2021.3.19

e:HEV解体新書(1)
VTECに並ぶ独創のハイブリッド技術 e:HEV。
開発陣にジャーナリストが迫る

モーターとエンジンの「いいとこどり」をしたHondaのハイブリッドシステム「e:HEV(イー エイチ イー ブイ)」。燃費はもちろん、“気持ちよさ”もとことん突き詰めたシステムです。でも、「言葉だけじゃピンと来ない」という声をいただくことも。そこで、Honda Storiesでは、「e:HEV解体新書」と銘打って、徹底解剖してその魅力をお伝えします!第1弾は、モータージャーナリストの石井昌道(いしい まさみち)さんによる技術者との対談。e:HEVを搭載するFIT、ACCORD、ODYSSEYに試乗した上で、開発陣の本音に切り込んでくれました。

e:HEVは、2013年に“世界最高効率”を実現してデビューしたハイブリッドシステム。当時は、「SPORT HYBRID i-MMD」と紹介されていた。エンジンに2つのモーターを組み合わせ、走行状況に合わせてさまざまな走行モードを切り替えることで燃費を向上させるシステムだ。それから8年、どのような進化を見せたのか、その開発の裏側や開発者の声を聞きたくて、Hondaの四輪事業本部ものづくりセンターで、ハイブリッドシステムの開発に携わる3名のエンジニアにインタビューさせてもらった。


石井昌道さん プロフィール

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。幅広い知識を活かし、ジャンルを問わない執筆活動を展開している。また、レースへの参戦も豊富で、ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた近年は、エコドライブの研究、および一般ドライバーへの普及に取り組み、精力的に活動中。

石井昌道さん プロフィール

Hondaのハイブリッドは、どんなコンセプトで作られているのか?

パワーユニット企画管理部の仁木 学(にき まなぶ)さんは、入社してすぐにエンジンのドライバビリティーなど商品性の研究に携わった後、1998年に発表されたHonda初のハイブリッド技術IMAの時代から、ハイブリッドシステムの開発を担当。2005年からは新世代ハイブリッドシステムの先行開発を行い、現在ではHondaのハイブリッドシステム全体の取りまとめを担う役職に就いている、いわばHondaハイブリッドの生き字引だ。

仁木 「IMAはあまりコストをかけずとも大いに燃費改善が図れるシステムでした。当時は十分な性能を発揮して一時代を築いてくれましたが、効率を追い求めていくうちに違うシステムが必要だということになり、そこでe:HEVが考案されたのです」

パワーユニット企画管理部 パワーユニット戦略企画課の仁木 学 パワーユニット企画管理部
パワーユニット戦略企画課の仁木 学
Hondaの初代ハイブリッドシステム「IMA」は、モーター1つで軽量かつシンプルな構造が特長 Hondaの初代ハイブリッドシステム「IMA」は、
モーター1つで軽量かつシンプルな構造が特長

自動車におけるハイブリッドシステムの定義は、複数の動力源を組み合わせたもの。いま存在するのはエンジンと電気モーターの組み合わせだが、その中でも、マイルドハイブリッド・マイクロハイブリッドなど、純粋なエンジン車に対する燃費改善の寄与度や、システムの構造・構成などで、いろんな呼び名があったりするのがややこしい。

Hondaのハイブリッドシステムは、これまでに4種類が発表されており、組み込まれるモーターの数で区別して紹介されることが多い。1モーター式は、1999年発売のインサイトに搭載されたIMAと、2013年に3代目FITへ搭載されたi-DCDで、これらは1つのモーターが駆動と発電の両方を担う。同じく2013年デビューのe:HEV(i-MMD)は、駆動用と発電用でそれぞれ独立したモーターを持っている2モーター式だ。NSXやLEGENDに用いられる3モーター式のSH-AWDは2014年にデビューし、エンジンにつながるモーターのほかに、左右の後輪それぞれに駆動を制御するモーターを備え、驚異のハンドリングを実現した。


一般的に、エンジンを止めてモーターのみで走る「EV走行」ができるシステムを“ストロングハイブリッド”と呼ぶが、その中でも「シリーズ式(直列式)」と「パラレル式(並列式)」に区分される。前者は、エンジンが発電機を回し、その電力でモーターを駆動するシステムであり、後者はエンジンとモーターの双方が状況に応じて駆動するシステム。そして、その両方を兼ね備える「シリーズ・パラレル式」も存在する。

では、e:HEVはなんなのか?

その正体は、低・中速域はシリーズ式ながら、高速域はパラレル式(ただし低負荷に限る)というものだ。こう書くと、なんだか中途半端に思われてしまうかもしれないが、日常に用いる乗用車としては、一つの究極といえるパワートレーンなのだ。

仁木 「ハイブリッドシステムを研究していくうちに、モーターは発進から低・中速域が得意、エンジンは高速域が得意であり、それぞれを上手にいいとこ取りすれば“世界最高効率”という我々の目指すべき頂点に到達できると確信しました」

エンジン車に乗っていると、高速道路よりも街中のほうが燃費は悪いということを、体験的に知っている人は少なくないだろう。街中はストップ&ゴーが多いという不利はあるものの、自分の肉体で歩いたり走ったり、あるいは自転車を走らせる感覚からすると、高速より低・中速のほうがエネルギーをたくさん使うなんて、なんだかヘンだ。

その理由は、モーターとエンジンの得意分野の違いにある。モーターは、電気が流れた瞬間に動き始めるため、ゼロ回転から最大トルク=タイヤを前に回転させる力、を発揮できる。これに対して、エンジンはゼロ回転からアイドリングの1000rpmほどまではトルクがまったくなく、最大トルクは最近の直噴ターボで2000rpm弱〜4000rpm程度、NAだと3000〜4000rpm程度と、その力を活かすためにはある程度の回転数が必要になる。トランスミッションを搭載したエンジン車は、街中などの低速域では低いギアを使うため、エンジンが回っているわりには距離が伸びていかず、燃費が悪くなってしまうのだ。
一方で、シリーズハイブリッドや電気自動車などのモーター駆動車では、たいていの市販車が1ギア(エンジン車のトップギア相当)のみ。低速域でもモーターの回転数通りに走行距離が伸びていくので、エネルギーを効率よく使えている。

ただし、モーターのほうが高速・高回転にいくに従って効率の落ち幅が大きくなってくるのに対して、エンジンは意外なほど粘る。そこに注目して開発されたのがe:HEVというわけだ。

0−80km/h程度の低・中速はほぼモーター駆動、それ以上ではエンジン駆動(低負荷に限る)と役割分担した。さらに突っ込んで見れば、全体効率を考慮してエンジンパワーはさほど大きくなく、ギア比は固定されているから、エンジン直接駆動は低負荷時に限られている。高速域でも一定以上の加速を求めればモーター駆動になる。つまり、高速でもあまりエネルギーを必要としない巡航走行時がエンジン直接駆動の出番というわけだ。

実際に走らせながら駆動の切り替えを観察してみると、70km/h台でもけっこう頻繁にエンジン駆動、正確なHondaの呼び方でいえばエンジンドライブモードになっている。しかも、力が余剰だと判断すれば、すかさず発電してバッテリーに電力を貯め込み、エンジンだけでは駆動力が足りないと判断すればモーターがアシストしてもいる。この領域はエンジンとモーターが協調しているからパラレル式。e:HEVの走りの魅力を語るとき、モーター駆動による力強さやスムーズさ、静粛性の高さなどが比率として多くなるが、実はそこにパラレル領域の賢い効率向上が上乗せされていることも忘れてはならない。Hondaのエンジニアがきっと寝る間も惜しんで考え抜いた“世界最高効率”は、モーターとエンジンのいいとこ取りを究極まで高めることであり、片方が働いているときは、もう片方が休むだけではなく、ときにアシストやエネルギー回生までも行っているというところが賢く、テクノロジーの真髄でもあるのだ。

ところがそういった、状況に応じて頻繁に駆動を切り替えていることに、ドライバーや乗員は気付かない。切り替えによる音の変化やショック、前後へのGの揺らぎなどがまったくなく、ただただ普通に巡航しているだけなのだ。けれども、メーター表示で“パワーフロー”という項目にすると、エンジンとモーターの駆動およびエネルギー回生の状況がリアルタイムに表示され、エンジンドライブモードになると、ものすごく小さいギアのマークが中央に現れる。

仁木 「実はe:HEV開発初期の段階ではそれさえなかったのです。あまりに寂しいと訴えて、開発末期に、そのギアのマークが表示されるようになったのですが」

こういった効率向上テクノロジーはユーザーに誇示するべきものではなく、あたりまえのように人知れず行うのがクールだとは思うが、もう少し誇ってもいいのでは? 興味がない人はパワーフロー表示など選ばないだろうが、自分も含め人間の英知で一滴の燃料も無駄にしない工夫に惹きつけられる者にとっては、大きな表示でわかりやすくしてくれたほうが嬉しい。ここがe:HEVの優れたところであり、もっとアピールしてくれてかまわないのだ。

e:HEVの利点“リニアな感覚”ってどういう意味?

せっかくの機会だから、e:HEVに対する疑問をぶつけてみた。シリーズハイブリッドはエンジンを効率のいい一定回転で運転したほうがいいように思えるが、実はe:HEVは加速時のエンジン回転数の変動が多い。これによって、アクセル開度に応じたエンジンの反応を感じられて、ドライバーとしては気持ちいいのだけれど、効率よりフィーリングを重視しているのか?

仁木 「それは2つの理由からです。一つは、たしかにエンジンを効率のいい一定回転で使えばよさそうではあるのですが、充放電や発電でのエネルギーロスというのが当然のことながら生じています。それならば、そこそこに効率のいい回転数を使いながら、状況に応じて上下させたほうが燃費としてはいいということがあります。それともう一つが、おっしゃる通りフィーリングですね。一定回転ではリニアな感覚になりづらいのです。でも、だからといって効率を無視しているわけではありません」

さらに回答を付け加えてくれたのがパワーユニット開発一部の三木 春彦(みき はるひこ)さん。入社直後はMTのフィーリングなどを担当する部署にいたが、2009年にハイブリッド開発に移り、i-DCDそしてe:HEVを担当してきた。現行の4代目FITでは、e:HEVとのマッチングを図ったという。

三木 「たとえばFIT e:HEVのエンジンで、もっとも効率がいいのは2000rpm前後です。ただ、その回転数では出力はあまり出せません。ドライバーがアクセルを強く踏み込み、駆動用モーターの持つポテンシャルを引き出したいときには、エンジン回転数を高めて出力を出す必要があるのですね。エンジンとモーターをどのように使えば、満足のいくパフォーマンスと効率を両立させられるかを考えて造り込んだのがe:HEVです」

パワーユニット開発統括部 パワーユニット開発一部 小型パワーユニット性能開発課の三木 春彦 パワーユニット開発統括部 パワーユニット開発一部
小型パワーユニット性能開発課の三木 春彦

今回改めて試乗したACCORDはドライブモードを切り替えるスイッチが付いていた。スポーツモードにすると、なかなかに気持ちよかったのだが、どういう制御になっているのだろう。

三木 「アクセル操作に対するモーターの反応をシャープにしています。モーターの実力が高いので、普段の運転ではそこまで必要ないのですけどね。また、ACCORDでは中間加速域(ハーフアクセル程度)のフィーリングを格段に向上させました」

ところで、自動車用語で“リニア”とよく出てくるけれど、改めてどういう意味なのか、フィーリングの専門家でもある三木さんに説明してもらった。

三木 「ドライバーがアクセルを踏み込んだときに、望みにぴったりの加速をするということです。エンジン車よりも反応がよく、低回転からトルクの太いモーター駆動のe:HEVはリニア感を出しやすいのも魅力です」

FITに乗ってみて感じたのは、アクセルの踏み具合に反応する気持ちのいいフィーリング。そこから想像するに、相当に時間をかけて造り込んだと思われるが。

三木 「実は造り込み、という点ではさほど苦労していなのです。それよりも前の段階、強い加速でもリニア感を出すにはどうすればいいのか、という構想には長い時間をかけて、社内での議論も白熱しました。構想さえ決まってしまえば、あとのセッティングはそう難しくありません。システムに落とし込めばe:HEV自身が勝手に最適なコントロールをしてくれるという制御構成になっているのです」

車種の特性に合わせてさまざまなセッティングに対応可能。この車種にはこのフィーリングを出そう、という構想が決まれば、それに合わせて最適な制御ができるので、ドライバビリティーを自由自在に変化させられる。世界最高効率を目指したe:HEVだが、人間の感性に寄り添うための最高のツールでもあるのだ。

三木 「どういうフィーリングにしたいかという構想を練ることには頭を使いますが、それが決まってしまえば、e:HEVは自由度の高い制御が出来ます。もっとスポーティーにしたいと思えば、たとえばシフトアップ時にあえてショック感を出す、逆にコンフォートにしたければスムーズにするなど、いかようにもできます」

FITの目指す“心地よさ”を、ハイブリッドシステムではどう表現?

もともとe:HEVはミッドサイズ以上向けに開発されたものだが、それをFITに搭載するにあたっては相当な苦労があっただろう。モーター設計の担当で、初期のe:HEV、NSXの3モーター、そしてFIT e:HEVの開発に携わってきたパワーユニット開発二部の田村 明香(たむら さやか)さんが語ってくれた。

パワーユニット開発統括部 パワーユニット開発二部大型ドライブユニット開発課の田村 明香 パワーユニット開発統括部
パワーユニット開発二部大型ドライブユニット開発課の田村 明香

田村 「FITはコンパクトなボディーなのに室内が広々としていて、豊富なシートアレンジを誇るパッケージングのよさが持ち味ですからね。それを犠牲にしないようにしつつ、ACCORDから始まったe:HEVを収めるには苦労しました。1.5L直列4気筒エンジンの大きさは決まっていますから、コンパクト化したのはモーターを始めとした電気系がメインです。12Vバッテリーをエンジンルーム以外の場所に移すということも、少しは考えたのですが、それではお客様の不便に繋がってしまいます。あれこれ工夫して、なんとか収まりました」

モーター駆動を基本とするe:HEVは、静粛性が高くスムーズで力強い加速が魅力であり車格を1ランクも2ランクも上げる効果がある。BセグメントのFITも、プレミアムブランドのCセグメントぐらいの上質さだ。

田村「コンパクトにできたことと、FITに見合うコストにできたことも喜ばしいですね。ただ、私としては、ハイブリッドカーはもう特別なものではなく、これからのスタンダードだと思っていますので、車両価格も従来のエンジン車に少しでも近づけたいです。お客さまにエクストラコストを払っていただくだけの価値がある仕上がりではありますが、普段着感覚で乗ってもらえるようにしていきたい。見た目がよかったり、自分の生活に合いそうだなって気に入ったりして選んだら、それがたまたまe:HEVだったっていうようなイメージです。それで運転してみたらなんだか心地いい、ますます好きになっちゃったって思ってもらえたら幸せです

FIT e:HEV HOME (プレミアムサンライトホワイト・パール) FIT e:HEV HOME (プレミアムサンライトホワイト・パール)

心地いいは4代目FITのコンセプトワードでもある。e:HEVもそのようなテイストを意識したのだろうか。

田村「FITは“心地いい”に合わせてサスペンションも従来よりソフトタッチですよね。そこに強力なトルクを誇るe:HEVの実力をフルに発揮させたら、前後方向の揺れが大きくなってしまいます。だから、あまりグイッと加速しすぎないような味付けにして合わせ込んであります。e:HEVはセッティングの自由度が高いので、もっと力強さを強調することだってできますよ。でもそれではいまのFITには合いません。HOMEやLUXEといったラインアップ以外に、たとえばスポーティーグレードを追加してサスペンションも踏ん張るようなものになるのなら、力強さを強調したe:HEVとマッチするでしょうね」

<おわりに>

登場から約8年が経とうとしているe:HEVだが、そのポテンシャルは計り知れない。世界トップレベルの効率を誇るというだけではなく、クルマのキャラクターに合わせて特性を自由に造り込めるという奥深さがあったのだ。個人的には、強烈なイメージがあるVTECと並び称されるエポックメイキングなテクノロジーだとさえ思っている。

仁木「VTECは2つのカムを切り替えることで低・中速域のトルクと高速域の吹き上がりのよさという二律背反を両立させていました。そういった意味ではe:HEVも近いかもしれませんね。シリーズとパラレルを切り替えることで低・中速域が得意なモーター、高速域が得意なエンジンのいいとこ取りをしています。また、低燃費性能とドライビングファンを両立させてもいます。これからも、多くの車種に拡充していきますが、それぞれのキャラクターに合ったドライビングファンを造り込んでいきますので期待していてください」

e:HEVには想像以上のポテンシャルがあるのは確か。特性をいかようにも造り込めることは、最大の武器になるだろう。ただし、自由度が高いということは、それだけユーザーと向き合い、深く考えていく必要があるということでもある。これからも、Hondaが性能的に優秀なだけではなく、ユーザーに本気で寄り添うクルマを生み出していってくれることを期待したい。

※新型コロナウイルス感染症対策を実施した上で取材・撮影を実施しています。

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