誕生秘話

Honda除雪機の開拓者たち
より多くの方に「使いやすい」を届ける
ハイブリッド除雪機の拡大と進化
2001年にHondaが送り出した世界初のハイブリッド除雪機は、新たな技術を投入しながらラインアップを拡大し、用途や環境に合わせて商品を選べるようになりました。今回は、ハイブリッド除雪機の進化と拡充に取り組んだ電装開発の川上さん、電子制御エンジンの開発担当の倉田さん、商品性担当の山本さんにお話を伺いました。
*文章中の「世界初」「業界初」については、Honda調べとなります。
Pioneers
山本 隆弘
山本 隆弘
株式会社本田技術研究所
ライフクリエーションセンター アシスタントチーフエンジニア
1985年 Honda入社。ディーゼルトラクター、乗用芝刈機、アクティクローラ、電動カートの開発において商品性開発を担当。2001年発売のハイブリッド除雪機「HS1390i」から除雪機の開発に参画しDPL<開発部門リーダー>を務めた。
株式会社本田技術研究所
ライフクリエーションセンター アシスタントチーフエンジニア
1985年 Honda入社。ディーゼルトラクター、乗用芝刈機、アクティクローラ、電動カートの開発において商品性開発を担当。2001年発売のハイブリッド除雪機「HS1390i」から除雪機の開発に参画しDPL<開発部門リーダー>を務めた。
川上 俊明
川上 俊明
株式会社本田技術研究所
ライフクリエーションセンター チーフエンジニア
2002年 Honda入社。家庭用コージェネレーションの電装開発を担当したのち、2003年発売の「HSS1170i」から除雪機の開発に参画。以降のハイブリッド除雪機の制御開発を担当し、現在はロボット芝刈機など自動制御技術が投入された商品全般を受け持つ。
株式会社本田技術研究所
ライフクリエーションセンター チーフエンジニア
2002年 Honda入社。家庭用コージェネレーションの電装開発を担当したのち、2003年発売の「HSS1170i」から除雪機の開発に参画。以降のハイブリッド除雪機の制御開発を担当し、現在はロボット芝刈機など自動制御技術が投入された商品全般を受け持つ。
倉田 眞秀
倉田 眞秀
株式会社本田技術研究所
ライフクリエーションセンター アシスタントチーフエンジニア
2000年 Honda入社。汎用エンジンにおける電子制御技術の先行検討に参画したのち、同技術を採用する「iGX440」の量産開発に従事。2005年発売の「HSM1590i」では新エンジンの搭載担当として除雪機開発に参画。
株式会社本田技術研究所
ライフクリエーションセンター アシスタントチーフエンジニア
2000年 Honda入社。汎用エンジンにおける電子制御技術の先行検討に参画したのち、同技術を採用する「iGX440」の量産開発に従事。2005年発売の「HSM1590i」では新エンジンの搭載担当として除雪機開発に参画。
※肩書きは2020年9月時点のものとなります。

快適除雪の実現に向けて
ハイブリッド除雪機を普及させる

ハイブリッド除雪機は5年間で6モデル8タイプまで拡大します。
山本
2002年に発売した「HS980i/HS1180i」は、ハイブリッド1号機の「HS1390i」と同時に開発を行っていました。除雪幅やエンジン排気量は異なりますが、基本的には同一のシリーズです。ハイブリッドが非常に好評でしたので、その後に開発する除雪機にも影響を与えたと思います。
2003年に登場した小型除雪機のハイブリッドモデルも同時開発ですか。
川上
「HS1390i」が2001年に開発完了してから、小型モデルの「HSS1170i」に取り掛かりました。今思うと、すごいスピードで商品が追加されていますね。
「HS1390i」をベースにサイズを小さくしたわけではないのですか。
山本
骨格が違いますし、モーターを動かす電圧も違います。全く別物となります。
川上
初代の「HS1390i」は、サイズ的にもエネルギーが必要ということで24Vの電圧で動かしました。次に小型除雪機もハイブリッドにしようとなり、小型除雪機らしい販売価格というものがありますし、この時は作業音を静かにしようという思いから電動化以外にもコストを掛けたかったので、12Vの電圧で動かすことを採用しました。
電圧が低くなることで、どのような難しさがあったのでしょうか。
川上
乗用車の電圧は12Vなので、電装部品が揃いやすいというメリットがあります。一方で、電圧を小さくすると出力が取り出しにくくなるんですよね。小型除雪機は、深い雪の上に乗って作業するような機械ではありませんので出力が小さくても足りるのですが、スターターモーターを回すような瞬間的に負荷が上がって電圧が落ちる場面でも問題ないような電装の設計が必要になりました。
HSS1170iにはボタン式の旋回が搭載されました。
山本
小型除雪機に旋回機能を搭載したのは業界初です。小型は、機体重量が軽いので雪の上なら腕の力でも旋回できるのですが、ハイブリッドのモーター駆動を活かした旋回機能は分かりやすい特徴となります。
川上
幅広い方に使われる小型除雪機なので、シンプルな操作系として旋回はボタン式にしました。ただし、ボタンはスイッチのオン・オフしかないので、左右のモーターをどのように動かすかという旋回の味付けは悩ましかったですね。
ハンドルから手を離さずに操作できる旋回ボタン
ハイブリッドの根幹である制御の味付けは、どのようにして決めていったのですか。
川上
いろんな場所で試してパラメーターを調整していきます。作業場がないようなところでもテストを行うので、雪がしのげるトラックの中で設定を変えたり、時には雪の中でパソコンを広げてその場で設定を書き換えたりしました。設定の良し悪しは、ちょっと使っただけで分かってしまうので、変更の作業が追い付かないんですよ。商品性の担当は、すぐに「これはダメ」と切り捨てちゃう(笑)。一回一回パラメーターを検討し変えていたら待たせる時間が増えてしまうので、テスト前に何種類も用意して、制御の設定をすぐに確認できるようにしておくんです。
ハイブリッド機構を活かした進化もあるそうですね。
山本
2001年にハイブリッド除雪機を出した時は、初めての機構でしたのでバッテリーの使い方など余裕を残していました。発売後にトラブルも起きておらず、次はもっと積極的にハイブリッドのメリットを活かそうとなりましたね。
川上
結果、エンジンを掛けずに除雪機を動かせるモーター単独走行など、ハイブリッドらしい機能も追加されています。
ハイブリッド除雪機を小型クラスに投入した反響はいかがでしたか。
山本
フルカバーでデザインも洗練されていましたし、「新しい除雪機」として好評でしたね。発売当初はメーカー希望小売価格も50万円をきることができ、よりたくさんの方にハイブリッドの良さをお届けできるようになりました。
コンパクトサイズに加え、親しみやすいデザインで女性にも人気となった

知能化したエンジンとの協調で
ハイブリッド除雪機を進化させる

2005年に登場したHSM1590iは、どんな除雪機なのですか。
山本
汎用エンジンとして世界初の回転数電子制御技術「STRガバナー」を採用した知能化エンジン「iGX440」を搭載しました。エンジンの制御とハイブリッドのモーター制御を組み合わせることで、更なる使い勝手の向上を実現し、新しい可能性が広がった除雪機です。
見た目は2001年発売の「HS1390i」に似ています。
川上
エンジン排気量も大きくなっていますし、エンジンの制御によって実現できた新たな機能も搭載し見た目よりも大きな進化を遂げています。
知能化エンジンiGX440について教えてください。
倉田
汎用エンジンというのは基本的には一定のエンジン回転で使うものです。しかし知能化されたiGX440においては搭載した完成機との通信によって様々なエンジン回転に設定を変えることができます。特に除雪機のような製品側にはエンジンに対する色々な要求があります。「アイドリング時はエンジン回転数を下げたい」とか「負荷に合わせて制御を変えたい」と言ったお客様のニーズに合わせることができるエンジン、それが「iGX440」です。
エンジンを開発する際、除雪機への搭載は検討されていたのですか。
倉田
もともと「エンジンを搭載する完成機側との連携が強化された汎用エンジンを作ったらお客様が喜ぶだろう」という考えから、これからの時代に求められるエンジンとして2000年以前から幅広い製品への搭載を前提に開発が進められていました。
川上
ハイブリッド除雪機を開発する中でHondaとしてもノウハウが貯まり、エンジンまで制御できたら除雪機はもっと良くなるという思いはありました。そこで、中型ハイブリッド除雪機シリーズのモデルチェンジに合わせてiGX440の搭載を検討しました。
除雪機は、新しいエンジンの特徴を発揮できる製品だったのですね。
倉田
その通りなんですが、エンジンにとって除雪機はものすごく厳しい使われ方をされているんです。負荷率は高く、氷点下の低温で雪にまみれて使われます。従来のエンジンは除雪機に搭載してきた長い実績があります。エンジン屋としては電子制御も行う新エンジンをいきなり除雪機に載せるには十分な検証が必要でした。
低温下に加え、あえて雪まみれにして試験を行う
具体的にテストを行うなかで明らかになった課題はありますか。
倉田
テストベンチでは主に熱的に厳しい条件でのテストをします。例えば、全開でエンジン回転が高いところで負荷をかけるような試験です。しかし、実際の雪の中では軽い負荷の時にトラブルが起きたのです。軽負荷で連続して使われるとエンジン温度が上がらず凍結したり、水が出たりしました。お客様の本当の使い方を分かっていないとトラブルが起きてしまう。現場の大切さをあらためて学びました。
エンジン開発担当者も雪の中で除雪機のテストをされたのですか。
倉田
はい、しっかり除雪機を使いました。普段のエンジン開発ではテストベンチで作業環境を模して研究を行います。しかし、除雪機のテストチームについて行くと、防寒着を着て雪の中で除雪機を一日中つかっていて驚きでした。それで、夜はみんなで街に繰り出して、お酒を酌み交わしながら「もっとこうしよう」と語り明かしてるんですね。こんな一体感のある開発は初体験だったので新鮮でした。
山本
だから、良い除雪機ができるんですよ(笑)。
新エンジンを活かして、除雪機としてはどんなことが実現できたのでしょうか。
川上
新エンジンに搭載されたSTRガバナーの特性を活かした「作業モード切替機能」を搭載し、作業者が熟練度や好みに合わせて除雪機の設定を選べるようにしました。エンジンの力強さを活かす「パワーモード」なら、エンジン回転数を4,000rpmまで高め遠くまで投雪したり、トルクが厚いエンジン回転数にして早く除雪を終わらすこともできます。より簡単に作業したいなら「オートモード」を選べば、除雪機がエンジン回転数を一定に保ちながら負荷に合わせて積極的に速度をコントロールするので、レバー操作の回数を更に減らすことができます。
山本
作業負荷に応じてエンジン回転数が落ちないことで雪の飛びを一定に保てるなど、色んなシーンでレバー操作を減らせる除雪機を作りました。
ハイブリッド除雪機も進化をさせながら、使い勝手を高め続けているのですね。
川上
HSM1590iで先鞭をつけた知能化したiGXエンジン搭載の除雪機は、2011年にモデルを拡大し3モデル5タイプになりました。HSM1590iで実現した「作業モード切替機能」のようなレバー操作を減らす制御技術の搭載モデルを広げていっています。
山本
除雪機が出始めた時は「スコップよりは楽」ということで喜んで貰えたと思います。だから、建機のような操作でも受け入れられていました。ハイブリッド除雪機がその流れを変えたのだと思います。購入して使っていただいているお客様のところに行きましたが、除雪機は高齢者や女性の方が使うことも多いんですね。お父さんは出勤前に車を出すために30分くらい除雪する。その後日中は、家の周りをおじいさんやお母さんが除雪する。雪国でたくさんの方に使っていただく除雪機だからこそ、「私でも使いやすい。楽になりました」と言っていただける除雪機を目指し続けたいと思います。
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