なぜシビック TYPE Rは速い?そのシンプルな理由とは。《前編》

──では、タイムアタック映像を見ながら、実際のコースで解説してもらいましょう。ホームストレートから1コーナーに向かうところですね・・

ストレートエンドで、メーター表示で240km/hを超えています。レーシングカーも含めサーキット走行中にスピードメーターを見ることはないですから、この映像を見て、あらためてかなりの速さだと感じました。これほどのスピードで進入できるのは、この先に安心感があるからです。

──確かに。

1コーナーは、コーナーというより2コーナーに向けてのアプローチです。6速から4速にシフトダウンします。もっと突っ込めますが、2コーナーへのアプローチをきれいにするためと、ここを失敗すると後々まで響くのでそんなに攻め込みません。

──続いて2コーナー。

ブレーキングして3速へ。2コーナーはかなり曲がり込んでいるので、立ち上がりでアクセルを開けていくとFF車だとどうしてもアンダーステアが出てしまいますが、しっかりと踏ん張って前に進んでいます。FFなのによく曲がり、トラクションもかかっています。リアも安定してついてきている。これがシビック TYPE Rの速さのすべてと言っても過言ではありません。

──まさか、解説終わりですか・・

いや、そんな。続くS字に向かって立ち上がり、4速にシフトアップ。S字もアンダーステアが出やすいのですが、ステアリングを切ったイメージ通りにラインをトレースできています。これぞ、めざすところはシンプルなのに難しいセッティングです。

──う~ん、気持ちよさそうですね・・続いて逆バンクへ。

ここで大事なのは、逆バンクの先にダンロップコーナーがあり、その先の比較的まっすぐなコースでタイムを稼ぐことです。逆バンクをきれいに立ち上がらないとダンロップへの進入角度が悪くなって立ち上がりスピードが落ちます。逆バンクの立ち上がりから、しっかりと真ん中を通るラインでトラクション抜けを起こさずに、狙い通りに進入できています。まさに“意のまま”のハンドリングですね。

──まさに。本当に素直に運転しているように見えます。ダンロップを立ち上がったら全開ですね。

ええ。リアが安定しているので、安心してアクセルを踏めます。デグナー1つ目の手前で4速に落として、わずかな減速でクリア。デグナー2つ目は3速に。ここもアンダーステアが出やすいのに、本当によく曲がってくれています。さらに、アクセルを踏んでターボが立ち上がり、パワーが急激にかかるところでもしっかり前に進めています。この状態を作るのも大変で、すごく重要なセッティングのポイントなんです。

──踏めば前に出るセッティング。確かにシンプルですね。

そうです。高い速度域で走ると、踏んでも前に出ないことが多いんです。次のヘアピンこそそれが顕著に現れますから、映像を見てください。デグナーを立ち上って4速に上げて、ヘアピンに向かってちょうどいい角度で進入してフルブレーキング。ギアは2速へ。

──アクセルを踏み込んできれいに立ち上がっていますね。わずかにリミッターに当たるくらい踏み込んでいる。

小さなコーナーの立ち上がりですから、シビック TYPE Rぐらいのエンジンパワーがあると、どうしても立ち上がりでアンダーステアやトルクステアが出てしまいます。でも、その心配がありませんから、ここはあえてアクセルを踏み過ぎているんです。

──踏み過ぎる?

ヘアピンを本当にきれいに曲がれていて、曲がれるから早くアクセルが踏めて、踏み過ぎても前に出てくれるという安心感があるから、ほんのわずかにリミッターに当てるくらい積極的に踏んでいって速度アップにつなげていくわけです。

──まさに限界の走りですね。

それが仕事ですから。

──では、今回はここまでにして、次回でスプーンに向かうところから先の解説と、ご覧いただいている皆さまへドライビングのアドバイスもお願いします。

わかりました。

──どうでした、ここまで。

いやシビック TYPE Rは、本当に安心して楽しめるクルマです。ここまでほとんど修正舵を必要とせず、ステアリングを切った通りに曲がっていますよね。このシンプルな状態を作るのが難しい。開発チームは本当にいいセッティングをしてくれました。現場のリーダーの後藤さんとセッティングについてよく話をしたのですが、方向性が完全に一致して、一つの目標に向かって仕上げていった印象です。皆さんシビック TYPE Rに対する想いというか、愛情が凄まじく、魂を入れて開発をしていました。開発の最終段階の確認ではありますが、僕も関われて本当に良かったです。

──ありがとうございました。次回もお願いします。

こちらこそ次回もよろしくお願いします!(後編へ続く

(シビック TYPE R Limited Editionの鈴鹿サーキット最速ラップタイム記録の動画はこちら

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