WTCCドライバー 道上龍選手に聞くWTCCシビックの走らせ方、
世界の「FF使い」との戦い方

「FF使い」の資質

──そういった「ちょっとアンバランスなクルマをうまく走らせる」ところに長けたのが「FF使い」という人たちなんでしょうか。

そう言えるかもしれません。とにかくあらゆる方法を使って「FRや四駆に勝ってやる」というマインドも含めてね(笑)。
僕、レースデビューしたころ、どうしても鈴鹿を走りたくて、そのためにシビックワンメイクレースに参戦していたんです。当時は「EG6」、いわゆる「スポーツシビック」の時代でしたが、FFを極めた「FF使い」のベテランたちがたくさんいて、当時、僕のようなウデではまったく歯が立ちませんでした。
当時主戦場としていたフォーミュラのセットや走り方では何をやってもアンダーステアで、ひたすら曲がらない。それなのに、毎回優勝するドライバーは面白いようにクルクルと向きを変えていく……いったいなにをどうしているんだろう、と。鈴鹿のコース外からベテランの走りを眺めて、いろいろと考えましたね。

──道上選手にもそういう時代があったんですね。

安定性が高いから、誰でも攻め込んでいきやすい。でも、さらなる高みを目指すときにセットアップから走らせ方まで、工夫するべきことがたくさんあるのがFFのおもしろさだと思うんです。今でも、WTCCのシビックに乗りながら毎回新しい発見がありますよ。

──FFは奥が深いんですね。

すごく乗りにくかったのに、どうしてタイムが出るんだろうとか、逆にこんなに攻められていたのに、なぜタイムが出ないんだろうとか。そういうことは、シーズン初期は特に多くありました。幸いにしてデータロガーがあるので、その原因も掴みやすくなっているんですけどね。

フロントウインドウ付近に取り付けられたコネクター。ここにケーブルを繋ぎ、データロガーの走行データを送信する。

──ぜひ、一般のドライバーがサーキットで活かせるような「FFを速く走らせるコツ」を教えてください。

WTCCのシビックでレースをしたり、休日に自分のFD2(シビック TYPE R)を走らせたりしながら改めてFFを上手く走らせる方法というのを考えてみると、「頑張りすぎない」ということが大切なんじゃないかと思うんです。
FFは勘違いしやすいんです。

──というと?

たとえば、サーキットを攻めていて、車内のGPSラップタイマー──僕のFD2にも付けていて、すごく便利なんですが──で「マイナス0.3秒」と出ていたとします。ヘアピンでコーナリングのボトムスピードを上げようと思って、早めにアクセルを開けます。思い通りに立ち上がって、「いいぞ、今のは踏めていた!」と思ってもう一度タイムを見てみると、さっきまでマイナスだった表示がプラスに変わっている、というようなことがあるんですよ。

──なるほど。

実際にはホイールスピンしていて前に進んでいないのに、後輪駆動のクルマに比べ、なまじ安定して立ち上がれてしまうがために、「踏めている」「乗れている」と勘違いしてしまうんです。
たとえボトムスピードは遅くなってでも、素早く向きを変えてコンパクトに曲がる。そして、できるだけステアリングを切らずに、フロントのグリップを確かめながらアクセルを丁寧に開けていくというのが大切。ドライバーの感覚的にはあまり速く感じなくても、トラクションをきちんとかけるということに集中して走るのが、FFで速く走るコツなんだと思います。
実際、ティアゴ・モンテイロやノルベルト・ミケリスのようなドライバーのデータを見ても、そういう走り方をしているのが見て取れますしね。

「もてぎ決戦」に向けて

──いよいよ日本ラウンドが迫ってきました。意気込みを教えてください。

2016年にスポット参戦をしているので、その反省点を大いに活かしたいと考えています。前回は、ライン取りがちょっとワイドすぎたと思うんです。でも、今年はここまで走ってきて、自分に合ったセットアップも見つかってきましたし、かなりWTCCというクルマのことがよくわかってきています。さっきもお話ししましたが、コンパクトに回って立ち上がり重視というスタイルをもっと意識したいですね。

──観戦する側も、SUPER GTなどの走りと見比べてみると面白いかもしれませんね。

高速コーナーはそれほど大きな違いはないと思いますが、特にタイトなコーナー……1~2コーナーやV字コーナーなど、ブレーキングして小さく回るような場所はよくわかるんじゃないでしょうか。車種やドライバーによっても、微妙に走らせ方が違うのが見て取れて面白いと思いますよ。

──他にも、観戦にあたって知っておくと面白いことはありますか?

意外とみんな考えながら走っている……というところでしょうか。「格闘技レース」というキャッチフレーズのとおり、ブツかり合いもありますし、実際にそれを見越して車体が頑丈に作られていたりもします。
ただ、お話ししてきたとおり、やはりこれだけ「尖った」クルマなので、どのドライバーもかなり頭を使いながら走っていると思います。ライン取りのこともそうですし、ターボラグを解消するために、いかにアクセルを早めに開けてブーストを上げるか、というテクニックもそう。ピットとの交信、燃調のコントロールなど、走行中にやらなくてはいけないこともたくさんあります。

他のレースと比べるとドライバーの年齢層も少し高めなんですが、そのぶん経験豊富なドライバーだからこその熟練の駆け引きみたいなものを楽しんでいただけるんじゃないかと思いますし、だからこそ挑み甲斐もありますね。
僕もシーズンを通じてシビックWTCCというクルマをだいぶ理解してきましたし、レース前に、自分の「FD2」でもてぎを走り込んで、目指す走りをしっかりシミュレートしようと考えています。なんとか「世界のFF使い」たちに競り勝って、いい結果を残したいと思っています!

──ありがとうございます!道上選手の活躍を期待しています!

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