
CIVIC e:HEVをベースに、さらに軽快かつ意のままに操る喜びを追求し、
PRELUDEで話題を呼んだ新技術Honda S+ Shiftを搭載したCIVIC e:HEV RS。
そのメカニズムへのこだわりについて、開発者が語った。
答える人

株式会社本田技術研究所 四輪研究開発センター・完成車性能開発室 アシスタントチーフエンジニア山賀 浩昭(やまが ひろあき)2007年入社。強度耐久領域でさまざまな量産車の開発に携わったのち、2021年からCIVICの車体研究プロジェクトリーダーを務める。CIVIC e:HEV RSでは、主にシャシー性能とアクティブサウンドコントロールの開発に携わった。

株式会社ホンダテクノフォート PU開発室 PU性能開発ブロック坂本 俊(さかもと しゅん)2009年入社。エンジンの商品性領域に携わり、エンジンの始動性やアイドル安定性、ドライバビリティーの開発を担当。CIVIC e:HEV RSでは、エンジン研究プロジェクトリーダーとしてパワートレーンの開発に携わった。
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まずはCIVIC e:HEV RS誕生の背景を教えてください
山賀:CIVICのガソリンモデルの足まわりなどを専用セッティングして2024年に発売したCIVIC RS(以下ガソリンRS)がおかげさまで評判がよく、e:HEVでもRSが欲しいねという話は当初から出ていました。
坂本:そんななかで2025年にPRELUDEが発売され、Honda S+ ShiftによるHonda独自のハイブリッド車の楽しさを他のモデルにも広げていくことになり、その第二弾としてCIVIC e:HEV RSを開発することになりました。
山賀:要はCIVIC e:HEVに、ガソリンRS専用サスペンションやスポーティーさを強調するDシェイプデザインのステアリングホイール、Honda S+ Shiftを採用して専用チューニングした、より多くの人が2ペダルで楽しめるCIVIC e:HEV RSです。

バッテリーが剛性部材となりRSの走りのポテンシャルを高めた
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それで開発がスタートした?
山賀:いや、実はe:HEV RSの話が出たタイミングで、ガソリンRSを開発した足まわりのメンバーが集まって、先行してテスト車を作ったんです。ハイブリッドシステムにするとモーターやバッテリーを積んで重くなるじゃないですか。でもRSにするならその名に恥じないよう軽快でどこまでも曲がっていくようにしたいと考え、その検証を行ったわけです。
検証はどのように?
山賀:とりあえずテスト車をつくってみるかと、はじめはそんな軽いノリでした。既存のCIVIC e:HEVにRSの足まわりを載せ、スタビライザーはこれ、バネはこれと、CIVICはグローバルカーなのでいろいろなモデルの既存部品をガチャガチャと組み合わせて・・。
そして乗ってみたら?
山賀:思いのほか良くて、ハンドリングが軽快でハイブリッドとは思えない走りのRSがつくれそうだという感触がありました。
どこがポイントだったんでしょうか?
山賀:ハイブリッドはバッテリーがボディーの下部にあり、リアサスペンションの左右をつなぐような形で置いてあるんです。それがタワーバーのような剛性部材の役割を果たしてシャシー剛性を高めていたんです。重心が低く元々素性のいいCIVIC e:HEVのボディーが足まわりを換えてさらによくなり、乗った瞬間に面白いRSになるという感じがしました。
テスト車の走りの良さからCIVIC e:HEV RSの開発がスタートした
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テスト車で周囲を説得したのですか?
山賀:テスト車の走りの良さが徐々に評判になっていき、CIVIC開発チームや最終的には営業部門まで巻き込んで正式な開発がスタートしました。
足まわりはガソリンRSと同じ?
山賀:見た目は一緒ですね。でも中身は全然違います(笑)。
えっ、全然違うんですか?
山賀:ハイブリッド化による重量増に対応させますし、ガソリンRSとはキャラクターを分けたかったからです。
坂本:より多くの人が楽しめるCIVIC e:HEV RSにしたかったんです。

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山賀:6速MTでスポーティーな走行をしたい人が乗るガソリンRSに対し、e:HEV RSはどんな人が乗るかと考えたときに、奥様がMT車に乗れないけどスポーティーなクルマに乗りたいご主人とか、AT限定免許の若い人、あとは昔CIVICに乗っていて、子どもが大きくなったのでもう一度スポーティーなクルマに乗りたいけどMT車は疲れちゃうというような人ではないかと。ですので、ガソリンRSほどではなく、家族も奥様も乗ることを想定してシャシーのセッティングも少し間口を広げ、乗り心地にも振りつつしっかりスポーティーな走りができるというコンセプトで仕上げました。
具体的にセッティングした箇所は?
山賀:ガソリンRSのサスペンションから物理的に変更したのはダンパーです。内部のチューニングを行い、微低速での応答性を上げて乗り心地を良くしました。加えて、電動サーボブレーキや電動パワーステアリング、アジャイルハンドリングアシスト*のソフトウェアのチューニングを行いました。ガソリンRSと車重やタイヤ、目指す方向性も違うので、セッティングは全部やり直しです。
坂本:今回、クルマ一台分でしっかりと仕上げようということで、鷹栖のテストコースにシャシーだけでなく、パワートレーン、Honda S+ Shift、アクティブサウンドコントロールの開発メンバーも参加し、本当に一緒に乗りながら煮詰めたんです。
山賀:バッテリーがあるので低重心でシャシー剛性が高く、ガソリンRSほど足を固めなくても曲がってくれるので乗り心地を確保できたんです。
坂本:ガソリンRSは軽快で楽しいのですが、ちょっと足を硬いと感じる人もいそうな味付けなのに対し、e:HEV RSは乗り心地が良くてすごく楽しいという乗り味でした。
山賀:タイヤは、e:HEVでもRSのキャラクターが出せるタイヤを専用開発しました。特に重視したのタイヤの縦ばねです。まさに、このタイヤとセッティングを変えたRSのダンパーとサスペンション、e:HEVのボディーじゃないと出せない乗り味です。クルマって沈み込む部分は主にスプリングとタイヤなので、タイヤの縦バネが弱いと、潰れ過ぎて荷重が逃げちゃうんですよね。
*ドライバーが意図する走行ラインを推定し、旋回内側の前輪ブレーキを制御することで回頭性やライントレース性を向上させる技術

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専用開発のタイヤということは、ディーラーで換えた方がいいですね
山賀:純正タイヤは市販の同じ銘柄とは違う特性なので、CIVIC e:HEV RS本来の走りを楽しみたいならそういう選択になります。
あとはステアリングとブレーキはどんなセッティング?
山賀:ステアリングを切ると、クルマの向きが変わって荷重が外側に移るのでステアリングにかかる負荷が変化します。その変化でステアリングが操舵の途中で軽くなったり、重くなったりせず、戻すときも引っ掛かりがないように、一定の操舵力でスムーズにクルマと一体となって曲がれるように本当に繊細なセッティングをしました。
ステアリングホイールがガソリンRSとは違いますね?
山賀:ステアリングホイールはPRELUDEと同じものを使っていて、CIVICと違って少し脇を締めて操舵するスタイルなので、その動かし方も含めてセッティングしています。
不思議なんですけど、同じセッティングでも昼と夜では感じ方が違うんです。目に入ってくる周囲の情報量の差だと思いますが、ハンドリングだけではなくアクティブサウンドコントロールの音も含めて必ず昼夜で確認するのをルーティンにしていました。坂本:鷹栖のテストコースで約4週間、まさに一日中テストしていましたね。
山賀:ステアリング担当とサスペンション担当が一緒に乗って、「ここで一瞬軽くなっちゃうから、サスの減衰力をちょっといじってくれると消えるんだけど」みたいな会話をしながらつくりました。ブレーキ担当とも一緒に乗って、「この辺でアジャイルハンドリングアシストでブレーキをもう少しつまんでもらえるともっと旋回しやすくなる」とリクエストしたり。従来は各部門がそれぞれ開発を終えて最終的なテストで確認という流れだったのですが、今回はみんなで一緒に乗りながら対話して、お互いの引き出しを全部開けまくってセッティングしました。
坂本:こんな開発、いままであまりなかったですね。
山賀:毎日一緒に乗りながら開発して、本当に1日ごとに良くなっていくんですよね。乗れば乗るほど良くなる。そして、みんな引き出しを全部出し切ったのを確認して、最後にテスト車にRSのステッカーを貼ってやり切った証としました。
Honda S+ ShiftもCIVICのためにカスタマイズ
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Honda S+ Shiftも専用にセッティングするのですか?
坂本:CIVICは、日常の延長線上にスポーティーな喜びを求めるクルマで、多くの人にお届けするクルマです。そのCIVICにHonda S+ Shiftを搭載してHondaとして広めていくには、わかりやすさが重要だと考えました。
PRELUDEでは、3つの走行モードがあり、それぞれでHonda S+ Shiftを選べますが、CIVICユーザーが使うにはもっとシンプルにすべきと考え、Honda S+ ShiftはSPORTモードだけに設定しました。 
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Honda S+ Shiftを楽しみたかったらボタンを押すだけでいい?
坂本:そうです。ECON、NORMAL、SPORT、INDIVIDUALの4モードのどれで走っていても、ボタンを押せばSPORTモードのHonda S+ Shiftになります。もう1回ボタンを押すと元の走行モードに戻るシンプルな設定です。
山賀:むちゃくちゃ悩んでいたよね?
坂本:悩みましたね。ボタンはいいんですけど、走行モードを切り替えるトグルスイッチを操作したときにどうするかが課題でした。悩んだ末に、Honda S+ Shiftで走っているときにトグルスイッチを下に下げると、Honda S+ ShiftはSPORTモードなので下のNORMALになるようにしました。
仮想有段シフトの制御はPRELUDEのままですか?
坂本:変速感を演出する制御は、足まわりのセッティングやボディー剛性に関連するので専用セッティングが必要になります。
CIVICならではの特徴はありますか?
坂本:あります。一般道であまりアクセルを踏み込まない運転のときもHonda S+ Shiftを感じて欲しいので、積極的に変速してブリッピングもするような設定にしています。
ゆっくり加速しても減速しても変速するイメージです。どちらかというとブリッピングをわかりやすくしました。音もショックも大きく?
坂本:音やショックではなく、しきい値を低くしてブリッピング制御に入りやすくしました。そして、アクティブサウンドコントロールもより低いエンジン回転のところから音を出していく設定にしているので、街なかを走っていても楽しめると思います。
坂本:あと、我々は“走りの強度”という言葉を使うんですけど、アクセルをあまり踏まないような走りの強度が弱い運転のときは、コーナリング中でもシフトアップしてあげて、変速を楽しめるようにしています。一方で、アクセルを踏んで車速も横Gも高くなるような走りの強度のときは、コーナリング中に駆動力を変えられるのをドライバーは嫌うはずなので、低い仮想ギヤ段をキープしたままコーナリングできるような設定にしています。
それもテスト中に?
坂本:やりましたね。しかも、僕らがデータを決めてから最終判断は開発責任者に乗ってもらって合意を取るんですけど、開発責任者のOKをもらった後も「まだ飛行機まで時間があるよね」と、さらに煮詰めてしまいました。開発責任者にもう1回乗ってもらえばいいかと(笑)。
山賀:もっといいセッティングが見つかってしまうとね。サスペンション担当が限界まで攻めて走ったときに、コーナリング中にシフトアップされちゃうと一瞬荷重が抜けたようになるので、「ここのシフトショックをもうちょっと優しくしてくれ」みたいなこともありました。
坂本:まさにそうですね。サスペンション担当からそういうリクエストをもらったりして、一緒になっていいものをつくれたなと思います。
アクティブサウンドコントロールで難しかったところは?
坂本:低回転から音を出すことが難しいんです。低回転ではエンジンの生音があまり出ていないので、スピーカーから出し過ぎるとスピーカーの音だという感じになるんですよね。
山賀:スピーカーの位置もキャビンの形状もPRELUDEとは違いますし、CIVICでも4ドアと5ドアではウーファーの位置が違うので同じ音を出しても聴こえ方が違うんですよね。音のセッティングとしてはCIVICのキャラクターに合わせた迫力のあるスポーティーな音にしています。

クルマを操る喜びを多くの人に感じてもらいたい
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こだわり満載のCIVIC e:HEV RS、どんなシーンで楽しんでもらいたいですか?
山賀:どこを走っても楽しいんです。街なかではHonda S+ Shiftが積極的にシフトするので楽しいですし、高速道路をまっすぐ走っているだけでも直進安定性の良さを感じます。さらにタイヤ1本分右に行きたいといった操作がすごく安定しています。ワインディングに行って奥の深いコーナーでステアリングを切り込んでいくと、切った分だけどんどん曲がっていくフィーリングはたまらないです。
坂本:高速道路でクルージングしているときに、ときどきHonda S+ Shiftにして楽しんだりできてロングドライブでも退屈しないんです。ワインディングでは、ハンドリングの良さに加えて、Honda S+ Shiftの音と変速ショックがあって、病みつきになるような楽しさです。パドルシフトもこだわって金属にしましたからすごく触感がいいんですよね。長く所有されても「ああ、CIVIC e:HEV RSに乗りたい」と感じていただけると思っています。
そういう意味でも、走る楽しさが広まっていく
坂本:自画自賛ですが、やっぱりクルマで走るのって楽しいよねと思っていただけるはずです。
山賀:開発している自分たちが欲しいと思えるようにこだわってつくりましたから、今のクルマから乗り換えてもらったらもう異次元の楽しさだと思っています。AT限定で免許を取ったばかりの若い方にも楽しんでもらうことも考え、安心してコントロールできるセッティングにしたので、ぜひ若い方にも乗ってもらい、クルマ本来の走りの楽しさを感じてもらいたいですね。