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語り継がれる思い Vol.7 NSXヒストリー「新価値創造技術」次代を拓き未来を導く、初代NSXの先進技術
2020.11.27

初代NSXは、「ねじ伏せてこそスポーツカー」という当時の風潮を根底からくつがえし、誰にとっても使いやすい「人間中心のスポーツカー」へと革新しました。その考え方の正しさは、「運転しやすいクルマは速い」という新たな常識をレースの世界に定着させたことからも明らかでしょう。しかしNSXの意義はそれに留まりません。「人間中心」のために開発した数々の先進技術はその後の量産車に幅広く適用され、現在では、Hondaのみならず世界の自動車メーカーが標準化するまでに普及しました。そしてさらに、将来の自動運転につながる基幹技術として進化を続けているのです。

■ パワーロスを抑え、理想的な操舵フィールをもたらす、直接フル制御式電動パワーステアリング(EPS)

初代NSXを開発していた1980年代、スポーツカーは硬派なクルマとされ、「扱いにくくて当たり前」、「じゃじゃ馬をねじ伏せてこそスポーツカー乗り」という風潮がありました。そのためピュアスポーツカーの多くはパワーステアリング(パワステ)を採用せず、いわゆる“重ステ”を演出して(強いて)いたほどです。しかしNSXがめざすのは、誰にとっても使いやすい「人間中心のスポーツカー」。幅広いユーザー層、とりわけAT車を選ばれるお客様にパワステは必要不可欠な装備だとチームは考えていました。

当時、乗用車のパワステはすべて油圧式で、エンジン動力の一部を使ってオイルポンプを動かし、ステアリングアシスト力を得ていました。ミッドシップエンジンのNSXに適用するためには、後方のオイルポンプからフロントのステアリングギヤボックスまで長いオイルパイプを通す必要があり、その分重量が増加します。そしてなにより、オイルポンプ用に最大6PSものエンジンパワーが消費されてしまうことが、世界一の運動性能をめざすNSXにとって大きな悩みでした。そこで着目したのが、油圧に代わる次世代パワーステアリングとして研究を進めていた電動パワーステアリング(EPS)です。

電動モーターで操舵をアシストするEPSは、油圧式に比べ軽量かつシンプルな構成であるうえ、コンピューター制御によって必要なときに必要な量だけアシストすることが可能。パワーロスを極めて少なく抑えることができます。しかも、ドライバーの操作や走行状況に応じた最適なアシスト量を自在に設定でき理想的な操舵フィールをもたらします。まさに、「人間中心のスポーツカー」にふさわしい装備なのです。しかし当時の開発状況は、量産はおろか基礎研究の段階。実績のある油圧式を推す声も少なくはありません。そんなときチームの背中を押したのは、マネジメントのトップたちが幾度となく口にしていた言葉でした。「たとえこのクルマが失敗してもホンダに影響はないよ、どんどんチャレンジしなさい」。

量産化へ向けた最大の課題は、システムの信頼性でした。重要保安部品であるパワステは、いついかなるときでも正確に作動しなければなりません。温度、天候、振動、塵埃(じんあい)などの一般的な信頼性要件に加え、電波障害への対応といったさらに高いハードルを1つひとつクリアしたうえで、極寒のアラスカや酷暑のオーストラリアで長距離走行テストを行い、極めて高い信頼性を確認。ついに、直接フル制御式として世界初となるEPSを完成させ、NSXへの搭載を実現したのです。Hondaは、この次世代パワーステアリングEPSを、低燃費化技術として、また、理想的な操舵フィールをもたらすステアリングシステムとして、他社に先駆けて幅広いモデルに展開。それを可能にしたのは、「人間中心のスポーツカー」をめざすNSXが、理想を妥協せず研究・開発を加速したからにほかなりません。

EPSシステムの構成操舵センサーと車速センサーからの信号をもとに、コントロールユニットが車両の速度や走行状態に応じて適切なアシスト量を判断し、モーターの駆動力を無段階に調整して最適な操舵力を生み出す

■ 優れたペダルフィーリングと緻密なスロットルコントロールを実現する、ドライブ・バイ・ワイヤ(DBW)

自動車メーカーにとってスポーツカーは、技術力や開発思想、そして誇りを背負ったシンボルなのかもしれません。あるいは、そのクルマが「New Sports X(Xは未知数)」の名を得たときからの宿命なのかもしれません。進化し続けることはすなわち、NSXであることと同義でした。発売から5年後の1995年、Hondaはマイナーモデルチェンジを行うとともに、「TYPE R」に続く新たなモデル「TYPE T」を投入します。それは、単にオープントップというだけではなく、いくつもの新技術を搭載した革新的なモデル追加でした。なかでも特筆すべきは、当時、次世代のスロットル制御システムと考えられていたドライブ・バイ・ワイヤ(DBW)の採用です。

DBWは、アクセルペダルの動きをセンサーが検知して電気信号に置き換え、その信号をもとにモーターがスロットルバルブを開閉するシステムで、ドライブ・バイ・ワイヤの「ワイヤ」は、電気信号を伝えるケーブルを意味します。機械式スロットルのように強靱な金属製ワイヤを用いないため、フリクションなどがありません。ミッドシップの場合、コックピット先端のアクセルペダルから車両後方のスロットルバルブまでワイヤの長さは数メートルにおよびますから、それだけのフリクションをなくすことができれば、ドライバーのアクセルワークに、より忠実に応える緻密なスロットルコントロールが実現できるのです。

DBWは、もともと高度な信頼性が要求される航空機の分野で、フライ・バイ・ワイヤ(FBW)として生まれたもの。しかも、戦闘機F-16や超音速旅客機コンコルドから適用がスタートしたという先進技術です。自動車の分野では1992年、F1マシンのマクラーレン・ホンダ MP4/7Aが最初と言われ、量産車への普及はまだこれからという時代でした。しかしHondaは、1980年代の半ばから、爽快エンジン研究の一環としてDBWの先行基礎研究をスタートしており、1980年代末には基本的な制御技術をすでに確立。その一部を応用しNSX用トラクション・コントロール・システム(TCS)として実用化していました。その実績と長年の知見をフルに活用してDBWの開発を推進。自社の耐久試験データに加え、航空機の信頼性構築手法を参考に目標を設定し、さらに、高価かつ高信頼性のステップモーターを航空機用部品メーカーに依頼するなど、徹底的に信頼性を高めてDBWを完成、NSXへの搭載を可能にしたのです。

DBWシステムの構成アクセルペダルの動きをアクセルセンサーが感知して電気信号に変換、ステップモーターに直結したスロットルバルブをダイレクトに動かすことで、より緻密なスロットルのファインコントロールを実現

■ 未来を導く先進技術

こんにち、EPSは主要燃費向上対策のひとつに数えられ、油圧式に代わるパワステのスタンダードとなりました。DBWもまた、高精度スロットル制御の代表技術として、軽自動車からハイエンドモデルまで幅広く採用されています。しかし、これらの技術がもたらすものは、燃費やドライバビリティーの向上だけではありません。Honda SENSINGにおける、車線維持支援システム(LKAS)などの操舵アシスト技術、アダプティブクルーズコントロール(ACC)などの加減速制御技術、これら先進運転支援システムにはすべて、EPSとDBWの緻密で高度な制御が活かされています。そしてさらには、将来の自動運転につながる基幹技術として進化を続けています。初代NSXが切り拓いた先進技術は、それほどまでに先を見据えたものだったのです。

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