イノベーション 2021.11.04

「自動車×ビッグデータ」 まちづくり・防災に活かすクルマのデータとは

「自動車×ビッグデータ」 まちづくり・防災に活かすクルマのデータとは

Honda車の走行データが、生活のさまざまな場面で役立てられていることを知っていますか? 都市計画に活用されていたり、幹線道路沿いのファミリーレストランの店舗出店計画にも活用されていたり……。実は、意外なところにも「クルマの走行データ」が活かされています。

Hondaは、クルマにかかわるさまざまな情報を、ドライバーの利便性向上のほか、交通インフラ、まちづくりなどにも活用しています。※1ナビゲーションシステムの技術で世界をリードしてきたHondaは、2017年12月から、「Hondaドライブデータサービス」としてデータを活用した情報分析サービスを提供開始。今回は、こうした新たなサービスで社会をより良くしようと奮闘する、福森穣に話を聞きました。

福森穣

モビリティサービス事業本部
コネクテッド戦略企画開発部
主幹
福森 穣(ふくもり みのる)

2005年入社。システム部門にてIT基盤やアプリケーションの開発運用に従事。2015年から自動車のデータを活用したサービスや地方創生に関わるソリューションの企画から事業化を推進。ドライブデータ活用の先陣役。

乗る人のためだけじゃない。クルマのデータをまちづくり・防災にも

ーーーー 福森さんは、クルマのデータを活用して社会課題に取り組んでいると聞きました。クルマから取れるデータとはどんなものなのか、どういったシーンでそのデータが活用されているのかを教えてください。

ありがとうございます。実は、クルマのデータは乗る人の利便性向上のために活用されているほか、意外なところにも活かされていますのでご紹介します。

まず、クルマのデータとひとことにいってもデータの種類はさまざま。走行ルートのほか、急ブレーキ回数、道路の段差などからなるクルマの揺れなど、さまざまなデータがクルマから取得できます。私たちは、そんなデータを、都市計画や交通安全、渋滞解消、防災・減災などに活かしています。

例えば、都市計画がわかりやすいかと。道路工事って、まだまだアナログな方法でデータをとって計画を立てていることが多いんです。見たことある人も多いと思いますが、アルバイトの方が、クルマが何台通ったとか、何分待っているのか、とかを目視でカチカチとカウントする。今もその調査方法が大半です。ただその方法だと、“混んでいること”はわかるけど、“なぜ混んでいるか”まではわかりません。そこしか見てないですからね。一方で、クルマの走行データを活用すると、クルマの流れまでわかるので、混雑の理由がわかるようになります。理由次第で、新しい道路を作るのがいいのか、ちょっと迂回路に誘導すればいいだけなのかなど、混雑解消に向けた的確な打ち手が打てるようになります。クルマの流れがわかるというのはデータの大きな価値ですね。

福森穣

ーーーー急ブレーキ回数やクルマの揺れなどの車両データはどういったものに活用されているんですか?

車両データの活用は、まさにモビリティメーカーならではのもので、安全対策などに活かされています。移動ルートの情報はスマホからも取れますが、こういった急ブレーキや揺れの情報などは車両からしか取れません。

たとえば、急ブレーキ多発箇所のデータを抽出して対策を進めた事例があります。調査を進めた結果、急ブレーキの原因は、街路樹が生い茂っていて交差点の見通しが悪かったり、一本道でドライバーが気づかない間に速度を出しすぎていたりしていたことがわかりました。そのときは対策として、街路樹の剪定や速度抑制のための路面標示の設置などを実施しました。

(Before/After)

車両データを活用すると、起こってしまった交通事故件数からではなく、事故手前の急ブレーキなどの件数も含めて、工事計画を立てられます。道路整備にも予算に限りはあるので。発生事故件数だけではなく、潜在リスクも含めて、優先順位を付けられるのも大きな利点だと考えています。

もうひとつ、クルマのセンサーが検知した“揺れ”のデータの活用もしています。クルマを運転していると、何かを踏んだのか、道路に穴が空いているのか、車両が揺れることがありますよね。こういった道路のひずみって、クルマだとそこまで気にならなくても、バイクだと致命的な事故につながることがあります。特に、高速道路では大きな事故につながりうる。なかなか巡回検査だけでは対策しきれない部分もあるので、こういった事故を未然に防ぐためのデータ活用も進めています。

こうした取り組みは、四輪車と二輪車どちらも持っているHonda だからこその安全への取り組みだと思っていますし、また、Hondaがやるべきことだとも思っています。

劣化した道路は危険が伴う(イメージ) 劣化した道路は危険が伴う(イメージ)

Hondaは、2050年に全世界で、Hondaの二輪車、四輪車が関与する交通事故死者ゼロを目指していますが、車両のハードの進化だけでできることは限りがあります。クルマの機能の進化と共に、教育活動を通じた意識改善、また、こういったインフラ整備が必要であり、私たちはまさに、自治体や企業と連携しながら交通インフラを整えて、交通事故を減らしていく活動をしています。

データで見えるもの、目で見るべきもの

ーーーー 都市計画、交通安全と様々なところに使われているんですね。Hondaのこうした走行データの活用はいつから始まったのでしょうか?

サービスとしての提供を開始したのは2017年ですが、14年前の2007年からデータを活用した取り組み自体は始まっています。例えば、大きな災害が発生した際には、被災地域へ支援に向かう方々のスムーズな移動を支援するために、被災地周辺の通行可能道路の情報を無償公開しています。2011年3月の東日本大震災では、震災翌日の3月12日午前に公開するなど、データを活用して、社会課題解決に少しでも貢献できるように取り組みを行ってきました。

東日本大震災でのインターナビによる取り組み「通行実績情報マップ」(イメージ) 東日本大震災でのインターナビによる取り組み「通行実績情報マップ」(イメージ)

2007年から活動を行ってきておりますので、データ量はかなり蓄積されてきていて、現在では、Honda車370万台※2のデータを活用しています。Honda車ユーザーのためだけではなく、すべてのモビリティユーザーにとって役に立つもの、社会課題につながるものを提供するのが私たちの仕事です。

ーーーー データって本当にいろんな可能性を拡げてくれるんですね。データを活用していくにあたり、福森さんが大事にしていることって何でしょうか?

データは私たちにたくさんの気づきを与えてくれます。ただ、私が大事にしているのは、「現場での生の声」ですかね。ものづくりもデータ活用も根幹は同じで、本当の答えは現場にあると思っています。お客様と対面して話をして、どんなことに困っているのか、どういうお仕事をされているのかを聞くことを何より大事にしてきました。困りごとの本質を引き出してこそ、本当の課題は解決されるものだと思うので。昔、データ活用関連の展示会にひとりで出展して、3日で1,000人以上の方と話をしたこともあります!もちろん調査会社経由で、データのニーズを分析することもできますが、やっぱり生の声が大切。まさに、現場・現物・現実を重視する“三現主義”。脈々と受け継がれてきたHondaのDNAだと思います。

また、Hondaとしては、基本的に、企業や自治体に対して、施策の意思決定につながるデータを提供するところまでが役目です。ただ、データを渡すだけでは、業務のどこに活かせばいいのかをお客様側が判断できないことも。だからこそ、お客様となる企業や自治体の業務のDX化もセットにして、データを活用してもらえるように企画提案しています。

ーーーー 自治体や行政以外にも、走行データを活用している事例はあるのでしょうか?

実は、データサービスを始めたのは、大手ファミレスチェーンのサイゼリヤさんへの営業がひとつの契機でした。サイゼリヤさんには別件で営業していたのですが、営業資料に、店舗に訪れたお客様がどこから来ているのかを分析したレポートを入れていたんです。それが、マーケティング担当役員の目に留まり、「幹線道路沿いの店舗出店計画をつくるのに使えそうだ、これは面白い」と言っていただけて。このときに、クルマのデータは、従来のユースケースだけではない大きな可能性があることに気づきました。また最近だと、観光サービスなどにも活用を始めています。

目指すは、Honda車が走れば走るほど良くなる社会

ーーーー 最後に、ドライブデータサービスの今後の展望を教えてください。

Hondaの強みのひとつは、データ量です。データを活用していくにはある程度のデータ量が必要で、例えば、100台のクルマが渋滞しているとして、そのうち1台分のデータしか取れないとすると、統計的に成り立たない。クルマがないからデータがないのか、混んでないからデータがないのかわからないので。いま国内自動車数は約8,000万台※3なので、370万台分だと、全体の4~5%くらい。つまり、100台のうち、4、5台はクルマがいる計算になるんで、そうなるとようやく成立するんです。

データ量で考えると、Hondaは、バイクも含めると世界で一番モビリティを持っている会社とも言えます。今後、二輪も通信につながるようになれば、他社にデータ量では負けないと思っていて、そういう意味でも、今後は、東南アジアなどに向けた展開を考えていきたいです。アジアは、二輪事故がまだまだ多く社会問題ですから。現場でお客様の課題をヒアリングし解決策を一緒に考えぬき、データを活用して事故を少しでも減らしたいと思っています。

Hondaのクルマやバイクを多くの方に使ってもらえれば使ってもらえるほど、それが還元されて社会が良くなっていく。知らないうちに「いいことしている」みたいな感じ。そんな世界を創っていきたいですね。

お客様の暮らしが少しでも良くなるように、まずは日本でどんどんユースケースを蓄積しながら、こうしたデータを活用した取組みを世界へと広げていきたいと思います。

※1 「インターナビ・プレミアムクラブサービス利用規約」および「Honda Total Care会員規約」に準拠して、個人情報を含まないデータを収集・活用しています。なお、車両購入時の登録情報と、車両から送信されるデータは紐づけできないように別管理されています。さらに、データは加工および統計処理して、出発地や目的地が特定できない匿名加工情報として扱っています。 ※2 インターナビ・プレミアムクラブ会員、Honda Total Care会員、Honda Total Careプレミアム会員が保有する車両のうち、データを取得できる台数(2021年7月末時点) ※3 国土交通省 調べ(2020年3月時点) ※新型コロナウイルス感染症対策を実施した上で取材・撮影を実施しています。