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誕生秘話

Honda除雪機の開拓者たち
未来を見据えた除雪・環境性能を求めた
FI<Fuel Injection System>搭載除雪機の開発
Hondaが2013年に発売した「HSL2511」は、大型除雪機のフルモデルチェンジであると同時に、FI<電子制御燃料噴射装置>エンジンを搭載した世界初の除雪機。今回は、除雪機にFIを搭載する開発を推進されたLPL<開発責任者>の小東さん、燃料系PLの浦野さんにお話を伺いました。
*文章中の「世界初」については2013年時点、Honda調べとなります。
Pioneers
小東 賢太
小東 賢太
株式会社本田技術研究所
ライフクリエーションセンター アシスタントチーフエンジニア
2006年 Honda入社。耕うん機、水ポンプ等の完成機の設計を担当。2008年発売の「ユキオス SB800」から除雪機の開発に参画し、2013年発売の「HSL2511」、2018年発売の「HSM1590i JRG」ではLPL<開発責任者>を務めた。また、アメリカで生産を立ち上げた欧米向け除雪機の新規開発を担当した。
株式会社本田技術研究所
ライフクリエーションセンター アシスタントチーフエンジニア
2006年 Honda入社。耕うん機、水ポンプ等の完成機の設計を担当。2008年発売の「ユキオス SB800」から除雪機の開発に参画し、2013年発売の「HSL2511」、2018年発売の「HSM1590i JRG」ではLPL<開発責任者>を務めた。また、アメリカで生産を立ち上げた欧米向け除雪機の新規開発を担当した。
浦野 奨平
浦野 奨平
株式会社本田技術研究所
ライフクリエーションセンター スタッフエンジニア
2008年 Honda入社。燃料系デバイスの研究に従事。2011年発売の新型汎用エンジン搭載変更プロジェクトから除雪機の開発に参画し、2013年の「HSL2511」では燃料系デバイス開発のリーダーを務める。現在は、エンジンの環境対応に取り組む。
株式会社本田技術研究所
ライフクリエーションセンター スタッフエンジニア
2008年 Honda入社。燃料系デバイスの研究に従事。2011年発売の新型汎用エンジン搭載変更プロジェクトから除雪機の開発に参画し、2013年の「HSL2511」では燃料系デバイス開発のリーダーを務める。現在は、エンジンの環境対応に取り組む。
※肩書きは2020年9月時点のものとなります。

雪国の声を反映する
大型除雪機のフルモデルチェンジ

FIを搭載した「HSL2511」の開発について位置付けを教えてください。
小東
2013年に発売した「HSL2511」は、大型除雪機のフルモデルチェンジでした。従来モデルは1996年発売の「HS1710Z/2011Z」がベースで、20年近くに渡りお客様から支持されてきました。次のモデルも20年間は第一線で活躍する除雪機にするぞ、という意気込みの大きな開発でした。
大型除雪機は、どのような方が使われるのですか。
小東
大きく3つの使い方に分かれます。雪深い地域の一般家庭、駐車場のような広い場所の除雪、そして農家の方がハウスを越えて雪を飛ばすような使い方です。
そういった雪国の使い方を調べ尽くしていくわけですか。
小東
北は北海道の名寄から、東北の各地、新潟の津南市に代表される豪雪地帯まで、日本中の様々なお客様を回って何を重視されているのか調べました。
浦野
テストチームから「明日から来い」って感じで声が掛かります(笑)。私も、冬の間は隔週くらいのペースで何度も除雪しに行きました。
お客様のどのような要望がFI搭載に繋がったのでしょうか。
小東
このクラスになるとパワフルさは妥協できません。一方、使い勝手も重要と感じていました。一般の方にキャブレターと言っても通じなくなってきていましたし、最近のクルマで「チョークを引く」なんて操作はしませんからね。
浦野
それに加えて低温始動性です。除雪機は生活を支えていますから、寒い中でエンジンがなかなか掛からないようでは安心して使えません。
小東
除雪機は冬の間しか使わない機械です。長時間使わない場合はキャブレターから燃料を抜き取っておかないと、劣化したガソリンがキャブレターに詰まってしまいます。性能を追求するだけではなくメンテナンスの手間を減らしていくことも除雪機には必要なことです。
除雪機に求められることを実現するためにFI化を進めたわけですね。
浦野
「キャブ屋」の立場として言うと、キャブレターでも出来ることはまだまだあると思っています。しかし、より簡単に、より確実にお客様が求めることを提供するうえでFIはメリットが多いシステムです。まず、始動操作が抜群に楽になります。チョーク操作が不要ですし、暖機を意識することもありません。極低温環境下で使う除雪機には欠かせない性能です。
小東
FI自体は新しい技術ではありませんが、キャブレターと比べるとコストが上がるので商品性とのバランスが重要です。Hondaが量産バイクにFIを最初に積んだのは1982年ですが、50ccのカブにFIが搭載されたのは2007年です。大量生産のバイクにおいてもコストが下がるのにそれだけの年月がかかりました。除雪機においてもコストアップは避けられません。ですので、FIの特性を活かす機能性を合わせて実現しないと選ばれる商品にはなりません。

妥協なき開発によって実現した
除雪機へのFI搭載

そもそも除雪機にFIを搭載するのは難易度が高かったのでしょうか。
小東
大変でしたね。しかし、世界初と聞いて「やらねば」と思いましたが…。
浦野
「キャブレターでいいのでは」と何度も思うほど、めちゃくちゃ大変でした。まず、誤解から解消する必要がありました。そもそもベースとなったエンジンがあるので、キャブレターからFIに変更しても基本的にエンジンが消費する燃料の量は変わりません。
ただ、キャブレターだと、商品によって重点をどこに置くかでセッティングが変わるんですね。「温暖な気候でしか使われない商品なら、燃費を重視する」「除雪機は、極寒での始動性が重要だから、濃いめにする」というように切り分けをします。
キャブレターは空気の流れの影響を考慮したセッティングが大変です。そういった影響に捉われずに、FIは本来のエンジンが持っている性能を全部出し切って使うことができる、「FIのメリットはこれだ」ということをチーム内でやりとりするところから始めました。
除雪機にFI化したエンジンを搭載する難しさを教えてください。
浦野
もとのエンジンが空冷のキャブレター式なので、FI化していくと様々な問題が出てきます。熱が発生する、大量に電気を消費する。キャブレターならば起きない課題ばかりです。
小東
キャブレターはガソリンの濃さが一定ですので、低温始動性を重視して濃く設定されています。しかし、FIではガソリンの濃さを自由に調整出来るので、不要な時は薄くすることが可能です。そうすると、ガソリンの気化による冷却がなくなりエンジン温度が上がることでボンネットの中が高温になってしまいます。
浦野
さらに、FI化のためには新たな部品やセンサーを付けなければならないのでレイアウトを工夫しながら熱害を出さず少しでも低燃費になるようセッティングを探る。試行錯誤の繰り返しでした。
厳しい環境の中で、長時間の性能確認試験が行われ、雪上のテストでもエンジンの状態を詳細に計測し開発に反映される
FIは万能な技術ではないのですね。
浦野
まさにその先入観との戦いです。
小東
燃費についても、除雪をしないタイミング、例えばバックしている時や旋回している時は負荷が低いので、こういった作業の合間はガソリンを薄くする。これを積み上げることで、結果として従来のHS2411Zと比べて排気量を増やし出力を高めながら15%もの燃費向上を実現したのです。FIにしたら、黙っていても燃費がよくなるわけではありません。
エンジンの燃料系ならではの苦労はありますか。
浦野
今回は、既に実用化していたスロットルのDBW<ドライブ・バイ・ワイヤー>化にFIを組み合わせることでエンジン制御の幅が広がりました。しかし、FIやDBWと言っても、制御しているのは噴射する燃料の量やスロットルバルブの開閉スピードでしかありません。それをどう味付けするか「良い塩梅」を狙います。例えば、負荷が高くエンジン回転が大きく下がってしまう様な作業中に雪壁を抜けて負荷が下がると瞬間的にエンジン回転が上がります。かなり急激に回転が上がるのでこれをテストチームは「恐怖感がある」と表現するのです。
小東
「恐怖感」「パワー感」「仕事している感」というお客さまの感じ方はいろいろあります。それらの感覚的なことを何らかの数字に置き換えて、ベストな設定にしていくのかがやはり開発者としては苦労するところです。
浦野
その官能的な表現を数値に置き換えて解消していくわけです。メカ式のキャブレターと違い、FIはなんでもできると思われてしまう。その大きな期待に応えないといけない。
小東
このセッティングを決めるのは本当に大変で。LPLにもエンジンチームから電話がバンバン掛かってくる。着信拒否にしようかと思うほど(笑)。

挑戦とチームワークで
新世代の除雪機を作り上げる

とても難しい大きな開発ですが、お二人とも若い時ですよね。
小東
開発チームが結成されたのは2011年だったので、当時は30歳でしたね。除雪機の他、いくつかのモデルで設計を担当した後に「今度の大型除雪機はLPLをやってもらうから」と、ずいぶん軽いノリで指名されたんですけど、初めてのLPLで新機構だらけ、駆動系の設計も兼任する大変な開発でした。
浦野
私は、2008年の入社以来、除雪機のキャブレターを担当し、200cc~390ccの単気筒エンジンの燃料系PLを経て、「HSL2511」の開発参画時は26歳でしたね。若かったから「新しいこと、やります!」と飛びついてしまったかな。
開発チーム全体に若い方が多かったようですが、周囲のサポートはいかがでしたか。
浦野
僕らで除雪機を何年かやってきたので、先輩も認めてくれてます。しかし、エンジンのFI化、技術的なハードルも高く、「Hondaの名に恥じないものにしなければ」というプレッシャーもありました。直接、色々と教えにくるわけではないですけど、「本当にできるのか?」と言いながらも、最初から最後まで丁寧に面倒を見てくれた先輩には感謝が尽きません。
さまざまな世界初を実現したHSL2511の開発で学んだことは。
浦野
開発者としての想いの強さです。エンジンのパラメーターを1つ決めるにしても、担当領域は自分が決めるという信念が必要です。正しいと思ったことを頑固に押し通せないと、納得いく商品は生まれてこないと実感しました。
小東
私はこの機種で初めてLPLを担当しました。この開発が上手く行ったのは、関わる皆が「もっと良いものを」「世界初を自分の手で」と様々な想いを持っていたからだと感じました。その想いを受けとめて、一つの方向に向け、全員で共有していく。それがLPLにとって最も大切なことだと感じましたね。
挑戦の結果、様々な世界初の技術を搭載した除雪機が生ました。
小東
除雪機としては、エンジンの良さを最大限に活かしたい。そうして生まれたのが「作業モード切替機能」です。粘りがあるエンジン特性で扱いやすく低燃費・低騒音な標準モード、高回転の出力を活かした飛距離モード。まるで異なるエンジンを積んだ2台の除雪機を使い分けるように幅広い用途に応えられる機能です。そして、エンジンのトルクや馬力のピークに合わせて誘導する「速度ガイド機能」も除雪機の性能を最大限に発揮していただくための工夫です。パワフルな除雪機を初心者でも上級者並みに作業できるようにオーガ操作をアシストしてくれる「スマートオーガ」も目玉となります。すべて世界初の技術になります。
Hondaらしい大型除雪機になりましたね。
小東
Hondaらしさは派手な世界初の新技術だけではありません。新規のハイトシリンダーなど、お客様の声を反映した様々な改良がたっぷり詰まってます。初めて見ると大きなサイズに驚かれますが、使い勝手の良さにこだわった除雪機ですので、これからも長く雪国のお役に立っていくとうれしいですね。
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