2016年NSXの正式な市場への導入を前に、スポーツカーファンは期待でますます盛り上がりつつあり、我々ジャーナリストはステアリングを手にすることができる日を待ち焦がれている。
一方で、Hondaがターゲットとしてきたモデルがドラマチックに変身してしまったことにより、新型NSX開発陣には最終的な仕上げの詰めに大忙しなのかもしれない。
新型NSXがフェラーリ458イタリアを直接のターゲットにして開発されてきたことは、開発陣自身過去に何度か言及しており秘密でもなんでもない。しかしそのフェラーリは2015年ジュネーブ・オートショーで、458の後継モデルとなるフェラーリ488GTBをデビューさせた。
加えて、新型NSXに搭載されたV6ツインターボエンジンが、458イタリアの550馬力を目標としていたことも、ほぼ公然の事実だ。だが新型488GTBの3.9リッターV8ツインターボエンジンは、670馬力を発揮すると同時に、エクステリアデザインもドラマチックに変わった。いや、新型NSXに比べて、新型フェラーリは演出過多、ドラマチックすぎるという見方も一方にはあって興味深い。
新型NSXが新開発V6ツインターボエンジン、3基のモーター、全輪駆動システムといった最新テクノロジーのショーケース的モデルであるのに反して、新型フェラーリはそうとは言い難いのも興味深い事実だ。
この事実は特に大きな意味を持つに違いないと私は考えるが、念のため、もっと若い世代のエキスパートの意見を聞いて確かめようと思った。そこで、高級車とヴィンテージカーの世界で有名なディーラーだった、亡き父マーティン・スウィッグの遺志を継いで、世界的にオークションで有名なBonham社に勤める30歳のデイヴィッド・スウィッグに意見を求めた。彼は才能あふれる若者で、クルマのエキスパートであり、日本車への関心も高い。
その彼曰く、「新型NSXは成功すると思います。真に優れたエンジニアリングを備え持つスポーツカーに対する人々の関心は高く、新型NSXがそれに相当します。初代NSXはスポーツカーの信頼性を一気に高めました。フェラーリの水準をNSXのレベルにまで引っ張り上げました。新型NSXはもう一度世界のスポーツカーの標準を高めるだろうと考えています」と熱く語る。
米Automobile誌もデイヴィッドの意見に賛成する。
彼らは、「新型Acura NSXは哲学的な意味における先祖がえりと言えよう。スポーツカーというゲームのルールを一新した初代NSXは、スーパーカーパフォーマンスとユーザーフレンドリーネスは共存しうるということを我々に教えてくれた」と述べ、チーフエンジニアのテッド・クラウスの言葉を以下のように引用した。
「我々は初代が築き上げてくれたヘリテージに忠実であろうと努めました。初代NSXはドライバーを中心に創り上げられたクルマでした。つまり人間が中心にあるクルマ作りです。それは走り出す瞬間から、ドライバーが意のままに操ることのできるようクルマを仕立て上げることに他なりません」
デイヴィッド・スウィッグは次のように指摘する。
「新型NSXは広い層のエンスージアストにアピールすると思う。特に、グーグル、フェイスブック、ツイッターのヘビーユーザーなど、若い“ハイテクノロジー大好き”層は間違いなく魅了されるはずです」
ひょっとするとシリコンバレーで大ヒットする…?
その可能性は充分に秘めている。
Hondaの技術陣が新型NSXはハイテクノロジーの数々を備え持つと折に触れて語ったのは周知の事実だ。しかし、それよりもなによりもまず、NSXはドライバーズカーであるということだ。
新型NSXと同じくハイテクハイブリッドスポーツであり、価格帯も約150,000ドルから(2015年1月13日ニュースリリース時)という共通点を持つモデルとしては、BMW i8があるが、それぞれのモデルがどの層にアピールするかという想像や憶測も、我々をわくわくさせる。
新型NSXには他にもたくさん我々の興味をそそる事実がある。
デザイン、開発、生産のすべてがアメリカにおいておこなわれるということがアメリカのヤングエグゼクティブたちにアピールするか、それとも彼らにとっては、海外で作られた高性能モデルの方が、依然として魅力的なのか。まことに興味深い。
エクステリアデザインのリーダーがミシェル・クリステンセンという女性であるという事実に対する人々のリアクションは?
メディアにとっては格好のネタで、にぎやかにマスコミに採り上げられてはいるものの、はたして他のクルマ好きに好感度をもって受け入れられるだろうか?
話題は尽きない。
デトロイトオートショーのあと、米「Car and Driver」誌はベースボール用語を使っていみじくも次のように結論づけた。
「近年、シングルヒットか二塁打ばかりだったAcuraが、今回、新型NSXでホームランをかっ飛ばすと我々は予言する!」と。
相当にエキサイトしている。
Car and Driver誌のみならず、欧米のメディアやジャーナリストは初試乗が待ちきれないようだ。もちろん、私もその一人だ。しかし正式デビューに先駆けて、全米からセレブが集まる8月のペブルビーチ・コンクールデレガンスに、何台かお目見えするような気がしてならない。これはあくまで私の予感なのだが。
ジョン・ラム氏について
30年以上のキャリアを誇る全米一有名な自動車のライター&フォトグラファー。米「ロード&トラック」誌の非常勤エディターを務めながら、日本のカーグラフィック誌など各国の自動車雑誌に見識とクルマへの愛情に富んだ原稿を寄せている。NSXの価値の高さを広く世界に伝えるなど、Hondaの一信奉者でもある。故郷のウィスコンシンの大学に在学中からレースの写真を雑誌に寄稿し始める。ベトナムにも報道記者として従軍。仕事でも趣味でも自動車を愛し、取材範囲もニュー・テクノロジー、ビンテージカー、紀行文と広い。