「S」の魅力と言えば、そもそも買った時の話になっちゃうけど、当時リーズナブルな値段で買えてこんなに高性能なクルマってヨーロッパを見まわしてもなかった。僕は二玄社に入ってカーグラフィックの編集部員になって、自分で給料もらって自分でクルマを買えるようになった時に、とにかくカーグラフィックの読者だった時代からスポーツカーが欲しいと思っていたから、その中で一番、価格的にもサイズ的にも現実的でありながら性能は相当に高いS800Mを購入したわけです。
当時、160km/hも出るクルマなんて、相当な高性能車じゃないとなかった。だから、ほぼ一発でS800Mを買おうと思った。小さいクルマが好きなので、カニ目(オースティン・ヒーリー・スプライト MkⅠ)の中古なんかも見たんだけど、「S」と同じような値段で買えるカニ目って相当程度が悪かった。「S」だったらそのまま乗ってすごいピカピカのヤツが買えた。
というのも、僕がカーグラフィックに入ったのが1971年でしょ。そして、実はこの前に同じ1968年のS800Mタイプを買ったんだけど、もっと程度がいいのが出たので、買い替えたんです。だから2台目なんだけど、いずれにしても1970年まで作っていたクルマで中古とはいえ、1971~2年に買ったわけで、だいたい2年か3年落ちなんです。だからすごく程度がよかった。そうして手に入れたS800Mのロードスターは、もうそのままずーっと乗ってました。
そのようなわけで「S」はヨーロッパでもすごく人気があった。わずか800ccでこんなに高性能なクルマってヨーロッパにもなかったからね。そんなスポーツカーをHondaがいきなり作ったわけですから。これはすごいことです。そして、「S」とほぼ同時にHondaはF1をはじめたのもよかった。F1に参戦している唯一の日本メーカーということで、Hondaが注目を浴びていた時に「S」が登場したので、余計に人気が高まったのだと思います。
S800Mを所有していた頃は、僕もクラブに所属していました。今は所有していないから、この50周年のイベントにはゲストで呼ばれたんです。オープニングのパレードランのとき、ゲストの川本 信彦さんは、S800 RSC RACING VERSIONに乗ったのですが、僕はかつて僕が乗っていたレース仕様のレプリカのようなブルーのクーペに乗りました。僕のはS800だったけど、パレードで乗ったのはS600クーペです。
僕がS800Mに乗っていたとき、友達のレース仕様に乗せてもらったんです。パーツを取り払って軽量化し、足も下げてエンジンもチューンした「S」は、またノーマルと全然違う気持ちよさがあるなというのがわかった。それでレース仕様が欲しくなって、もう一台ブルーのS800クーペを手に入れてレーシング仕様をつくったわけです。そのS800クーペは、JACKYというショップの敷地に眠っていたヤツです。錆だらけのボディをベースにつくったんです。パレードで乗せてもらったS600クーペもJACKYで作ったそうで、昔、僕が筑波で走るのを見ていて同じものを作りたかったそうなんです。そのオーナーさんとお話ししたんだけど、乗りやすくてすごくいいクルマだったし、音も昔を思い出せるような、「パフォーン」っていういい音がしたね。昔が蘇ってとても楽しかったですね。
さらに言うと、その後のデモ走行で乗らせてもらった黄色のS800Mは、僕が乗っていて手放したクルマそのものなんです。ホイールが変わっていますが、僕が乗っていた頃とほぼ同じ状態です。約40年前に自分で乗っていたクルマにもう一度乗れるなんて面白いと思いませんか。これが「S」の世界なんです。Hondaが生み出した宝石のようなクルマを、みんな大切に乗り続けているんです。
今日参加されたオーナーの「S」もみんなきれいですよね。決して一様じゃなくて、みんなそれぞれのオーナーの色に染まっている。それもまたいいよね。オーナーの色に染まりつつ、でもちゃんと「S」だっていう。楽しんでるよね、みんな。