私はコーナリングのプロセスを制動、ターンイン、加速の3つに分け、それぞれの段階におけるコントロール性をブレーキによって改善することで、安心感向上を目指しました」

「まず、制動に関しては前述のとおり4輪をバランスよく使うことで安定したブレーキングを実現しました。また、ターンインではブレーキングによって前輪により大きな荷重をかけフロント荷重を作り出すことが重要ですが、せっかくフロント荷重にしてもブレーキペダルからすっと足を離してしまうとクルマのノーズが上がってフロント荷重は打ち消されてしまいます。これを防ぐため、ブレーキペダルから素早く足を離してもブレーキ系統の油圧をしばらく残しておくことで、適度なフロント荷重を残す仕組みを盛り込みました。このようなチューニングを施し、ダイレクトで高い効きと街中でも扱いやすいブレーキ性能を両立しました」

「さらに加速時には前述したブレーキによるLSD効果を活用。圧倒的な加速を実現するとともに、トルク抜けでクルマが不安定な姿勢に陥るのを防ぐことで、安定したコーナリングを楽しめるようにしました」

ブレーキの役割がどんどん拡大するに従い、大村たち開発チームの役割もさらに重要になりそうです。

スタイリングと空力性能の融合のため、細部の形状にまでこだわりました

新型TYPE Rの開発では、デザイン検討スタート時に盛り込まれていた各部のスタイリングモチーフを積極的に空力特性向上のため活用することに注力しました。

フロント周りにおいてはバンパーに刻まれたスリットから導いた気流をインナーフェンダーから排出することにより、乱れやすいフロントタイヤ前の流れをよりスムーズにしています。

リアウィングは従来に対して翼断面形状を見直すことでより良好な空力性能を実現させています。

これらの仕様は実走に近い状態を再現できる最新の風洞(ムービングベルト風洞)とドイツ・ニュルブルクリンクでのテストを経て決められたものです。

町田 健太郎

空力性能
町田 健太郎

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クルマの周囲の流れをコントロールすることで、空気による抵抗を低減して燃費や最高速を向上させ、あるいは空気の力を積極的に利用して車両挙動の安定性に貢献するのが、空力の開発です。現在の自動車開発において日増しにその重要性が高まっているこの分野を受け持ったのは町田健太郎でした。

町田 健太郎
「自動車の空力特性はCD値(空気抵抗係数)やCL値(揚力係数)といった車体形状により決まる空力係数によって表されます。TYPE Rの場合、CL値はマイナスとなり、空気力はボディを路面に押さえつけるダウンフォースとなります。これらの値はステアリングを握るドライバーが直接感じ取るものではありませんが、たとえばCD値が改善されて空気抵抗が減れば燃費性能や最高速度が向上し、またCL値が改善されればダウンフォースが増えて高速走行時の安定性が高まり、それぞれの恩恵を受けることになります。空気力の影響は車速が高い時に顕著となることから、特にTYPE Rのような高速域での運動性能が求められるクルマにおいて空力特性の向上はより重要なものとなります」

「新型TYPE Rの開発では、デザインチームから提示された当初のデザイン案に盛り込まれていた各部のスタイリングモチーフを積極的に空力特性向上に活用し、それらが機能を持ったデザインとなるよう心がけました」

「たとえばフロント周りにおいては、バンパーコーナーに空気を取り入れるスリットが刻まれています。ここから空気を導いてインナーフェンダーから排出することで、乱れやすいフロントタイヤ前の流れをよりスムーズにすることができ、CD値の向上に貢献しています」

各種空力デバイス

各種空力デバイス

「また、新型TYPE Rでは従来に対してリアウィングの製造方法を見直し、より良好な空力特性の翼型を採用しました。さらに、リアウィングの働きを最大化させるためにルーフ後端の形状もベースモデルに対して見直し、これらにより十分なダウンフォースを発生させながら、空気抵抗は最小限に留めることが可能となりました。これらの仕様は形状で1mm、 CD/CL値で1000分の1の単位までムービングベルト風洞テストで調整され、最終的にニュルブルクリンクのテストで決定されたものです」

リアウィング

リアウィング

目指したのは、必要なときのみ心地いいサウンドを
乗員に届けるメリハリある音作りです

スポーツ走行中は迫力あるサウンドをしっかり聞かせる一方、クルージング時には不快に感じられるノイズや振動をできるだけ排除する。新型TYPE Rの振動・騒音領域では、これらを目標にして開発に取り組みました。

この目標を実現するため、エンジン・ミッションを支持しているマウントをTYPE Rで求められる高支持剛性にしながらも振動遮断性能を両立できる様、配置とバネ設定にこだわりました。そのうえでボディに適用する遮音材や制振材の位置や量を最適化するとともに、排気系ではサイレンサーをチューニングしました。

さらに、開発の過程でエンジン・レスポンスを改善する目的でフライホイールが軽量化されたため、エンジンノイズの音量や周波数が微妙に変化。これと調和をとるために排気音をもう一度、見直すという作業も行いました。

松田 修

スポーツサウンド
松田 修

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「私の領域はサウンドで、振動や騒音のコントロールがメインです」

そう語るのは松田 修です。

走行シーン
「クルマの振動は乗員にとっては重要な問題ですが、車外の人々にとってはほとんど影響がありません。一方、騒音は車内にいる人にとっても車外の人にとっても関係があるほか、各国で定められた法規に適合していなければいけないという難しさもあります」

「新型TYPE Rはグローバルモデルなので、世界中の様々な地域で販売されることを想定しなければいけません。そのうえで、サーキット走行中であれば迫力あるサウンドをしっかり聞かせる一方、クルージング時のことを考えれば不快なノイズや振動はできるだけ遮断したくなります。そこで、必要なときのみ心地いいサウンドを乗員に届けるとともに、不要・不快な騒音や振動はできるだけ伝えないようにするメリハリが重要といえるでしょう」

そうした目標を目指し、エンジン・ミッションを支持しているマウントの高支持剛性化と振動遮断性能を両立できるように設計し、そのうえでボディに適用する遮音材や制振材の位置や量を最適化するとともに、排気系では車内外でTYPE Rらしい排気音を出すサイレンサーの設計に取り組みました。

「ところが、開発の途中で排気系の見直しを迫られました」

と松田。

松田 修
「エンジン・レスポンスを改善するため、トランスミッション内に組み込まれたフライホイールと呼ばれる部品を軽量化することになりました。ただし、これはエンジンと一緒に高速回転するパーツのため、重量がわずかに変更になっただけでも発生するエンジン回転数とノイズの音量や周波数は微妙に変化します。新型TYPE Rもこの例に漏れず、フライホイールを変更するとこれまでに聞こえなかった音が聞こえるようになりました。そこで、変化したエンジン回転領域の排気音をやや大きめに設定することで新たなノイズをカバー。全体として調和のとれたサウンドに仕上げることができました」

全体写真
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* Honda調べ

~ シビック TYPE R 2017 ~

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