なぜシビック TYPE Rは速い?そのシンプルな理由とは。《後編》

──新しいシビック TYPE Rは、よりよく曲がってトラクションがかかる、理想的なセッティングになったということですね。

クルマもこれだけ重量があって、エンジンパワーもこれだけあって、すべてフロントタイヤに仕事をさせなければいけない。そのなかで、エンジンパワーを受け止めながらちゃんと曲がってくれるっていうのは相当難しいことだと思います。足まわりのセッティングだけじゃなくて空力も大事ですし。

──はい。

あとは、今回のマイナーチェンジで、本当に4輪のグリップを感じやすくなりました。それはグリップがあるときだけじゃなくて、タイヤが滑ったときも含めてです。いまクルマに何が起きているかが本当にわかりやすい。

──ありがとうございました。では最後に、FFスポーツの走らせ方という観点で、ドライビングのアドバイスをいただけますでしょうか。

このシビック TYPE Rに限って言えば、FFだからこうするといったことを意識しなくてもよく曲がってくれる仕様になっているので、安心してドライビングを楽しむことができます。ヘアピンやシケインの立ち上がりでトラクションをかけるときに多少気を遣うくらいで、ライン取りを含めて走らせ方は基本的にFFであろうがFRであろうが気にしなくていいと思います。

──駆動方式に関係なく、注意すべきことは。

最近の市販スポーツは、重量もあるしエンジンパワーもあるので、ステアリングを切った状態でアクセルを開けないことですね。

──はい。

コーナーの手前でしっかりクルマの向きを変えてあげて、ステアリングを戻しながら徐々にアクセルを開けていくイメージです。シビック TYPE Rであれば、荷重移動をきっかけにリアを曲げるという意識をしなくても、ステアリングを切ったら切った分だけ曲がってくれると思うので、自分が思っているラインにいいスピードで乗せ続けてあげることで、安心感を持って走れると思います。

──ブレーキングはどうでしょうか。

駆動方式に関係なく、ブレーキングでは、踏むことと同じくらい離し方が大切です。

──離し方・・

急激に踏んだり離したりしないことです。イメージとしては、街なかの信号で停止するとき、最後にゆっくりブレーキを戻してあげてスムーズに停まるじゃないですか。ああいう操作を、サーキットスピードに合わせて短い時間で繊細にやってあげるイメージです。そうするとタイヤのグリップを有効に使え、速くスムーズに走ることができます。その辺りを意識してあげるといいと思います。

──映像を見ても、伊沢さんの右足はほとんど動いてないように見えます。

急にガン!と踏むのではなく、クルマがびっくりしないように踏んであげる気持ちを持つのがいいかなと。アクセルを開けるときも同じです。ただ、「スムーズに」と言うと、踏みが浅くなってしまう可能性が出てきます。踏む力としては、ちゃんと踏まないと停まらないので間違えないでください。そこに到達する踏み方を少しスムーズにしてあげたらいいと思います。

──鈴鹿サーキットでの注意点は?

鈴鹿は基本的にコーナリングスピードが高いので、絶対に無理をしないことです。同時にスピードが高いので視野が狭くなりがちです。だから、S字でいうと、1つめを走っている最中に2つめを見るくらい先を見てください。頑張ろうと思ってステアリングにしがみつくと、視野が狭くなって自分の行く方向を見失うんですよね。クルマって基本的に自分が見ている方に行こうとするので。

──なるほど。

後は、スプーンの進入のように、右から左へと切り返しながらのブレーキングは無理をしないことです。速度も高く難しいので。自分として怖くないスピードで走ることが重要ですね。“安全に楽しく”が、スポーツドライビングの重要なセオリーです。そういう心構えでこのマイナーチェンジしたシビック TYPE Rに乗れば、これまでに体験したことのないような操る喜びに出会えると思います。速いのはもちろんですが、本当に楽しいスポーツカーなので、ぜひシビック TYPE Rの唯一無二の喜びを味わって欲しいですね。

──伊沢さん、アドバイスありがとうございました。あらためて、FFモデルでの鈴鹿サーキット最速ラップタイム達成、おめでとうございます。

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