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デジタル時代の新たな概念「インダストリー4.0」とは 40周年の本田賞受賞者と、若手従業員によるディスカッション デジタル時代の新たな概念「インダストリー4.0」とは 40周年の本田賞受賞者と、若手従業員によるディスカッション

2020.12.28

デジタル時代の新たな概念「インダストリー4.0」とは
40周年の本田賞受賞者と、若手従業員によるディスカッション

「新しい生活様式」の浸透に伴い、生活のシームレス化が急速に世間で進みました。そんな中、コロナ禍にあっても経済的成長と社会利益が期待できるとして改めて注目されている概念「インダストリー4.0」。その提唱者であるヘニング・カガーマン博士に、2020年の本田賞が授与されています。モビリティメーカーとして、その従業員として、これからの時代に何をすべきだろうか? そのヒントを得るため、Honda各分野の若手従業員たちはカガーマン博士に質問を投げかけました。

本田賞40周年の受賞者 ヘニング・カガーマン博士

「本田賞」をご存じでしょうか。
人と環境に優しい技術である「エコテクノロジー」。そこへ新たな知見をもたらした個人やグループを対象に、その業績を讃える科学技術分野における日本初の国際褒賞※のことです。本田財団が1980年に創設し、以来毎年1件ずつ世界各国の学者たちに授与されています。

※Honda調べ

公益財団法人本田財団

Honda創業者の本田宗一郎と、実弟である本田弁二郎の出資によって、自然環境と人間社会の調和ある科学技術の発展を目的に、1977年に設立された財団。本田賞の主催の他、科学技術分野における将来のリーダーを育成することを目的として始まった奨学制度「Y-E-S奨励賞」を設立するなどの活動に取り組んでいる。

CHILD VISION(チャイルドビジョン)

本田宗一郎は、効率と利益を追求する技術ではなく、人間活動を取り巻く環境と調和を図った真の技術に関して重要性を感じていました。これが本田財団設立のきっかけとなり、その功績を顕彰する本田賞を設定し、今日に至るまで数々の新しい工学概念を広め、技術は人のためにあることを伝えてきました。

現在もその遺志を引き継ぎ、毎年表彰を行っています。

本田財団創設者の本田宗一郎(左)と本田弁二郎(右) 本田財団創設者の本田宗一郎(左)と本田弁二郎(右)

受賞者の中には、青色発光ダイオードの発明でのちにノーベル物理学賞を受賞することになる中村修二博士や、子宮頚がんの予防ワクチンを開発したオーストラリアのイアン・フレイザー博士など、2020年まで41の業績に対し、44人を対象に本田賞を授与してきました。

そして2020年の受賞者であるヘニング・カガーマン博士への本田賞授与式が、オンラインで開催されました。本田宗一郎の誕生日にちなみ、授与式は毎年11月17日に開催されます。

ヘニング・カガーマン博士 ヘニング・カガーマン博士

カガーマン博士は、ドイツのソフトウェア会社にてプロジェクトマネジメント・コントロールを担当。1991年に同社の執行委員に任命された後、98年から共同CEO、2003年からはCEOを歴任。09年から2018年までacatech(ドイツ工学アカデミー)会長、その後現在に至るまでacatech 評議員会会長を務めています。

本田財団は、カガーマン博士が提唱した「インダストリー4.0」が世界に大きな影響を与えたとして、20年の本田賞授賞を決めました。

インダストリー4.0は対コロナの秘密兵器?

カガーマン博士が提唱した「インダストリー4.0」とは一体何なのでしょうか。
別名「第4次産業革命」とも言われる通り、人類がこれまで経験した3度の産業革命に並ぶ大きな変革だと考えられています。

歴代産業革命

最初の産業革命は18世紀後半。イギリスで発明された紡績機や蒸気機関により、これまでの手作業から大幅に生産効率がアップしたのが第1次産業革命。20世紀前半に電力が普及し、統計的手法による科学的管理手法も取り入れられたことにより、生産性や品質が大幅に進歩したのが第2次産業革命。さらに1970年代以降、製造の現場にコンピュータやロボットが導入されたことによる自動化を指して第3次産業革命と呼ばれています。

そしてカガーマン博士が提唱する第4次産業革命「インダストリー4.0」とは、製造と流通・物流・さらにはヘルスケアといった分野が互いにネットワークに接続し、AIやIoT(Internet of Things=モノのインターネット)、CPS(Cyber-Physical System=現実世界のデータをサイバー空間で集約・分析するシステム)を活用。製造業の生産性向上に加え、働く人間のより創造的な業務への集中、労働環境の改善を促すことを目的としている概念です。

CPSでは、集まった現実世界(Physical)データが有効活用される CPSでは、集まった現実世界(Physical)データが有効活用される
出典:戦略的イニシアティブ industrie 4.0」の実現へ向けて. ~Industrie 4.0 ワーキンググループ報告書

もともとはリーマン・ショックの影響で経済危機に陥ったドイツの産業界を建て直すため、2011年にドイツ政府が循環型の生産社会を目指し、主導したことから始まります。そこでカガーマン博士が提言した、ネットワーク・AI・IoT・CPSを活用したコンセプトが、「インダストリー4.0」として発表されました。

今では日本を含めた多くの国々で、この概念をモデルとした設備投資が進められています。

そして2020年。新型コロナウイルスの影響により、世界中でテレワークが格段に普及しました。シームレス化していく社会の中で、インダストリー4.0のコンセプトは、コロナ禍にあっても経済的成長と社会利益を促進するための方策として改めて期待されています。

カガーマン博士、質問があります!

2020年11月18日。感染対策を万全にし、Hondaウエルカムプラザ青山ではカガーマン博士とHonda若手従業員たちとのオンライン対談が行われました。

オンライン対談の様子

対談は経営企画統括部の和田岳弘の挨拶から始まりました。

和田「カガーマン博士、こんにちは。この度は本田賞の受賞、誠におめでとうございます。本日は社内から標準化、生産、開発、人材、コネクテッドといった多岐にわたる人材を集めてまいりました。インダストリー4.0の社会とその先にある社会構造の変化・その課題について議論させていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします」

経営企画統括部 和田岳弘 経営企画統括部 和田岳弘

カガーマン博士「こんにちは、和田さん。本田賞の受賞は大変光栄に思っています。こちらこそよろしくお願いします」

和田「それでは早速ですが、Hondaの従業員から質問をさせていただきたいと思います。まずは国際標準企画課の安田から…」

国際標準企画課 安田直矢 国際標準企画課 安田直矢

安田「カガーマン博士、初めまして。国際標準企画課の安田と申します。まず私からは、インダストリー4.0の構築、その初期段階について博士にお伺いしたいと思っています」

カガーマン博士「安田さん、初めまして。ご存じかもしれませんが、その発端は2008年のリーマン・ショックにさかのぼります。私個人としても、その経済危機への対応策は考えていました。一方で当時のacatech(ドイツ工学アカデミー)が進めていたのがサイバーフィジカルシステムでした」

安田「そこから、どのようにインダストリー4.0を構築されたのでしょうか」

カガーマン博士「以前よりあったモノのインターネット(IoT)、そして新しく構想したサービスのインターネット。その間をサイバーフィジカルシステムで接続する。これにより、経済危機が発生しても競争力を確保できるのではと、私が代表してメルケル首相に提言したのがインダストリー4.0ということです」

安田「それでは、インダストリー4.0に取り組んだのは博士が世界で一番早かったのでしょうか」

カガーマン博士「それはいくらなんでも私を褒めすぎですね(笑)。このプロジェクトには私のようなITを専門とする人間のほか、生産、エンジニア、ビジネスそれぞれに関わる人間たち、そして40名ほどの科学者と…、実に多くの人間が参加しています。私はたまたまそのグループのリーダーだったにすぎません」

安田「ありがとうございます。様々な分野のエキスパートが集まって事を成す、その重要性を感じました」

和田「ありがとうございました。次は生産製造企画課の船戸から、『標準化』について質問させていただきます。」

船戸「カガーマン博士、初めまして。早速ですが、インダストリー4.0のハイライトの1つとして標準化が挙げられると思います。特に工業の分野においては、製品の仕様・構造・規格を統一する標準化はとても重要だと考えています。ですがそういった共通のルールをまとめるのは、国や組織の大小にかかわらずとても大変な試みだと思われますがいかがでしょうか」

生産製造企画課 船戸康弘 生産製造企画課 船戸康弘

カガーマン博士「初めまして船戸さん。今おっしゃられたことはまさしくその通りで、標準化とは決して簡単なことではありません。ですが、それは同時に必要なことなのです。例えば電気自動車であれば充電の場所を考えなければならない。そのためドイツやフランスなどヨーロッパの自動車産業界では標準化というものが求められてきました」

船戸「ドイツではこの大変な試みを進められるような素地や土壌がもともとあったのでしょうか」

カガーマン博士「ドイツをはじめとしたヨーロッパ諸国では、標準化の必要性に追われた自動車産業でそういった経験が結果的に蓄積されました。そのおかげで、インダストリー4.0を比較的すんなりと受け入れられのだと考えています」

船戸「ヨーロッパの中で、特にドイツで機能している理由はあるのでしょうか」

カガーマン博士「何を標準化するのか。そのテーマが最初にドイツ組織に持ち込まれたことが大きいですね。ドイツ政府の高官レベルに対しても相談をしていき、結果的に様々なレスポンスを受けることができたのは、インダストリー4.0のドイツでの受け入れに大きく作用していると思います」

船戸「なるほど、ありがとうございます。よくわかりました」

和田「博士、ありがとうございました。少し目線を変えて、人間にフォーカスした質問をさせていただければと思います」

坪口「初めまして、博士。人事領域を担当している坪口と申します。インダストリー4.0の目指す姿は人の視点を重視し、『雇用』を非常に重視していると伺っています。その理由をお聞かせ願えますでしょうか」

労政課 坪口祐介 労政課 坪口祐介

カガーマン博士「初めまして坪口さん。正直に申し上げると、インダストリー4.0の着想段階である2011年頃には、まだこの雇用という側面はありませんでした」

坪口「そうなんですね」

カガーマン博士「はい。ですがその後、皆さんご存じのようにAIの飛躍的な進歩、自立システムの台頭といった出来事がありました。そうした中で、人々の間では『自分の仕事はAIに取って代わられるのではないか』『自分のやりたい仕事ができるのだろうか』といった不安が浮かんできたんです」

坪口「それで雇用という面を重視していったのですか」

カガーマン博士「その通りです。インダストリー4.0というのは、AIに仕事を丸投げするというものではありません。あくまで人間をスキルアップさせる、より創造的な業務を促す、あるいは労働環境を改善する。そのための方策にすぎません。また、労働者だけでなく企業側も、個々のスキルアップという点においてはきちんとサポートする、そのようなシステムを保持するということが重要だと考えています」

坪口「まさしくHondaの人間尊重という考え方と同じですね」

カガーマン博士「そうですね。また、企業による個人のスキルアップ、いうなれば教育というものにも、2つの道があると考えています。一つは、教育制度を設けソフトスキルをアップさせること。もう一つは、新しいことに挑戦させてその能力を本人が持っているかを見極めるということ」

坪口「後者はとてもチャレンジングな考え方ですが、一方で今の時代に最も重要な課題だと感じています」

カガーマン博士「私は間違っているのかもしれませんが、信頼が前提にありさえすれば、冷たい水の中に投げ込むような方法もあると考えています。そうして泳ぎ方を覚える方が、机の上で泳ぎ方を学ぶよりも正しいと、私には思えるのです」

坪口「この点も、挑戦を大事にするHondaの姿勢と非常にマッチしていると感じます。ありがとうございました」

和田「ありがとうございました。続いては…」

この後も参加者と博士による活発な討論が行われました。
Hondaの従業員たちは積極的に疑問を投げかけ、カガーマン博士はフランクな物腰ながらもそれに対し熱心に回答を提示。議論はおよそ2時間に及びました。

オンライン対談の様子

変わるHonda、変わらないHonda

カガーマン博士とのオンライン対談を終えて。
参加者たちには新たな発見、そしてこれからの課題が見えてきたようです。

国際標準企画課 安田直矢 国際標準企画課 安田直矢

安田「国際標準を戦略的に活用する際、産業間の境界を超えてより広い視点で考えることの必要性を改めて認識しました。より分業化・デジタル化が進んでいく社会の中で、その企業の強みはどこにあるのか、その強みをどこで発揮できるのか。それを明確にしていかなければならないと感じています。実際にお会いできなかったのが残念ですが…。とても貴重な機会を頂きありがとうございました」

生産製造企画課 船戸康弘 生産製造企画課 船戸康弘

船戸「今後はデータ活用も進み、技術もますます進歩していくと考えられます。また、それらの組み合わせで新しいサービスを提供することも簡単になるでしょう。ですが、そういった世の中でも結局のところ大切なのは『ユーザーに何を届けるか』だと考えています。ユーザーとの対話を繰り返して、必要なサービスをしっかりと提供する。今もこれからも変わらない部分だと思います」

労政課 坪口祐介 労政課 坪口祐介

坪口「インダストリー4.0は、従来の製造現場・労働現場では改善不可能のように思われていた部分を変えるチャンスだと捉えています。そこにはイノベーションが必要ですが、イノベーションにはチャレンジが不可欠です。産業構造を変えていかなければいけない今だからこそ、Hondaが昔から理念として掲げているチャレンジ精神の大事さを再認識しなければいけません」

和田「まずカガーマン博士、そして関係者の皆様へお礼申し上げます。インダストリー4.0という新しい価値観には、その根底に『新しい価値をお客さまに届ける』『常にイノベーションを意識する』という、普遍的な理念があることに気づきました。

経営企画統括部 和田岳弘 経営企画統括部 和田岳弘

和田 Hondaとしては常にお客様との接点を意識して、ただの移動装置提供会社ではなく、より包括的な『モビリティ・アズ・ア・サービス』の価値を提供していきたいと考えています。リモート対談という難しさはありましたが、博士のフランクなお人柄や出席メンバーの積極的な姿勢に助けられました。改めて、この機会を与えて下さったすべての方々にお礼を申し上げたいと思います。本当にありがとうございました」

人と環境に優しい技術「エコテクノロジー」発展のため。そしてHonda内外の若い人材の刺激のためにも。本田賞はこれからも各分野のオーソリティたちの活躍に注目し、顕彰を続けていきます。

オンライン対談の様子
※新型コロナウイルス感染症対策を実施した上で取材・撮影を実施しています。

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