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ワンチームで作り上げたスーパーカブは段ボール製 見る者をあっと言わせた 工業高校 美術部ボーイズの一心不乱<

「高校生が段ボールで実物大のスーパーカブC100を作った!」との情報をいただき、四国の八幡浜市へ向かいました。制作したのは愛媛県立八幡浜工業高校の美術部3年生のみなさん。見たことのない段ボールのスーパーカブに圧倒されました。作り上げた6人のメンバーと顧問の仙波勝利先生に話を伺いました。

■なぜバイクだったのでしょう?
「1年生2年生と段ボールを使っていろいろ作りました。今年は集大成の意味合いもあってレベルを上げよう、乗り物にしようということになり最初はクルマを計画したのです。それが、より緻密な技術を追求しようとバイクになり、個別に作るのではなく全員で1台を作り上げることになりました」
と語るのは今回の共同制作のチームリーダーの尾神君。
■どうしてスーパーカブになったのですか?
「不思議なのですが、『バイクならスーパーカブでしょう』とごく自然に思いました。バイクに詳しいわけでなく、降って湧いたようにスーパーカブが降りてきたのです」
地元で「八工」(はちこう)と親しまれている八幡浜工業高校。サッカー部も有名ですが、自立型ロボットによる国際的なコンテストであるWRO(WORLD ROBOT OLYMPIAD)高校生の部で2回の優勝を達成しています。また、園芸部が育てるバラは、毎年5月に学校で開催されるバラ展では地元のみなさんが行列を作るほどの人気です。
インタビューに答えてくれた美術部の3年生のみなさんと、顧問の仙波先生、校長の入川先生。
全校生徒209人(2019年12月現在)をまとめる入川和男校長先生。段ボールのスーパーカブを目にして「アクセルを開ければ動き出しそうだ」と感嘆したそうです。 サッカー部の試合でお忙しい中、井上教頭先生にも取材の便宜を図っていただきました。ありがとうございました。
■実物大ということですが、設計はどのようにしたのですか?
「最初はどこから手をつけていいか解りませんでした。先生から『ペーパークラフトを参考にしたら』と提案があり、パーツをスケッチするように段ボールへ描きました。どうしても難しいボディラインなどは拡大したコピーを張り合わせて写し取りました」
スーパーカブC100の特徴的なデザインを見事に再現。実物を一度も見ていないのに、ここまでリアルに作り上げたのは豊かな創造力とたしかな技術力、そして6人のチームワークの結晶です。
■絵心に長けた美術部ならではの工程ですが、
とても根気のいる作業ですね
「段ボールに描き糸鋸で切っていく。手分けしてやったのですが、夏休みに入ると同時に始めて、夏休みが終わるまで切っていた気がします。バイクに詳しくないのでパーツの形はこれでいいのか悩んだり、自分の思っていた形ではなかったり。全部でパーツは100点以上ありましたからとても時間がかかりました」
■組み立てはどこから始めたのですか?
「僕らは乗り物の形がないと燃えないタイプなのでまずタイヤを作りました。ところがスポークも段ボールなのでなかなか強度が出ないのです。クラフト紙を木工ボンドでしっかり貼ると、乾燥後の強度が上がるなど、作り直したり補強をするうちに制作のヒントを得ていきました。最終的に全体の重さを支えられるまで5回ぐらい作り直したと思います」
■段ボールの調達方法と選び方などはあるのでしょうか?
「学校の古紙置き場から持ってきたり、近くの商店街に協力していただきました。段ボール箱を畳んだ状態で50枚以上は使ったと思います。段ボールには、紙の質や厚さの違いのほか、中身の波状のクッションの部分が1層のもの2層のものなどがあります。インターネットでスーパーカブC100の写真を見つけ出して、どの段ボールがどのパーツに合うのか、硬さや加工のしやすさ、見た目などを考えながら選んで使いました」
ハンドル、タイヤ、アクセル、ブレーキレバー、キックペダル、チェンジペダルなどは可動します。シートを開ければもちろん給油口。ちゃんとキャップも外せます。
■段ボールの加工の方法について教えてください
「濡れた雑巾で表面に水気をゆっくり浸し、柔らかくして形を変えていきます。一度乾かして再度浸すとより変えやすいことも、やっているうちに解ってきました。段ボールにはタテとヨコの折り目の違いがあります。斜めに折り込まれる形状では凸凹になったり、クシャッとシワシワになったりします。そこでクラフト紙をその上に貼ることで表面を滑らかにしたり、重ねて厚みを増して整えたりしました」
■張り子細工の要領にも通じていると思いますが、
接着はどうするのですか?
「最初はグルーガン(ホットボンド)を使っていましたが、何かのタイミングでパキっと剥がれることがあります。色々な接着剤を試して木工ボンドが最適でした。段ボールもクラフト紙も元々は木ですから、合っているのでしょうか。クラフト紙も貼り込んだ上から湿った雑巾で押さえつけているうちに強度が上がったりすることも解りました。狙いどおりの形をキープするために『お前ココ持ってて』みたいな感じで成形したりもしました」
■組み立てる上で一番苦労した点はどこですか?
「平面を立体にする難しさでしょうか。段ボールからパーツを切り出した時も含めて、デフォルメを常に意識しました。現車がありませんから、写真を見て頭にデザインを焼き付けたらイメージを頼りに組んでいきました。ハンドル、レッグシールド、フロントフォークがとても難しく、時間がかかった部分でした」
■可動する部分の仕組みを教えてください
「タイヤやハンドルの軸は、筒状のボール紙や木の棒などを組み合わせています。ブレーキレバーやアクセルなどは、ピアノ線で内側から引っ張ってスプリングバネに繋いでいます。サスペンションも、筒の内側にバネを入れて伸縮するようにしました。持ち上げた時にスポっと抜けてしまわないように、筒の内側に紐を通してスプリングと結んであります」
■完成までどれくらいかかりましたか?
「約3ヶ月です。夏休みは教室に冷房がなかったので(現在増設中)汗をたらしながら頑張りました。二学期が始まってからは就職面接の練習や就職活動で忙しくなり、中間試験や体育祭で担当する大きな絵を描く作業も入り、進行が滞った時期もありました。最後の数週間は毎日遅くまで作業しました。組み上がったのは文化祭当日の朝です」
■制作の工程でいちばん印象に残っていることは?
「作り始めはなにをやっているのか解らないところがありましたが、だんだん形が見えてくると、モチベーションが上がりました。作業していても相手が何を求めているのか、お互い伝わってくるようになりました。何が得意で何が不得手だとかも解るようになり、そこから絆がより深まった気がします」
■ワンチームの境地ですね
「僕らはウマが合うのだと思います。ひとりのイメージを複数に伝えることはとても難しいと思うのですが、以心伝心というか一心同体というか、いつの間にか共通する意識のなかで自然と手を動かすようになっていました。時にはイライラすることもありましたが、ケンカになることなく作品が出来上がったのだと思います」
■県の文化祭でも話題となり、
優秀賞に選ばれたそうですね。
「賞をいただいたことはとてもうれしいです。それ以上に、みんなでここまでやれた、作り上げた達成感がいちばんの収獲ではなかったでしょうか」
なぜスーパーカブだったのか。みんなは「不思議ですがごく自然に」と語りました。バイクにそれほど興味はなかった少年たちでも、意識することなくイメージしたスーパーカブ。そして、誰が見てもスーパーカブを、段ボールで見事に作り上げました。少年達のやる気と情熱が作り上げたことは改めて言うまでもありませんが、水や空気のごときスーパーカブの存在感の大きさにも、改めて気づかされました。
2019年11月14日から17日に開催された第33回愛媛県高等学校総合文化祭に出品したスーパーカブC100は、美術・工芸部門 立体工芸の分野で優秀を獲得しました。
レッグシールドも取り外し可能なので、見えない部分ながらスーパーカブの特徴のひとつでもあるパイプフレームや、横置きエンジンなども、一切手を抜くことなく、きっちりと作り込まれています。
ワンチームで作り上げたスーパーカブ。一生忘れない大きな思い出になったのではないでしょうか。
三好和樹君
段ボールを切ったり、大きな部分を担当。特に、リーダー尾神君が何度やっても上手くいかなかった部分(サスペンション)を仕上げるなど、誰かの不得意分野を補う役割が光った。
「パーツを切り出して組もうとすると思っていたものと違う。そこからどうやって形にできるかが大変でした」
津田幸星君
県の文化祭に出品する大作を制作するため忙しかったが、部長として皆のサポート役として活躍。担当は掃除専門ですと力説するのは、美術部部長としての余裕?
「出来上がってくるにつれて、なんだか凄いものを作っているのだなとテンションがあがりました」
尾神久遠君
WRO世界大会に出場した兄(卒業生)と同様、WROチームを兼部しながら今回のプロジェクトリーダーとして活躍。1年時から段ボールでリアルにこだわった制作をしてきた。乗り物、とくに働く車が好き。
「頭のなかで立体感を掴んだら、そのイメージを描きながら作っていくタイプです。細かい部分は写真を見ながら詰めました」
大野良幸君
1年時から文化祭用のゴム銃の部品を糸鋸で作り続けた糸鋸職人。木材部分の加工のほとんどを担当した。メンバー中で唯一の原付免許保持者でスクーター通学。
「糸鋸を使って切っていくのですが、丸い部分や小さな部品はとても難しかった。修業です」
田辺翔(かける)君
県の文化祭に出品する絵も描きながら、同時にスーパーカブもサブリーダーとして活躍。段ボール切り、クラフト紙を切って貼ったり、表面を滑らかにしていく作業に腐心。
「出来上がってくると、かっこいいな、バイクっていいなと思うようになりました」
平松優生君
生徒会の仕事もしながら制作に参加。持ち前の明るさとコミュニケーション力で商店街で段ボールを調達。
「最初はなにをやっているか解りませんでした。形が見えてきてからが楽しくなりました。尾神はスーパーカブの夢まで見たというぐらい悩んでましたし、みんなで支えなければならないという気持ちになりました」
美術部顧問 仙波勝利先生
「小さいころからもの作りが好きでしたが、ここ(工業高校)に来て、けた違いにすごい人たちに出会えて毎日刺激を受けています。今回の制作では、お互い苦手なところをカバーし、得意な分野で力を発揮するなど、とても良いチームワークだったと思います。バイクの部品の役割など私もおおいに勉強させていただきました」