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2021.10.15

「今が第二の創業期」~経営の覚悟とHondaらしさ

本田宗一郎がHondaを創業したのが、1948年のこと。それから73年目となる2021年4月より社長を務めているのが、 三部 敏宏(みべ としひろ)。長くエンジン開発の現場にいたエンジニア出身でありながら、社長就任会見で 「脱エンジン」と受け止められる発表をしたことでも話題となった三部。就任6か月が経過した今、 Honda Storiesでは、記者発表では見られないその人物像に迫ると同時に、新社長三部にとっての「真のHondaらしさ」 について聞きました。

三部敏宏

本田技研工業株式会社 代表執行役社長
三部 敏宏(みべ としひろ)

1987年Honda入社。 本田技術研究所 代表取締役社長を経て、2021年4月より現職。本田技術研究所では自動車エンジンを中心とした多様な研究開発に携わる。

あえて困難にチャレンジする

ーーーー1987年に入社し、当時のHondaで印象的だったことは。

「自由な会社だな」と思いましたね。「勝負には必ず勝つんだ」「世界初、世界一になるんだ!」というこだわりが、強かった。そこだけはうるさかったですね。今でもその頃に刷り込まれた気持ちがあって、世界をリードしないと達成感はありません。とことん議論して、考え抜いて、よりよいものを生み出そうとする企業風土。それがHondaの原点なんだと思います。

環境対応では自ら進んで高いハードルを選ぶことも珍しいことではなかった。たとえば、どこかの地域で新たな環境規制が策定されることになったとき、Hondaはいくつかの案の中でもより厳しい規制案を「できる!」と判断して受け入れることがありました。

「厳しい規制があっても技術勝負なら負けない」とあえて困難にチャレンジし、他社をリードしていこうとする精神があったからです。とにかく上を目指すんだ、と。

普通は、厳しい規制よりも楽な方を選びますよね。だけどHondaは楽な道を選ばなかった。挑戦を選んだのです。入社して若い頃にそんな様子を見て、「これはすごい会社だな」と思いましたよ。

三部

またあるときは、排出ガス規制が厳しいアメリカに合わせて環境対応すると、「大気汚染はアメリカに限った問題じゃない。地球上のどこでも起こるんだから、アメリカ向けのエンジンを(法規では求められていない)アジアにも出せ」と言う役員がいました。

「世界はひとつだから規制が厳しい国だけで済ませてはいけない」という、広い視野を持った考えですね。厳しい規制に対応するには当然、コストがかかりますが、「社会に貢献するには費用をかけるのもいとわない」というHondaの意思があったわけです。それってすごいことじゃないかな、と。そんな経験を通じてHondaらしさを学びました。Hondaという会社は、昔からそういうことをやっていたんです。

今を「第二の創業期」と称するワケ

ーーーー次に経営者としての想いについて。三部さんの目指す経営者とは。

実のところ、経営トップを目指してきたわけではないんです。でも、どんな経営者になりたいかといえば、“自分が社長でいる間”ではなく、むしろその先を考えています。将来に向けて動かなければいけない。私が退いた後にもHondaが企業として持続できるようにするためには、どうあるべきかを考えています。

目先ではなく、将来への種まきをする経営者でなければいけない。将来へつなげるために、どんな経営をするのか。そして、どう決断していくか。それを明確にしていくことが経営者として大切です。

ーーーー経営トップになって感じている「Hondaの課題」は。

Hondaという会社は、今年で73歳。二輪・四輪という安定した事業を行うレールが、できあがっています。これは、Hondaにとって大きな財産です。ただ、現在直面している大転換期に向かう中では、レールの上を走っているだけではダメで、こうした財産自体が逆に足かせになることもある。今はそこを変えようとやっています。

会社も大きくなってきたので簡単には軌道を変えられないし、頭では分かっていても明日から急に変えるなんてことも無理。変えないといけないと分かっていても一歩も進めない、ということが起きている。そんな中で、新しい領域はゼロリセットして、もう1回ゼロから考える必要に迫られていると思っています。

社長就任会見で、「今が第二の創業期」という話をした理由がまさにこれ。新たな道をつくることは簡単ではないですが、そこをどうするかが課題です。

ーーーー経営トップになって改めて見えた「Hondaの強み」は。

Hondaの強みはやはり、“人”ということ。

「2040年までに電気自動車や燃料電池車の販売比率を100%にする」という目標を発表したときに、「なんでエンジンを捨てるんだ?」と言われました。でも、Hondaはエンジン技術がすごいのではなくて、その技術を作ってきた“人”がすごいんです。

HondaJetができたように、技術を生かす対象は何だっていい。対象は変わっても、世界トップの技術はいつでも生み出せる。いろんな事業に生かしていける。それがHondaのすごさなんです。だから私は、Hondaで働く人たちには絶対の信頼を置いている。グローバルで見てもトップレベルの競争力があると思っています。

Hondaの武器として、何でも生み出せる人材を抱えている。そして、これまでの知見を活用して、世の中が求めるものを生み出す力がある。それこそが我々Hondaの強みです。なかなか、こんなに新しいことにチャレンジできる会社はないでしょうね。

「すべての次世代モビリティにHondaロゴを付けたい」

ーーーー9月30日に発表した新領域へのチャレンジ。挑戦する理由は。

優秀な人材がいることに加え、我々が持っているさまざまなコア技術を整理したことで、新たな領域への展開を考えることができた。決して思いつきでやっているのではなくて、将来の市場規模などあらゆる面で検討して、Hondaの将来の柱になりうるポテンシャルがあると判断しています。

人もコア技術も最大限に生かす。早く展開できたのはこれが理由。陸・海・空の3Dモビリティ戦略とアバターロボットの4次元。技術が揃えば、今回の発表にはなかった海のモビリティも発表しますよ。

9月30日に発表した次世代モビリティのひとつ、電動垂直離着陸機「eVTOL」 9月30日に発表した次世代モビリティのひとつ、電動垂直離着陸機「eVTOL」

すべての次世代のモビリティに必ずHondaのロゴが付いているというのが我々の描いているビジョンです。SF映画に出てくるようなモビリティにも「HONDA」と書いてあるというのを頭に思い描いています。2050年だから、きっと本当にSFみたいな世界になっていますよ。

将来のHondaを作るための壮大なプロジェクトなんです。2050年に始めても遅いんです。HondaJetだって30年かかったんですからね。

ーーーー新領域に挑戦するにあたり、Hondaにとって大切なことは。

こういった挑戦を進めるにあたり、経営としてリスクは覚悟しています。そのうえで、事業を成功させるには、経営者がしっかり責任を取る覚悟を決めることが大切。エンジニアのリスクを減らしてあげなければ、前へ前へと進めることはできません。 自由を与えたうえで、そのポテンシャルを引き出していくのが、経営者のやるべきことだと考えています。最初は「本当にそんなことやっていいんですか?」と聞かれたんだけど、「どんどんやっていいよ!」と背中を押しました。

三部

新領域に関しては、特に若手中心に任せていて、20代のエンジニアも多いですよ。やっぱり最後まで見届けてほしいですからね。次の時代のエンジニアがいろいろな可能性を膨らませていってくれると信じています。

Hondaが“エンジンをやめる”理由

ーーーー社長就任会見での2050年カーボンニュートラル宣言には、「エンジンのHondaが脱エンジン」という反響も。これについてはどう考えているか。

2021年4月23日社長就任会見時の三部 2021年4月23日社長就任会見

目的は「脱エンジン」ではなく、カーボンニュートラルを実現することです。環境負荷ゼロを実現するために、エンジンという我々の功績を使えるなら使いたかった。けれど、10年、20年のスパンで見ると、内燃機関で可能性を膨らませていくのは難しい。ずっとエンジンを開発していたエンジニアだからこそ、わかるんです。どこかで方向を変えなければいけない

社長になる前からそう考えていて、そんな中で社長就任を打診された。これは、改善を試みる絶好のチャンスだと捉えましたね。もちろん、宣言に対して賛否両論あるのは当然で、実際これをきっかけに社内でもいろんなところで議論が始まっている。大いに議論し、考え抜いてもらいたいですね。

また、カーボンニュートラルというゴールは、どこのメーカーも同じ。登る山は同じで、目指す頂上は一箇所しかない。登るルートが異なるだけです。必ず登らなければいけない中で、各社ともそれぞれの得意な方法で登っていけばいい。Hondaはエンジンをやめることだったんです。

ーーーー電気自動車にシフトしていくにあたり、お客さまに選んでもらうために必要なことは。

EV(電気自動車)は新興メーカーでも作れます。だから、他社と同じことをやっても意味がないし、Hondaらしい新しい価値をつくっていく必要があると考えています。ただ単に“エンジンからモーターに代えただけ”ではなく、Hondaならではの新しい価値をEVでやっていきます。

「走る、曲がる、止まる」はもちろんだけど、それだけではなくて、空間価値がこれから重要になっていく。単なる移動手段ではなく、クルマという空間の使い方の可能性が広がります。新しい価値を表現して、それをお客さまに新しいモビリティとして提供していくことが、Hondaらしさじゃないかな。

その具体的な新しい価値はまだ秘密。だって、ここで言っちゃうとね(笑)。構想はありますよ。

ーーーーEVでもTYPE Rのような、Hondaならではのワクワクするクルマを期待していいのでしょうか。

もちろんです。次の時代にも、「クルマを買う」ではなく、「Hondaを買う」と思ってもらえるように着実に研究開発中です

最近で言うと、レジェンドやオデッセイ、NSXなど “やめてしまうこと”が先行してしまった。今のラインアップから繋げてお伝えできればよかったのですが、新しいクルマについてはもう少しお待ちいただければと。必ずそう遠くないうちにHondaらしいクルマを出します。スポーツカーも手の届きやすい価格帯含めて複数の選択肢を考えているので、楽しみにしていてください。

一方で、フラッグシップも必要だと考えています。フラッグシップは、お客さまに楽しんでもらうという役目のほかに、企業として、新しい技術を入れていくために必要になります。

新しい技術というのは、最初はどうしてもコストが高くなってしまうので、それを投入できるフラッグシップを持っていなければ、普及・拡大という夢の実現が難しくなってしまう。レジェンドのようなセダンかどうかは別として、次世代のHondaのフラッグシップは必要だと思っています。必ずやりますよ。

三部

「諦めるな!」事故ゼロ社会への覚悟

ーーーー社長就任会見で、チャレンジのひとつとして「2050年に全世界で、Hondaの二輪車、四輪車が関与する交通事故死者ゼロ」を目標として掲げた。安全領域についてはどう考えているか。

自動車やバイクで人が亡くなることはあってはならないんです。モビリティメーカーとして、その想いが大前提にあります。でも、なかなか技術が追いついてこなかったというのが現実です。

そこで、Hondaは2000年をすぎたあたりから先進安全技術の開発にさらに力を入れ始めました。「CMBS」(衝突軽減ブレーキ)などの最先端安全技術で世界をリードすることはできました。ですが、「広く誰もが安全」という視点で考えると、やはり「普及」なくして理想とする安全は作れないんです。そこは大きく反省をしているところなので、「Honda SENSING」を軽自動車にもつけるなど、普及を拡大させています。

最先端技術の開発と普及の両面にアプローチしていくことで、交通事故死者「半減」ではなく、「ゼロ」を目指していきます。それは社会正義でもあり、我々の考え方でもあり、あえて難しいチャレンジをするHondaらしいところでもあるからです。

もうひとつ大事なのは、安全には「安心」を加えないとダメだということ。事故死者ゼロという意味での安全に加えて、人に安心感を持ってもらえる技術であることが重要です。いくら「安全だ」と言われても、安心して運転できる車じゃなければ乗りたくないですよね? 安全に加え、安心であることが、これから大きな価値になると思っています。

ーーーーHondaは二輪事業も柱のひとつ。二輪の安全についてはどう考えているか。

事故死者ゼロのためには、当然四輪だけでなく二輪の事故を含めて減らさなければいけません。もちろん、そこもチャレンジしています。

二輪と四輪との事故を減らす手段のひとつとして、四輪車のHonda SENSINGで二輪車の検知範囲や認識精度を向上させてきました。しかし、二輪車自体にHonda SENSINGのような複雑で高価なシステムは、向きません。だから二輪車に「私はここにいますよ!」というセンサーをつけて、四輪車で認識しやすくするという開発も研究しています。
これは、二輪と四輪の両方をやっているHondaだからこそ取り組めることだと思っています。

Honda SENSING Honda SENSING

ーーーー衝突軽減ブレーキのように普及した技術がある一方で、なくなってしまった安全技術もある。普及のカギは。

高度な技術開発と、その安全技術の普及のカギは、それを推し進める「経営の意思」だと思います。

新しい技術は搭載される車両の数が少ないために、価格が高くなり、事業を預かっている担当者からすると、赤字になるからやめる、という判断に至ってしまう……。そこで重要になってくるのが、「経営の意思」なんです。

「諦めるな!」と一言いうだけで担当者の気持ちは大きく変わります。諦めなければ、失敗じゃない。その先に、大きな価値が生まれるのです。レジェンドに搭載した自動運転レベル3のシステムもそうでした。事業的には厳しいが、この時代に出す価値があったと思っています。

当然、この分野の研究開発はやめませんし、さらに進化させて新しい価値を作っていきます。

チャレンジの先にあるもの

ーーーー就任会見での、「Hondaらしさ」とは「本質を考え抜いた末にたどり着く価値」、そして「独創性」。具体的には。

かつて、お客さま本位ではなく、単に「世界初、世界一、独創性」だけを目指してしまった時代がHondaにもありました。その時は事業を悪化させるところまでいってしまったことがある。

独創性だけを良しとすると、「他社はやってないからいいでしょ!」となりますよね。しかし、それが果たして本当にお客さまの心に響くかどうかは別の話。

「本当に使う人が求めている価値は何なのか」、そして「それがお客さまに何をもたらすのか」。これを考えに考え抜く。最後は夢にまで出るほど考えるんです。そして、夢の中で「これなら、なんとかなる!」と思いつくほどですよ。

「本質を考え抜いた末にたどり着く価値」を生み出し、さらに「独創性」を加える。これがHondaらしさであり、他社との違いが出せる部分なんです。

ーーーーこれからのHondaを、世の中からどう思われる会社にしたいか。

三部

「こんなのがあったらいいな」とか「こんなことができたらいいな」とか、人の頭の中に浮かぶ夢を実現してくれる会社だと思われたいですね。それによって「Hondaがあってよかった」 「Hondaなら、きっとやってくれる」と思っていただけること。きれいな言葉でいうと「存在を期待される企業」でしょうか。個人からはもちろん、社会からというのも含めてね。

そういう存在で居続けるために、Hondaは常にチャレンジし続けていきますよ。これからもモビリティの世界で真っ向勝負を続けながら、アグレッシブに取り組んでいきます。ご期待ください!

でも、そんなことを考えていると、社長をやめるまでずっと忙しいままだなあ(笑)。

※新型コロナウイルス感染症対策を実施した上で取材・撮影を実施しています。

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