NSX開発者・RC213V-S開発者が語る Vol.1スーパースポーツ&ロードゴーイングレーサー
究極のスポーツモデルが革新するもの

NSXとRC213V-S 異なる手法、同じ目標

宮城
「MotoGPマシンは構造という意味でも、運転操作という意味でも、間違いなく一般のバイクの延長線上にある──だからこそ『公道を走るMotoGPマシン』が存在できるわけですよね。 私もMotoGPマシンには何度も試乗していますが、そのロードゴーイングバージョンたるRC213V-Sを初めて公道で乗ったときは驚きました。時速350kmの世界で競い合うことを前提に作られているわけですから、本来ならば一般道で走らせたら『ちょっと反応が鈍いな』と感じても不思議ではありません。ところが、これは一般道を時速30kmで走っていても、圧倒的に軽快で、1000ccのバイクなのに、まるで250ccかそれ以下の小排気量のバイクのよう。エンジンだって、時速200kmからの強烈な加速を見据える一方で、信号からの発進も、何の苦労もなくこなせてしまう。『レーシングバイクとしては』というような枕詞もなしに、あらゆる速度で『世界で一番操りやすいバイク』を実現してしまった点が実に革新的です」

宇貫
「スピードがどうであれ、ライダーが曲がりたいと思ったときに、寝かせたぶんだけ曲がる。エンジン性能も使い切れるようにする。これをどこまで突き詰められるかというのが、レースで勝つか負けるかの差だと考えているので。これができていたからこそ、RC213Vはデビュー以来MotoGPで3度に渡ってチャンピオンマシンとなることができたのだと思います。NSXの運動性能は、膨大なシチュエーションを想定しながら四輪へのトルクの配分を作り込んでいくという、気の遠くなるような作業の末に完成したのだと想像できますが、私たちはMotoGPマシンが『お手本』としてあったので、何を目指すべきなのかは明確で、その点ではあまり苦労はしなかったですね」

和田
「よく言われることですが、バイクは人間が介在しないと自立できないほど、人に依存する部分の大きな乗り物です。だから、レーシングマシンのようにウエイトをそぎ落とす、重い材料を軽い材料に置き換える、ということが四輪と比べてもライダーに与える影響として大きな効果を発揮しますよね。MotoGPマシンを完璧に再現したとなれば、その効果は計り知れないものがあるでしょうね」

宇貫
「そうですね。それに加えて、すべて手作業で組み立てられているということも、『寝かせたら寝かせたぶんだけ曲がる』という感覚を生み出す要因になっています。機械を使って組み立てる場合には必ず設けておかなくてはならないような、パーツ同士の隙間を極限まで小さくすることで、車体の余分な歪みやたわみといったものを排することができ、ライダーの意志が正確に、しかも遅れることなくバイクに伝わるようになるんです」

昨日までできなかったことが、できるようになる

宮城
「NSXは、前例の無い新しいメカニズムで。RC213V-Sは、レーシングマシンをそのまま再現するということによって。乗り物を走らせる楽しさを革新した2台が共通して乗り手にもたらしてくれるのは『これまでできなかったことを、できるようにしてくれる』という体験なのかもしれませんね」

宇貫
「できなかったことが、できるようになる──私は今日、初めてNSXを試乗しましたが、確かにそれを実感しました。スポーツカーを所有した経験は多くなくて、私の中での比較対象が最初の愛車『CR-X』だったからというのもあるかもしれませんが、かつて『ここでフロントに荷重を移して、ステアリングを切って……』と考えながら操作していたものが、まるでクルマの方からリードしてくれているかのようでした。もちろん古くからのクルマを走らせる楽しさも否定しませんが、それとはまったく別次元の楽しさがあるのが、このNSXなんでしょうね」

和田
「カリフォルニアのマリブというところにあるワインディングロードで、開発中のNSXも含めた様々なスーパースポーツの乗り比べをしたことがありまして。道幅は狭くて急勾配、急角度のコーナーが連続し、道のすぐ脇は断崖絶壁という、日本ではあまりないシチュエーションなんですが、エンジンの反応なども含め、総合的な操縦性を試すのに持ってこいの場所なんですね。 イタリア勢はクイックに向きを変えて、その点では面白いものの、高回転型のエンジンのせいか、どうも走りのテンポが掴みにくい。ドイツ勢はそれとは逆にハンドリングが徹底的に安定志向。高速域では安心感があるものの、低速域では実際のサイズ以上にクルマが重く、大きく感じられました。一方、NSXはモーターの力によってアクセルを踏んだ瞬間に加速が始まり、トルクベクタリングの効果によって低速域からハンドリングは軽快。 なおかつ、場所を変えてアウトバーンなどで高速走行をしても、どっしりとした安定感がありました。『これは世界の名門スーパースポーツともいい勝負ができるぞ!』と確信することができた経験だったのですが、RC213V-Sの速度を問わない軽快性というのは、きっとそういう感覚なのだろうと想像します。1000ccのバイクが250ccのように感じられる体験……楽しいでしょうね!」

宮城
「私が身を置いてきたレースの世界はもちろんですが、どんなことでも人は『できなかったことが、できるようになる』ことの連続で成長するし、そこに喜びを感じるんですよね。こういうものを作ってくれるHondaという会社には、やっぱり夢がありますよね」 (第2回へ続く

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