
S2000の走りは、普通のオープンカーと一線を画すテイストに満ちています。クローズドカーのような剛性感に満ちたボディに高回転まで突き抜けるように回るエンジン。カチッと入るショートストロークのトランスミッション。レスポンスに優れたハンドリングと高いコーナリング性能…。オープンなのにリアルスポーツ。S2000は、まさに他にはない孤高のスポーツカーといえます。
そのS2000を、クローズドコースで解き放ってみたらどうなるのでしょうか。仲間と集まり、思う存分に走りを楽しめ、語り合うことができるのが「S2000ドライビング・フォーラム」。ツインリンクもてぎで2012年11月10日と11日の2日間にわたって開催されたプログラムに密着してみました。
2日間にわたる充実のプログラム
1日目は、朝9時頃受付がはじまり、その後、特別講師による講義を受けてから18時までたっぷりと走行を楽しみ、夜は19時からパーティー。2日目は朝9時ごろから走って昼食をとり、13時半ごろ終了します。鈴鹿サーキットとツインリンクもてぎでそれぞれ年に1回開催されている貴重なS2000の集まりです。今回は、18台のS2000、22人のオーナーと同伴者が参加されました。
今回の特別講師は、素晴らしい実績を誇るレーシングドライバーで現在はSUPER GTの運営にも関わっている岡田秀樹さんと、Honda SUPER GTドライバーでありプライベートではS2000オーナーでもある山本尚貴選手。岡田さんは、S2000ドライビング・フォーラム(以下フォーラム)の開催当初から携わり続けている、いわば“校長先生”的存在。今回の特別講義も岡田さんが中心に話しました。
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みなさんは素晴らしいスポーツカーに乗っている[特別講義]
特別講義の冒頭、岡田さんはいろいろなクルマに乗っている経験からS2000の素晴らしさを語りました。「国内外いろいろなスポーツカーがありますが、何千万円もするクルマは別として、S2000は断トツでいいクルマです。ボディーやシャシーもそうですが、2リッターであれほど高回転まで気持ちよく回るエンジンは他にないですね。つい最近話題のクルマに乗りましたが、S2000の良さを知っているので、まったく欲しいとは思わない。ですので、みなさんは素晴らしいクルマのオーナーなんです。まずはその事実を知っておいて欲しいと思います」
モータースポーツ界の裏話を含めてさまざまな話で参加者を笑わせながら、ドライビングや安全について語っていく岡田さん。今回はSUPER GTでタイヤの空気圧の微妙なコントロールを行っている例を出し、タイヤの状況を知ることの重要性について特に強調していました。それはドライビングだけでなく安全にも通ずることで、摩耗してミゾの浅くなっていることを知っていれば雨のときに無理をせず、もっと事故が減少するでしょうとのことでした。
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コントロールの引き出しを増やす[スリパリーコーナリング]
滑りやすい路面に水を撒いたスリパリーコースでクルマのコントロールを学ぶ。低い速度でクルマが限界状態になるので、落ち着いて対処の仕方を学べる約1時間のプログラムです。この日はタイム計測も行い、山本選手と参加者がタイムを競い合いながら学んでいました。
山本選手は「滑っていったとき、どうリカバリーするのか、どうやって効率よくクルマの向きを変えるのか。腰でクルマの挙動を感じ、いろいろと試して“コントロールの引き出し”を増やすことを心がけてください。たとえばアンダーステアやオーバーステアが出たとき、ブレーキを踏むのか、アクセルを踏むのか、ステアリングを切り足すのか戻すのか…。どういう操作をどういうタイミングですればこういう結果が得られるというバリエーションの多さが、もっと速いコースを走ったとき生きてきます」と語っていました。ちなみに山本選手は、最初速い参加者を下回るタイムでしたが、最後は全員のなかでのベストタイムを記録。やはりレーシングドライバーは負けず嫌いですね!
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ヒール&トゥしながらの目標制動[ブレーキング]
路面に水を撒き、時速60~70kmからのフルブレーキングや28mで停止することを目標にした制動(=目標制動)を行うプログラム。できる人はヒール&トゥを織り込んで目標制動を行ってもOKです。約1時間あるので、みっちり練習できます。慣れてきたところで速度を変化させたり、1速まで落とすなどシフトダウンの仕方をいろいろと試し、コントロールの引き出しを増やす練習に取り組みます。1回ごとにインストラクターが何mで止まれたか、クルマの挙動やブレーキの踏み具合がどうだったかを無線でアドバイスしてくれるので、課題をもって練習できます。
その間を縫って、岡田さんが参加者のクルマの運転席と助手席に乗り、別コースで個別アドバイスを実施。ブレーキングの仕方やヒール&トゥの仕方など、レベルに応じたアドバイスをしっかりとしてくれます。
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120km/hからフルブレーキングできますか?[高速ブレーキング]
広大な広場のような南コースに場所を移し、100km/hと120km/hからのフルブレーキングとそれぞれの速度から制動距離80mで停止する目標制動を行いました。目標制動では、ヒール&トゥも加えての練習も可です。みなさん、これほどの速度からフルブレーキングしたことがあるでしょうか?はじめての方は「怖い」と思うかもしれませんが、まったく問題なく停止できるのでご安心を。スポーツドライビングではブレーキングはとても重要です。コース走行を行う前に、しっかりと減速するためのブレーキ練習を行います。
こんなにヒラヒラと曲がれるなんて![スラローム]
15m間隔のパイロンを60km/hで、30m間隔を80km/hでスラローム。S2000開発時のスローガンは「スパ・ピタ・ヒラリ」だったそうですが、スパッとステアリングを切って、ピタッと止まり、ヒラリと駆け抜けるS2000のハンドリングのよさを実感できるプログラムです。特別講師の岡田さんによると、S2000ほどヒラヒラとスラロームをこなせるクルマってそれほど多くないそうです。ここでもアクセルを一定にしたり、オンオフで切り返すなど、いろいろと試してスリパリーコースより高い速度領域でグリップする路面でのクルマの挙動を感じ、コントロールの引き出しを増やしてくださいとのアドバイスがありました。
一般道では出会えないS2000に…[南コース先導走行]
高速ブレーキングとスラロームのあとは、これまでの走行を参考に18台を3グループに分け、南コースの先導走行を行います。1回8分の走行を2回ですが、インストラクターは後続車の状況を見ながら可能な限りペースアップしていくので、かなりの激しさ。クローズドコースでS2000を解き放つと、痛快なエンジンフィールをたっぷりと味わいながら、きわめてコントローラブルなハンドリングを楽しめます。そして、アクセルで姿勢をコントロールするリア駆動ならではの楽しさも。一般道では決して味わうことのできない、高い速度での限界コントロールを安全に楽しみながらS2000の素晴らしさを誰もが体感できる貴重なステージです。
走行していないグループの参加者と同伴者は、特別講師の岡田さんと山本選手の運転するS2000に同乗できます。オーナーにとっては「同じS2000でここまで走れるのか!」という驚きの体験、同伴者にとってはアトラクションのように楽しい体験ですが、スキルアップのためにも重要。プロドライバーの操作を見ることもコントロールの引き出しを増やす肥やしになります。ただ、同じ速度でコーナーに進入しても、プロドライバーと同じように曲がれるわけではありません。その理由も学ぶことができます。時間がたっぷりあるので、みなさん何度も同乗体験を楽しんでいました。
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感動のサーキット走行[東コース先導走行]
1日目の最後は、フォーミュラニッポンやSUPER GTマシンも走るレーシングコースの先導走行。130R、S字、ヘアピン、ダウンヒルストレート、90°コーナーとツインリンクもてぎ名物が目白押しの東コースです。さらに細かいクラス分けで5グループに分かれてたっぷりと走行。もちろん同伴者も参加できる同乗走行も行われました。みなさん感動の笑顔に包まれていました。
走行前の山本選手のアドバイス。「サーキットにはさまざまなコーナーがありますが、スリパリーから南コースへと速度を上げて行ってきた繊細なマシンコントロールの経験を活かし、落ち着いてクリアしていってください。安全な範囲の速度で先導しますので、ラインの取り方、ブレーキを踏むタイミングと強さや残し方、そのときの舵角、アクセルをどのタイミングでどのように踏んでいくのかなど『このコーナーはこうする』ということを自分なりに意識して1周の走りをまとめるとスキルアップにつながりますし、楽しいと思います。それと、縁石に乗ると挙動を乱しやすいので要注意です」
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フォーラムならではの楽しみ[パーティー・懇親会]
9時半から始まった1日目のプログラムの終了が18時。たっぷりと8時間半楽しんだあと、ホテルにチェックインして休憩。19時から2日間開催のフォーラムならではのパーティーです。特別講師とインストラクターとともに、テーブルを囲みながら楽しい交流の時間を過ごしました。S2000のこと、ドライビングのこと、レースのこと、さまざまな話題で楽しみました。
スポーツドライビングは楽しい!![南コース単独走行]
2日目は、南コースで先導走行をしたあと単独走行にトライです。といっても、1台ずつ間隔を空けてスタートし、最終コーナーのあとでストップするので、他のクルマにつかえたり抜かれる心配はありません。まさに単独でコントロールの引き出しを増やすようスキルアップにチャレンジできます。全体で2時間、単独走行1時間とたっぷり走りを楽しめます。単独走行では目安としてタイム計測を行い、タイムは閉会式のあとドライバーに個々に伝えるという仕組みが取られていました。
岡田さん:「漠然と走るともったいないです。荷重移動してターンインしたり、荷重を抜いてターンインしてみるなどいろいろと試してください。また、うまくいかないコーナーでどうやったらリカバリーできるか、今回はこうしたから次の周は別の方法にトライするとか目標を持って走ってください。そして同乗走行のときに疑問を僕たちにぶつけてください」
山本選手:「このコースは、白線が引いてあるだけなのでスピンしても大丈夫ですが、昨日のスリパリーで学んだように、スピンしそうになったらリカバリーしてみるのもコントロールの引き出しを増やしてくれるので、ぜひチャレンジしてみてください」-