
VTECとHondaエンジンの30年Vol.3 潜入!「VTECロッカーアーム製造工場」
Hondaエンジンのアイコンであり、スポーツドライビングファンの心を長年熱くし続けてきた魅惑のメカニズム、VTECも誕生から早30年。このへんで「VTEC史」を振り返ってみるのはどうでしょうか。VTECの誕生秘話をお届けした前回に続き、今回は、VTEC機構の要である「VTECロッカーアーム」の製造を行う、富山県の田中精密工業に潜入!材料の段階から組立が終わって製品になるまでを写真と映像でご紹介します。
材料から専用の鋳造工程
誕生当初は鉄製だったVTECロッカーアームですが、その後動弁系の軽量化なども狙い、アルミ製へと移行、2020年現在ではアルミ製が主流となっています。最初の工程は原料となるアルミを熔解し、型に流し込んで成型する「鋳造(ちゅうぞう)」工程です。
VTECのアルミロッカーアームに用いられるHonda専用の高性能アルミニウム材。中に含まれる不純物が少なく、強度に優れます。
アルミのインゴットは溶解炉に投入されて約700℃まで熱せられ、「溶湯(ようとう)」と呼ばれる状態になります。
溶湯を加圧しながら型に流し込むとともに、逆側からも真空状態にして引き込みます。型に流し込む際は速すぎても、遅すぎても良品はできません。充填完了までの時間を計測し、一定時間内に完了しない場合は良品からは除外されます。
鋳造を行う工場。インゴットは溶解炉で溶かされたのち「溶湯保持炉」に溜められ、それぞれのダイキャストマシンに振り分けられます。
アルミロッカーアームの原型が完成
こうして鋳造されたアルミロッカーアームは「トリミング」工程でバリや不要な部分を除去します。その後、熱処理を加えて強度を高め、「ショットブラスト」と呼ばれる表面加工を行ったのち、シャフトの穴を空けたり、ローラーを取りつけたりするラインへと運ばれます。
こちらはアコードの2モーターハイブリッドシステム「e:HEV」に用いられています。
亜鉛の粒子を吹き付けてバリを取り除くショットブラスト加工を終えたロッカーアーム。表面が梨地のようになっています。
VTECロッカーアームに「汎用品」は無く、高性能化のために各エンジン専用に設計されています。生産性を高めるためにも、鋳造で製造できるアルミ化が不可欠なのです。
最新の自動化手法も採り入れた加工工程
鋳造が終わったロッカーアームに、シャフトを通すための穴を空けたりする「加工」の工程には、ロボットとマシニングセンタを用いた最新の自動化の手法も取り入られています。従来まで用いられていた「トランスファーマシン」と呼ばれる機械によるものに比べて少量・多品種の生産に向き、高効率な生産を行うことが可能です。
中央に据え付けられたロボットアームが、4台のマシニングセンタにパーツの出し入れを行います。高精度なものづくりを、ハイスピードで行うことが可能です。
加工に適した寸法に整えられたロッカーアームは、無人搬送車に乗せられて、マシニングの工程へ運ばれてきます。
Nシリーズ用のVTECエンジンのロッカーアーム。1セット分を一度に加工することができます。