イノベーション 2023.01.23

【解説】コネクテッドカーの今とその先、“つながる”で変わるクルマの価値とは?

【解説】コネクテッドカーの今とその先、“つながる”で変わるクルマの価値とは?

現在、インターネットへの接続機能を有した「コネクテッドカー」が続々と登場しています。では、実際に“つながる”ことで従来のクルマと何が変わるのでしょうか。コネクテッドによってクルマの楽しみ方や安全性能を大きく変える「コネクテッドカー」の未来をひも解きます。

クルマの可能性を広げる「TCU」とは?

IoTが身近な存在となった現代では、モノとヒトとがインターネットを介してつながることが当たり前になりました。それは、ヒトとクルマの関係にも同じことが言えます。

今や多くのクルマに搭載されている「TCU(Telematics Control Unit)」。Telematicsとは「電気通信(テレコミュニケーション)」と「情報処理(インフォマティックス)」を組み合わせた造語で、通信システムを利用して、クルマなどの移動体にサービスを提供するというもの。そしてTCUは、文字通りそれらを制御するユニットを指します。

1990年代にGPSによるカーナビゲーションシステムが誕生し、地図がなくても目的地へスムーズに移動できるようになりました。それから1990年代後半には、自動車メーカーがコネクテッドカーサービス(Hondaで言うと「インターナビ」)を展開したことで、ドライバーは交通情報などをリアルタイムに取得できるようになり、クルマの利便性が劇的に向上しました。

通信機能を備える「TCU」によって、クルマが外部と双方向につながり、さまざまなサービスを受けられる 通信機能を備える「TCU」によって、クルマが外部と双方向につながり、さまざまなサービスを受けられる

こうした技術は、現代ではさらに先へと進んでいます。以前までは情報などを外部から受け取るだけだったクルマが、クルマから外部(クラウド)へも発信する「双方向通信」が可能になり、より便利でより楽しいカーライフを実現。それは、TCUがあってこその進歩なのです。

TCUを介したコネクテッド技術の発達により、今ではさまざまなことができるようになりました。例えば、旅行先で走行ルート周辺の観光スポットや飲食店をレコメンドしてくれたり、ドライブにピッタリの音楽を楽しめたり、地図機能は自動更新されるため、道路やコンビニ、レストランなどの情報は常に最新の状態です。

また、スマートフォン(スマホ)とつながることで次のようなクルマのリモート操作が可能に。

・スマホをデジタルキーとして、ドアロックの開閉やエンジンの始動ができる ・スマホからクルマのエアコンを操作できる ・ライトの消し忘れやドアロックのし忘れが通知され、離れたところから対応できる

コネクテッド技術でできること コネクテッド技術でできること

さらに、クルマならではの機能としてコネクテッド技術が大活躍するのが、事故などの大きなトラブルが起こったときです。

・エアバッグが開いた際に、自動で緊急サポートセンターに通報される ・事故後オペレーターの問いかけに反応がない場合、クルマの衝突情報や位置情報を確認して、緊急サポートセンターから警察や消防へ連絡が入り、搭乗者の救命をサポート ・急な体調不良や煽り運転などのトラブルに巻き込まれそうになった際には、クルマに搭載されている緊急通報ボタンを押すとコールセンターに通報できる

クルマがコールセンターなどと「つながる」ことでさまざまなトラブルを回避でき、「どこに連絡すればいいの?」と迷うシーンでも、適切な対応が受けられます。

双方向通信ができることで、「データのやりとり」によるサービスも登場しました。その一つが、走行データに基づいた保険です。

「急加速」「急ハンドル」「急ブレーキ」などの頻度から日々の運転がスコア化され、保険会社に共有されたデータが、翌年の保険料に影響するというもの。運転がうまくなれば保険料が割引される上、データに基づいた運転のアドバイスがあり、利用者はお得感を得ながら安全性の向上も。コネクテッド技術の進歩は、利便性だけでなく安全・安心にもつながります。

住みよい街をつくる走りのビッグデータ

外に出て街を見渡せば、そこかしこで当たり前にクルマを目にします。2020年には全世界の四輪車の保有台数が15億3,526万台となり、5.1人に1人が所有している計算に(※日本自動車工業会より)。世界中のクルマがそれぞれ外部とつながることで集積するビッグデータは、社会にとっても非常に価値あるものです。

ビッグデータの活用方法としてわかりやすいのが道路整備。例えば、急ブレーキが多発している見通しの悪い場所があるとします。そこでの走行データが双方向通信によってたくさん集められることで、何が問題なのかが明らかに。

ビッグデータの検証により、走行のじゃまになっていた街路樹を切ったり、注意喚起のための電光掲示板などを設置したりすることで、急ブレーキをするクルマが減らせるかもしれず、事故そのものも減ることが考えられます。

こうした取り組みは、国や自治体、高速道路会社によって既に実施されており、道路整備に役立てられています。また、ビッグデータはそれ以外にも次のように活用されています。

・リアルタイムの旅行時間を表示し渋滞を削減する ・交通事故リスクを分析し、事故削減の施策推進をサポートする ・過去の実績に基づいた避難ルートを検討する ・道路の凹凸検知を行い道路管理の効率化やバイク事故の削減に寄与する ・観光地を回る観光客の細かい動きを把握する

もちろんこれらはビッグデータの活用方法の一部であり、今後もさまざまなことに利用されていくでしょう。コネクテッド技術によって外部と“つながる”クルマは、安全な街づくりや観光地の快適性など、よりよい社会の構築にも役立つのです。

EV×コネクテッドで変わるクルマの価値と「OTA」

カーボンニュートラルが叫ばれる中で、ますます市場を拡大しているEVの進歩にも、コネクテッド技術は深く関係しています。

クルマのさまざまな電子部品を連携し、車両全体のシステムを統合制御するEVの電子プラットフォームはネットワークとの親和性が高く、BEV(Battery Electric Vehicle:電気だけで走行する車両)市場の拡大、さらなる電動化が進めば、一連のコネクテッド機能を制御するTCUの重要性はますます高まります。同時にクルマの価値は、従来の動力性能や乗り心地といったハード面だけでなく、ソフトウェアも重視されてきています。

BEV時代になると必ず必要な「充電」を効率的に行える経路の案内がカーナビで可能に。PU(パワーユニット)・バッテリー制御・データ分析技術により、ドライバーの運転の仕方やルートに応じた最適な運転を提案し、効率的な電力使用・使用頻度のコントロールによってEVの電池を効率よく使うことにもつながります。音楽や映画を含むインフォテインメント(IVI:情報・娯楽の両要素の提供を実現するシステム)領域においても、まだまだたくさんのサービスが誕生するでしょう。

こうしたクルマにおけるソフト面とは、スマホやパソコンにおけるOSのようなもので、つまりはプログラムです。そのためTCUを介した双方向通信によって、アップデートやアップグレードが容易であり、クルマのソフトウェアを無線通信によって更新する「OTA(Over The Air)」と呼ばれる技術が注目されています。

「OTA」によって、クルマでの「楽しい」や「便利」が増加 「OTA」によって、クルマでの「楽しい」や「便利」が増加

2020年11月、道路運送車両法の一部が改正され、OTA技術によるソフトウェアのアップデート・アップグレードを許可する制度が創設されました。従来であれば、ディーラーに足を運ぶ必要があったシステムの修正・更新をOTAで行うことが、日本で法的に許可されたのです。

ソフトウェアがアップデートされると、購入後でもクルマの機能は進化し続けることになります。同時に、ドライバーが好みのアプリやサービスをカスタマイズできるようになるため、クルマのソフト面に自動車メーカーの競争領域が広がることも意味します。

一方で、外部との無線通信によるアップデートが可能になれば、サイバー攻撃によるリスクもあります。現代の自動車メーカーは新たなモビリティ体験の提供を目指しながら、そうしたセキュリティリスクへの注力も求められているのです。

Hondaが描くコネクテッドカーの未来

Hondaは、ここまで紹介してきたことに取り組み、既にその多くを実現しています。その中で注力するのが「安全」であり「安心」です。

2015年に登場した新世代コネクテッド技術「Honda CONNECT」は進化を続け、先にご紹介した「事故の際の緊急サポートセンターへの通報」や「ライトの消し忘れの通知」「ドアロックのし忘れの通知」など、さまざまな安心を提供できるようになりました。

また、クルマを「Honda Log R」(CIVIC TYPE R向けロガーアプリ)や「RoadMovies+」(Hondaが提供するスマートフォン向けの動画作成アプリ)といったアプリと連携させ、ドライブ中だけでなく、ドライブ後に移動を振り返って楽しんでもらえるようなコンテンツも提供しています。

コネクテッドカーの可能性にはまだまだ先がある コネクテッドカーの可能性にはまだまだ先がある

将来的には、コネクテッド技術によって、安全運転支援に必要な高精度地図をリアルタイムに更新するなど、より高い安全と安心を提供していく。Hondaはその上で、移動空間をより快適かつFUNを感じられるように、クルマに乗る前から降りた後までを生活の一部として楽しめるよう、生活の喜びを拡張するサービスを提供していきます。