イノベーション 2021.09.20

MaaSでHondaの描く未来とは?自動運転モビリティサービス実現への第一歩がスタート

MaaSでHondaの描く未来とは?自動運転モビリティサービス実現への第一歩がスタート

いよいよ、2021年9月から始まった日本での自動運転モビリティサービスの技術実証。

Hondaはこれまで、クルマやバイク、パワープロダクツといった製品を作ることで人々の移動と暮らしを支えてきました。

一方、時代の流れに伴い、モビリティの在り方も変わってきています。変化に合わせて、MaaS(Mobility as a Service)・モビリティサービスにも柔軟に取り組むために、2020年にホンダモビリティソリューションズ株式会社(以下HMS)が設立。
HMSは、サービスという新しい分野で「移動の喜び」を提供すべく進んできており、そのひとつの挑戦が今まさに動き出そうとしています。

今回話を聞いたのは、HMS代表取締役社長の高見聡と、HMSで働く 朝倉隆太、岩城亮平。
モビリティサービスで向き合う社会課題や、そこにかける想い、そして技術実証の進捗などを語ってもらいました。


代表取締役社長  高見聡

HMS 代表取締役社長
高見 聡(たかみ さとし)

1987年Honda入社。国内の四輪営業現場や、広報、米国現地法人などを経験。2020年、HMS代表取締役社長に就任。

事業企画担当 朝倉隆太

HMS 事業企画担当
朝倉 隆太(あさくら りゅうた)

リクルート、DeNA等のWebサービス会社を経て、2021年HMSに入社。新規事業立上げ経験を活かし、事業企画を行う。

技術実証担当 岩城亮平

HMS 技術実証担当
岩城 亮平(いわき りょうへい)

2006年Honda入社。電動パワートレイン・水素エネルギー領域の開発、電動化戦略・商品企画などを経て、HMSに出向し技術実証を推進。


移動サービスへの新たな挑戦と、創業当初からのHondaの想い

やがて日常になる未来をあなたと。」というビジョンをもって、モビリティサービスを展開するHMS。モビリティサービスにおけるHondaらしさとはどのようなものなのでしょうか。

HMS 代表取締役社長 高見聡 HMS 代表取締役社長 高見聡

高見 Hondaは創業期から、「目の前のお客様は何に困っていて、何を欲しがっているのか」を真剣に考え、モノを作ってきました。HMSは新しい「サービス」を作っていく会社なので、今まで以上に自由な発想とスピード感が必要であると考えています。他方、目の前の人の困りごとに真剣に向き合う姿勢はモノづくりでもサービスでも変わりません。今までのHondaから一歩離れた、さらなる柔軟性を持った会社でありたいと思うと同時に、Honda創業期の思想を受け継いでいきたいとも考えています。

モビリティサービスに取り組んでいる企業はこの世に数多くありますが、長きにわたり二輪、四輪、パワープロダクト製品を作ってきたこと、一人一人のニーズに向き合ってきたこと、そして、安全安心を常に考えてきたことは、Hondaならではの強みであり、私たちのベースです。

ものづくりをしてきた会社だから持っている強みがある一方、サービスを行う上では足りない部分もあります。ただ、それらは協業で補うこともできます。たとえば鉄道会社と手をつなぐことで、街づくりにも携われるようになる、といったようにね。

朝倉 私も、今まで培ってきたHondaとしての土台と、新しいものを作る上で必要なものを貪欲に取っていくという姿勢、どちらも兼ね備えているのが強みなのではと感じています。

事業企画を担当する 朝倉隆太 事業企画を担当する 朝倉隆太

朝倉 HMSには、「やがて日常になる未来をあなたと。」というビジョンがあります。サービスって一過性のブームで終わってしまうものもあるのですが、私たちが作るサービスは、社会に根付かせていく必要があって、最初は“特別”でも、やがては日常に溶け込んで“あって当たり前“と思ってもらわないといけないんです。また最後の「あなたと。」は、本当にそれが誰かの役に立っているのか、困っている人の課題を解決しているのかという視点を常に忘れないという意味ですね。ビジョンにもそんな想いが込められています。

日本での自動運転モビリティサービス実現に向けた初めの一歩

2021年9月に、日本での自動運転モビリティサービスの技術実証がいよいよ開始。米ゼネラルモーターズ(以下GM)と、GM子会社で自動運転部門を担うクルーズとタッグを組み、「クルーズ・オリジン」を活用した自動運転モビリティサービスの日本での展開を目指しています。今回の技術実証は、Hondaのモビリティサービスとしての大きな第一歩目となります。

走行空間を把握するための「地図作成車両」 走行空間を把握するための「地図作成車両」

岩城 先日、技術実証を行う車両がアメリカから日本に届きました。まさにいよいよという感じです。将来的に自動運転車両を走らせるためには、まずは走行空間の把握、つまり地図作成車両を用いた高精度地図の作成を進める必要があります。今まさに9月中に、用意した栃木の試験コースの地図作成を開始できるよう準備を進めています。

また、自動運転システムに対する課題も山積みです。すでにアメリカのクルーズは、2020年にカリフォルニアで120万キロ超の自動運転の実績があり、相当実証は進んでいますが、そこで使用しているシステムをそのまま日本で使えるわけではありません。日本の交通規則、道路標識などにあわせて改善する必要があるんです。今まさに、そういう課題をひとつひとつ乗り越え、国内で安全に走行できる状態まで高められるように進めています。

栃木県宇都宮市・芳賀町での技術実証を担当する 岩城亮平 栃木県宇都宮市・芳賀町での技術実証を担当する 岩城亮平

高見 今後、自動運転車両を走らせたときに、「こんなクルマ乗れない」と皆さんを不安にさせるようなことがあってはいけません。はじめは安全性を社会に示すことが大前提です。安全に走行できるようになれば、人は好奇心に背中を押されて乗ってみたくなるものですよね。そして安全・安心が担保されれば、さまざまな都市や地方の街に導入されて、「私たちの生活がどう変わるのか」という期待感が醸成されていく。今は“安全・安心”とその先の“ワクワク”を作る、一歩目を踏み出したところなんです。

将来の日本での導入を予定している「クルーズ・オリジン」 将来の日本での導入を予定している「クルーズ・オリジン」

朝倉 現在は、無人の自動運転モビリティサービスと聞いて想像する「24時間365日、運転手がいなくても走れるクルマ」といった期待値からは、まだまだかけ離れています。最初にできることは限定的ですが、できることを社会の中で育てていく必要があります。「まだこのエリアしか走れないけれど、自動運転って面白い、また乗ってみたい」と少しでも多くの人に思ってもらえるよう、チャレンジを続けていきます。

移動の前後もトータルで『喜び』に変えていきたい

“安全・安心”と“ワクワク”が両立するモビリティサービスの実現を目指していますが、実現するには都市と地方の地域差など、抱える課題は一つではありません。

朝倉 交通を取り巻く課題としては、交通インフラ整備や運転手不足、高齢者の免許返納などのほか、最近では、小型モビリティ等の登場によって新しい法整備なども必要になるなど本当に様々です。

交通課題と言われると、地方の方が深刻で、思い当たるものも多いとは思うのですが、都市にも小さな課題はあると思っています。駅まで徒歩20分のところに住んでいるけどバスは1時間に3本しかない、バスも電車も満員……といったような、致命的ではないけれど小さなストレスが積もっているかなと。今回のような自動運転モビリティサービスは、都市全体の交通をよりよくできるものだと考えています。

岩城 人間は、そこに行けるという可能性があるからこそ、その先で何かしたいという欲求が出てくるのだと思っています。私は地方出身でして、先日、実家の80歳を超えた祖父が免許を返納したのですが、返納した途端に、祖父の表情はみるみる暗くなってしまいました。生きる楽しみがなくなってしまったようで…。その経験から移動したいときに移動できる手段がある等、行きたいところに行ける可能性があるのは大事なことだなと改めて実感しました。常にどこかに行けるという可能性を、クルマを持つ以外でも与えられるように考えていきたいです。

高見 これまでHondaはクルマのドアを閉めた瞬間から、運転して、目的の場所に着くまでが「移動の喜び」だとし、モビリティの「移動中」を前提とした移動の喜びを提供してきました。でも、実際はクルマに乗っている時間だけが移動ではないですよね。家でプランを立て、移動手段を選び、目的地に到着するという移動の前後も含めてトータルで「移動の喜び」を実現することが大切なのではないでしょうか。クルマを所有する喜びだけではなく、その前後の喜びも「サービス」によって実現していくのが私たちの使命です。

自動運転モビリティサービスへの新しい一歩を踏み出したHonda。サービスに手段が変わっても、人の役に立つことを一番に考えたHondaの挑戦はこれからも続いていきます。

※新型コロナウイルス感染症対策を実施した上で取材・撮影を実施しています。