高回転用・低回転用という2種類のカムを使い分け、痛快なスポーツ性能と日常の扱いやすさや経済性を高次元に両立させる、Honda独創の可変バルブタイミング・リフト機構「VTEC」。歴代のVTECエンジンを振り返りながら、Hondaスポーツに共通するキャラクターに迫っていきます。今回は、1989年の「インテグラ」に搭載され、以後「シビック」等にも搭載された「B16A」についてご紹介します。
スペック(1989 インテグラ XSi)
エンジン形式 | B16A |
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エンジン種類 | 水冷直列4気筒横置 |
弁機構 | DOHC ベルト駆動 吸気2 排気2 |
総排気量(cm³) | 1595 |
内径×行程(mm) | 81.0×77.4 |
圧縮比 | 10.2 |
燃料供給装置形式 | 電子燃料噴射式(ホンダPGM-FI) |
最高出力(PS/rpm) | 160/7,600 |
最大トルク(kgm/rpm) | 15.5/7,000 |
主な搭載車種
- 1989 インテグラ
1991 シビック
1992 CR-X del-sol
「どうせやるなら、リッター100馬力」
1980年代に始まった「新時代のエンジン」の開発プロジェクトにおいて、燃費性能向上のために注目されたのが、吸・排気側それぞれに高速専用のカム駒とロッカーアームを設け、バルブタイミングを可変させるという考え方。そこから「バルブ休止プラス可変バルブタイミング機構」として研究がスタートし、やがて燃費とパワーを両立させるための技術として開発が本格化することとなる。
当初の目標は1.6Lで最高出力140PS。しかし、当時本田技術研究所の社長であった川本信彦氏の「どうせやるなら100馬力にしろよ」という言葉をきっかけに、当時例を見ない、「リッターあたり100馬力・最高許容回転数8,000rpm」というエンジンへの挑戦が始まってゆく。
数々の新素材を投入
課題になるのは、高回転化による負荷の増大。たとえば、当時の1.6LクラスのDOHCエンジンの最高出力発生回転数である6,800rpmから8,000rpmになると、エンジン各部にかかる慣性力は40%も増加する。熱的にもかなりの高負荷になるため、それまでにはない素材を投入してでも、慣性マスを低減することが求められた。
カムシャフトには、高カーボン、高クロームの新合金スチールで鋳造し、熱処理・表面処理を施した新開発のキャストスチールカムシャフトを採用。ひとつのボアに3つのカム駒が並び、カムの幅に制約があることから生じる高面圧に対応した。排気バルブの素材に用いたのは、ニッケル基超耐熱鋼にモリブデン、チタン、タングステンを配合した新開発材。バルブステム細軸化を可能とし、20%もの軽量化につながっている。
高回転のパワー/低・中回転の扱いやすさの両立
これらの効果により、吸気バルブ径は従来DOHCエンジンの30mmから33mmへと拡大させ、バルブタイミングとリフト量をレースエンジン並に取ることが可能となり、出力特性を高速側へシフト。吸入抵抗も低減させることで、160PS/7,600rpm、レッドゾーン8,000rpmという高回転・高出力の特性を獲得。一方で低速カムは従来型の35度より、ABDC(下死点後)20度/30度とすることで、吸気バルブ閉時期を早くして体積効率を大幅に向上させ、幅広いトルクバンドを実現させている。
その後の進化
その後にデビューした1991年の「シビック SiR・SiR II」では、圧縮比の向上、バルブタイミングとバルブリフト量の変更によりリッターあたり106馬力の最高出力170PSを達成。1997年の「シビック TYPE R」では、B16B 98 spec.Rへと進化し、最高出力は185PS/8,200rpm(リッターあたり116馬力)に到達した。
低・中速域での扱いやすいトルク特性と経済性を確保しながら、高回転域まで一気に吹け上がる、エキサイティングなエンジン特性を併せ持つ。現在まで続くHondaスポーツのイメージを確固たるものにした一基である。
リッターあたり116馬力を発生させる「B16B 98 spec.R」を搭載した「シビック TYPE R」。