製品 2023.03.20

安全で楽しいバイクをつくり続ける。
時代と共に変化する価値と、変わらない魅力

安全で楽しいバイクをつくり続ける。時代と共に変化する価値と、変わらない魅力
塚本 飛佳留(つかもと・ひかる)

本田技研工業株式会社 執行職
二輪・パワープロダクツ事業本部 ものづくり統括 統括部長
兼 朝霞統括 株式会社本田技術研究所 取締役
塚本 飛佳留(つかもと・ひかる)

1994年入社。テストチームに配属されハンドリングのテスト業務に従事したのち、オフロードモデル全般の開発責任者に。熊本開発部門の初代室長として赴任、タイの研究所に3年駐在したのちに朝霞の研究所に戻り、現在はホンダ二輪・パワープロダクツの開発・生産・購買領域の統括を務める。CRF250Lの購入を検討中。

西田 豊士(にしだ・とよし)

ヤマハ発動機株式会社 PF車両ユニット長
兼 MS統括部長 執行役員

西田 豊士(にしだ・とよし)

1989年入社以来、スポーツバイクの開発を担当し、現在、二輪車開発部門の責任者を務める。プライベートでも生粋のモーターサイクルGUY。愛車は「TRACER9 GT」をはじめ、e-MTB(電動アシストマウンテンバイク)のフラッグシップモデル「YPJ-MT Pro」など。

バイクブームが再燃?移動手段から自己表現ツールへ

───コロナ禍における生活環境の変化もあり、密にならない移動手段としてバイクが注目を集めています。いま、「バイクブーム」は再燃しているのでしょうか。

塚本 塚本

“ブーム”と表現するかは別にして、若い世代がバイクの楽しさを実感し始めていると感じています。再びバイクに乗るようになったベテランもいれば、乗り始めたばかりの若い方もいる。

最近のバイク人気にSNSの影響も感じている 最近のバイク人気にSNSの影響も感じている
西田 西田

私は80年代と今では意味合いが異なると思っています。しかし、自己表現の手段としてバイクで出かける、バイクと一緒に自分を発信するというのが流行ってきているなと感じています。バイクそのものが盛り上がっているというより、自己表現のツールとしてバイクを素材として活用するシーンが盛り上がっているのかもしれません。

80年代のバイクブームを経験した立場から語る 80年代のバイクブームを経験した立場から語る
塚本 塚本

“ブーム”という一過性のものではなく、バイクが持つ魅力がじわじわと浸透し、それが続いているように思います。昔は、「二輪車の事故死者の増加」や「暴走族」など、バイクに対してネガティブな風潮があり、その結果として、高校生に対する「三ない運動」※1が行われるなど、世間からあまりいいイメージを持たれない時代が長く続きました。最近では、アウトドア人気も相まって、女性もキャンプなどのアクティビティーの移動ツールとしてバイクを積極的に選ぶなど、昔と比べてポジティブなイメージが広がってきているように感じます。

※1…三ない運動:交通死亡事故の増加、その中でとりわけ二輪に乗った若者による危険走行行為が問題となり、「免許を取らせない」「バイクを買わせない」「バイクを運転させない」という合言葉で1970年代から広まった社会運動。

西田 西田

私は動画サイトやSNSが好きでよく見るのですが、SNSでバイクのポジティブなイメージを牽引してくれている方たちがいて、その方たちのリテラシーの高さもあり、クリーンなイメージが出てくるようになりました。フォローする方も、「自分もああなりたい」と憧れの気持ちで見ているのかもしれませんね。

──今と昔でユーザーのマインドにどのような変化が生じたのでしょうか。

西田 西田

バイクを危ないものとして避けて通る、はじめから忌避するようなムードが完全になくなったとは言いませんが、リスクのある乗り物だと認知した上で、上手に使いこなしているのではないかとポジティブに捉えています。

塚本 塚本

昔は単にバイクに乗ることを目的にした方が多かったと考えています。最近のユーザーの傾向としては、何かをするためのデバイスやツールとしてバイクを使ってくれている方が増えており、昔より使い方の幅が広がったという認識でいます。

西田 西田

バイクの車両価格がどんどん上がった時期がありましたが、Hondaさんが出されている機種の中には、リーズナブルなものもあれば、カスタマイズしやすいものもありますよね。それらが結果として入り口を広げ、購入マインドがまた上がってきたのではないでしょうか。

塚本 塚本

若い世代をターゲットにした中型クラスは車両価格が上がってしまい、入り口が狭くなった側面があります。ライダーの平均年齢が上がってきていることから、Honda社内でもどうしたら若い方に乗ってもらえるか、議論を重ねてきました。その結果、足つき性や軽さ、乗りやすい特性というのを追求してきたんです。

人気のモデルは?という問いかけに対し「Hondaでいうと国内ではRebel 250は広いお客さまに選ばれています」(塚本) 人気のモデルは?という問いかけに対し「Hondaでいうと国内ではRebel 250は広いお客さまに選ばれています」(塚本)
「YAMAHAだとMT-25でしょう。手の届く価格帯を重視しています」(西田さん) 「YAMAHAだとMT-25でしょう。手の届く価格帯を重視しています」(西田さん)

Hondaとヤマハ、それぞれのバイク哲学

───互いにどんなところに違いや共通点を感じていますか。

西田 西田

Hondaさんならではの概念で、「FUN領域」という表現がありますよね。ヤマハではあまり使わないのですが。

塚本 塚本

Hondaは二輪事業で「FUN領域」と「コミューター領域」という呼び方をしています。

西田 西田

こういうところにカラーの違いが出るのでしょう。ヤマハの場合、FUNというのは“スポーツ”を指します。まずスポーツがあって、その中にFUNがあるという認識です。会社のルーツが楽器メーカーということもあり、楽器を手に入れても、最初はなかなかうまく演奏できません。練習して、ようやくうまく演奏できるようになる。すると音楽がもっと楽しくなる。もっと上級の楽器がほしくなる。それを使いこなすために、また練習する。よりよい音を奏でられるようになる。楽器と同じように、バイクも練習して上手くなる。それによってより楽しくなって、更に上手くなろうと思う。そうやってバイクとともに自分が成長し、高まっていくプロセスそのものが、スポーツなのではないでしょうか。

塚本 塚本

Hondaの基本理念の三つの喜びには、「お客さまの暮らしを豊かにする」という考えが私たちの根底にはあるんですね。創業者・本田宗一郎の考えであり、Hondaの原点とも言える思想です。私たちの中でスポーツは「人生を豊かにする」もののひとつと捉えています。

Hondaとヤマハ、それぞれの違ったよさがある Hondaとヤマハ、それぞれの違ったよさがある

電動化にカーボンニュートラル。バイクはどう変わるのか

───日本政府は2050年までに、温室効果ガスの排出をゼロにするカーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。モビリティ業界もパラダイムシフトが求められる今、バイクは今後どうなっていくのでしょうか。

西田 西田

カーボンニュートラルの主目的は地球温暖化対策だと考えていますが、そのためにできることを考えれば、電動化もひとつの方向性でしょう。電気やバッテリーを作るにあたって二酸化炭素を排出しなくなり、再生可能エネルギーがもっと活用できるようになれば、将来的な完全電動化もあり得ると思っています。
しかし、電動化にはいまだ多くの課題があり、かなりの技術革新が必要だと思います。その間にも、地球温暖化は待ったなしで進行していく。であれば、差し当たってはやはり、豊かな生活を送るために内燃機関の乗り物で移動することが必須な人々もいるでしょうし、内燃機関の楽しみを失いたくない人々もいるでしょう。
そういう方たちが後ろめたさを感じたり、あるいは移動を禁じたりされることがないように、内燃機関の技術開発はまだまだ必要だと思っています。内燃機関の燃費を向上させるという省エネも今以上に重要になるでしょう。

塚本 塚本

Hondaは2040年に世界で販売する四輪車のすべてをEV(電気自動車)とFCV(燃料電池車)にすることを公式に発表しています。二輪車も2026年に100万台、2030年には販売構成比率15%、350万台レベルを電動化していくことを目標に掲げています。だからといって、多くのユーザーに移動の楽しさを届けるというコンセプトは変わりません。それはヤマハさんも同じではないでしょうか。その中で電動化に取り組み、代替エネルギーに取り組み、カーボンニュートラルにも取り組んでいきたいと考えています。

西田 西田

変わっていかないといけないのは“安全”への意識ではないでしょうか。先進運転支援システム(ADAS)普及の影響もあり、四輪車の死亡事故はどんどん減ってきています。一方、二輪車の死亡事故の減少幅は小さい。バイクに乗って「行ってきます」と出かけたら、必ず笑顔で帰ってこないといけません。安全な社会を実現していくために、限られた時間とリソースの中で実現したいことは本当にたくさんある。そんな意味でも仕事の仕方も含めて変えていく挑戦が必要になる。新しいことを生み出すために自らを変えていく、そんな意識を持って取り組んでいます。

塚本 塚本

西田さんがおっしゃるように安全は重要です。Hondaは2030年までに二輪、四輪の自社の製品が関わる交通事故死者数を半減させ、2050年には全世界で交通事故死者ゼロを目指すと発表しました。ASEANでは多くの方がHondaのバイクに乗ってくださっていますが、例えばタイでは交通事故死者数の増加が問題になっています。ハードで対処できる部分を強化して、それ以外にも交通教育のプログラムを提供するなどの解決方法もあると思います。豊かな暮らしを目指して、カーボンニュートラルだけでなく、安全も引き続き強化していきたいと考えています。

──電動化の加速はバイクの世界にどのような影響をもたらすと考えていますか。

西田 西田

電動化によってバイクが面白くなくなるのではないか、という議論については、ユーザーがバイクのどこに重きを置いているかによっても変わってくると思います。せっかく電動という、内燃機関とは異なるマテリアルが目の前に転がっているのですから、逆にこれまでにない面白さが出せる、という風に発想を転換したほうがいいと思っています。電動化によってバイクが面白くなるかもしれないし、面白くなくなるという見方もあるかもしれない。そこで様々な要望に応えるのがエンジニアの醍醐味でもあるわけです。

塚本 塚本

内燃機関の延長線上に必ずしも電動化があるとは思っていませんし、ICE(Internal Combustion Engine=内燃機関)のすべてが電動に変わっていくと決まっているわけでもありません。しかし、電動化で新たなユーザーを獲得する可能性も十分にあると考えています。ICEは何十年とかけて進化し、成熟してきた一方で、海外では様々な企業がEVをつくっています。黎明期の今、我々もまだシェアゼロだと考え、チャレンジャーとしてつくっていかないといけないのです。

安全と楽しさを両立するバイク開発の挑戦は続く 安全と楽しさを両立するバイク開発の挑戦は続く

───動力の変革と合わせて、AIやコネクテッド化などバイクの未来をどのように見据えていますか。

塚本 塚本

AIやコネクティビティは進化していくと思いますが、私個人としては二輪という乗り物はシンプルさが大事だと考えています。暮らしをどう便利にするかを掲げた上で、どういう二輪車がいいのかと考えていくと、シンプルに航続距離が長いとか車体が軽いとかを突き詰めるのが最初にやるべきことでしょうか。

西田 西田

世界中で電気モーターやバッテリーがコモディティ化してきて、モビリティ事業への参入障壁の低さを感じています。コンポーネントで勝負すべきじゃないんだろうな、と。ではどこで勝負するかといえば、バイク全体のパッケージとしての作り込み、ということに尽きると思っています。

塚本 塚本

Hondaとしても、これまで燃費や耐久性に全力で取り組んできたことはバイクメーカーとしての強みと感じています。統合制御ができる部分はただのコンポーネントサプライヤーにはできないところでしょう。

西田 西田

バイクをどう動かすかというところは私たちにしかできないところなので、それを最大限に訴求していく。ヤマハでは三輪車※2も開発していて、オール電化でパッケージ化しやすくなる可能性があります。

※2…三輪車=LMW(Leaning Multi Wheel)。前に二輪、後ろに一輪の三輪レイアウトでバイクのようにリーンさせて曲がることができる。トリシティやナイケンGTなどを発売。

───最後に、バイクを取り巻く環境が目まぐるしく変化していくなかで、Hondaらしさ、ヤマハらしさをどのように打ち出していきたいと考えていますか。

西田 西田

ヤマハらしさは悦楽の“悦”と、信頼の“信”が高いレベルで両立していることです。 “悦”はスポーツにフルスイングしてお客様の成長に合わせるような仕掛けを取り入れたい。インスタントな楽しさではなく、楽器を演奏するように練習して成長しながら楽しむよさを引き出していきたいです。“信”は、Hondaさんのような絶対的な安心感とは違い、期待を裏切らないというイメージです。それらを高い次元でバランスよく成り立たせるのがヤマハらしさだと、これからも信じて疑わずにやっていきたいです。

塚本 塚本

繰り返しにはなりますが、Hondaらしさは生活の可能性を広げて暮らしを豊かにする、ここに注力しているところです。内燃機関、電動化、カーボンニュートラルに向けて、突き詰めると手段は何千何万とあります。ただそのアプローチがどんなに変わっても、根本にある考え方は不変です。それがHondaらしさではないでしょうか。

それぞれの強みを活かしながら新しい時代をつくっていく それぞれの強みを活かしながら新しい時代をつくっていく

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