エンジン開発者に突撃 いいエンジンって何?Vol.4 NSX 「Hondaエンジンのトップ・オブ・トップ」

SPORTS DRIVE WEBでは、皆さんからのご意見を集めてきました。その中でも特に多かったのが「エンジンのことについて知りたい」というご意見でした。 中でも、多く寄せられてきたのは「突き抜けるように回る自然吸気エンジンこそHondaのアイデンティティだったのでは?」という疑問の声でした。たしかに、いまラインアップしているスポーツカーのエンジンはいずれもターボエンジン。果たしてそこに「Hondaならでは」のこだわりはあるのでしょうか。満を持してエンジンの開発者に突撃してみることにしました。

答える人

本田技術研究所
四輪R&Dセンター 主任研究員
坂本 泰英
1983年入社。入社後エンジン研究開発に携わり、2000年よりインディカー用エンジン開発、2007年よりアメリカンルマンのLMP2用エンジン開発責任者を歴任。2013年モデルのアコードのパワートレイン開発責任者を務め、現在は2代目NSXのパワートレイン開発責任者。

聞く人

SPORTS DRIVE WEB編集部1号
愛車はFIT RS(MT)。奥さんがクルマに疎いのをいいことに、「ふつうのクルマはマニュアル車」だと吹き込んでいる。

NSXのためだけにつくられた、完全オリジナルのエンジンですね。贅沢……。

本当のことを言うと、最初は他のV6エンジンを流用して作れないかとか、そういうことを考えていたことがあります。
でも、NSXはHondaのスピリットを象徴する一台。乗る方には、我々の考える最高のスポーツを体験していただきたい。
だから、エンジンの性能単体として最高の性能を目指すのは当たり前のこととして、クルマの運動性能全体まで考えて最高のものにしようと、完全新設計のエンジンを作り直したという経緯があります。

では、エンジン大好きなHondaが作った、最高のHondaエンジンの特別なところ、たっぷりと聞かせてください!!

「低さ」は正義!

ではその象徴と言えるところからご紹介していきましょう。たとえばこのVバンク。75度です。

V6エンジンのバンク角は60度が基本だと聞いたことがあります。それより広くて、初代の90度より狭い75度。

詳しいメカニズムは省きますが、60度V6は振動が少なくて静粛性の高くなるのが特徴。とはいえ、理想的なバランスで回転できるのは負荷が低い状態のときに限られます。それならば、コンパクトなエンジンルームの中に収まるギリギリのところまでVバンクを広げて、できるだけ重心を下げたい。そこから導き出されたのが75度V6というわけです。

低いのは正義なんですね。

走る、曲がる、止まる、すべてにHondaらしい「レスポンス」を追究したNSXというクルマ。その運動性能を語る上で大きな割合を占めるのが「重心の低さ」ですからね。もうひとつ、この「低さ」に貢献するのが、ドライサンプ式の潤滑システムです。

名前は聞いたことがありますが……。

エンジンの下にオイルを溜める「オイルパン」という部位を持たず、別体のオイルタンクからオイルを供給するのがドライサンプ方式です。Hondaの四輪車としては、1969年の「HONDA 1300」以来の採用です。

なんと!

1969年のHONDA 1300。「一体構造二重壁空冷方式」のエンジンは1,300ccから最高出力100馬力(77シリーズ)、115馬力(99シリーズ)を発生させました。

特別感もひとしおでしょう。

たしかに。ご参考まで、ふつうのエンジンはどうやって潤滑をしているんでしょう?

エンジン下部のオイルパンからポンプでオイルを吸い上げて各部を潤滑し、重力で落ちてきたオイルをまた吸い上げる……という方法を採っています。こっちは「ウェットサンプ」と呼んでいますね。

ドライサンプによって、どのくらいエンジンの搭載位置が下がるんでしょうか?

具体的には約60ミリ。サーキット走行などで高いGがかかる状況でも確実にエンジンオイルを各部に供給できるのも利点ですね。

なるほど。ここで出てくるのが、Vol.1で出てきた、例のオイルポンプってことですね。

そうです。丸が星形に切り抜かれていて、その中にローターの入ったパーツがあるでしょう。それがポンプです。8つ並んでいるうちの右のふたつが「フィードポンプ」。オイルタンクからやって来たオイルを吸い上げて、各部を潤滑します。

あとは?

残りが「スカベンジングポンプ」。「スカベンジング」とは、「排出」というような意味です。各部を潤滑したオイルを効果的に回収するためのポンプです。左から順にチェーンケース、ターボ、クランクケース3箇所、カムケースのオイルを回収しています。

ターボチャージャーの潤滑と冷却を行うオイルの回収を「重力」に任せるのではなく、ポンプで「引っ張って」こられるのも、ドライサンプならでは。高出力化のためには欠かせない機構でしたね。

こちらは?

これはクランクスロー。スリットが入っているのが見えますか?そこからポンプがオイルを吸い出すので、オイルをかき回すことによる抵抗が無くなりますし、クランクケースの中が負圧になり、フリクションロスが減ります。パワーアップにも貢献するわけです。これは、レーシングカーとまったく同じ考え方ですね。

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