誕生秘話

Honda除雪機の開拓者たち
除雪機を買ったら安心が付いてくる
業界初の商品付帯補償サービスの開発
Honda除雪機を選んだ理由に「補償が充実しているから」ということを挙げる方もいらっしゃいます。商品を買ったら賠償責任保険や盗難補償が付いてくるという仕組みについて、ホンダ開発の秋田さん、営業で企画を担当された倉田さんに話を伺いました。
*文章中の「業界初」については2002年・2009年時点、Honda調べとなります。
Pioneers
秋田 祥二
秋田 祥二
ホンダ開発株式会社 主幹
1999年にホンダ開発入社。配属された保険部は学生時代の専攻とは畑違いながら、パワープロダクツ向け賠償責任保険、盗難補償など商品付帯保険の立ち上げに参画。その後、タイの現地保険ブローカーの立ち上げを推進。現在は、ホンダ開発の経営企画に従事する。
ホンダ開発株式会社 主幹
1999年にホンダ開発入社。配属された保険部は学生時代の専攻とは畑違いながら、パワープロダクツ向け賠償責任保険、盗難補償など商品付帯保険の立ち上げに参画。その後、タイの現地保険ブローカーの立ち上げを推進。現在は、ホンダ開発の経営企画に従事する。
倉田 文七郎
倉田 文七郎
株式会社ホンダパワープロダクツジャパン 主任
2003年 Honda入社。2005年から国内における除雪機の販売施策立案を担当し、複数の商品開発でSPL<営業部門リーダー>を務める。その後、航空エンジン事業室でのマーケティング担当、パワープロダクツ国内販売統括会社の立ち上げ業務を経て、現在は同社営業政策の企画推進に従事。
株式会社ホンダパワープロダクツジャパン 主任
2003年 Honda入社。2005年から国内における除雪機の販売施策立案を担当し、複数の商品開発でSPL<営業部門リーダー>を務める。その後、航空エンジン事業室でのマーケティング担当、パワープロダクツ国内販売統括会社の立ち上げ業務を経て、現在は同社営業政策の企画推進に従事。
※肩書きは2020年9月時点のものとなります。

万一の事故を気にせずに
Hondaの商品を使ってもらいたい

Hondaが提供する安心補償制度Ho!について教えてください。
秋田
Hondaパワープロダクツをお使いの方が、使用中にぶつけてしまったり、飛び石などで第三者に損害を与えてしまった場合に賠償責任保険を使って損害を補償する制度です。
倉田
初めてお使いになる方は、製品の取り扱いに慣れていない場合もあります。万一の事故を想定して、最初1年間は製品登録を行っていただくことでお客様には保険料などの費用負担なく補償を提供しています。
秋田さんと除雪機などのパワープロダクツとの関わりを教えてください。
秋田
私が所属するホンダ開発には、保険代理店としての機能があります。そこでは、主にHonda従業員向けの保険を扱っており、私も入社後の配属先で自動車保険などを扱っていました。その後、異動して受け持つようになった業務の中に海外事業所向け保険やパワープロダクツで扱っていた任意保険があり、Hondaの中にクルマやバイク以外の幅広い商品があることを知り、関心を持つようになりました。
どういった経緯で安心補償制度Ho!の検討が始まったのでしょうか。
秋田
当時、除雪機と電動カートには任意で加入できる賠償責任保険が用意されていましたが、契約ごとにオーダーメイドするような保険で、お客様には手続きの手間も掛かるため加入者はあまり多くありませんでした。そのような状況を知り「Hondaとして、もっとお客様の役に立てる保険があっても良いのでは」ということを考え始めていたタイミングで、2001年にパワープロダクツの営業の方から声が掛かったのです。
Hondaとはどういった内容で協議が始まったのですか。
秋田
Hondaの方から開口一番に言われたのが「商品を買われた方の情報が把握できておらず困っている」という相談でした。私の仕事は保険代理業務ですから、保険以外の相談を真っ先にしていただいたのが意外で、強く印象に残っています。
倉田
クルマやバイクと違って、パワープロダクツには公的な登録がありません。メーカーの立場としては、どのようにお客様を把握するかという課題があります。
秋田
その時に言われたのが「保険をサービスで付けたら、登録してもらえるようにならないかな」という一言でした。その瞬間、「任意保険で加入者が少ないなら、最初から保険を付けて提供すればいい」という安心補償制度Ho!の原型ができあがりました。
そもそも、商品を買う時に保険をサービスで付けることが可能なのですか。
秋田
クレジットカードを契約すると付いてくる保険に似ています。1990年代の後半に保険業法が改正され、いろいろな形で保険サービスを提供することが可能になりました。それ以前は、商品に保険をつけるサービスはあまり一般的ではありませんでした。
倉田
これを「商品付帯保険」と呼んでいます。まさに「商品を買ったら保険が付いてきた」というイメージです。
賠償責任保険を商品に付けるために、どんな苦労があったのでしょうか。
秋田
安心補償制度Ho!では、従来までの除雪機・電動カートに限らず全てのパワープロダクツにご利用者様の賠償リスクをカバーする保険を付けることを目標としました。そのために、製品の特性や使い方を把握して、どういったリスクがあるかを全ての商品で洗い出さないと保険会社は保険を引き受けてくれないのです。
倉田
それ以前から、個別の商品についてHondaは保険会社と交渉をしていましたが、保険を設定できずにいました。Hondaにはない保険に関するノウハウを秋田さんにサポートして貰えたからこそ商品付帯保険が実現できたのだと思います。
2002年6月から安心補償制度Ho!が開始します。
秋田
2002年4月頃からHondaとして広報発表をしようと動き出しました。私も、広報発表に誤解を招く表現がないかなど保険的観点で内容の確認を行いました。メーカーであるHondaの広報発表に参加できて、とても嬉しかったですね。
実際に商品に付いてくる保険は利用されているのでしょうか。
秋田
最初の保険金支払いは、飛び石をクルマにぶつけてしまったという内容でした。8万円ほどの保険金です。決して賠償できない金額ではないと思いますが、毎年数件の保険金をお支払いしており、お客様のお役に立てているのではないかと感じています。
商品付帯保険という業界初の取り組みを通じて学びはありましたか。
秋田
ホンダ開発に脈々と受け継がれるHondaと二人三脚で取り組む理念を実践できたこと。そして、業界初を成し遂げた経験の中で挑戦する意義を学びました。2011年に起きたタイ洪水では、被害の最前線で保険請求業務を務め、その後も海外業務を強化するHondaの動きに合わせ、タイの現地で保険ブローカーを立ち上げるなどお手本のない業務に携わってきました。若手の時に経験した商品付帯保険の立ち上げという「挑戦」が、難しく前例のない場面で私を支える自信になっていると思います。

せっかくの除雪機が盗られた!?
盗難から守る仕組みをつくろう

そもそも、除雪機は盗まれてしまうものなのでしょうか。
倉田
大型ですが高価な機械です。冬になると、警察からHondaに対して盗難に遭われた除雪機について照会が入ることがありましたので、除雪機が盗難されるのは昔からあることのようです。
除雪機に盗難補償を付けるという発想はどのようにして生まれたのですか。
倉田
私は九州出身で、除雪機の営業企画を担当といっても雪国の事情を全く知らなかったため、出張の機会があると色々なお店に顔を出して情報収集に努めていました。その中で、「除雪機を買った方が3日後に盗難に遭った」というお話を伺ったのです。除雪機をせっかく新品で買われたのに、盗難に遭われて中古を買い直したという話にショックを受けて、何か手がないかと色々と考える中で、商品付帯保険で出来ることを秋田さんに相談したのです。
秋田
「保険で盗難をカバーできないか」と相談を受けたのが2007年のことですね。
業界初の取り組みということですが、どういったことから手を付けたのですか。
倉田
除雪機の盗難補償を検討するにあたって「保険金ではなく除雪機を提供すること」「いつ買っても補償が付いてくること」「補償を付けても1円も値上げしないこと」この3つを目標として掲げました。
「保険金ではなく除雪機を提供する」には、どんな意味合いがあるのでしょうか。
秋田
保険の補償は原則として時価で行うため、購入価格よりも少ない金額しか保険金をお支払いできないのです。
倉田
買い直せない保険なら提供する意味がないと考えて、実機を補償するということにしたのです。この目標によって、後から苦しむことになるのですが…。
盗難保険を付けることで簡単に提供できるサービスではないのでしょうか。
秋田
既存の盗難保険は建物の中で保管されたものを補償するもので、屋外で保管されている除雪機を対象とする保険がなかったのです。なので、保険会社と交渉して除雪機の盗難が補償される保険を設計することから始まりました。
倉田
盗難の発生状況を説明しようとしても統計すらありません。盗難事故として受理された除雪機の状況を警察に相談することから始めました。他にも、取引する販売店からお客様が盗難に遭われた件数を聞き取りし、全国の盗難件数を推定することで、保険として成立することや保険料の交渉をしていったのです。
その他にもサービスを開始するまで苦労されたことはありましたか。
倉田
一番苦労したのは、除雪機を提供するという仕組みです。お客様にはメリットがありますが、日本中の全ての地域でサービスを提供できるか検証する必要がありました。この時、安心補償制度Ho!によって集まっていたお客様情報に助けられました。市町村単位でHonda除雪機の保有状況を調べ、サービス提供時に空白エリアで迷惑をお掛けしないか検証していきました。
秋田
北海道から山口県まで、雪が降る可能性がある地域の離島まで調べ、制度の持続性を検証できたことが保険会社の説得に繋がったと思います。
盗難補償を検討する中で大切にされたことはありますか。
倉田
「もし盗難が発生したら、素早く除雪機を提供すること」です。雪が降り積もる中で除雪機がないままでは生活にも影響が出てしまいます。盗難のご連絡を受けてから警察への確認、除雪機を納品いただく取扱店との連携に気を配りました。
秋田
一方で、保険の業界にはモラルリスクという課題もあります。補償があることを過信して管理が甘くなることや不正申請です。そういった課題とバランスを取りながらお客様のメリットを追求しました。

サービスの開発でも現場主義を貫く

盗難補償の企画には裏話もあるそうですね。
倉田
盗難補償の企画は自分から提案した全く新しいことなので、他の人から「いつまでに実現しろ」と言われたことはありません。その代わり、実現までのハードルの高さから途中で諦め掛けた時期もあります。そんな時に、自宅に空き巣が入ったんです。非常にショックな出来事だったんですが、被害の一部は保険でカバーされました。自分が当事者になることで、「盗難補償を提供しよう」と考えた原点に立ち返れたんです。他の仕事もある中で、実現までに時間が掛かってましたから「このサービスは、きっと役に立つ」そう思い続けないとやってられないって気持ちもありましたけど(笑)。
2009年9月に盗難補償サービスを開始された後もお二人の活動は続いたそうですね。
秋田
実際に盗難に遭われ除雪機を提供した方にお話を伺いに行きました。保険代理店がこのような形で市場調査をすることはありませんので、自分の仕事が役立っていることを実感できました。雪の中、盗難に遭われた現場で話を伺うのはもの凄く寒かったですけど(笑)。
倉田
お客様からいただいた「本当にありがたい」という言葉は、サービスを立ち上げた者として最大の賛辞です。秋田さんとは一緒に警察署にも反応を聞きに行きました。こういったサービスの開発にも「現場」の声をしっかり反映できたことは、いくつもの商品開発に参加したことでHondaのモノづくりを学べたおかげです。
実際に盗難に遭われた方を訪ね、代替機提供までの待ち時間など検証を重ねた
検討時からサービス開始後まで現場を大切にしていることが伝わってきました。
倉田
盗難補償によって、Hondaは除雪機の補償を毎年提供しています。盗む方がいることは悲しいことですが、そこを責めても盗難被害に遭われた方の助けにはなりません。Hondaを選んでいただいたお客様の立場に立ってお役に立てることを常に考えていきたいですね。
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