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水上のカーボンニュートラル。~島根県松江市のHonda電動推進機プロトタイプ実証実験 その後~

野鳥のさえずりや水の音、風の音が聞こえる
電動推進機プロトタイプ

水上を走るもの、水を汚すべからず--これは、Hondaの創業者である本田宗一郎氏が、1960年代に船外機事業に乗り出した頃からの信念です。

そのためHondaは、当時の主流で、オイルとガソリンを一緒に燃やし、排出ガスにオイルが含まれる2ストローク船外機をあえて避け、重量やコストで不利な4ストローク船外機を開発・販売しました。現在では全世界約90万台の販売のうち、約80%を4ストローク船外機が占めるほど主流となっています。

そして、創業者の信念の頂点に位置づけられるのが電動推進機です。Hondaは2021年11月に電動推進機のコンセプトモデルを発表。

2021年に発表した電動推進機コンセプトモデル(搭載例)

2021年12月には、この報道を見た島根県松江市からの1本の電話により、Hondaと松江市の電動推進機実証実験が実現に向けて動き出しました。

松江市からの要望は、国宝五城のひとつである松江城周囲で営業している観光遊覧船「ぐるっと松江 堀川めぐり」に電動推進機を使用したいというものでした。そして、電動推進機コンセプトモデルの発表から約2年後の2023年8月から、Hondaが新たに開発した電動推進機プロトタイプを使用した実証実験が松江市でスタートしたのです。

2023年8月、Hondaは島根県松江市で電動推進機プロトタイプの実証実験をスタートさせた。

実証実験では、松江市の関係者から公募で募った松江市民など、およそ300名以上が電動推進機プロトタイプ搭載船に乗船。そして2025年4月から、電動推進機プロトタイプ搭載船の一般営業をスタートさせた堀川めぐりで、電動推進機プロトタイプ搭載船への乗船者は、1万人以上に達しました。

体験乗船会の様子

乗船されたお客様からは、「音の静かさ」「振動の少なさ」「排気ガスの匂いがない」といった点が好評でした。特に「音の静かさ」については、野鳥のさえずりや水の音、風の音が聞こえることや、船頭さんの観光案内が聞き取りやすいといった意見が多く寄せられました。

「堀川めぐりで従来から使用しているHondaエンジンの船外機も静穏性が高いので、電動推進機との差を理解していただけるかが心配でしたが、お客様にはきちんと理解していただきました」というのは、松江市観光振興公社の専務理事、高木博さん。

松江市観光振興公社・高木さん

現在、堀川めぐりでは電動推進機プロトタイプ搭載船への乗船要望があった場合には、そのつど出航しています。また、1時間に1回(毎時00分出航便)は電動推進機プロトタイプ搭載船を定期運航しています。電動推進機プロトタイプ搭載船の乗船を希望される方は、松江市とHondaの取組を、ニュースや報道などで知っている方が多いとのことです。

堀川遊覧船のりばで出航を待つ電動推進機プロトタイプ搭載船

メリットしかない電動推進機プロトタイプ実証実験

電動推進機プロトタイプの実証実験は、島根県松江市にとっても、既に大きな存在となりつつあります。それは、国際文化観光都市、ゼロカーボンシティを謳う松江市が、日本や世界の注目を浴び始めていることです。
まず、松江市は電動推進機プロトタイプの実証実験をきっかけに、温室効果ガス排出量削減を実現する地域として、環境省から『脱炭素先行地域』に選定され、2024年の10月には地球環境行動会議が主催する「GEA(ギア)国際会議」にも参加しているのです。

「松江市は官民連携のモデルシティという位置づけで評価していただいています。2025年6月には松江市で『ゼロカーボンサミット』を開催して、全国の自治体関係者や企業を含め、300人ほどが意見を交わしました。その中心に松江市がいるのもHondaの電動推進機プロトタイプ実証実験があったからだと思っています」(松江市環境エネルギー部部長 余村公彦さん)

まつえゼロカーボンサミット2025の様子

松江市では一般営業のスタートからの1年を、課題を見極めるための1年と位置づけています。静かで振動の少ない快適な乗り心地と、音のない世界で、松江城のお堀を遊覧するというのは400年前の松江城創建時の手漕ぎ船の再現とも言えます。
「電動推進機プロトタイプの導入は多くのメリットがあります。しかし、これからは運行状況を改善して世界に訴求していくことと、電動推進機専用に新しく船を建造することで、観光客の増加とインバウンドの活性化を図るなど、松江市はゼロカーボンシティとして様々なアイディアを検討しています。」(同 余村部長)

Hondaの電動推進機プロトタイプが、その一助となっているのです。

松江市環境エネルギー部部長・余村さん

そして、電動推進機プロトタイプ以外にも、ゼロカーボンシティを謳う松江市に貢献しているのが、Hondaの新事業創出プログラム「IGNITION」から生まれた(株)ストリーモの電動三輪モビリティ「ストリーモ」です。

1人乗り電動三輪マイクロモビリティ「Striemo(ストリーモ)」

これは、Hondaが二輪で培ったバランスアシストシステムを活用した、立った状態で乗ることを可能とした三輪モビリティです。ストリーモの導入を決めた松江アーバンホテルグループを運営する浅利観光(株)の青木智哉さんによると、松江市はバスの本数やタクシー台数も多くはなく、観光で行きたい場所の間を移動する二次交通が乏しいという課題を抱えているのだといいます。

松江市の大きな課題である二次交通の課題解決にストリーモを効果的に使用するということです。

「堀川めぐりからヒントを得て、バッテリーとモーターのパーソナルモビリティがいいと思い、ストリーモと出会いました」(同 青木智哉さん)

松江アーバンホテルでは、将来的にストリーモを使用して、観光案内付きの小規模ツアーを催行したいとの意向があるといいます。

ストリーモを利用して松江市の課題解決に挑む浅利観光(株)青木さん

野鳥のさえずりのなかを、音もなく進んでいく電動推進機プロトタイプ。この穏やかな風景が、松江市のゼロカーボンシティ宣言をバックアップし、Hondaのカーボンニュートラルへの思いが、音もなく加速しています。