
2024年11月9日(土)。S660のオーナーイベント「S660 9th Anniversary」が鈴鹿サーキット交通教育センターで開催されました。このイベントは、S660 CHUBU COMMUNITYが主催したS660デビュー9年目の記念イベントで、全国各地から190台が集まりました。当日、鈴鹿サーキットでは「全日本スーパーフォーミュラ選手権 第8戦」が開催されており、フォーミュラカーのエキゾーストノートが響くレーシーな雰囲気のもとに多くのオーナーがS660と仲間との時間を楽しんでいました。
S660でしか味わえない世界がある
S660は、1996年に販売を終了したビート以来、約19年ぶりに復活した軽自動車の2シーターオープンスポーツです。直列3気筒DOHCターボのミッドシップエンジン・リアドライブ(MR)レイアウトを採用し2015年3月に発表されました。
S660の企画自体は、本田技術研究所設立50周年を記念して2010年に開催された「新商品企画提案」が発端でした。従業員による約400件にのぼる応募作からグランプリに選ばれたのが、当時弱冠22歳の椋本陵(むくもと りょう)の作品でした。椋本はHonda史上最年少の開発責任者として、平均年齢30代の若い開発チームを率いることになりました。ちなみに、椋本は現在、発売されたばかりのN-VAN e:の開発にパッケージデザイナーとして携わりました。今回のイベントにも参加していて「N-VAN e:もS660も同じ工場(ホンダオートボディー、S660生産時は八千代工業)でつくられているんです。縁を感じますね」(椋本)と語っていました。
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S660は7年間で累計38,916台をラインオフしています。2015年の発売当時につくられたS660のプレスインフォメーション(メディア向け資料)の1ページ目には「世界一笑顔の似合うスポーツカー」と書いてあります。その言葉通り、集まったS660のオーナーたちは、とにかく笑顔。実に楽しそうでした。軽自動車のミッドシップスポーツですから、ラゲッジスペースは最小。「ほとんど何も載りません。ですが、4輪のバイクみたいなものですから、それでいいんです。とにかく走りが楽しいので」「このコンパクトさがいいんです」「軽自動車なので、維持するのが楽。ずっと乗っていきたいです」「オープンにして走ると風を感じて爽快です」と、みなさんS660を絶賛していました。その実用性からセカンドカーとして走行距離が少ない人ばかりかと思いきや、すでに10万km以上を走っているオーナーも少なくありません。今回のイベントはS660中部地区の主催でしたが、参加者は全国から集まっていて、遠方からロングドライブで駆けつけたオーナーもたくさんいました。オーナーの年代も20代から60代のシニアまで幅広い年齢層で、「発売当時は買えなかったのですが、ようやく中古で手に入れることができました」というオーナーも。そして、オーナー達の話題は、それぞれこだわりのカスタマイズポイントが中心でした。どのS660も、オーナーの個性を反映したカスタムやチューニングが施されていて、それを見ているだけでも楽しくなりました。
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鈴鹿サーキットフルコースをパレードラン
「S660 9th Anniversary」のメインイベントのひとつが、全日本スーパーフォーミュラ選手権の決勝前に行われた鈴鹿サーキット国際レーシングコースでのパレードランです。ボディカラー別にコースインした190台のS660は、コースを約2周してホームストレートに整列。全員で記念撮影を行いました。たくさんのレース観戦者が見つめるコースを、S660が長々と連なって走る姿は壮観です。やはり本格軽ミッドシップスポーツはサーキットが似合う、と参加したオーナーたちもあらためて実感していました。
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S660誕生秘話を開発責任者が語る
スペシャルトークショー
今回のイベントにゲスト参加したS660開発責任者の椋本に加え、開発責任者代行の安積 悟(あずみ さとる)もゲストとして参加しました。
パレードランのあとは、このふたりによるトークショーが開催されました。トークショーでは、椋本がS660誕生の裏話をさまざまなエピソードを交えながら話していました。
「S660の開発チームは特殊で、公募で若手中心のプロジェクトリーダーを募りました。この若手チームを開発責任者代行として支えてくれたのが安積さんです。安積さん、この仕事を引き受けたとき、本心ではどう思ったんですか?」と椋本さんが聞くと、「とんでもないチームだなって思いました(笑)。若手ばかりで開発の仕方も知らないし。本当に学校みたいでしたね」と安積。若手が集まって開発した当時のことを思い出していました。安積は現在、新型FREEDの開発責任者を務めています。「S660ももちろんいいですが、たくさんの人を乗せるときは、ぜひFREEDを!」との言葉に、会場は温かい笑い声に包まれていました。-
椋本の企画がグランプリを獲って開発がスタートしてからS660として開発、発売するまでの隠されたドラマを参加者たちは固唾を呑んで聞いていました。S660のエンジンは、当初アクティに搭載されていたE07Z型を想定していたのですが、それだと「パワーが足りない!」と感じたそうで、その当時開発中だったN-BOXのS07A型ターボエンジンに急遽変更したそうです。
「クルマの基本性能は、“走る”“曲がる”止まる“なんだけれど、S660はここに“集う”も入れたいって話をしていました。今日も鈴鹿サーキットのコース1周全部がS660で埋まりました。こうやって休日にみんなが集まってS660を通じていろいろとコミュニケーションしている。その楽しそうな姿を見て感動しました」と椋本が語っていました。2025年にS660は誕生10周年を迎えます。「10th Anniversaryを記念して、660台のS660を集めたイベントを行いたい」と関係者は早くも先を見据えています。イベントは日暮れ前に無事に終了。S660のオーナーは再会を誓い合いながら、鈴鹿サーキットを後にしていました。
参加者の声
味(アジ)さん
2代目Prelude(AB型/1982年〜1987年)からずっとHonda車に乗り続けています。Prelude、LEGEND、S2000と乗り継ぎ、現在はS660とVEZELを所有しています。S2000はカスタムもしていてかなり気に入っていたのですが、2013年の東京モーターショーで発表された「Honda S660 CONCEPT」が気になってしまって。それで、2015年にS660が発売されたタイミングで購入。現車も見ずに注文しました(笑)。一時はS2000と2台持ちだったのですが、2シーターオープンスポーツ2台体制はさすがに……ということで、軽自動車の維持費と気軽さでS660の1台に絞りました。やはりS2000同様カスタムを進めていてエアロキットを組んだり、エンジンまわりのチューニングを楽しんだりしています。S660ライフも、いよいよ2025年で10年目を迎えます。
GENZOさん
これまでスポーツタイプのクルマばかり乗り継いできました。特に軽のオープンカーが大好きです。Hondaが軽オープンスポーツを発売するという噂を聞きつけて、ディーラーに発売前から「出たら買います!」と宣言していたんです。HRC仕様にする前はカーボンボンネットに合わせてホワイト/ブラックのツートーンカラーにしていたのですが、ホワイトのカーボンボンネットに買い替えたら真っ白になって寂しいな……と思っていたところ、HRCがバイクだけでなくクルマにも関わることになったタイミングだったので、HRC仕様に仕立ててみました。カーボンボンネットはもちろん、さまざまなエアロパーツや世界に8本しかないオリジナルのリアスポイラーなどでS660のカスタムを楽しんでいます。S660は乗れるプラモデル。いつまで乗っても飽きない、楽しいのが大きな魅力ですね。
カクシカさん
S660が発売された時、「6速MT」「リアミッドシップ」「オープンカー」という3つの条件が揃ったクルマに乗る機会は今しかないと思って購入に踏み切りました。元々は車検1回分くらいの軽い気持ちで乗り始めてみたのですが、S660の魅力にどっぷりハマっています。今やS660は生活には欠かせない存在で、手放したら必ず後悔すると思っています。購入してから6年ほどで、すでに11万km走りました。というのも、S660で日本全国を巡っていて、沖縄以外の46都道府県は制覇したんですよ。ロールトップの上にルーフボックスを装着するなど、スポーツツアラーとして乗っています。N-VANとCT125ハンターカブ、CBR400Rも所有しています。バイクでは沖縄に行ったことがあり、クルマでの行き方がわかったので、お金を貯めてS660での沖縄上陸を目指しています。
YASUさん
私の世代にとってHondaは「F1+鈴鹿+セナ」のイメージです。以前からHondaのスポーツカーに乗りたくてS660は発売時から欲しかった1台でした。でも、家庭の事情からなかなか手に入れるチャンスがありませんでした。そんな時、S660生産終了のニュースを耳にして、意を決して妻に相談したところ、思いがけず快諾してくれました。すでに生産終了・オーダーストップしていたのですが、どうしても新車が欲しかったので、方々のディーラーを駆け回って在庫車に巡り合えました。購入後は屋根付きのガレージを設置しました。S660に乗るようになってから、出先の駐車場やコンビニで知らない人に声を掛けられる機会も増え、これまでと違ったカーライフを楽しんでいます。息子にもS660は「カッコイイ」と好評です。このS660とHondaモンキー(50cc最終型)をぜひ息子に受け継いで欲しいと考えています。
木村さん
アクシデントでクルマがなくなってしまい、いざ次のクルマをどうするか? 欲しいのは2ドアか3ドアのMT車……という条件で探した時に候補に挙がったのがS660でした。そもそもこの条件に当てはまる新車自体が少ないですよね。S660は試乗したモデューロXのフィーリングがとても良く、クルマの出来も良かったので、購入を決定しました。S660、特にモデューロXはベースがとても良くできているので、イジる必要はないと考えています。カスタムをしたくなるのをガマンしてなるべくそのままで乗るつもりです。群馬サイクルスポーツセンターで開催されたモデューロXのイベントに参加した際には、ゲストの土屋圭市さんにクルマにサインしていただきました。私にとってこのS660モデューロXは特別な存在です。