社会貢献
2010年、「日本中に おいしさと健康、そしてワクワクと笑顔をお届けしたい」という想いから、「グリコワゴン」で全国の子どもたちのもとを巡る活動を続けるGlico(江崎グリコ)。そんなグリコワゴンの2代目が、HondaとGlicoのコラボによってこの春に誕生します。モビリティと食品という、異なる分野の2社が手を結んだ理由から、今後描いていきたい未来の姿まで、車体のデザインに関わった4名に、熱い想いを語ってもらいました。
石河グリコワゴンは「日本中においしさと健康、そしてワクワクと笑顔をお届けしたい」という想いから、2010年に誕生しました。全国を巡りながら笑顔を届け、2011年の東日本大震災後は、被災地にも幾度となく訪問。また、ポッキーでプログラミングが学べるアプリ「GLICODE®(グリコード)」を頑張る子どもたちのもとへ駆けつけお菓子を届けるなど、「子どもたちの成長に寄り添い、笑顔を届ける」ことを使命に活動しています。
今回、2代目グリコワゴンをHondaさんとコラボしてつくることになったきっかけは、2020年の8月にレーシングドライバーの佐藤琢磨選手が「インディ500」で優勝を果たしたことなんですよね。Glico(江崎グリコ)では佐藤選手のサポートをさせてもらっています。
浅井2017年に続いての2度目の優勝でしたね。佐藤選手はHondaのドライバー育成プログラム出身なんですよ。
石河そうですよね。優勝後に記念のムービーをつくったんですが、それがHondaさんの目に留まって、「うちのイベントでも使いたい」とお声がけいただいたのが最初の接点です。
浅井その後、Hondaの社会貢献推進室という部署に、石河さんがグリコワゴンの取り組みをお話いただき、Hondaが共感したことが、後に2社で2代目グリコワゴンをつくることにつながります。ちなみに、ベース車両はSTEP WGN(ステップワゴン)ですが、Glicoさん的に車種はその一択だったんですか?
石河グリコワゴンの活動として、車両にたくさんのGlico商品を積んで、全国各地を訪れています。そのため、車両後部に荷物をたくさん積めること、さらには安全性や環境にも配慮してとなると、ハイブリッド車であるSTEP WGNのe:HEVで決まりかなとは思っていました。
浅井社会貢献推進室を通じて、Honda内にグリコワゴンの活動が広がった。そして、Glicoさんが2代目グリコワゴンをつくるとなった際に、2社でデザインから一緒にやってみようとなりました。ただ、最初は苦労しましたよね。
大塚同じ「コンセプト」という言葉を使っていても、両社の間で受け取り方が違っていたとかありましたよね。
石河依頼にあたってお伝えした「子どもたちの成長に寄り添って笑顔を届ける」というコンセプトで、十分に理解してもらえると思っていたんですが、Hondaさんはその先の「どうしたら子どもたちが笑顔になるんだろう」とか「寄り添うって何だろう」というところまで踏み込んで考えていたのかなと思いますね。
浅井クルマづくりって、世に出るまで4〜5年くらいかかります。ですので、まずお客様のニーズを徹底的に考え、どう使えれば喜ばれるのかまで想定する。でないと5年後、お客様の求めるものと全然違うクルマが出来上がってしまうこともあるんです。
大富部クルマという「モノ」をつくってはいるけど、最終的には体験、「コト」の価値を考えないといけないというか。
大塚逆に、お菓子のパッケージデザインの開発は3カ月から4カ月程度。すごく短い期間でディスカッションを重ねるんです。良い悪いではないのですが、スピード感が全然違いましたね。
浅井確かに僕らは「じっくり派」でした(笑)。「早くしてよ」みたいに感じたこと、ちょっとありましたよね?
大塚は、はい…(笑)。
石河コロナ禍によって、オンラインでコミュニケーションしていたこともあり、話がなかなか進まず。そんな中、2022年の1月に、実際に会って話す機会を設けることができました。
浅井自分としては一度ちゃんと対面で集まって、いわゆるHonda流の「ワイガヤ」※ をしたかったんですよ。それで、Glicoさんに議題をまとめていただき、Hondaの本社で集まることになりました。そこでHondaとGlicoの両社のメンバーを混合にして3グループに分け、「どんなグリコワゴンがいいか」というテーマで、ワークショップ形式で発表し合ったんです。
※ワイガヤ…「ワイワイガヤガヤ」の略で、キャリアや年齢に関係なく誰でも自由に意見を述べられるHondaの議論手法
大塚あれは制作を進める中で大きな一歩でした。Hondaさんの言う「コンセプト」の意味も理解できましたし、対面で話し合うとメモや簡単なポンチ絵(構想図)をお互いに見せ合うこともできるのでどんどん深掘りしていけますし、共創感が高まっていきました。
大富部一体感というか、これから同じものをつくるんだという目標が定まった感じがしましたよね。
石河とはいえ、「ワイガヤ」のようなことはGlicoでもするんですよ。実際に、部門を超えて互いにアイデアを話して生活者理解を深めたり。
大塚でも、やはりお菓子のパッケージデザインの開発は時間的制約がタイトなので、今回のようにワークショップを行う頻度やかける時間には、両社で大きな相違がありましたね。
石河そのギャップを埋める意味でも、この「ワイガヤ」の効果はすごくて。Glicoが描いていた「子どもたちのためのクルマなんだから、子どもたちの夢を具現化しよう」というゴールまでの道筋を、Hondaさんにきちんと共有でき、一致団結につながりました。
大富部大人が自分たちの目線で考えて、いざ子どもたちに見せたら「かわいくない」と言われるのが一番よくないですからね。
石河2代目グリコワゴンを製作するプロジェクトにおいて、「ワイガヤ」を行う直前の2021年末くらいに、子どもたちを対象に「新しいグリコワゴン」のデザインアイデアを募集したんですよね。全国から189点もの絵が集まりました。
大富部子どもたちの作品を見ると、子どもたちの描く絵には共通点があることがわかって。
大塚この絵からは本当にデザインのパワーをもらいました。子どもたちの絵を介して話すことで、一気に理解も深まりましたね。
浅井何度か「ワイガヤ」を重ねて、子どもたちの絵のいいところを集めて、僕が新しいグリコワゴンの絵を描いていくことになりました。
大塚そこからは早かったですね(笑)。
大富部グリコワゴンの造形を担当してくれた、モデルメーカーのSIVAXさんが頑張ってくれたのも大きいです。
大塚ルーフトップに載せているお菓子やアイスなどの造形には感動しました。チョコレートが垂れているのをおいしそうに見せるのは、本当に難しいんです。リアルな立体でこんなにおいしそうに再現してくれて。
大富部ルーフトップに載っているお菓子は、Glicoの実際の商品たち。子どもたちにとっては夢の詰め合わせですよね。ワクワクする感じにできたと思います。
浅井リアゲートを開いたら出てくる「キャラクター」にも注目してもらいたいですね。大きな手から子どもたちにお菓子を配ってくれたり、みんなをカメラで撮影してくれたり、様々な表情を見せながらコミュニケーションを取ってくれます。こちらも初代から大きく変わった点です。
大塚グリコワゴンに付けるハート型のパーツもポイントです。子どもたちの絵に多かったのと、あとは創業時のお菓子(栄養菓子グリコ)の形もハートなので。
浅井ハートの話だと、Glicoさんの創業者(江崎利一氏)が「四角い形じゃ口がちょっと痛い、ハート型だと口当たりがよい」と言って形を決めたという話を聞き、着眼点が素晴らしいなと。そして今も変わらず、子どもたちはハートが好きなんだ、と改めて感じました。
浅井子どもたちの手で好きなようにハートを付けてもらえるため、訪れた先それぞれで、異なるグリコワゴンになるのも面白いですよね。
石河2代目が実際に走行して子どもたちのもとへ向かい始めるのは、この春を予定しています。そして、せっかく今回つながったこの関係性を、グリコワゴンの完成だけで終わらせてしまうのはもったいないですよね。もっと別のところにも波及させていきたいです。
浅井昨年12月にHondaとGlicoさんの2社で開催した「デザイン交流会」も、そんな想いからです。
大富部1回目だったので、まずはお互いの会社や組織、デザインプロセスの概略、お菓子パッケージデザインの概略などを紹介し合い、相互理解をしました。
大塚交流会でHondaさんの「人間中心」という考え方を聞いて、Glicoとものすごく共通していると感じました。同じ志を持つ企業同士、仲間同士だから、ぶれずに進められたのかもしれません。
石河Glicoは「子どもの栄養状況を改善して病気を予防するために、摂取しやすいお菓子として提供したい」という想いから、ハート型のお菓子(栄養菓子グリコ)を発売しました。グリコーゲンが入っているから「グリコ」です。
大富部Hondaも、創業者の本田宗一郎が、奥さんが楽に自転車に乗れるようにとエンジンを付けたところから始まったんです。奥さんのためにやったことが脈々と受け継がれてHondaの今があるので、本当によく似ていると思います。
浅井デザイナー同士の交流って本当に少ないので、交流会に参加したデザイナーはみんな刺激を受けたようです。中にはGlicoさんの新商品を勝手にデザインし始めたメンバーもいて(笑)。
大富部ずっとクルマを描いていると、行き詰まってくることもあるんですよ。そういうときにこうした交流会があれば、「また頑張ろう」と思えたり「ここはGlicoさんのやり方を取り入れてみよう」と、新たな発想に結びつけたりできる可能性を感じました。
大塚お菓子や食品のデザインや企画を考えるとき、モノだけではなくそれが実際に食べられるシーンまではGlicoでも考えているのですが、さらにその先の“コト”のデザインまでを視野に入れているのがHondaさんの強みですよね。モビリティと食品、異なる分野をこの2社なら新しい何かにうまくつなげていけるんじゃないかと思いました。
石河一つの企業の中にいるだけでは気付けないことや思いつかない発想があると思います。今はまだデザイナーだけの交流ですけど、今後はコーポレートブランディングやCSR(企業の社会的責任)の領域でもマッチングできたらと思っています。グリコワゴンをきっかけにして、ここから両社でいい関係性を築いていき、面白い化学反応を起こせるといいですよね。
浅井本当にそう思います。Hondaでも、今の若い社員たちからは「社会貢献活動がしたい」という声がすごく多い。デザインチーム以外の従業員も含めて、まずはグリコワゴンの活動に参加させてもらえるといいなと思っています。
1996年Honda入社。四輪デザインの開発に携わり、2021年からHondaブランドの価値向上のために、広告・宣伝やPR活動などのデザイン訴求を手掛ける。2代目グリコワゴンのデザインを担当。
2021年Honda入社。Hondaブランドの価値向上のために、広告・宣伝やPR活動などのデザイン訴求を手掛けつつ、四輪製品のデザイン訴求も行う。2代目グリコワゴンでは、浅井とともにデザインを担当。
2019年Glico入社。コーポレートコミュニケーション部所属時にグリコワゴン活動を担当し、2代目グリコワゴンの制作を取りまとめる。2022年12月より現職。
2017年Glico入社。デザイン部では「ポッキー」などの商品ブランドのデザインディレクションを担当しつつ、コーポレートブランディングも兼務。2代目グリコワゴンではデザイン監修を担当。