誕生秘話

Honda除雪機の開拓者たち
豪雪地域の大変な除雪作業を支える
業界初の電動油圧式オーガコントロールの開発
Hondaが1995年に発売した「HS1180Z/1390Z」は、除雪作業を動かすオーガハイト/ローリング機構に電動油圧式シリンダーを業界で初めて採用した除雪機。豪雪地帯に除雪機を一気に広めたとも言われる技術の開発について、数々の除雪機開発に関わってこられた酒井さん、山崎さんに伺います。
*文章中の「世界初」「業界初」については1995年時点、Honda調べとなります。
Pioneers
酒井 征朱
酒井 征朱
株式会社本田技術研究所
ライフクリエーションセンター エキスパートエンジニア
1983年 Honda入社。1985年発売の「HS80」の設計を皮切りにHonda除雪機の開発に参画。1996年の「HS1710Z/2011Z」やハイブリッド除雪機「HSS1170i」「HSM1590i」などHondaを代表する数多くの機種でLPL<開発責任者>を務める。
株式会社本田技術研究所
ライフクリエーションセンター エキスパートエンジニア
1983年 Honda入社。1985年発売の「HS80」の設計を皮切りにHonda除雪機の開発に参画。1996年の「HS1710Z/2011Z」やハイブリッド除雪機「HSS1170i」「HSM1590i」などHondaを代表する数多くの機種でLPL<開発責任者>を務める。
山崎 信男
山崎 信男
株式会社本田技術研究所
ライフクリエーションセンター アシスタントチーフエンジニア
耕うん機、乗用トラクター、アクティクローラなどの商品性研究に従事。除雪機では1996年のV-Twin搭載大型除雪機、2005年の「HSM1590i」、2013年の「HSL2511」など小型から大型まで幅広い機種でDPL<開発部門リーダー>を務め、様々な新技術を商品化に貢献。
株式会社本田技術研究所
ライフクリエーションセンター アシスタントチーフエンジニア
耕うん機、乗用トラクター、アクティクローラなどの商品性研究に従事。除雪機では1996年のV-Twin搭載大型除雪機、2005年の「HSM1590i」、2013年の「HSL2511」など小型から大型まで幅広い機種でDPL<開発部門リーダー>を務め、様々な新技術を商品化に貢献。
※肩書きは2020年9月時点のものとなります。

当時は小さな除雪機と
巨大な除雪機ばかりだった

1980年に1台目の除雪機を送り出してから、10年間で一気にモデルは増えましたね。
酒井
最初は、「家庭用の除雪機」というカテゴリ自体がなかったんだと思います。元々、Hondaが除雪機を始める前から、農家の方が使う非常に大きな除雪機があったわけです。そこに海外メーカーの手軽な大きさの除雪機が入ってきて、国内メーカーも家庭向けの除雪機を作るようになってきていたわけです。Hondaも、除雪幅を55cm、60cmと徐々に大型化していき市場のニーズに応えていったわけです。
1989年には除雪幅90cmのHS1190を発売しています。
山崎
日本の雪質に適応させた除雪機です。日本海側は積もるだけではなく雪が重たいから「もっと大きいサイズを」と要望があったわけです。重量を比較すると、小型の「HS80」が約100kgだったのに対して、「HS1190」は200kgを超えています。それでも、その上のモデルの「HS1110Z」は重量390kgですから、90cmの除雪幅でありながら取り扱いやすいサイズにまとめられています。
小型と大型の間に「中型」と呼べる除雪機をHondaから送り出したわけですね。
酒井
当時は、あまりないサイズの機械でしたね。このクラスになると、雪深いところを除雪するわけで、雪を切り崩し、雪の上に乗って削る「段切除雪」をしたいニーズが出てきます。
段切除雪のイメージ。背丈よりも高い雪の壁を切り崩していく
高く降り積もった雪の中で活躍できるのが中型除雪機なのですね。
山崎
ところが、「HS1190」は、オーガ<除雪作業部>の上下を手動で操作できるだけでした。段切除雪にはオーガを上下させる「ハイト」操作が楽に行え、傾いた雪面を修正するために「ローリング」機構も必要になってくるわけです。
オーガハイト機能
オーガローリング機能

巨大な除雪機の機能を
家庭用除雪機に搭載する

段切除雪をレバー1つで操作できるようにしたのが「HS1180Z/1390Z」なわけですね。
酒井
「HS1190」をベースに、業界初の電動油圧式シリンダーによるオーガハイト/ローリング機構を搭載しました。当時から同じ機構をもった除雪機はありましたが油圧で動作しているので大きく、とても家庭用とは言えなかった。既存の油圧シリンダーでは我々が思い描くサイズの除雪機が実現できなかったのです。
「HS1190」(写真右)は、上下の操作のみ。メカ式で操作レバーも重たかった。
「HS1390Z」(写真左)は、1つのレバーで上下左右が操作でき、軽い力で動かせるようになった
油圧に対して電動油圧にするメリットはどういったことでしょうか。
酒井
油圧だと、オイルをコントロールするスイッチや配管が必要でどうしてもサイズが大きくなってしまいます。電動油圧はモーターで制御するので、システムを小さくまとめることができます。小型化するということは安く作れるようになるということです。そこは、巨大な除雪機に搭載されている機構を中型サイズの除雪機に搭載するうえで大切な部分です。生産を担っていただいたショーワさんの技術も入って、かなり小さくなりました。
既製品では電動油圧式のシリンダーはなかったのですか?
酒井
色々なメーカーを探しました。電動リクライニングベッドの部品なんかも研究しましたね。しかし、雪の中で使う除雪機での利用を総合的に考えて、新たに開発するのがベストだと判断したわけです。同じように見えるシリンダーも縦向きに設置する「ハイト」と、水平に設置する「ローリング」で内部を作り分けています。
山崎
作業中は除雪機の浮き沈みを細かく調整します。その度にハイト/ローリングの操作をするのですが、シリンダーを小刻みに動かし続けるのは除雪機特有の使い方だと思います。油圧装置に空気が混入すると動作が不安定になります。しかし、水平に設置すると空気のコントロールが難しい。そこでローリング用にはエア噛みをしないような特殊な仕組みを組み込んでいるのです。
除雪機用に色々な工夫がなされているのですね。
山崎
除雪機用として、凍結対策は万全に施しています。また、重たい除雪作業部に加えて雪の荷重も掛かるので相当な耐荷重を持っています。
酒井
重たい雪を持ち上げる作業は、手ではとてもできません。人ができないことを可能にするのが、このクラスの除雪機の強みです。除雪機に求められる性能を実現するために、開発するときには、ショーワさんにも除雪のことをしっかりと知ってもらわないといけないので、一緒に雪山に入って除雪作業を体験してもらいながら、現場での使い勝手を知ってもらいました。

新しい技術への積極的な挑戦が、
次の新技術を生み出す

電動油圧コントロールを採用した第二世代になって、中型除雪機はものすごく売れたと聞いています。
山崎
豪雪地帯では、屋根の雪下ろしが大変なので、徐々に雪下ろしをしないですむ落雪式の屋根が普及するようになり、今度は落ちた雪の処理になってきた。そういった環境の変化もパワフルな除雪機が受け入れられるようになった理由の一つだと思います。
酒井
機能性を高く評価されました。前モデルの「HS1190」と比べると3倍くらいの売れ行きでした。それを実現できたのは、電動油圧方式の組み立てやすさがあったからとも言えます。油圧は配管を組み付けるもの大変で、オイルのチェックも必要です。簡単に組み付けられる電動油圧シリンダーだから生産性が向上し、お客様の要望に応じた生産規模を実現できたのです。
世の中にない仕組みに対して、サービスを行う販売店の不安はありませんでしたか。
山崎
新しい構造なので、予期せぬトラブルもあります。販売いただく方の生の声を聞いて真摯に対応し改良していきました。販売店の皆様とお話しすると、不具合だけではなく、実際に使われるお客様の様々な情報をいただけるのです。
酒井
実績を重ねることで不安は解消されて、操作を電動化する良さが広がっていったと思います。
それだけ売れた「HS1180Z/1390Z」ですが、6年後には早くも一新します。
山崎
除雪機を使いやすくするのは電動化の歴史でもあります。まず投雪操作を行うシューターを電動化して、次にオーガコントロールを電動化しました。電動化を受けて、エンジンも電気をたくさん取り出せるようにチャージコイルの容量を増やしました。こうした対応が、次に登場する走行部まで電動化するハイブリッド除雪機に繋がっていくわけです。
役立つ技術を常に追い求めているわけですね。
酒井
厳しい環境で使われる除雪機は、信頼性で妥協することはできません。電気でコントロールできるから、色々なことが軽い力で実現できるようになる。それをどんな環境でも確実に動くようにモノにする。「頼れる使いやすい除雪機」それこそがHondaがこだわり続けていることです。新しい技術は、突然出てくるわけではなく、一つ一つの積み重ねにから生まれてくるのです。
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