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語り継がれる思い Vol.3 NSXヒストリー「パッケージ」「人間中心」の思想に基づく、
スポーツカーパッケージの革新
2020.11.13

初代NSXは、マシン中心の考え方が当たり前であった当時のスポーツカーに、人間を中心に考える「ヒューマン・オリエンテッド」の思想を採り入れたことが大きな革新でありHondaらしさでした。人間がマシンに合わせるのではなく、乗り手が自分のスキルに応じて性能を引きだし自在に快適にマシンを操る。「意のまま」と感じられる扱いやすさが、それまでのスポーツカーとは一線を画す、深い喜びと楽しさをもたらしたのです。その思想は、人間と機械をどう配置すればもっとも快適にクルマを操れるか、すなわち、クルマの基本となるパッケージレイアウトの開発にも色濃く反映されていきました。

■ 低全高全方位視界

快適なドライビングのためにもっとも重視したのは、「ヒューマン・フィッティング」の考え方に基づく、運転視界とドライビングポジションでした。ドライバーは運転に必要な情報の80%以上を視覚から得ていると言われており、Hondaでも早くから視界の研究に取り組んでいました。前方視野角を決定づけるフロントピラーの在り方はもちろん、フロントフードの見え方や側方・後方の視界までを良好にし、運転や運転負荷の軽減に役立てようという考え方です。それはまさに、的確な認知・判断・操作でドライビングを楽しむスポーツカーにとっても極めて重要な“性能”です。スポーツカーにふさわしい低ドライビングポジション(低アイポイント)としながらも、全方位にわたって段違いの良好視界を確保することをめざし、「低全高全方位視界」を目標に設定。運転のしやすさ、ひいては人とクルマのインターフェースという視点から、初代のコンセプトである「快適F1」の創造に取り組んだのです。

■ 快適ドライビングポジション

ドライビングポジション、そして、インテリアデザインにおいても、目標は人間中心であることでした。当時のスポーツカー、とりわけエンジンを後方に積むミッドシップエンジン・リアドライブ(MR)やリアエンジン・リアドライブ(RR)のスーパースポーツは、フロントタイヤのハウジングが室内に張り出し、ドライバーがステアリングホイールやペダルと正対しにくいものが少なくありませんでした。それではとても快適とは言えない。シートに座り足を延ばせば最適な位置でペダルが待ち受け、手を伸ばせば自然にステアリングホイールに正対できる。そうでなければ「快適F1」にはなり得ないというのがチームの考え方でした。NSXは、運動性能の向上を主目的に、フロントタイヤの径をリアタイヤに対して小さくする“前後異径タイヤ”を検討しており、ドライバーに無理な姿勢を強いるスーパーカーに対し、足もと空間に有利なパッケージポテンシャルを備えていました。その優位性をさらに生かし、フロントタイヤをより前方に配置することで足もとに十分な空間を確保。同時にステアリングシステムのレイアウト自由度を高めることで、ドライバーがペダルやステアリングホイールと自然に正対できる、人間中心の快適ドライビングポジションを実現したのです。

■ 前方視界

NSXがめざす「低全高全方位視界」のなかでも、もっとも重要視したのはやはり前方視界です。一般的に低いドライビングポジションでは、インストルメントパネルが見下げ視界をさえぎります。良好な前方視界を確保するためには、常識を超えてインストルメントパネルを低くし、さらにフロントフードまで低くする必要がありました。チームはまず、内蔵部品のなかでも容積の大きいエアコンユニットを可能な限りコンパクトに納めることに挑戦。ユニットを縦置にすればセンターコンソール前部のわずかなスペースに納められることを発見しました。そこで縦置ユニットを新たに開発するとともに、エアミックスの機構などを刷新し容積を大幅に削減。優れた空調性能を確保しながら、常識外に低いインストルメントパネルを両立させたのです。一方の低フロントフードについては、Hondaのサスペンション技術が功を奏しました。Hondaは古くから、上下2枚のアームで構成するダブルウイッシュボーン式サスペンションを得意としており、アコードやプレリュードでは鶴首タイプと呼ばれるアッパーアームによって低フロントフードを実現していました。NSXでは、その技術をさらに進化させ、インホイールタイプのダブルウイッシュボーン・フロントサスペンションを新たに開発。新構造のコンプライアンス・ピボットにより操縦安定性と乗り心地を高次元で両立させながら、低フロントフードによる良好な前方視界をも達成したのです。

■ 後方視界

「低全高全方位視界」を実現するためには、前方のみならず側方・後方の視界も重要です。当時のミッドシップエンジン車の多くは、エンジンルームの左右に吸気用トンネルバックを配置しており、斜め後方の視界がほとんど確保できません。もちろん快適ではない。そこで、斜め後方を含むリア全体を一枚の高曲率ラウンドガラスで構成するキャノピースタイルを発案。低全高・低ドライビングポジションでありながら、優れた後方視界を獲得しました。そして、キャノピースタイルは、良好な視界のみならず優れた空力性能やエクステリアデザインの特徴をもたらし、やがて、NSXの象徴とも言える「前進キャノピー・デザイン」へと昇華されていくのです。

■ 前進キャノピー・デザイン

当時、スーパースポーツは限られた人の趣味の乗り物と位置づけられる傾向にあり、個性的でアグレッシブな外観こそスーパースポーツという風潮がありました。個性や美しさに異論を唱えるつもりはないのですが、Hondaには、外観ありきのスーパースポーツをつくる文化など存在しません。あくまでも「人間中心」に考えた機能性や操る楽しさを、魅力的なエクステリアデザインのなかに凝縮させることがHondaがつくるスーパースポーツだと考えるのです。そして、その実現のヒントはキャノピースタイルにありました。後方視界をきっかけに生まれたキャノピースタイルを発展させ、エクステリアデザインのイメージをF-16戦闘機に設定。操縦性、運動性能、視界、空力など、あらゆる要素を計算し尽くしてパッケージとスタイリングを追求したのです。高曲率の大型ラウンドガラスをフロントウインドウにも採用し、サイドウインドウも三次元曲面ガラスとすることで、塊感のあるグラスエリアでキャビン全体を表現。V型6気筒エンジンを横置きとすることで、ミドルサイズのスーパースポーツとして適切な全長とホイールベース、そして居住空間を実現しました。さらに、ミッドシップエンジンの利点を生かしてノーズを薄くコンパクトにする一方、長く流れる独創的なテールエンドを設けることで、空力性能に優れた全身エアロフォルムを創出。F-16戦闘機を彷彿とさせる、革新的な「前進キャノピー・デザイン」を完成させたのです。

■ HUMAN-CENTRIC COCKPIT

優れた視界と快適な操縦性。「ヒューマン・フィッティング」をめざした初代NSXの理想は、その後のHonda車に脈々と受け継がれ、独自の価値と魅力を創造してきました。そして理想は次のステージへと踏み出します。2016年に誕生した2代目NSXは、「HUMAN-CENTRIC COCKPIT」を開発テーマのひとつに掲げ、視界や操縦性に優れるだけではなく、現代ならではのわかりやすいHMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)や、操作時の心地よさといった感性の領域にまで開発目標を拡大。快適を超え、こころの奥深くまで喜びをもたらすドライビング空間をめざしました。例えば運転視界では、フロントピラーを極限まで小断面化し視界を向上させると同時に、インストルメントパネルに強固な骨格をイメージさせるデザインを採用することで「守られ感」を創出。ステアリングホイールは、徹底した走り込みを通じ新たなフィット感と操作のしやすさを実現し、優れたサポート性を発揮するシートは、サーキット走行時のヘルメット装着を想定してヘッドレスト形状を最適化。さらに、コーナリング時にドライバーを支えるニーパッドを装備するなど、日常からサーキットまで感性に訴えるスポーツ体験の舞台を整えました。しかしもちろん、Hondaは満足していません。技術は人に尽くすもの。そして、人のこころは深淵です。だからこそHondaは、クルマづくりを通じて人間そのものを研究し続けるのです。

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