いいサスって何?ダブルウイッシュボーンがいいの?トーションビームはダメなの?Vol.3 実はリアタイヤもちょっとだけ「切れて」いる?

リアタイヤに、もっと力を!

足りないんですか。

ドライバーが安心してクルマを振り回せるようにするようにするには、足りませんね。リアタイヤがもっと大きい力を、しかも素早く出す必要があります。しかも、これは普通に流して運転しているときの運転のしやすさにも、すごく影響するんです。
じゃあどうするのか……というと、タイヤが発生したコーナリングフォースを使って、リアタイヤを動かし、スリップ角を増やしてしまうんです。

リアタイヤを動かす?どうやって……?

第2回で紹介したブッシュのたわみを使います。ブッシュはゴムでできていますから、横から力が入るとたわみますよね。

はい。

このブッシュのたわみを使って、リアタイヤのスリップ角が増える方向へ回転をさせるんです。
タイヤが向きを変える……つまり「切れる」ときの回転軸を「キングピン」といいますが、これはゴムの「弾性」を使った回転軸なので、私たちは「弾性キングピン」と呼んでいます。

第1回でちらっとお目見えした模型ですね。

これは、新型シビックのリアサスペンションを使って、どんなふうにリアタイヤのコーナリングフォースを増やすかというのを説明した模型なんです。リアタイヤのコーナリングフォースがサスペンションに伝わると、ブッシュがたわみ、「弾性キングピン」と示した赤い軸に沿って「TOE IN」と記した方向にタイヤが回転します。トーインというのはタイヤの前側が内に入る方向です。つまり、スリップ角を増やす方向ですね。

赤い軸……やっぱりサスペンションって難しそうですね。

誰でもわかる!弾性キングピンの見つけ方

実は、誰でもこの「弾性キングピン」の位置を確かめられるコツがあるので、伝授しますね。
タイヤを外したら、3本のアームを探します。
上側にある1本のアームの位置に、1個目の点を打ちます。ストラット式サスペンションの場合は、上側にアームがありませんが、代わりにダンパーの頂点の位置でよいです。

打ちます。

次に、下側にある2本アームの中間の場所に点を探します。そして、1個目の点と結びます。結んだ線が弾性キングピンです。もし、進行方向と平行に付いているアームがあった場合は、そのアームのことは無視しちゃってください。

結びます。

弾性キングピンが地面と交わるポイントが、タイヤの地面に接している部分の中心(タイヤ接地点)よりも後ろに来ましたね。こうなっているサスペンションであれば、コーナリング中にスリップ角が増える方向に動くんだと見分けることができます。

見分け方は分かりましたが、どうしてこうなっていると、スリップ角が増えるんですか?

この弾性キングピンはリアタイヤの回転中心なんです。

回転中心というのは、ここを軸にしてリアタイヤのトーが変化するという意味ですかね?

そうです。
タイヤの接地点はコーナリングフォースの発生地点です。つまり、コーナリングフォースを使って回転中心よりも前側を押すことになります。すると、タイヤの前側が内に入ってきてスリップ角が大きくなるというわけです。

逆に弾性キングピンのほうが前だと、スリップ角が減って、コーナリングフォースが減ってしまいますね。

そのとおり!
こうやってリアタイヤの力を増幅させて、フロントタイヤによって発生した車の回転を、すばやく止めることが車を安定させることにつながります。これが誰でも楽しく操れるスポーツカーの必須条件だと私たちは考えてます。ちなみに、模型で示したリアサスペンションは、「シビック」のものなんです。この「リアタイヤの力を増幅させる」特性を突き詰めたことで普段の乗りやすさにおいてもご好評を頂けていますし、「TYPE R」のさらなる速さにもつながっていますね。

なるほど、よくわかりました。

これで「いいサス」の条件はわかりましたね。次は、今までの仕上げとして、実際のクルマがどうなっているのかを見ていきましょう。

ちょっと遠回りだったかもしれませんけど、「ダブルウイッシュボーンがいいの?トーションビームはダメなの?」という疑問についてもお答えできるようにしますね。

ワクワク!

今回のまとめ

Hondaのリアサスペンションはクルマを安定させるために……

コーナリング中にタイヤはクルマのイン側に向かって力を出している

タイヤにスリップ角がついてコーナリングフォースと呼ぶ力を出します。また、リアタイヤはクルマの回転を止めて安定させる役割をもっています。

さらに、「弾性キングピン」によって力を増幅させている

これに加えて、ブッシュのたわみを用いてスリップ角が増える方向にタイヤを回転させ、リアタイヤのコーナリングフォースを増幅させています。

次回はこれまでの3回の内容を、実際のクルマを見ながらご紹介していきます!どうぞお楽しみに!

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